第35話 夢幻の八月・前。

 ジュウザブロウさんは、少し考えてから答えた。


【ここで取りつくろっても、すぐにわかってしまうだろうし、そもそもそういうのは好きではない。だから正直にいわせてもらおう】


 俺はツバを飲み込み、覚悟を決めた。


【答えは『わからない』だ】

『……じゃあ、死ぬまで戦い続けるってことですか!?』


 思わず大声を出してしまった。


【すまない、そういうことになるかもしれない】


 俺はジュウザブロウさんを睨みつけるように見ていた。


【ヒカル、お前の気持ち落ち着くかどうかはわからないが、1つ参考になる話をしよう】

『なんですか……?』

【オレは12年前、同じような8月を経験したことがある。オレたちはそれを”夢幻むげん八月はちがつ”と呼んでいる】

『”夢幻の八月”……12年前ってことは、俺は8歳か……。でも、そんなの記憶にないですよ』

【それはそうだろう。当時のヒカルは”資格所有者”ではなかったのだから】

『そうか……。俺はおかしな8月を認識せずに過ごしていたのか……』

【オレは16歳。高校1年だった。最年少は1つ年下の15歳の子がいた】

『ジュウザブロウさんは、これが2回目なんですね』

【あぁ……。そのときは17人のチームだった。忘れられない、8月186日。巨大な仏像のようなDemiseが相手だった。オレを含めた若い3人と護衛の人が1人。この4人は危険だからと離れた場所にいた。戦いは熾烈しれつを極め、長時間の戦いとなった。結果的に言うと、我々は勝利した。まぁ、この世界があるんだから当然の話だけどな】


 ジュウザブロウさんは少し笑いながら話していたが、その目は憂いを帯びていた。

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