てるた、君は。

カナヤ イア

Epilogue

度重なる実験は、確実にこの森の生命を駆逐していった。

およそ半径100m以内に自然と呼び得るものはなく、鳥の声も虫の羽音も草木の擦れる音も聞こえず、ただ自身の心臓の脈打つ音だけが淡々と鳴り響いていた。


感傷に浸っている場合ではない。しかし焦りは禁物だ。いい塩梅を模索しようと試みる。失敗。逸る気持ちは抑えられない。少しずつ広がる歩幅に、押している台車の揺れとガラガラという音が大きくなる。もっと丁寧に。誰に言うでもない反省を5回ほど掲げたところで足を止める。静かに髪を揺らす風の音がこの森のつまり私の孤独の輪郭をはっきりと縁取り、これが最後だと伝えられる。


消えかけた目印の土埃を取り払う。台車を止め、少しよろけながら持ち上げて赤い円に合わせて設置する。何度も見た光景だった。今回で最後になるだろう。最後にしなければならない。まあ、失敗したとして、終わるのが実験から世界になるだけなのだろうが。


地面に固定されたのを確認し、風向きを設定する。気が付けばあれほどうるさかった鈍い騒音も、ひどい振動も、あの少年も、みんななくなっていた。3代目から導入されたタッチパネルをたたく左手が震える。1分。日付も時刻も緯度経度も方位も全て確認できた。30秒。あとは待つだけだ。15、14、13、12、終わっていく、人生が終わっていく、5、4、3、2、1。







「できた」


そらがあかるくひかった。

ああ、できたんだろうな、ようやくできた。

こんきょはないけど、そうおもった。







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てるた、君は。 カナヤ イア @wiakanaya

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