第236話 異次元にて。

『年下なのにしっかりしてるなぁ……』


 オトハちゃんと話して、だいぶ気持ちに余裕ができた。駅に併設されているショッピングモールでウィンドウショッピングをして、『たかまがはら書店』で立ち読みをした。なんとなく手に取った『月刊ふろっぐ』というかえる専門雑誌が予想外に興味深い内容で、ついつい熟読してしまった。時間はもう夕方だ。


『早いけど、なんか食べるか。昨日、グレンから”異次元”のこと聞いたからラーメン食べたくなってきたな……』


 店の前を通ると、まだ人は少なそうだ。


『よし、今日はラーメンだ』


 店内に入り、食券を買う。俺はいつも悩むが、結局は『異次元特製醤油らーめん』にしてしまう。席は自由に選べそうだ。席を吟味していると、見覚えのある姿があった。


『エンジとハルヒじゃんか』

【あっ、ヒカルさん、お疲れ様です】

【ヒカルさん、こんばんはー】

『ハルヒの横、いいか?』

【どうぞどうぞ】


 店員に食券を渡し、席に座る。


『いやぁ、偶然だな!』

【そうですね。ヒカルさんはよく来るんですか?】

『そうだな、3週に1回は来てるかもしれない』

【そうなんですね。ちょうどひと月前くらいにグレンさんにここで会いましたよ】

『え、そうなのか!? 昨日、ここで食べ終わったグレンに会ったよ』

【他にも来てる人多いかもしれないですね】

【エンジ、エンジ!】


 ハルヒがエンジを呼んでいる。


【どうした?】

【ここじゃひと月前じゃなくて、30日前って言ったほうがいいんじゃないか?】


 コソコソとハルヒがツッコむ。


【バカ! いいんだよ、そんな細かいことは】

【えぇ〜】

『ははっ、2人は仲がいいんだな』

【小学生のころからの腐れ縁ですよ】

【エンジがレイヤースペースに連れて行ってくれたんですよー】

『そうなのか?』

【つい口が滑ってしまって……。で、ハルヒがめちゃくちゃしつこく聞いてきて、根負こんまけしたって感じです】

『ハルヒらしいじゃないか』


 注文していたラーメンが届いた。


『すまん、食べさせてもらうな』

【美味しいうちに食べちゃってください】

『いただきます!』


 学校の話とか、ハルヒとエンジの子供の頃の話とか、いろいろ聞いた。


【もうすぐ、ここでの生活も終わっちゃうんですね】

『不思議な気分だよな。周りの人はそんなことも知らずに普通に過ごしているんだから』

【それ、わかります】

【全部忘れちゃうんだよなぁ。勿体無もったいない……】

『本当はあり得ない世界だからな。当然っちゃ当然かな』

【戻ったあと、ここで知らないうちにすれ違うかもしれないですね】

【いや、もうすれ違っていたことがあるかもしれないぞ】

『確かに。知らないうちに繋がっているのかもな』


 そんなことを話して、店を出た。


『暗くなってきたから、気をつけて帰るんだぞ』

【はーい】

【はい、失礼します】


 エンジは深々と頭を下げ、ハルヒはペコペコと頭を下げていた。手を振り2人を見送ると、家へと帰った。


 ベッドに座り、一息ついた。


『もしかしたら、メンバー全員この辺に住んでいるのかな……。明日もまた歩き回ってみるか』


 シャワーを浴びて、24時を超える前に眠りについた。

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