第245話 恐怖。

 ピーッピーッピーッ!


 シャルはイツキさんの顔をかすめた。イツキさんはよろめきながら、後方へ飛んだ。


『今の音は……?』

【10分経過した合図だ】


 そう言いながら、イツキさんはアラームを止めた。


【いやぁ、本当に強くなったね。ヒカル】

『イツキさんは変わらず強いですよ』

【圧勝する予定だったんだがな。たった40日で引き分けになるほど力をつけるとは、若さとは怖いモノよ】

『イツキさんもまだまだ若いですよ。それに10分ですからね。時間が決まっていなかったら、たぶん負けています』

【そう自分を卑下ひげするんじゃないよ。ヒカルは十分強い。それが事実だ】

『ありがとうございました』

【こっちこそありがとう。掌打しょうだのお返し、なかなか効いたぜ】


 イツキさんは胸をさすりながら言う。


『また、お相手してくださいね』

【あぁ、時間があったらな。次は勝たせてもらうよ】

『こっちのセリフですよ』

【ふふ……。若者は本当に怖いね。それじゃ、僕はもう寝に帰るよ】

『俺はもう少し体を動かしていきます』

【そうかい。あまり無理しないようにな。おやすみ】

『はい。おやすみなさい』


 イツキさんはあくびをしながら帰って行った。俺はイツキさんと引き分けたことの嬉しさと、勝てなかった悔しさの両方を感じながら、シャルを握りしめていた。

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