第174話 揺さぶり。

 開始の合図が、まさかの相撲バージョンとは……。しょぱなから揺さぶってきやがる。ジンは当然ながら全く動揺していない。迷いなく刀を振る。


容赦ようしゃないねぇ、最近の若者は!』

【負ける可能性は0.1%でも減らしておきたいですからね】


 ジンの斬撃を弾き返す。


『勝てる可能性を増すんじゃなくて、負ける可能性を減らすって……。お前が勝つのが前提かよ!』

【何か間違っていますか?】


 挑発の上手さはアスカ並みだ。レンとは全然違うタイプだが、負けず嫌いなところは兄弟似ている。ジンの斬撃は止まることを知らない。一撃は重くないが手数が多い。防御するので精一杯だ。


【どうしたんです? 殺す気で来てくださいよッ!!】

『言ってくれるねぇ……!』


 俺は一度下がり、距離を取った。そして、ジンがいる方向とは逆方向に走った。ジンが何かを叫んでいたが、無視して走った。辿り着いた先は住宅街。アスカとの戦いでつけた知恵だ。俺は他人の部屋に隠れながらタイミングを見計らった。正直、真正面から戦って勝てる相手ではない。……今のままでは。


【ヒカルさん! どこですか!?】


 追いかけてきたジンが住宅街に足を踏み入れたようだ。俺を探して叫んでいる。ジンの行為は、自分の居場所を知らせているようなものだ。この辺はまだまだ若い。部屋の窓からジンの様子を見てみる。俺を探すのを諦めたのか、立ち止まっていた。刀をさやに収め、腰を深く落とした。右足を前方に、左足を後方に、地面を踏みしめる。あの構えは……。


『居合か……!?』


 俺が気づいたときには遅かった。鞘から解き放たれた刃が、横一閃よこいっせんきらめいた。次の瞬間、周囲の建物は真っ二つになっていた。

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