第6話独り占め
翌日の部活で、和馬は聞きたくてうずうずしていた事を、佐々木に聞いてみた。
「誠、どうだった?カエル、やったか?」
「なんだよ、会って一番にその話かよ。」
「どうなんだよ?」
「・・・やってみたよ。」
「それでそれで?」
和馬は立ったままぐぐっと佐々木に詰め寄る。角谷が苦笑いしている。が、朴も含め、皆興味深々なのは間違いない。
「いやー、後ろから耳元でカエルやったら、あいつくすぐったそうにして笑ってた。」
くすぐったそうに?3人は天井を見上げて想像した。
「どう考えても嬉しそうじゃん?」
朴が言った。
「あれだ、誠。もうあいつにかまうな。それでいい。」
和馬は投げやりに言った。なんだかバカバカしい気がしてきた。部活には自分が連れて行けばいい。
「はいはい。」
誠もそう言って、その話は打ち切りになった。もう解決済みのような気分になっていた。
ところが、そうでもなかった。
翌日の体育、これも1、2組合同だ。サッカーの授業で、1組対2組でゲームをした。和馬はキーパー、佐々木は相手チームのフォワードで、つまりポジションが近い。和馬はよく前へ出てシュートを打たせる前に手で取るので、佐々木とはしょっちゅう衝突する。衝突してはお互いを笑いながら起こしてやったりしていた。
体育が終わり、教室へ戻って着替えると、そのまま昼休みだった。和馬が水道で手を洗っていると、山本が近づいてきた。
「ちょっといいかな。」
すごい目で睨まれて、和馬は何も言えずに山本について行った。廊下の端っこへ行くと、誰にも話は聞かれない。そこで山本は振り返り、和馬に小声で言った。
「君さ、佐々木と仲がいいよね。それって、つまりデキてるってこと?」
和馬はあまりに驚いて一瞬声が出なかった。目だけ大きく開いたけれど。
「な、なに言ってんだよ。んなわけないだろ。」
やっと声を出して、そう言った。
「じゃあ、ただの友達?」
山本は、斜め下から見上げるように和馬の目を見た。胡散臭そうに。
「そうだよ。」
「なら、独り占めしないでくれる?」
「え?してないよ。」
和馬はとっさに言った。確かにそうだ。例えば朴や角谷だって同じように仲がいい。クラスの友達とも佐々木は仲がいい。自分が特別なわけではない。
「君は、誠と、その、特別な仲になりたいわけ?」
和馬は言葉を選んでそう言った。しかし、山本は答えなかった。今まで挑戦的な目を向けてきていたが、初めて視線を床に落とした。
「デキてないならいいよ。」
山本はそう言って唐突に話を打ち切ろうとした。さっさと立ち去ろうとするので、
「待てよ!あのさ、誠と仲良くするのは構わないんだけどさ、部活に行くのを遅らせるのは辞めてくれよ。あいつちょっと困ってるみたいだったし。」
和馬が慌ててそう言うと、山本はもう一度振り返って、
「君たちは部活に一生懸命だね。その連帯感がうらやましいよ。」
と、ちょっと顔を歪めた。笑ったような、それでいて泣きそうになったような表情だった。そして、山本はそれ以上何も言わずに立ち去った。和馬はふうっと大きく息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます