第170話 震える肩の意味は。

『なにか言ってくださいよ。イツキさん』


 イツキさんは背中を向け、肩を震わせていた。嫌な予感がした。


【よう、ヒカル! オレのお見舞いか?】


 ベースの奥のドアが開くと、ジュウザブロウさんが顔を出した。片手には缶コーヒーを持っている。


『ジュウザブロウさん! 体は大丈夫ですか!?』

【あぁ。日常生活には支障はなさそうだ。ただ、激しい運動はNGなんだ。だから、次のDemiseデミスとの戦いは日付によっては難しいかもしれん】

『そうなんですか……。でも、元気そうでよかったです。あんまり無茶しないでくださいよ』


 ジュウザブロウさんは無事だった。それにしても、さっきのイツキさんの反応はなんだろう。


『イツキさん……?』


 俺がイツキさんに声をかけると、爆発したかのように笑った。ひとしきり笑い終わると俺に向き合った。


【すまんすまん。ちょっと驚かせようと思ってな。意味深な行動してみただけなんだ。ヒカルくんの反応見てたら笑えてきて……】


 イツキさんは再び笑った。さっきの肩の震えは笑いをこらえていたということに気がついた。


【おー、ヒカル。よう来たな。イツキちゃん、ほんま性格悪いのぉ。俺はやめときって言うたんやで】

【いやー、悪いと思ってるよ。昨日のあの重い空気がしんどくてな】

『俺に八つ当たりってことですか……。まぁ、いいですけど……』


 とにかく、ジュウザブロウさんの安否が確認できてよかった。それに尽きる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る