第11話 影の予兆(9)

 Ashley 1994年7月31日 10時27分59秒 モスコームトン宇宙港 東部居住区


 目の前で起こっている出来事に私が介入できるとは思わなかった。例え私が人を容易く殺す力があるとしても、私はその使い方を知らない。クラウザーの言うとおり、『破滅の焔』は私の意志とは別に動くものなのだから。


 だから、あの闘いに介入してはならない。割って入った瞬間、少なからず人が死ぬ。今度はただの爆発では済まないかもしれない。この街を焼き尽くして余りあるほどの巨大な焔が広がるかもしれない。そう考えることで、私は“なんとか”足を踏みとどまらせていた。


 そう、そのとき私はあろうことか、闘おうなどと考えていたのだ。アザトスと名乗った騎士を“倒して”、クラウザーとギルテロを救えるかもしれない……実に馬鹿げた発想の連続だった。


 焔は燃やす力だ。焔は焼き焦がす力だ。そこに一体どんな救いがあるのか――――


「……ダメだ……アシュレイ様……!!」


 クラウザーが静かに叫んだ。私は自分の足が前に踏み出しているのに気づき、同時に目の前に迫る破滅の気配を感じた。それでも尚、わき上がる意志に逆らわなかった。



 ――――逆らえなかった。

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