エピローグ1 最後の羽ばたき

同12月1日10:00

ハミーヤ鎮守府第1埠頭


 ハミーヤ鎮守府の第1埠頭に、艦(フネ)はいた。

「ついに来てしまったな・・・。」

 その艦を座乗艦かつ旗艦にしてきた第5艦隊司令テルミド・ビュコック海軍中将が呟く。

 その艦とは帝国海軍2番目の超ド級戦艦。BB01戦艦ルタだった。就役は1939年と長い艦歴を歩んでいる。現役の戦艦が帝国海軍以外に存在しない為、世界最古の戦艦でもある。イギリスの傑作ライオン級やクイーン・エリザベス級。日本海軍のコンゴウ型をタイプシップとしている。第二次大戦序盤を先輩にあたる戦艦アクリオンと共に生き抜き、後半からは新鋭艦のBB02ネストリアとアメリカから供与された護衛駆逐艦や独自の客船改造空母などと共に共和国海軍と死闘を繰り広げた。大戦が終わってからは、後部艦橋と第3砲塔の間にあった水上機格納庫にMk13ランチャーを設置。大戦後初期かつミサイル黎明期を支えた武勲艦である。

「しょうがないとは分かってはいるが・・・船体が残らないのは惜しいな。」

「主砲塔と舵輪、錨にスクリューが残るだけマシですよ。」

 艦長から慰められると、ビュコックは苦笑いした。

「そうだな。さて、そろそろ式典だ。君も参列するだろう?」

「ええ。ではまた後で。提督。」

 海軍式の小ぢんまりとした敬礼をする部下に、彼はまた苦笑いする。

「その呼び方は止めてくれ。」


同時刻

メルーザ空軍基地


 メルーザ空軍基地の第2格納庫。そこには世界で最後の剣士達がいた。

「今日でこいつと飛ぶのも最後か。」

「寂しくなりますね・・・。」

 剣士の名はF-86ZセイバーⅡ。F-86Fセイバーの改修機で、1960年代から今まで、他国でF-86シリーズの退役が相次ぐ中、最後に残った剣士として帝国の剣(つるぎ)として生きてきた。先の戦争でも最前線にいたにも関わらず、損害を出さずに全機が無事に帰還していた。

「で、こいつの退役と同時に俺も退役。もう少し飛んでいたいが、もう歳だからな。」

 愛機との別れを惜しまず、悲しみもしない第7戦闘機中隊の隊長は少し悔しそうにそう言う。

「悲しくないんですか?」

 副長が聞くと、真面目な顔で機体を見つめる。

「悲しくない、寂しくない、惜しくないって訳じゃない。ただ・・・。」

「ただ?」

「・・・ただ、泣いて送ったらこいつも悲しがる気がしてな。」

「・・・。」

「最期くらい、笑って見送ろうじゃねぇか。」

「・・・はい!」


同10:30

ハミーヤ鎮守府第1埠頭 ルタ第1艦橋


「これより本艦の最終航海を行う。時間は短いが、宜しく頼むよ。」

「はっ!」

「機関始動。」

「始動確認!」

 地響きのような蒸気タービンエンジンの振動が、床越しに微かに伝わる。

「抜錨。」

「抜錨!錨上げろ!」

「曳船来ました。接舷します。」

「了解。」

 そして3隻の老兵は、最後の海に出た。


同時刻

メルーザ空軍基地 誘導路


「Meluthe tower. Reqest QNH」

『Saber01. Meluthe approch 3202.』

「QNH 3202. Saber01.」

 管制と地上員の誘導で滑走路に進出する。

 英語での、普段となんら変わらない管制塔とのやり取り。しかし、高度計規正値(QNH)を受け取った後は違った。

『セイバー中隊、演習空域についたら自由に飛んでよし。』

「了解!音を超えてもいいんだな?」

『ああ。演習空域は海の真上。いたとしてもルタと駆逐艦2隻だ。歓迎してやれ。』

「了解!」

『Saber01, runway01, Wind clam. Cleared for takeoff.』

「Roger. runway01. Cleared for takeoff.」

 そして一機ずつ、着実に上がる最後の剣士は演習空域にて、一波乱あることをまだ知らない。


同11:00

帝国EEZ内 第1演習海域


「右舷、空砲用意。」

「右舷空砲用意!」

 現在のミサイル駆逐艦より立派な第1艦橋は、人でやや混雑していた。この空間にいるほとんどが、情報部が招待した軍事雑誌の記者やフリージャーナリストで、軍人は一握りしかいない。

「仰角最大、主砲空砲射。」

「用意よし!」

「撃て。」

 8つある主砲から衝撃波と轟音、白煙が飛び出す。

「おーっ。」

 アジア人と思われる一人の若い記者が感嘆の声を上げた。

「おや、そこの記者さんは戦艦は初めてかな?名前は?」

 ビュコックが声を掛ける。

「え、あっ。はい!ルイ・イサキです!」

「ルイ君か、それは結構。明日からは出来ない体験です。」

「ありがとうございます!」

 そのとき、艦内スピーカーが鳴った。

『こちらCIC。対空レーダーに感あり。数12、IFFは味方です。』

「時間的に空軍のF-86でしょうな。」

「あっちも退役の日か。」


同時刻

同地点(演習空域1)


「あれか。」

『大きいですね。』

 戦艦を先頭に駆逐艦2隻が続く艦隊は、後方から見ても圧巻だった。

「よし。イマジン!低空超音速飛行だ!」

『はぁ!?』

「行くぞ!」

『あーもう!分かりましたよ!』

 セイバー01は僚機を連れ、波飛沫の被らないすれすれまで降下。水平飛行に入ると同時にスロットルを押し込む。

 駆逐艦の右脇を高速で駆け抜け、ルタを通り過ぎた地点で急上昇。

「どうだ!」

『隊長は無茶し過ぎです。』


同11:05

同地点


「まったく、やってくれたな。」

 超音速のお陰で、後からやって来る轟音が耳から抜けない。

「ここは1つ、お返しといこうか。演習弾装填。諸元同じ。」

「了解!」

「ルイ君。」

 名前を呼ばれたルイは驚きつつも答える。

「は、はい!」

「これから見せるのは空砲とは違う、本気に限りなく近い艦砲射撃だ。その目と耳に残しておくように。」

「わ、分かりました。」

 ルイの返事のすぐ後、準備が出来たことを告げる声がスピーカーから響いた。

「撃て。」

 実体の砲弾を伴った砲撃は、実弾にも劣らない迫力を有していた。


同時刻

同地点


「やってくれるじゃないの。じゃあ次は」

 食い気味に通信が入る。

『こちら海軍所属のAWACS、ハマー02。指揮系統の違いを承知でお願いする。そちらの近く、そちらから80kmの地点に所属不明の大型機が接近中だ。民間機だと思うが、触接をお願いしたい。』

「こちらセイバー01。了解した。第1小隊が向かう。」

『感謝する。セイバー01。この回線は貴隊用に開けておく。何かあればすぐに呼んでくれ。オーヴァー。』

 通信が切れた。

「さて、第1小隊。現場地点に向かうぞ!アフターバーナーオンだ!」

『『『Roger!』』』


同11:10

演習空域外縁 所属不明機まで10km


「レーダーインサイト。」

『了解。そのまま距離を詰めてくれ。』

「Roger.」

 レーダーでは捉えても、不明機はまだ見えない。

「もしもの時の交戦規定は?」

『当たり前だか、有視界戦闘(ガンズタイト)だ。』

「了解。聞いてたな?」

『もちろんです。』

「このまま100mまで接近する。」

 近づくと、そこには明らかに軍用機ではない。鮮やかな塗装がなされた双発のジェット機がいた。

「タリホー。ボギーはB767-300ER。ラウンデルはスカイジャーニー航空。」

『ハマー02了解。コンタクトを取ってくれ。』

「了解。」

 通信機の周波数を国際標準の121.5MHzに合わせる。

「Sky Journey Aircraft. Sky Journey Aircraft. This is Imperial AirForce. You are too close to our practice area. You must leave here now.」

 流暢な英語がすらすらと出てくる。

 数分後、返答があった。

『This is Sky Journey Aircraft 32 Flight. Our Automatic navigation system has broken down. In addition, fuel is likely to be lost. It is difficult to leave this airspace. I would like to land at a nearby airport.』

「Roger. Wait a little.」

 民間機との通信を切り、ハマー02に繋ぐ。

「確定した。スカイジャーニー航空で間違いない。自動航法装置がやられて燃料も無いらしい。」

『ダイバードか。了解。近い空港は・・・マルティンクス空港か。そこまで誘導してやれるか?』

「構わないぞ。」

『感謝する。セイバー01。』

 その後、スカイジャーニー航空第32便はエスコート付きで無事にマルティンクス空港に急遽着陸。燃料補給と航法装置整備をしたのち、イギリスに向けて旅立った。


同12:00

ハミーヤ鎮守府第1埠頭


『次に、指揮官旗受け渡し!』

 ルタの艦長は、旗艦に掲げられる旗を次期旗艦の駆逐艦カルプスの艦長に受け渡す。

「頼んだよ。」

「頼まれました。」

 旗の受け渡しが終わり、カルプス側の旗置きに置かれる。

『次に、艦隊司令官業務引き継ぎ!』

「私の番か。」


同14:20

ハミーヤ鎮守府衛門前


「ここまででいいよ。」

 鎮守府司令が衛門まで見送ると言うので、ついてきてもらった。

「分かりました。」

「当分死ぬつもりは無い。嫁と日本にでも行こうかと考えている。嫁が行きたがっていてね。」

「それはいいですね。では、お元気で!たまには覗きに来てください。」

「ああ。」

 そして、帝国海軍一の老将テルミド・ビュコック少将(70)は軍を去った。




 それから約5年後の2015年。日本の京都で、彼とその妻が確認されている。

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