第9話

同03:40

飛行場周辺の森林内


 この心配は杞憂で終わった。

 分遣隊は目についた敵を片っ端から主砲で吹き飛ばし、機関銃で薙ぎ払い、針の穴を通すような狙撃で射ぬいていった。

「よし!あと10基だ!」

『こちらPT!12時方向に敵戦車5両!』

「車種は?」

『T-55が2両とT-34/76が3両です!』

「了解!各車射撃開始!打ち砕け!」

『了解!』

 105mm砲が、75mm砲が、76.2mm砲が、76mm短砲身砲が、90mm砲が、スナイパーライフルが各々火を吹く。

 呆気を取られた戦車部隊は殲滅された。

『こちらスナイパー組。敵部隊の殲滅を確認。』

「了解!残りの対空火器とレーダーもぶっ壊すぞ!各車前進!」

 他の森林内にある対空火器・対空レーダーのオペレーターは敵襲の報を聞いて、ほぼ全員逃げていた。しかし、厳重に隠匿されたこれらを見つけ出すのに相当な時間が掛かった。


同04:45

簡易陣地


「分遣隊より通達。芝は刈り取られた。」

 一番の不安材料が消え、分遣隊にさらなる指示を出す。

「了解。そのまま敵守備隊を挟撃するように伝えてくれ!」

「了解しました。」

「工兵隊!地雷原をふっ飛ばせッ!」

『了解!ハデな花火打ち上げろ!』

 後ろから進出してきた3両のM7A1アーバレストは車体後部のコンテナの片端を持ち上げ、蓋を開く。

 持ち上がったコンテナから太いロケットが2発飛び出し、底部から繰り出される導爆索が地雷原に落ちる。

 ロケットが地面に落ちたところで起爆。ロケット1発34個、今回は全体で204個の高性能爆薬が爆ぜる。土煙を上げて各種地雷を処理する姿は圧巻だ。

『おぉ・・・これが最大量での起爆ですかい!』

 この地雷処理ロケットの導爆索に付ける爆薬は半分くらいの場合がほとんどで、演習でも最大量の34個で起爆するのは滅多に無い。

 ハッチを開き、赤色信号弾を込めた信号拳銃のみをつき出して上に打ち上げる。闇の中に煌々と輝きながら、放物線を描く赤い光。これで大丈夫・・・のはず。

「よし。エイブラムスとM7を先鋒として、各車突撃!挟み込め!」

『了解!エイブラムス、行きます!』

 彼らを先鋒に選んだのは訳があった。


同04:46

M1エイブラムス車内


「行くよ!全速前進!」

 ガスタービンエンジンが甲高い唸りを上げ、盛り土から出る。

「自由射撃!近いやつから撃ち抜いてやれ!」

「りょーかい。」

 ここでエイブラムスの改造内容を公開する。

 これまで主砲は105mm戦車砲M68だったが、大破したM10から取り払った120mm滑腔砲L44に変更。車体側面と砲塔側面に使わなくなった弾薬箱、大破車両・鹵獲車両の履帯と装甲を大量に張り付けた。

 エンジン出力は据え置きだが、ガスタービンの余りある高い出力のお陰で速力の低下はわずか2km/h。今、第3独立戦車大隊所属車両で一番の火力と一番の装甲、そして一番の機動性を持つ。一番槍にはもってこいだ。

 M7アーバレストは少なからずセンチュリオンMk.5 AVREの影響を受けている。車体はM6ガーディアンだ。砲塔に搭載された35口径155mm障害物破砕砲の砲弾はHESHと榴弾のみ。車体と砲塔に増加装甲と爆発反応装甲RA-1を取り付けてある。強固な陣地を撃ち破るために作られた車両だ。

 エンジンも750馬力の物に変更し、機動性の低下を防ぐ。そのお陰か、総重量65tという巨体ながら最大時速65kmという化け物が誕生した。

 が、時代が流れたせいか8両のみの製造で終わり、M7A1アーバレストに生産体制が変更した。

 しかしその火力・装甲・機動性に非の打ち所は無く、第一線を張れる戦闘車両だ。

「中尉!11時方向の陣地、お願いできますか?」

『任しとき!嬢ちゃん!』

「私はジェニファー・レイモンド少尉です!嬢ちゃんじゃありません!」

『へいへい嬢ちゃん。』

「だから嬢ちゃんじゃ無いですって!」

 その言葉が終わると同時に120mm砲が火を吹く。

「あの人に何言っても無駄だろ。」

 照準器を覗いたまま、砲手が言った。

「・・・アキオ・クルス曹長、なにか言いましたか?」

「イエナニモイッテマセン。」

「怪しいなぁ・・・。」

「On the way!」


同04:48

簡易陣地


「総員突撃!後に続け!全兵装使用自由(オールガンズフリー)!」

 エイブラムスとアーバレストに続いて全速で、全員で突っ込む。

「支援射撃を絶やすな!常に敵陣地に撃ち続けろ!」

『了解!』

「イリヤに繋いでくれ!」

「はい!」

 無線を繋ぐと目当ての人が出る。

『私だ。』

「第6は出ましたか!?」

『今そちらに向かっている。ちゃんと信号を確認したようだ。』

「了解!」

 通信を切り、ハッチを開けて上を見る。

 先ほどまで真っ暗だった空は白みだした。

 夜が、明ける。


同04:50

飛行場から約2km地点 第6戦闘攻撃中隊戦闘機隊


 3独戦が飛行場滑走路に垂直交差で向かっているのに対し、第6は滑走路に平行になるように向かっている。

 レイズ防衛戦の時とは陣容が変わった戦闘機隊は


Bf109G-6×3

Bf110G-1×2

Re.2002×1

MC205Vヴェルトロ×1

P-36Cホーク×1

A-1Dスカイレイダー×2

モスキートFB.MkⅥ×3

Ju87G-2「スツーカ」×2


 となり、戦闘機隊?何それ美味しいの?状態だ。またホークとスツーカ1機を除く全ての機体が爆装しているのもその状態を醸し出す要因の1つだった。

「まさか、109(こいつ)に爆弾積むことになるとはね・・・。」

 隊長のゴールドマンは少し不満げに呟く。彼は表には出さないが、

 なぜ戦闘機に攻撃機や爆撃機の真似事をさせなくてはいけないのか。

 と考えている。戦闘機への爆装は彼が嫌う物の一つだ。

「ま、上からの命令だし、仕方ないよな。」

『隊長。そろそろです。』

『こちら爆撃隊。投下ポイントまであと1分です。』

「ああ、了解した。お前ら!今回は周辺施設の破壊だ!滑走路の真上飛んでみろ!被撃墜の報告に爆撃により撃墜ってワケわかんないこと書いてやるからな!」

『本気で言ってます!?』

『それは勘弁してください!!』

「書かれたくなかったら本気で飛べ!分かったな?」

『イェッサー!』

「全機突撃!Go!Go!Go!」

 倉庫や格納庫に爆弾を命中させ、露天の駐機を機銃掃射で破壊していく。

『敵被害甚大!あとは滑走路だけです!』

「よし!爆撃開始だ!」

『了解です!』

「聞こえてたな!3独!砲撃叩き込め!」

『了解!砲撃開始します!退避を!』

「応!」

 銀翼達は右方向に旋回ぎみに高度を上げる。


同04:53

簡易陣地迫撃砲部隊


「全力効力射!撃ち方始め!」

「撃て!」

 通常の砲と比べたら軽い音が響く。

 81mmと120mmの砲弾は1分も経たず、滑走路に着弾する。

「・・・3、2、1、インパクト!」


同時刻

滑走路


「に、逃げろ~!!」

 500kg爆弾20個の空爆で局所的に大きなすり鉢状の穴が空いた滑走路に砲弾が降り注ぐ。

「クソッ!防衛部隊は何やってんだ!?」

「もうそんなのねぇよ!逃げグワッ!」

 さらに大小様々な穴が作られていく。

 滑走路として再び使えるようになるには相当な時間がかかりそうだった。


同05:00

飛行場 元指揮所前


 飛行場の指揮所だったところの前に戦車を止め、周囲を確認してから降りる。

「よっ・・・と。」

「お~い!」

 少し離れた所からルイスが駆け寄ってくる。

「あ、生きてたか。」

「何その言い方!?ヒドない!?」

「酷くない酷くない。精一杯の称賛ってことで一つ・・・。」

「無理だわ!」

「ルイス大佐?」

「く、クレアさん?」

 分遣隊副隊長のクレアが現れた。口元は微笑んでいるが、目が明らかに笑ってない。

「あなたまだ分遣隊隊長ですよ?仕事してください。」

「ハイ。」

 彼の戦車の停めてある方向に連行されていった。

「あはははは・・・はぁ。」

 これで帝都が近くなった。そう、2009年12月から一度も帰っていない自宅のある帝都だ。



オペレーション・グラッジバック報告書より抜粋


戦果


戦車41両撃破

装甲車5両撃破

航空機32機撃破

レーダーサイト全基破壊

対空砲全基破壊

RAMランチャー全基破壊

守備隊全滅(文字通り)


損害


なし


 我々は帝都奪還に大きく近づいた。

 帝都奪還作戦、オペレーション・ヴィクトリーアローの発動予定日は、戦力補充と各部への通達も考慮し、2010年11月6日とする。



2010年7月8日14:20

ネストリア駐屯地 司令室


 司令室にはイリヤと自分。EOPを除く全部隊の隊長と情報部長が召集された。

「スパイ狩りだ。」

「はぁ。」

 いきなり何を言い出すんだこいつ。

「石畳街道のアレは恐らくスパイが共和国軍にリークした。」

 石畳街道のアレとは石畳街道で第1独立戦車大隊などが大損害を被った惨劇の事だ。

「陸軍内の全ての部隊にいるスパイを狩り尽くす。これと同時に海軍、空軍でも洗い出しを行う。各自、担当する人員のリストを渡す。」

 回ってきたリストを見て顔をしかめる者や、ニヤニヤした顔をする者がいた。自分は、前者だった。

「これって・・・!」

 自分に回ってきた紙は一枚だった。そこには


第3独立戦車大隊所属

曹長

セレーナ・セレスティア


 と顔写真。簡単な経歴とスパイ容疑の理由が書かれていた。

「そこに書かれた者達をどうするか、各自の判断に任せる。殺すも良し、二重スパイとして生かすも良し、慰み物にするも良しだ。」

「・・・。」

 沈黙以外の回答が思い付かなかった。


同20:00

自室


 簡易ベッド、横長の4段の本棚一つ、机と椅子各一つ、クローゼット一つの比較的殺風景な部屋に男が二人と女が一人。自分、ルイスそしてクレアだ。

「嘘・・・だろ?」

「・・・。」

「なぁ・・・嘘って言えよオイ!」

「・・・正直に言って、彼女が入った時期からスパイ活動をしていたとすれば、あの惨劇にも説明がつく。」

「・・・クソッ!」

 足元にあったゴミ箱を蹴っ飛ばした。

 こら、ゴミ箱を蹴るな。

「容疑の有無はともかく、彼女の処遇をどうするかが当面の問題でしょう。」

「ああ。でも彼女はルイスの婚約者だ。自分が勝手にどうこうできる話じゃない。」

「・・・俺は、」

 ゆっくりと言葉を紡ぐルイス。

「正直、まだアイツがスパイなんて信じられないし、信じたくない。でも・・・。」

「・・・その気持ちは私も同じです。」

「どうすればいい・・・。俺は・・・。」

 こいつが使い物にならないのは久しぶりだ。

「じゃあ、お前はどうしたい?」

「は?何言って」

「お前はセレスを生かしたいか否かってことだ。3秒で答えろ。はいさ~ん、に~」

「生かしたいに決まってんだろ!」

 彼の叫びが響き渡る。

「・・・とのことです。どうしましょうか?」

「わ、私に聞かれても・・・そもそも私は入軍以来、ずっと戦車一筋でしたし・・・。」

「また・・・俺にやらせてくれないか?」

「任せるが、実行は自分がやらないとちょっと不味い。」

 こいつが私情で動かない保証が無い以上、実行は自分かクレアがやらないと何が起きるか分からない。

「ああ。分かってる。」

 会談の結果、実行は今夜の22:30になった。人員は自分、クレア、ルイスとカルパティア准尉。それにユリア曹長とクリス准尉が非常時に狙撃で射殺できるようにした。

 最後の戦い、その前哨戦が始まった。

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