第193話 戦。

 絶対に食べきってやる。あの「お前らに食べ切れるかな?」って挑戦的な顔をした店主の鼻を明かしてやろう。さいわい、辛いが美味しい。辛さを感じたら牛乳で中和すれば問題ないだろう。ショーマとアイコンタクトをしつつ食べ進める。


 …


 残りは1/4までとなった。しかし、ここで事件が発生した。ショーマが牛乳を飲み干してしまった。


『バカッ! お前牛乳のペース配分に気をつけろよ!』

「しょうがねぇだろ! 辛ぇんだから! うどんの汁がこれまた辛いんだよ!」


 振り向くと、店主が牛乳パックを見せつけている。


「ヒカル、牛乳をおかわりさせてもらうか?」

『ここでヤツに手助けしてもらったら負けだぞ!』


 ひそひそとショーマと会議をする。俺の牛乳をショーマに分け与えてやりたいが、そんな余裕はない。そして、辛いせいで食べるスピードがゆっくりしているために、満腹感もある。絶体絶命だった。


「ぷはぁー! 辛いけど美味しいね!」


 俺たちが戦っている間に、レンは完食していた。


『なっ……!?』


 さらに、コップには半分以上残っている牛乳があった。


「あれ、2人ともお腹いっぱいなの? ボクも少し手伝ってあげようか?」


 なんていう助け舟だ。そうだ、俺たちは2人ではない。3人なんだ。店主は驚きの表情を隠しきれていなかった。


『レン、頼む!』

「オレのうどんもどうだ?」

「わーい! ありがとう! みんなで来ると、たくさん食べられていいね!」


 喜んで俺たちの料理を引き受けてくれた。


 …


「ふー、ごちそうさま! あっ、全部食べちゃって大丈夫だっ?」


 レンは、10分もしないうちに俺たちの分も完食していた。


『あぁ、大丈夫だよ』

「俺もだ。むしろ感謝しか無ぇ」

「よかったぁ。またオープンしたら来ようね!」

『あ、あぁ。そうだな』


 苦笑いしながら答えた。レンは真剣な表情で料理のレポートを書き上げていた。


「オヤジさん、ごちそうさんでした」

『ごちそうさまでした。お会計は……』

「おう、ありがとな。いい食べっぷりだったよ。特に後ろの大人しそうな子」

「えへへ……」


 レンは恥ずかしそうに笑った。


「あ、お金は大丈夫だよ。3人とも、俺の練習に付き合ってくれてありがとうな」

『え、いいんですか!?』

「あぁ。その代わり、また来てくれよな。もっと辛くして待ってるぞ」

「それはちょっと勘弁して欲しいな……」


 がっはっはと豪快に店主が笑った。

 店を出て、ショーマに感謝を伝えると、俺たちはそれぞれ家へと帰った。充実した一日だった。

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