第285話 負の感情。

 デゼスプワールと戦い始めて、初めて俺の攻撃が当たった。なかば不意打ちのような形であったが、そんなのは関係ない。


『はぁ……はぁ……』


 息を切らしながら、俺は動けずにいた。


〈くっくっく……。話している途中にひどいじゃないか〉


 デゼスプワールは立ち上がりながら言う。


〈だが、やはりそうだった。怒りや悲しみは人の力を引き出す〉

『いい加減に……しろぉッ!!』


 俺は再びデゼスプワールへ突きを放つ。


〈攻撃のキレが増しているぞ、四季島シキシマヒカル。数十年前に人と戦ったときもそうであった。深く暗い感情が私を顕現けんげんさせた。そして、暗き感情によって私は滅ぼされたのだ〉

『12年前にもあっただろう?』

〈あぁ、鹿鳴屋ロクメイヤジュウザブロウがいたときのことか? あの時の私はまだ不完全だった。ゆえに直接戦うことはなかったのだ〉

『なるほどな……』

〈私を倒しうるのは、やはり暗き感情による力なのだよ〉

『そんなことはない!』

げんに私に攻撃を与えたのは怒りから得た力だろう?〉

『確かにそうかもしれない。だが、力の根源はそうじゃない。希望や守りたい人やモノのために力を発揮する。決して”負の感情”によるものだけではない!』

〈小さな口で、よくもまぁキレイなことを言う。多くの人は”負の感情”の方が大きいだろう。それによって長く歴史をつむいできた。”負の感情”の高まり、私の顕現、そして人の勝利。それを繰り返して人は生き長らえてきた。君たちは”負の感情”の上に存在しているのだ〉

『俺たちより長いこと世界を見てきたお前が言うなら間違いないのだろうよ。だがな、それが人の全てではない!』

〈”負の感情”に押しつぶされ、絶望の中、静かについえるがいい。時の最果てで、誰の手も届かない場所で、最後を見届けさせてやろう。四季島ヒカル、私の前まで辿り着いた君にはその資格がある〉

『そんなもんはいらねぇ……! ”負の感情”だけじゃない強さを見せてやるよッ!』

〈ならば、お返しに絶望を見せてやろう〉


 俺とデゼスプワールはぶつかり合った。


 最果てでは、”時”が悲鳴を上げ始めていたことに俺たちはまだ気づいていなかった。

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