第11話

同07:50

ルベル沖20km地点 帝国海軍連合艦隊旗艦 空母リーリクト(CV02)艦橋


 海軍の主力艦隊は上陸地点のルベルから20km離れた沖合いに展開していた。

「艦砲射撃、始め!」

 ネストリア級戦艦のネストリアとレイズ、そしてリガ級戦艦のリガ。計3隻の戦艦による艦砲射撃が開始された。

 さらに後方では駆逐艦によるトマホークミサイルの発射が始まる。

「弾着・・・今!」

 浜に大量の爆炎が立つ。それとほぼ同時にトマホークも着弾。被害を拡大していく。

「よし、砲撃続行。攻撃隊、発進始め。」

 攻撃隊の発艦を行うのはリーリクトではない。この艦の部隊は全て空軍の支援に当たっているからだ。

「インドミダブル、ミストル、アイリス、リリィ、リヴァイアサンの発艦開始を確認!」

「了解。火の海にしてやれ。」


同時刻

同地点 試験空母リヴァイアサン(ASE02)ブリーフィングルーム


「やっと俺の出番か?」

 試験飛行隊のパイロット、ジョニー・ウィクリフ中尉は嬉しそうにリヴァイアサン飛行隊長に聞いた。

「ああ。攻撃隊の直掩だ。敵機は確認されていないが、念のため。」

「了解!何だってやってやる!」

 これまでの殆どを試験飛行に費やしていた彼は出撃できると言うだけで歓喜した。

「ほら、今すぐ行け!ミサイルの類いはAIM-120とサイドワインダーだ!」

「了解!」

 艦内エレベーターで2階層分上がる。

 人が行き交う通路を抜けると飛行甲板に出る。彼はすぐ近くに駐機されている黒一色で塗られた前進翼の愛機に乗り込む。

「中尉!今日のベールクトは最高ですよ!エンジンも万全です!」

 選任整備士が騒音に負けないくらいの大声で叫ぶ。

「ありがとう!存分に使わせてもらうぜ!」

「御武運を!」

 スライド式のキャノピーが閉まると騒音がが減る。

 誘導員の誘導によって一基しかないカタパルトに前進。配置に着く。

「ベールクト、発艦準備完了!いつでもいけるぜ!」

『了解。暫し待て。』

 数分後、発艦指揮所から承諾が来る。

『発艦よし。』

「了解!ベールクト発艦!」

 手で合図を送り、カタパルトを動かしてもらう。試作の新型蒸気式カタパルトによって急激に加速。YF-47ベールクトは蒼空に駆け出す。

『こちらムーンベース。ベールクト、後から来る攻撃隊の直掩につけ。攻撃隊と合流するまでは艦隊上空で待機。滞空のAWACS(ハンマー)はエイブル3。』

「了解。」

 後ろを振り向けば、2隻の空母が風上に向かって全速力で走り3隻の強襲揚陸艦が艦尾のウェルドックからLCACが6隻発進している。

「ってオイオイ・・・ドーントレスも上げるのかよ。」

 ウルヴァリンの飛行甲板後部にSBD-3Aドーントレスが2機待機していた。試験機や試作機のテストデータ回収用に配備されている機体だった。

「おい、グリッター!お前爆装出来んのか!?」

 グリッターとはドーントレス隊1番機の前席パイロットだ。

『失敬な。回収装置自体、爆弾懸架装置に積んでるんです。照準器も前方機関銃も銃座も健在です。サルベージャー1、発艦!』

 合計1200ポンドの爆弾を抱いて快調に飛び上がるドーントレス。

「なぁ、ムーンベース。」

『何ですか?』

「攻撃機の陣容は?」

『えーっと・・・ハリアー36機、ボムキャット20機と本艦からのドーントレス2機です。』

「戦闘機は?」

『ファントム20機、本艦からフルマー1機です。』

「・・・。」

 戦闘機とは絶対に遭遇したくない。そう思うウィクリフだった。


同08:00

ルベル沖1km地点 高速揚陸艦ラベンダー(FL10) 後部甲板


 サクラメント級高速戦闘支援艦1番艦を改造した高速揚陸艦ラベンダーは後部スロープからLVTA-1とLVTA-4、そしてLVT-3を各2両ずつ海上に出す準備が進んでいた。

「俺らは海兵隊の中でも1番の鈍足だ!そしてそんな危ない棺桶に乗る変態共だ!」

 激を飛ばすのは、この部隊の隊長、ジェラルド・マックブライド中尉だ。

「だから、1番早く出て後ろのLCACと大体同じくらいに浜に揚がる!俺らの仕事は橋頭堡確保のM10に歩兵を近付けさせないことと、支援の歩兵を浜まで送り届けることだ!いくら強化されているとはいえ、紙装甲であることに変わりはない!無理はするな!わかったか!?」

「「「「「サー・イェッサー!」」」」」

「よし、乗車!」

 手に持っていたタンクヘルメットを被りながら全速力で愛車に駆け寄っていく。LVTに乗る兵士も後部ランプドアから中に入っていく。マックブライトも自身のLVTA-1の砲塔の車長席に入る。

「艦橋!いつでも行けるぞ!」

『了解。暫く待て。』

 すると、船体から伝わる振動が小さくなる。

『LVT、発進開始。』

「了解!行くぞ!」

 艦尾スロープから海に入る。

「右旋回!LCACも来る!急ぐぞ!」


同08:04

同地点 ラベンダー艦橋


「面舵90度!砲戦用意!」

「面舵90度!砲戦用意!」

 水陸両用戦闘車6両を下ろしたラベンダーは、浜と平行になるように舵を切り艦首の127mm単装砲Mk.42と艦尾の75mm単装砲Mk.1、左舷側のボフォース37mm対戦車砲m/34sが浜に向く。

「撃ち方始め!」

「うち~かた始め~!」

 その声と同時に火を吹く。

「リコリス来ました!」

 艦の50m後方に揚陸艦を大改造した特殊艦、近接揚陸支援艦リコリスがドラムセットを叩き続けるように砲弾を撒き散らしていた。


同時刻

同地点 近接揚陸支援艦リコリス(CLS01)艦橋


「アンドロマリウス全機発艦!Bパッケージだ!急げ!」

 艦橋前の81mm迫撃砲システムAMOSと左舷のボフォース40mm機関砲L/70。そして艦首部の20mmガトリンク砲M61を撃ちながら、元々露天だった船体中央部に設けられたエレベーターから無人多用途ヘリコプターQMH-1アンドロマリウスが上がってくる。本来は対潜哨戒が主任務だが、対地攻撃と早期警戒も出来るように必要な各装備がパッケージ化されている。今回は対地攻撃なので12.7mm機関銃ポッドとヘルファイア対戦車ミサイル4発を携行するBパッケージだ。

 ちなみに、対潜装備はAパッケージ、早期警戒装備はCパッケージで、Aを除く全てのパッケージがソナーや磁気探知機と干渉しないように工夫されている。

「艦長!例のアレ、上げますか?」

「・・・そうだな。バルバトスも上げろ!」

「はっ!」

 リコリス艦内の格納庫で一機の悪魔が目を覚まそうとしていた。


同08:06

同地点 リコリス艦内格納庫


「まさかコレを上げるとはなぁ。」

 悪魔のパイロットがしみじみ呟く。

「アンドロマリウスと違うところ、見せてあげましょ!」

「ああ!」

 ガンナーの明るい言葉に背中を押され無人機管制室に移動する。

 悪魔―――QXH-2バルバトスは固定武装を持つ多用途機として試作された無人ヘリだ。

 二人は管制室内の1番端にあるバルバトス用のコンソールに座る。電源の起動と同時にモニターがカメラの映像を映す。

「バルバトス、発艦準備よし。」

『了解。バルバトス、飛行甲板が片づいたらすぐエレベーターを上げる。上がりきったら早く発艦させたい。出来るか?』

「愚問です。それとお願いなのですが・・・。」

『なんだ?』

「携行装備を変更したいのですが、よろしいでしょうか?」

『・・・まぁ、いいだろう。で、何にしたいんだ?』

「スタブウィングの翼下外側ハードポイントのヘルファイアをサイドワインダーに。」

『何でまた?バルバトスの強みを捨てるような。』

「敵機が来ます。攻撃隊の直掩は少しでも多い方がいい。」

『了解した。今すぐ取り掛かろう。』

 整備員が台車をスタブウィングの下に持ってきて、ヘルファイア計8発を取り外した後、同数のサイドワインダーを取り付ける。

 飛行甲板で最後のアンドロマリウスが飛び立つと同時に取り付けが完了し、エレベーターが上昇を開始する。

「全システム、オールグリーン。」

『ローターブレード、甲板上に出ます。』

「ブレード展開。」

 後ろに折り畳まれたローターが展開する。

「エンジン起動。」

 ローターが回りだす。

「バルバトス、出撃準備よし。」

『了解。バルバトス、発進。』

「バルバトス発進!」

「さぁて、実戦テストといきましょう!」

「ああ。」

 狩人の名を冠する無人機が大空に飛び上がる。任務はサイドワインダーでの攻撃隊の直掩とあえて残したハイドラ70ロケット弾による対地攻撃だ。

 彼の予感は最悪な形で的中することになる。


同08:15

ルベル海岸上空 YF-47「ベールクト」


『こちら、エイブル3。敵機群(ボギー)探知だ。距離5500yard。数98。ジェット戦闘機が46機、残りはレシプロ機と攻撃機だな。』

「割りと近いな。現空域にいる全ての戦闘機!交戦用意!」

『レシプロ機は任せてください。ドーントレス2機とフルマーで掃討します。』

『おっと、バルバトスもお忘れなく。』

『ハリアー隊も参加します。』

「了解。ジェットはジェットの相手をしろ!アンドロマリウスは退避!残りはレシプロ機だ!」

『『『『『了解!』』』』』

 展開中の全機が戦闘の用意を始める。


同時刻

ルベル海岸上空より内陸側約55km地点 共和国海軍航空隊


「全機、増加タンク捨てろ!往くぞ!」

『『『『『了解!』』』』』

 迎撃にやって来た部隊はジェット機が


MiG-29K×18

MiG-19PT×10

F/A-1リパブリック×3

Tu-14TA×18(雷装10)

Yak-38B×8(全機爆装)


 レシプロ機が


Yak-1MA×2

Yak-7A×4

Yak-9Q×6

Il-2AS×14(全機爆装)


 の陣容だった。極端な旧式機もいるが、数が多い。

「俺ら戦闘機隊の仕事は攻撃機を守るために敵を引き付けることだ!わかったな!?」

『はっ!精一杯やらせていただきます!』

「その意気だ!さて、連中に意趣返しといこうじゃねぇか!突撃!攻撃隊は所定の高度まで退避だ!」

 この戦争で生起した2つの海戦の内1つで行われた、ジェット機による雷撃。それをやり返そうとしているのだ。

『俺、敵艦沈めたら彼女と結婚する!』

『敵艦沈められなかったらどうするんだよ?それより早くないか?戦争終わってからだろフツー。』

『なんだよ。じゃあお前は何するんだ?』

『・・・猫と戯れたい。』

『嘘だろお前!似合わねー!』

『うっさいうっさい!』

「なんか負けそうな気がするからそろそろ止めろお前ら・・・。」


同08:25

ルベル沖1km地点 リコリス無人機管制室 QXH-2バルバトス用コンソール


 既にサイドワインダーは撃ち尽くし、20mmガトリング砲M197による空戦に入った。機首固定モードのため、砲が狙っていない方向を向くことはない。

「ここっ!」

 攻撃ヘリよりも携行弾薬数が多いため、ある程度の無駄弾は許容範囲内だが、的確な射撃でYak-9を撃墜する。

「お見事!」

 上を向いた機首カメラの先に黒点が映る。

「不味いな。攻撃機群が突破した。艦隊に通達。敵機群向かう、警戒されたし。予想到達時間は4分後。」

『了解。』

 短い返答が旗艦のネストリアから返ってくる。

「大丈夫か・・・?」

「大丈夫よ。奴ら、対艦ミサイル持ってないみたいだし。爆撃なら戦艦(最強の対空艦)が防いでくれるわ。」

「そうだな。一度補給に戻ろう。」

「了解!」

 パイロットは一度愛機を着艦させるために戦線を離脱させる。

 艦隊へ迫る脅威は迎撃に会うことなく前進する。目標はネストリア級戦艦もしくは航空母艦リーリクトだった。


同08:27

ルベル沖20km地点 帝国海軍連合艦隊 戦艦ネストリア第1艦橋


「航空母艦群の退避を確認。」

「ネストリアより通達。レイズ、ルタ、プレヤデス、リゲルは本艦と共に艦隊左翼に単縦陣で進出。敵攻撃機群を迎撃する。なお艦隊からの防空は期待できず、SM-2及びESSMはネストリア、レイズ、ルタ共に積載していないため、砲と機銃による迎撃となるが、我々旧式艦の対空迎撃は70年近く前からそのような形だ。各員、一層奮励努力せよ。全艦、対空戦闘用意。」

「対空戦闘、用意!」

「使えるものは全部使え。手の空いている者は艦内武器庫のM74とMG3を使って迎撃せよ。」

「了解!」

「ダメコン要員は常に動けるように待機。対空監視を怠るな。」

「はっ!」

 第二次世界大戦の対空戦闘が再び始まろうとしていた。

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