第8話注目の的
再び、演奏会の実行委員会の日がやってきた。一年の4人はまた港中央学園へ赴いた。部屋のドアを開けて入っていくと、ガッと注目を浴びた。行くのが遅かったとはいえ、まだ遅刻ではない。
「おい、なんでこんなに注目されてんだ?」
和馬が座りながら小声で佐々木に囁いた。
「しらん。」
佐々木はそう言いながらちらっと周りを見た。
「どうやら見られてるのは俺じゃないな。」
佐々木は座ってから小声で和馬に囁いた。和馬もそう言われて周りをちらちらと見た。確かに周りは自分を見てはいなかった。見ているのは・・・
「ヒョンス、お前見られてないか?」
佐々木と反対側の隣に座った朴に囁いた。
「ん?」
筆記用具を出していた朴は、顔を上げて和馬を見た。和馬が周りを見ろとばかりにあごで合図をすると、朴は周りを見た。和馬も見た。そしたら、見ていた人たちが一斉に視線を手元に落としたのが分かった。やはり朴を見ていたようだ。何だ何だ?これは。
「そういえばさ、お前また背が伸びたんじゃないか?」
和馬は小声でまた朴に話しかけた。
「そうかな。今度測ってみようかな。185くらいになってるといいなあ。」
そう言って朴が笑う。和馬はまたちらっと周りを見た。明らかに朴は注目を浴びていた。やれやれとばかりに和馬は肩をすくめた。
「どうやら、ヒョンスはモテモテのようだぜ。」
佐々木の方に向かって囁いた。
今日も打合せは黙ってやり過ごす4人であった。だが、終わって帰ろうとすると、黙って帰れる状況ではなかった。女子たちが何人か4人を取り囲んで来たのである。男子校生にこの状況は焦らせる以外の何ものでもない。とりあえず立ち上がると、朴はまた頭が遠くなる。座っている時は隣に顔があったのに、立つと見上げるのである。
女子の一人が話しかけてきた。
「あの、稜賀高校の方たちですよね。何年生ですか?」
朴に話しかけようとしているのは明らかだが、それでも4人を交互に見ながらそう聞いてきた。4人は顔を見合わせた。お前が答えろよと心の中で押し付け合う。
「あー、一年生です。」
最終的にみんなに押し付けられた、朴が答えた。
「そうなんだあ、大人っぽく見えるね。私たちは港中央学園の2年生なの。よろしくね。」
「はい。」
と、朴が答えていると、遠巻きに今度は別の女子のグループがこっちを見ている。
「行くぞ。」
佐々木が意外に女子にそっけなく、3人を促して歩き出した。朴は
「じゃあ。」
と言って話しかけてきた女子に会釈をして、佐々木の後に続いた。他のグループの女子たちが来るのでは、と和馬は構えてしまったが、佐々木の不愛想ぶりに恐れをなしたか、そのまま遠巻きに見ているだけだった。ほっとして廊下へ出る。
「ヒョンス、お前モテるんだなあ。」
角谷が朴の背中をポンと叩いて言った。肩を叩きたいところだが、届きにくいのでそうなった感じである。
「港中央、つまりこの学校って共学じゃん。あまり女子にモテると、男子が黙ってないんじゃないか?」
和馬はそう言いながら遠くでこちらを睨んでいる男子たちをちらっと見た。
「冗談じゃないぜ、こっちは4人しかいないんだからさ、喧嘩でも吹っ掛けられたら。」
和馬がそう言うと、
「大丈夫だ、俺は空手初段だ。」
佐々木が言う。
「俺は二段だ。」
朴が言って笑う。
「誰のせいだと思ってるんだよ。屈託なく笑ってるけどよお。」
和馬が文句を言うと、
「俺がモテるなんて、気のせいだよ。」
と言ってやはり笑う朴。朴は確かに流行りの韓流スターに似ている、かもしれない。
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