第123話 金属音と砂煙と不公平な戦い。

 地面に落下したコインは転がっていった。転がるコインは近くの小石に当たり、小さな金属音を鳴らすとその場で倒れて止まった。そんなコインの行く末を見ること無く、俺たちは動き出した。

 先にアクションを起こしたのはアスカだった。アスカは地面に射撃を放ち、砂煙を上げた。


『くっ……! 煙幕か……!』


 距離を取る作戦か。ここでひるんで止まることは相手の術中じゅっちゅうにハマることになるだろう。俺はスピードを緩めることなく、砂煙の中へ突っ込んだ。しかし、砂煙の中にはいないと思っていたアスカの姿があった。俺の行動は完全に読まれていた。


【ごきげんよう】


 待ち構えていたアスカは余裕そうに言葉をかけると、俺に対して矢を放った。俺は体勢を崩しながらも、なんとか回避に成功した。アスカは驚きつつ後ろへ下がり、俺との距離を取った。その隙に俺は体勢を整えた。

 砂煙は薄れ、にらみ合いが続いた。数秒後、先に動いたのはアスカだった。

 アスカの走り出した方向にあるのは住宅街だ。そうか、住宅街なら身を隠すのにうってつけの場所だろう。アスカに有利な場所だが、俺にも有利な場所だ。俺もすかさず追いかけるが、途中でアスカを見失ってしまった。

 正直、この勝負の勝利条件は不公平なんだ。俺はアスカから逃げ切るだけでいい。だが、アスカは俺を仕留める必要がある。このまま住宅街で身をひそめていれば、俺が勝てる可能性は高いだろう。きっとアスカはこのことに気付いていたと思う。俺が正々堂々と戦いを挑んでくると信じているだろう。


『敵を信じるバカがどこにいる』


 そうつぶやきながら、俺は住宅街の細道に入った。

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