第253話 悔いはあるか。

【ヒカル】

『はい、なんです?』

【この世界に悔いは無いか?】

『あるといえば、ありますね。でも、それはまた元の時間に戻ってからやればいいかなって思うと、悔いはないですかね』

【ふっ……そうか。そいつはよかった】

『ジュウザブロウさんはどうなんですか?』

【悔いか……。”夢幻むげん八月はちがつ”のときの仲間の無事を確かめられなかったことかな……。あれから12年も経ってるし、住んでる場所もわからないしな】

『そうですか……。きっとどこかで、笑いながら普通に過ごしているんじゃないんですかね。今回は、この突き抜けた8月を満喫してるかもしれないですよ』

【そうだといいな】


 少し溶け始めたアイスを急いで食べた。


『そういえば、その箱なんですか?』

【ん? あぁ、これか。オレは”なんでも屋”ってのやってるんだ。最近は荷物を運ぶ、宅配便みたいな仕事ばっかりだけどな。これはその荷物。予定より早く前の仕事が終わってな。ちょっとサボってたんだ】


 ジュウザブロウさんは笑って言った。


『そうなんですね。時間は大丈夫ですか?』

【あぁ、ちょうどいい時間だ。付き合ってくれてありがとう】

『こちらこそです』

【あと数日。よろしく頼むな】

『はい!』


 俺の肩を軽く叩くと、ジュウザブロウさんは駅前の人混みの中へと消えていった。俺は肩に残った感触を確かめていた。

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