第242話 よーい、ドン。

【時間は10分くらいにしておくか】

『はい、わかりました』

【10分後、ちゃんと立っていてくれよ】

『イツキさんこそですよ』

【言ってくれる。合図はそっちに任せるよ】

『それじゃ”よーい、ドン”で行きますよ』

【かけっこでもするのかい? ヒカルくん】


 2人はにらみ合った。


『……よーい……』


 空気が張り詰める。


『ドン!』


 俺のシャルとイツキさんの大剣がぶつかり合う。激しい金属音が鳴り響いた。俺は大剣を受け流し、一気に距離を詰めた。イツキさんはそれに反応し、大剣を手放した。剣を捨て、攻撃方法を拳に切り替えた。戦闘中の柔軟さがイツキさんの最大の武器かもしれない。突きを放つも、シャルの先端を手の甲で上手く弾かれ軌道をズラされてしまった。突きによって勢いのついた俺の体は簡単には止まらない。イツキさんは前のめりになった俺のふところに入りこむと、俺の胸に両手で掌打しょうだを放った。


『……っか!』


 口の中のつばがその場に飛び散った。そして、俺は後ろへ吹き飛んだ。上体を起こすと、ゆっくりと大剣を拾うイツキさんが見えた。俺は息を整えながら立ち上がった。


【苦しそうだね、ヒカルくん?】


 目の前には高く振り上げられた大剣があった。振り下ろされる前に横へと転がり、紙一重で大剣を回避した。俺は今一度イツキさんとの距離を取った。


『はぁ……はぁ……』

【惜しいなぁ。あともうちょっとだったな】


 胸に掌打の衝撃が残っている。イツキさんの動きを見逃さないようにしながら、必死で息を整えた。イツキさんは余裕そうにゆらゆらと大剣を振っている。次の瞬間、両足を広げ大剣振りかぶった。野球で言う、アンダースローのような構えだ。飛んでくるのはボールではない。大剣だ。俺の息はまだ整っていない。視界がぼやけ、鼓動が高鳴る。


 ドクンッ……


 俺の中でスイッチが入った。

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