エピローグ2 皇女の聖夜
2010年12月24日 19:50
帝都
今年もこの日が来た。
クリスマスイヴ。世界のどこででも大抵祝われる救世主の誕生日。
先月に終戦したからか、街はそれを楽しむ人々と輝くLEDに満たされている。
そんな街の一角、裏道に繋がる路地の入り口―――もちろん大通りに面している―――の前でグレーの軍の支給品であるコートを着た自分、レイ・エーギシュガルトはある人を待っていた。
吐く息は白く、寒さが少し肌に突き刺さって痛い。
「にしても・・・。」
遅い。いくら何でも20分待ちはひど
「遅くなりました!」
路地から現れた、自分の待ち人は
「いくらなんでも遅すぎですよ。皇女殿下。」
皇帝になる事を自ら拒否した(変装した)第一皇女カルナ・エスグルタ、その人である。
ことの発端は7年前―――
2003年12月24日 19:30
帝都
7年前、自分は走っていた。
今は亡き父と母―――当時は存命―――に久しぶりに会える、年に一度の日だったのだ。
「裏道行こう。」
裏道は車が一台通れるかどうかという細さだが近道ではある。
路地に入ってそのまま直進。角を曲がろうとしたら
「イデッ!?」
「痛っ!」
誰かとぶつかった。
「ごめん!大丈夫?」
「はい・・・。」
すると奥から足音。
「すいません!少し付き合ってください!」
「え、あ、はぁ。」
彼女に付き合って逃げた。
そして今に至る。
2010年12月24日20:00
同地点
その時は全く気づかなかったが、この時から皇女殿下と年一回、この場所―――具体的には裏道に繋がる路地の入り口―――で待ち合わせ、帝都のクリスマスを楽しんでいる。自分はもちろん護衛(という名目)だ。外からは分からないように愛用のM7A2も吊っているし、アメリカ式ではあるが近接格闘術も修めている。
「すみません。侍女長と近衛隊長を撒くのに時間が掛かりました。」
「あぁ・・・あの二人はなぁ・・・。」
どうやら皇城を抜ける際、立ち話をしていた侍女長と近衛隊長に見つかり逃げるのに手間取ったらしい。
侍女長は知らないが、BB・・・もとえお年を召しているらしい。メイドとしてとても優秀とは会ったことのあるルイスの談。
近衛隊長は顔は知っているし、会話したこともある。とても真面目そうな人だ。
「それでは行きましょう!」
「了解致しました、殿下。」
「殿下じゃなくて、カナですよ?」
彼女は偽名でカナ・イェスタと名乗っている。
「はぁ・・・わかったよ、イェスタ。」
「・・・カナと呼んでくれたこと、ありませんよね?」
「そうだな。」
なんとなく恥ずかしい。
「一回くらい、それで呼んでくれてもバチは当たりませんよ?」
「はいはい・・・じゃあ、カナ。」
「はいっ!」
「声がでかい。」
「す、すいません・・・!」
「いや、構わないさ。っと、降ってきたな。」
「わぁ・・・!ホワイトクリスマスですね!行きましょう、レイ!」
「だな。はぐれるなよ、カナ。」
自分達は小雪ちらつく街に繰り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます