第124話 一矢。

 住宅街の入り組んだ細道を歩き続ける。一応、周りを警戒しているが、アスカの気配は無い。時間を確認すると、戦いが始まってから、10分が経過していた。


 残り時間は20分。


 自分の足音と服のこすれる音だけが聞こえる。アスカは近くにいないのか、音を消してひそんでいるのかわからない。周囲の警戒は怠らずに移動する。


『こうやって気を張った状態を持続させることによって、精神的に疲弊させる作戦の可能性もあるな……』


 アスカの思惑おもわくを読みつつ、細道を抜けた。一気に視界が広がった。大通りに出た。近くのマンションやビルからも見えやすい、見通しの良い大通りだ。


『俺はなんのためにアスカに手合わせをお願いしたんだ。逃げて勝っても、何の意味もねぇだろうが……!』


 大通りの真ん中で、アスカの動きを待つ。


『さぁ、狙いたい放題だぞ……』


 しかし、攻撃は一向に来ない。


『あからさますぎて、逆に警戒されたか……?』


 そう思った瞬間、右方向から矢が飛んできた。


『……来たっ!』


 瞬時に反応し、矢を避ける。矢の飛んできた方向へと体を向けた。走り出そうと、足に力を入れたその時、俺の背中に矢が突き刺さった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る