第173話 始まりの合図。

【はぁ!? 何を言っているんですか!?】

『マジな話なんだが……。ダメか?』


 いつもは冷静なジンが驚きを隠せないようだった。

そしてジンは少し考えていた。


【……殺すつもりで手合わせをしろ、って話として受け取ってもいいですか?】

『あぁ、それでいい』

【じゃあ、僕からもお願いです】

『なんだ?』

【ヒカルさんも、僕を殺すつもりでかかって来てください。それならこの話を受けましょう】


 ドキッとした。しかし、同時に面白いと思った。


『あぁ、いいぞ。もしものことがあったら、レンには上手いこと言うとしよう』

【わかりました。では、始めましょうか】

『やると決めたら行動が早い。昔からそうだし、どんなことでもそうなんだな』

【笑ってないで、早く構えてください。殺しますよ】

『はいはい。ちょっと待てって』


 ジンとは初めての手合わせだ。さらに、殺すつもりってのも初めてだ。”覚醒”は”死”へと近づいた時に発動する。”死”への恐怖が引き金になっているというのが俺の予想だ。本当に殺されてしまったら、元も子もないけど。ジンだったら本気で来てくれる。最も信頼できる相手だ。


【始まりの合図は、僕の腕時計に入っているアプリを使用しますがいいですか?】

『あぁ、いいぞ。……って、そんなアプリ入れてるのか?』

【えぇ。剣道の練習をするときに便利なんですよ。音声や他の競技のものも豊富で、なかなか面白いですよ】

『そんなのあるんだな。知らなかったよ。それじゃ、それで頼む』


 ジンはアプリの設定をささっと行った。その間に俺もSONICソニックで連絡をしておいた。


【よし、これでいいです。10秒後に合図の音声が流れます】


 お互いに距離を取り、構える。静かに音声を待つ。短いようで、長い10秒が流れた。


 ”見合って見合って……”


 ”はっけよーい……”


 ”のこった!”

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