第129話 罰当たり。

 崩れた本殿ほんでんがまだ土煙を上げている。その中に、武器を突き付ける男と突き付けられている女。はたから見たら、異様な光景だろう。


【……あなたの方が神様に怒られそうよ。ばちが当たらないといいわね】

『罰なんて当たるかよ!』


 俺にシャルを突き付けられたアスカは動けないようだった。何を言っても、これは俺の勝ちだろう。アスカを見下ろしながら、俺は勝利を確信した。

 一応、時間の確認をする。間違いない。規定時間内だ。ついに勝てた。練習試合という形式だが、自分1人だけでの力で手に入れた、初めての勝利に打ち震えていた。

 思わず顔がゆるんだ、その刹那せつな。俺の背中に痛みが走った。


『ぐぁ……っ!』


 その痛みは、やがて全身へと広がった。シャルは地面に落下し、音を立てた。それに続いて、俺はひざをついて倒れた。


【あら、ヒカルくん。どうやら罰が当たってしまったようね】


 アスカは立ち上がり、今度はアスカが俺を見下ろしていた。完全に油断していた。アスカは”動けない”んじゃなかった。”動かなかった”んだ。


『くそ……。遠隔射撃が残っていたのか……。いや、それだったら纏陣テンジンで防げていたはず……』

【正解は最後に放った矢よ。矢がUターンして、ヒカルくんに刺さるように放ったの。相手のとどめを刺す、最後の1秒まで油断したらダメよ】

『マジ……かよ……』


 アスカの言葉を聞き終わると、俺は気を失った。勝者はアスカ。残り時間はあと2分だった。

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