第243話 求めるは全力の相手。

【いいねぇ、目が変わった】


 イツキさんの声が聞こえる。ぼやけていた視界が定まった。鼓動の音も落ち着いた。感覚が研ぎ澄まされていく。投げられた大剣も回避できている。


 ――”覚醒”


 何度か繰り返しているからか、この状態に入りやすくなっているように感じる。


『……まさか、これを狙ってたんですか?』

【やり合うなら全力の相手がいいだろ?】


 まったく、食えない人だ。


【さぁ、おいで。時間が無くなるよ】

『遠慮なく、行かせてもらいますよッ!』


 イツキさんの攻撃範囲がなんとなく掴める。シャルを伸ばし、一番手の出し辛い中距離で牽制けんせいする。


【武器を持たない相手にいやらしいことしてくれるねぇ。ヒカルはムッツリくんかな?】


 イツキさんの武器は単純な攻撃だけではない。言葉による口撃もある。くちでリオンさんと肩を並べるのはイツキさんくらいだろう。動揺を誘い、少しでも揺らいだら隙を突いてくる。この曲者くせものに勝つには、自分も曲者になるしかない。シャルを短くし、距離を詰める。イツキさんはシャルをいなしながら上手いこと回避を続けた。


【よっと……回収、回収】


 イツキさんは回避しながら自然と落ちていた大剣に近づいていた。これが経験の違いか。もしくは戦闘センスの有無なのか。俺が考え事をしている隙に、イツキさんはすかさず大剣を振り下ろした。それをシャルで受け止める。……と見せかけて、シャルを半分に分断させた。イツキさんの頭の中では”大剣を受け止められ、そこからどうするか”ということを既に考えているはずだ。シャルに受け止められるはずだった力は地面に向けられた。


【くっ!】


 地面に大剣が突き刺さり、イツキさんの体は一時的に制御できない様子だ。俺はそんなイツキさんのふところもぐり込んだ。イツキさんと目が合った。ニヤリと笑うと、俺はイツキさんの胸に掌打しょうだをお見舞いした。

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