第290話 願いと想い。

 不思議と、俺の目にはデゼスプワールの動きが見えるようになっていた。”死”を目の前にしたときの”覚醒”とはまた違う。あれを”負の覚醒”と言うなら、今のは”正の覚醒”という感じだろうか。


 みんなを、世界を守る。

 そして、元の時間へと戻る。


 その想いが俺の全身を動かしている。


『ハァッッ!!』

〈がはっ……!〉


 デゼスプワールに初めて突きが当たった。


〈”女神の加護”か……!? くっ……ならば……〉


 デゼスプワールが腕を動かすと、外の様子が変わった。無数に生えていた腕は融合し、4本の腕を形成した。


〈やれ……!〉

『な……っ!』


 巨大な腕が地上を襲う。あんなの、どうやってもかなわない。


〈見ろ! そして絶望に身を落とすがいい! はっはっは……!〉


 どうしたらいい……!

 くそ……!

 ……そうだ、粒子集中りゅうししゅうちゅう

 纏陣テンジン……。

 デゼスプワール全体を覆うようにして、動きを止める……。


『くっ……ぅぉぉおおおおおッ!』

〈なんだと……!〉


 床が揺れた。脳の血管が切れそうだ。体も弾けそうになる。でも、いけそうだ。


『……止ぉまれェェェェッ!!』


 揺れは収まり、巨大な腕の動きも止まった。


『はぁ……はぁ……。やってみるもんだな……!』


 デゼスプワールはフラフラとよろめいた。ひたいを押さえ、こちらをにらむ。


〈貴様のその力……その目……。どこからそんなモノを手に入れた……?〉

『知らねーよ。……きっとみんながくれたんだ。またキレイ事を言ってしまうが、愛だとか夢だとか未来だとか絆だとか希望だとか、そういう願いや想いが集まればどんな絶望にだって立ち向かえる。俺はそう思う。だから今、それを証明してやる……!』

〈不完全な存在の分際で……!〉


 今の俺なら何でもできそうだ。そんな気がしていた。

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