第6話
5月27日10:20
ネストリア東部 ルタ駐屯地
イルスタからルタに本拠地を移した第三独立戦車中隊は、かの博物館から来た戦車たちをを迎え、AFVだけでも戦車14(重戦車1が5、主力戦車5が6に)、自走砲2(1両はBT-7AS)、装甲車4(3両はM113A3B)、対空車両6の大所帯になった。大隊規模の独立中隊って・・・なんか考えたら負けな気がする・・・。
「こいつぁスゲぇ・・・。」
ルイスはまるで今の心情を表現する言葉を持ち合わせていないようだ。
「ああ。まさに王者だ。」
重戦車5両の内の1両を見ながらそう言う。
その重戦車はⅥ号戦車B型、またの名をティーガーⅡと言う。
レプリカではなく本物、しかも主砲まで撃てるようになっているとは・・・驚きだ。
しかもやって来たティーガーⅡを除く4両の内訳は
FV4201 チーフテンMk8
M103A1
M1エイブラムス(無印のため105mm砲)
T-10M
という面子だった。そして駆逐戦車のヤークトティーガー(自走砲扱い)と装輪装甲車のBTR-60PB、対空自走砲のアンティL-62Ⅱが配属された。まるで、
「まるで戦線を突破しろって言われてるみたいだ。」
「そうだが?」
いつの間にかイリヤがいた。
「そうだが?って軽く言われてもなぁ?」
「やって貰わねば困る。次は敵の防衛線の突破だ。作戦は追って知らせる。」
「了解。」
「それとマーシャル少佐。」
「なんでしょう?少将殿。」
「貴様に客人が来ている。後で来るように。」
「は、はぁ・・・。」
「では、失礼する。」
ブーツを鳴らさずに帰っていった。どうやったらそんなことできるんだ・・・。
「・・・なぁ、レイ。」
「何だ?ルイス。」
「嫌な予感がする。お前も来てくれ。」
「自分もそう言おうと思ってた。」
たぶん、あれだ。ああいうやつだ。
ルイスについていく。
同10:30
ルタ駐屯地内応接室
(はーっ・・・やっぱりこうなったか・・・。)
頭を抱える自分の前では、ルイスと栗色の長い髪を持つ女性が言い合っていた。
「だーかーら!俺は軍を辞める気はこれっぽっちも無いってさっきから言ってるじゃねぇかこのわからず屋っ!」
「どっちがわからず屋よ!軍なんてさっさと辞めて私と結婚しやがれ!」
この人は、セレーナ・セレスティア。ルイスの婚約者だ。良い所のお嬢様・・・らしい。愛称はセレス。ついでに、かわいい。
「エーギシュガルトさんもなんかいったらどう!?」
「そうだそうだ言ってやれ!」
こっちに火の粉が飛んできた。
「・・・こいつにだけは辞めて欲しくないんだよなぁ・・・。」
「なっ・・・!」
「ふっ・・・こいつはこっち側の人間だからな!」
つい5分前まで落ち着いて話し合いが出来ていたのに・・・。
婚約者(セレス)の襲撃はこれまでにも幾度かあったが、色々理由をつけて帰って貰っていた。
「なら・・・私も従軍する!」
「はっ?」
「え?」
こいつ今なんつった?
「セレスさん、今なんて言った?」
「だ、か、ら!ルイスが辞められないなら!私が!軍に入るって言ってるの!」
「それはダメだ!」
ルイスが突っかかった。
「すまねぇレイ。二人だけで話がしたい。」
「大丈夫なのか?」
「何とかなるだろう。」
何とかなった試しが無い気がする。
ま、いいか。
「分かった。」
扉を開けて部屋の外に出る。
そこにはイリヤがいた。口に煙草をくわえている、
「どうだった?」
「いつもの繰り返しかと思ったら、彼女が従軍するとか言い出しました。」
「丁度良いじゃないか。装填手の欠けた戦車があるだろう?」
「まーそうなんですが・・・そこは閣下の采配に期待しています。」
「了解した。」
「てか、喫煙室か屋外で吸ってください。」
「断る。あの部屋は狭いし暗い。外はあからさまに嫌な顔をされる。」
じゃあ吸うなよ。
5月28日10:00
ルタ駐屯地 第3独立戦車中隊用倉庫
自分の戦車の前で搭乗員を集め、新人を紹介する。
「え~、彼女がこの前の戦闘で負傷したミリア・スタフォード曹長の換わりに装填手を務めるセレーナ・セレスティア曹長です。じゃあセレスティア曹長から一言」
「セレーナ・セレスティアです。これから宜しく・・・」
もうこのあたりから聴こえていない。
どうしてこうなった。
「・・・長?隊長?」
「あ?ああ。じゃあ案内よろしく。」
「了解。」
「お願いします!」
はぁー。なんでこうなった・・・。
「だいぶ削られたようだな。隊長。」
「うるさい。お前が軍辞めて結婚すればいい話じゃないか。」
「ま、こんな戦時じゃなかったらそうしてたさ。アイツのこと頼むぜ?隊長。」
こぶしをつき出してくる。
「期待に添えるかは分からんが、やれるだけやるさ。」
自分もこぶしを出し、突き合わせる。
すると、耳に響くサイレン。
「空襲!?」
「とりあえず避難だ!総員、避難開始!」
ダッシュで地下の防空壕に向かう。戦車は・・・放置!
「逃げる必要はないぞ。」
イリヤがいた。
「は?」
「でもここ、ホワイトウィザーズの行動圏外だしフリーハンズでも行動圏ギリギリですよね?他の隊も届かないし。」
「いや、2つだけある。」
「2つ?」
「1つは海軍の第2航空群。こっちはG.91R/1Sジーナ改7機とF3D-1スカイナイト11機、F/A-18Cホーネット20機が配備されている。」
最初の機体って本来なら空軍所管の機体なんですがそれは。
「もう1つは?」
「三軍合同の技術試験飛行隊だ。」
・・・
ネストリア北東部 海軍第3飛行場
第2航空隊の管制室に悲鳴に近い声が上がる。
「敵襲!高度8000、爆戦混合!爆撃機30、戦闘機35!!」
「了解。稼働機全機発進用意。ジーナにはHEVER、スカイナイトにはティニーを抱かせろ。ホーネットは緊急発進(スクランブル)。上がれる奴から上げろ。」
「了解!稼働機全機発進用意!ジーナはHEVER、スカイナイトはTT(ティニーティム)を装備!ホーネット全機緊急発進(スクランブル)!出撃可能な機体はランウェイ02及び21より出撃!」
・・・
レイズ南部 キリューイン基地
レイズの南にあるキリューイン基地。ここには技術試験や試作機の運用を行う統合技術研究部技術試験飛行隊が展開していた。
「シルフィードを上げるんですか!?」
司令室に開発主任の甲高い声が響く。
飛行隊長は頭を掻き、でもなぁと言って
「ここから完全装備でネストリア上空(あっち)に届く機体あるか?」
「ですがシルフィードは」
「俺は行きますよ。」
彼はシルフィードの前席パイロット。空軍の元パイロットで、ホワイトウィザーズのスカウトを蹴ってこちらに来ていた。
「あたしも出るよ。」
彼女はシルフィードの後席パイロット。海軍空母航空隊のF/A-18Dホーネットの後席手を務めていた。
「行けるか?」
「隊長!!」
「主任、良いテストになります。」
「それと確か試験中のミサイル、ありましたよね?それもついでにテストしちゃいましょうよ。」
「そうだな。」
「ちょっ・・・!」
「よ~し、シルフィード上げろ!スーパーフェニックス、積めるだけ積め!」
「ちょ、ちょっと!」
すると、彼女に一気に距離を詰めた人がいた。前席パイロットだった。
「主任、あなたはシルフィードの開発主任かもしれないが、少なくとも軍の人間じゃない。」
「ウグッ・・・分かったわ。私の負け。けど、壊したらただじゃおかないから。」
「分かってます。」
「ほら急げ急げ。」
「了解。行くぞリン。」
「はいは~い。」
・・・
第3飛行場から海軍第2航空群、キリューイン基地からYFR-1「シルフィード」が爆戦混合のコンバット・ボックスに向かう。
同10:05
ネストリア上空まで約15km 高度8500m 第2航空群ホーネット7番・8番機
一番最初に辿り着いたのは第2航空隊のF/A-18Cホーネット7番機と8番機だった。彼らは今日のスクランブル要員だった。
「敵を視認。Tu-4(ボア)が18、95(ベア)が12、27(フランカー)が20、25(フォックスバットF)が15だ。」
『了解。増援は既に出撃。合流まで待機だ。』
「了解。」
その3分後、後続のホーネット14機が上がってきた。
「第2航空群ホーネット隊、戦闘開始(エンゲージ)!」
第2航空群ホーネット1~14番機が護衛のSu-27とSEADのMig-25に襲いかかる。
・・・
共和国第10爆撃航空団第2空襲大隊
「各機間隔を取れ!第1大隊の二の舞になるな!」
『了解。』
編隊の中心部に陣取る隊長機から命令が飛ぶ。
『迎撃機、護衛と交戦開始!』
後部23mm機関砲手が報告する。
「総員、戦闘配置!第1部隊(Tu-4)は高度4000まで降下、第2部隊(Tu-95)は1万2000まで上昇!」
『了解!』
今回の本命はTu-95ではなくTu-4だった。しかし、高度を上げるにしろ下げるにしろ、待っているのは地獄である。
同10:07
ネストリア上空まで約30km 高度1万3000m
「あれか。」
爆撃編隊をAWACSの支援と「シルフィード」のレーダーが捉える。
『そろそろ撃てるんじゃない?』
前進翼カナード付きで水平尾翼の無い特徴的な機体の両翼下ハードポイントにはAIM-54フェニックスの独自改良型、AIM-54Dスーパーフェニックスが12発吊り下げられている。
「そうだな。レーダーに火を入れろ。」
『了解。』
射撃レーダーを起動。12個の目標をロックする。
「FOX1(フォックスワン)、Fire!」
抱えたミサイルを全て発射。最大射程150kmの超長距離空対空誘導弾は、全てが正常に作動。母機と(滞空していた)AWACSからのデータを元に敵の1kmまで接近する。着弾まで2分の辛抱だ。
・・・
大きく高度をとった不死鳥は、頭部に取りつけられたシーカーを起動する。そして各ミサイル毎に指定された目標か検知。急降下で襲いかかる。
同10:09
ネストリア上空まで約10km 高度1万2000m
ネストリアまであと10kmといったところで、第2部隊はミサイルを探知。フレアとチャフをばら蒔き、回避機動をするが弾体は逸れることなく突き刺さっていく。一番最後に攻撃を受け、運良く生き残った機体は反転。撤退していった。
その機の爆撃手の回顧録には
我々は攻撃を受けた。しかし、敵はレーダーで捉えていたAWACS以外いなかった。AWACSが武装したという話はなかったら、ステルス機からの攻撃を受けたと思った。蓋を開けてみれば試作機の放った試験中のミサイルということで驚いた。
とのことだ。
・・・
「Slypheed, mission complate. RTB」
『Roger. Slypheed, RTB。』
・・・
同10:07
ネストリア上空まで約30km 高度4000m
時を同じくして第1部隊も攻撃を受けていた。
「どっから湧きやがったこいつら!撃ち落とせ!」
機長の操舵輪を握る手は少し汗ばみ、力が入る。
後ろから轟音。各所に備え付けられた23mm機関砲が火を吹き始める。
右から大きな爆発音。
「2番機被弾!」
見るとエンジンと主翼から火を吹きつつ、ふらふらしながら飛び続ける2番機がいた。
・・・
「そのまま攻撃を続けろ。スカイナイト隊、本機に続け!必中距離でTTと20mm一斉射撃だ。」
『了解。』
・・・
下ではティニーティムロケット弾と20mm機関砲弾、HEVER 5inchロケット弾と12.7mm機関銃弾を、上ではAIM-54Dを浴びせかけられ、第10爆撃航空団第2空襲大隊は全滅という第1大隊と同じ結末を迎えた。全ての機体が撃墜された第1大隊と違って、護衛機3機と1機だけ還ってきたのは幸運だろう。
同10:20
ルタ駐屯地第二会議室
「さて、揃ったな。」
この部屋の中には自分とイリヤ、第1戦車大隊長、第1独立戦車大隊長、第2独立戦車大隊長など陸軍高官が勢揃いしていた。
「して何事かな?」
「敵の大部隊を発見した。」
「またか・・・。」
「次も、勝つぞ。」
戦闘開始の号砲が鳴り響くのは秒読みの段階に入っていた。
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