第261話 異様な空気。

 数分、にらみ合いが続いていた。相手はDemiseデミス。人数的には有利だが、それだけで戦いが有利かどうかは判断できない。迂闊うかつに飛び込んで全滅、ということも十分考えられる。

 ラヴ……。”完成型”の中では一番特徴のない1体。見た目は普通の人型のDemiseと変わらない。だからこそ、何かを秘めているような恐ろしい存在だ。


【ザブロウ、オレが先陣を切る。あとの判断は頼む】

【わかった】


 まずはグレンが飛び出した。おそらく、戦闘に関して一番の柔軟性を持つのはグレンだろう。グレンは猛スピードでラヴへと近づく。しかし、ラヴは一切動かない。動く気配すらない。デゼスプワールも何か手を出す素振そぶりもない。


【オラァァァァッ!】


 リオンは剣を構え、思い切り振り下ろした。剣はラヴの鎖骨のあたり捉えた。ラヴは少しふらつくも、ダメージは一切無いようだった。グレンは驚きつつも、斬撃を繰り返した。


 頭、腕、胴体、脚……。


 あらゆる部位に攻撃をするもダメージがあるようには見えなかった。


【斬撃への超耐性か……?】

【超耐性?】

【簡単に言うと、特定の攻撃が一切効かないってことだ。スペランツァは打撃の超耐性を持っていた】

【その仮説が合ってるなら、僕やジンやリオンさんは戦力外になってしまうな……】

【次はオレが行こう……ッ!】


 ジュウザブロウさんが飛び出した。


【グレン! 交代だ!】

【チッ……!】


 グレンは悔しそうに下がった。


『グレン、お疲れ様。本当に何もされていないのか?』

【あぁ、今のところは何も感じない。アイツ、何かオレたちに見せつけてるような感じがするんだよな……】

【どういうこっちゃ?】

【いや、オレもハッキリ分かったワケじゃないんだが、戦う気が無いような感じなんだよ】

『戦う気が無い……?』


 ジュウザブロウさんの打撃が何発もラヴに放たれる。


【ハァッ!!】


 ラヴの胴体にジュウザブロウさんの強烈な一撃が叩き込まれた。デゼスプワールの横を通るようにラヴは吹き飛んだ。


〈ほぉ……〉


 戦いが始まってから、初めてデゼスプワールの顔色が変わった。しかし、それは焦りでもなんでもない。ただ、ちょっと驚いたという程度だった。吹き飛んだラヴは、平然と元いた位置へと歩いて戻った。


 何か異様な空気が、俺たちを包んでいた。

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