第71話 声。

【ふぅ……。本当に怪我はないかい?】

『はい。怪我は全くないです』

【それにしても運がないねぇ。グレンは、あぁやってじゃれるのが好きだからさ。本当に殺すつもりはなかったと思うよ】


 俺は苦笑いをした。


『そうだ。そういえば、ジュウザブロウさんの声がした気がするんですけど、あれは……?』

【あれは僕の特技ってやつでさ、声のモノマネ。声マネってのが得意なんだ。グレンみたいに耳が良い人には見抜かれちゃうこともあるけどね】


 イツキさんは笑いながら言っていたが、俺にはまるっきり本物の声に聞こえた。


『いや、すごいですよあれは!』

【ありがとう、ありがとう】


 イツキさんは恥ずかしそうに笑っていた。


【ところで、ヒカルは今日は1人で?】

『はい。昨日、アスカとジュウザブロウさんに簡単に手ほどきしてもらって、今日も体を慣れさせるために軽く、って思ってたんですけど……』

【グレンに絡まれてしまったと】

『はい……。でも、あれはあれでいい経験だったかなって思います。実戦の経験って、なかなかできないじゃないですか。あぁやって、本気でぶつかってもらえる実戦なんて、とても貴重ですよね』

【まぁ、あれはグレンは本気の1割も出してないけどな】


 唖然あぜんとする俺を横目にイツキさんは笑っていた。

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