幕間
同10月8日 20:20
ネストリア駐屯地近隣の公園
「ふぅ・・・。」
誰もいない夜の公園というものに昔から何故か憧れていた。
ん?夜の学校?士官候補生の時に散々やらされたよコンチキショウ!
それはともかく、23歳で初の夜の公園である。
「本当に誰もいないんだなぁ。」
「そう思えるのも今のうちですよ?」
「うぉっ!?」
いつの間にか隣にいたのは帝国が帝国を未だ名乗れる所以。第1皇女カルナ・エスグルタその人である。
「また脱走したんですか?」
「ええ。こっそりと。」
こっそりとしなかったら脱走ではないだろう。
「で、何をしに来たんですか?クリスマスイブはまだ先ですよ?」
「あ、えーと。その~・・・気まぐれ?」
「何で疑問形なんですか。」
「いえ、その・・・何となく・・・貴方に会いたいなぁと思いまして・・・。」
訳が分からない。まるで。
「恋人ですか?」
「い、いえっ!そういうわけでは!」
「だとは思いますけどね。さて、自分はそろそろ戻りますが、送りましょうか?」
「よ、宜しくお願いします・・・。」
赤い顔をしているが、大丈夫だろうか・・・?
「顔が赤いようですが、大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫ですから!い、行きましょう!」
公園を出て、暗い街を二人並んで歩く。終始無言になると思ったが、殿下が歩みを止め、沈黙を破った。
「殿下?」
「貴方達ばかり、戦って死んでいく。」
「・・・ええ。」
「守られているのに何も出来ないのは辛いです・・・。」
神妙な顔と声。今にも泣きそうである。励ましになるか分からないが、事実を言うことにした。
「・・・こんな状況下でも、皆が士気を失わないのは何故だと思いますか?」
「え?」
「最近は戦局が好転しているのもありますが、貴方がいるからです。我々が負けたら皇女殿下に申し訳がたたない。泣かせてしまったら末代までの恥だ。だから全力で戦うんです。無論、自分も。」
「・・・。」
「何も出来ていない訳ではありません。貴方が気付かない所で、貴方は強い力になっています。」
まぁ、これが海外周遊中の第1皇子なら話はだいぶ変わってくるのだが。
「そう・・・だったんですね・・・。」
そう言う殿下の瞳には、大粒の涙。
えっ、ちょっ。何で?
「な、何かしましたか?」
慌てて聞くと、そこにあったのは満面の笑みだった。
「いえ、私も無力ではなかったと思うと、つい・・・。」
「はぁ・・・。」
「帰りましょう。エスコート、お願いします。」
「もとより、そのつもりです。」
同時刻
「なんなの!?あのお熱い雰囲気はッ!?」
「バカッ!大声出すな!見つかるぞ!」
「成る程。お相手はレイ大佐中佐でありましたか。」
皇女殿下は気付いていないが、脱走は普通にバレている。第7近衛隊長リリア・サンソンとその部下2名は影から見ていた。ちなみにリリアがレイの階級を大佐中佐と呼んだのは、現階級と持っている権限は大佐でありながら、実質的には中佐レベルであること。そしてこの戦争が終わると同時に、中佐に戻ることになっているからである。
「クッ・・・私の殿下をォォォ・・・エーギシュガルト大佐が羨ましい妬ましい怨めしい・・・!」
背中から溢れるどす黒いオーラに、2人はたじろぐ。
「お、落ち着け~。」
「どうやら人選を誤ってしまったようでありますな・・・戻るでありますよ。」
「了解。行くぞマリー!」
「あっ、ちょっ。ひっ、引っ張るなぁぁぁぁ!」
小さな叫びは聞き入られることなく、3人は闇の中に消えていった。
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