第142話 貫く。

『まず、俺がやることは……』


 無数の目に怯えることなく、俺は地面を蹴ってDemiseデミスに近づいた。俺に反応し、Demiseの右前足が振り上げられた。振り下ろされる前に、足の下をくぐり、Demiseの脇腹あたりに立った。そして、そこにある触角のすべてをぎ払った。


『まずは目を潰す……ッ!』


 Demiseに効果があったのか、足元がふらついている。すかさず飛び上がり、今度は背中に乗った。背中にある触角もすべて薙ぎ払った。金属音のような甲高い奇声を発しながら、Demiseは暴れ始めた。

 俺はすぐに背中から飛び降り、再び距離を取った。Demiseは全身の毛を逆立てた。背中の毛がどんどん伸びている。伸びた毛を束ねると、巨大な握り拳のようなものを形成した。


『おいおい、マジかよ……!?』


 握り拳を作り終えると、Demiseは猛スピードでこちらに突っ込んできた。握り拳を振り回し、近くの建物を破壊しまくった。建物はまるで豆腐のように簡単に崩れていった。


『こんなの、まともに喰らったら、無事じゃすまないぞ……!』


 握り拳をくぐり、Demiseの腹部の下へともぐり込んだ。


『ここなら、すぐには対応できないだろ……!』


 シャルに力を込める。やられる前に、やるんだ。


『喰らえェェェェッ!!!』


 俺は頭上にある腹部を貫くつもりで、渾身こんしんの突きを放った。突きの勢いで、少し宙に浮いたDemiseはバランスを崩し、その場に倒れた。倒れると同時に、俺は”コア”のある尻尾に近づいた。


『今度こそ……!』


 シャルを振り上げ、思いきり振り下ろす。放燐ホウリンを利用した爆発のおまけきだ。


『はぁ……はぁ……どうだ……?』


 尻尾は爆発により切断されている。後ずさりをしながら様子をうかがった。Demiseの動きは完全に止まっている。Demiseは短い奇声を数回上げると、細かい砂となった。その光景をまじまじと見ていた。


『……やった……! 勝てた……!』


 勝利を実感したのは、数分経ってからだった。俺は一人、ガッツポーズをしていた。

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