第218話 五里霧中。

―――A班


【目くらましか……?】


 纏陣テンジンのおかげで、この霧を体内に取り込むことはなさそうだ。ただ、こんなときに攻撃でもされたら……。そう思っていると、黒い影が見えた。霧を斬り裂き、トラオムが現れた。なんとか回避し、トラオムに目を向けたが姿が見えなくなっていた。


【チッ……! アイツのペースにハマっちまってんな……】


 無闇に動くのも危ない。外からの援護も難しいだろう。ここでトラオムの攻撃に合わせて倒しきる。それしかない。気を張り巡らせ、攻撃に備える。纏陣も無限にできるわけではない。


【ぐぁ……っ!!】


 背中を斬りつけられた。なんとか体を支え、纏陣を続ける。幸い、眠気は無い。


【集中しろ……】


 呼吸を整えながら、次の攻撃を待つ。


 ……数分経っただろうか。


 いや、十数秒か。時間の感覚もわからなくなってきた。右側から攻撃が来る。わずかな音から予測を立てる。


【オラァッ!!】


 お互いに傷を負った。血がしたたる。


 これが”死”なのか。


 心臓の音が大きく聞こえる。

 自分の呼吸音がうるさい。

 歯を食いしばり、意識を繋ぎ止める。


 もう一度右側から攻撃が来る。


 本能から告げられた。さっきまでうるさかった音は消え、トラオムの足音がハッキリと聞こえる。霧の中から腕が出現した。振り下ろされたトラオムの爪を、体を反らせながら紙一重でかわす。


【ははっ……】


 何故か笑いが込み上げてきた。体の痛みも引いてきた。足も腕も動く。


【……来い!】


 次の瞬間、背後に腕を広げたトラオムがいた。オレを抱き締めるように腕を交差させた。体が無意識に動いていた。ひざを曲げ、地面に手をつく。頭の上にはトラオムの腕がある。それに向かって、体を回転させながら思いっきり剣を振る。トラオムの両腕は切断され、切断された腕は霧の中へと消えた。突然の出来事にトラオムの反応は遅れていた。オレがその隙を逃す訳が無い。”コア”のある頭部に剣先を向ける。いとも容易たやすく頭部へと突き刺さった。トラオムは小刻みに震えると砂のようになった。それを見届けると、力が抜けた。


 オレの剣が落ちる音。

 血の暖かさ。

 体に広がる悪寒。

 誰かの声と足音。

 急激な眠気。


 オレは目をつぶった。

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