第36話 夢幻の八月・後。

【……だが、オレたち4人以外は全員Demiseデミスによって倒された。ギリギリの勝利だった】


 俺は血の気が引いた。ジュウザブロウさんは”倒された”と言ったが、その実は紛れもない”死”のことだろう。ついさっき見たDemiseを思い出し、また吐き気をもよおした。口元を手で覆い、なんとか吐き出すことは我慢したが、記憶に残った恐怖は消えなかった。

 ジュウザブロウさんは、俺が落ち着くのを待ってくれているようだった。深呼吸をし、息を整える。


『失礼しました。話の続きを聞けますか?』

【すまない、キツイ話だったか……】

『まぁ、多少は……。でも、思い出しながら話をしているジュウザブロウさんのほうがもっとしんどいですよね……』

【ずいぶん昔の話だからな。気持ちの整理はついているつもりだ。経験者としては”資格保有者”には自分の経験を伝える義務があると思っている。だから、覚悟はできている】


 ジュウザブロウさんは優しい目をしていた。


【続きを話そう】

『……お願いします』


 話は続いた。


【Demiseを倒してから、レイヤースペースは光に包まれた。その光が何なのかはよくわからない。気づくとオレは家の布団で横になっていた。日付は8月31日。長い夢を見ているようだった。現実世界に戻ったオレからは”夢幻むげん八月はちがつ”の記憶は消えていた。消えていた、というのは語弊ごへいがあるかもしれない。ずっと霧がかかった状態で、何かあったようだが、全く思い出せない状態だった。今回、再び”資格保有者”となってから、その記憶の霧は晴れた。しかし、生き残った他の3人も、倒された13人もどうなったのかは今でも知らない。知るのが怖いのかもしれない。ヒカル、オレは”夢幻の八月”のようにはなりたくないんだ。だから、オレが先頭に立ってみんなを導く。そして必ず、全員生きて正しい時間へ戻るんだ】


 ジュウザブロウさんが輝いて見えた。


【ヒカル、お前の気持ちを聞きたい。どうだ、一緒に戦うか?】


 ジュウザブロウさんが問いかけてきた。


 俺は……。

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