第4話

同09:05

レイズ南西端 防衛拠点正面(第3独立戦車中隊展開中)


『展開中の全部隊に通達。逆襲を開始せよ。』

 その通信はある意味勝利宣言だった。

「ハンマー031了解。各車煙幕展開、ディスチャージャー全弾投射!白燐弾撃て!」

「了解!」

 砲塔の両側面に取り付けられた投射器から放たれた6発の煙幕弾は茶黒い幕を作り白燐弾は敵の前方に白の幕を作る。風に揺れる2つの幕は段々と大きくなり、この陣地を敵から見えなくした。

「各車後退、掩体壕より出る!」

 2つの幕がここを隠しているうちに後進して車体を隠していた壕から出る。

「別動隊より通信!競りの結果はクロマグロ、です!」

「了解!各車突撃!対戦車砲と歩兵隊は射撃を続行!味方には当てるなよ?」

『了解。そんなことはしない。』

『了解した!こちらも最善の注意を払う!』

「頼んだぞ。」

 ギアチェンジと共に前進を始める。陣地の前に築かれた坂を駆け降り、主砲を放つ。車長展視孔より外を見ながら通信機に叫ぶ。

「中隊各車、全兵装使用自由(オールガンズフリー)!指向できる火力は全て使え!」

 主砲と同軸で装備された車載MG3も火を吹き出す。曳光徹甲弾(APT)が吐き出され、緑色のビームが作られていく。

 「別動隊より通信!我ら戦場に到着す、です!」

 左翼から突撃してくる戦車や装甲車、歩兵の群れが確認できた。

 今回の反撃作戦は、開始前にあらかじめ機動性に優れる別動隊を敵側面にバレないように配置することが勝利への糸口だった。別動隊にはこの中隊からM41A3Aサイレントシーカー、BT-7AS、PT-76Bが出向する形で参加し、他にM18ヘルキャット、M36B2ジャクソン、M10GMC。国産戦車のM6A1ガーディアンとM10ディフェンダー。偵察部隊用のM41A3Bサイレントアサシン。装甲車のM1117ASV、M11A1・A2・A3 MGS重装甲車。ルーフにM2重機関銃を取り付けたM12GPV。歩兵戦闘車のM113A3A・Bの帝国の所有するほぼ全てが導入されている。

「中隊各車!別動隊とは合流後、共同して右翼に逃走する部隊と右翼陣地攻略中の部隊を叩く!突撃を続行せよ!」

 主砲や同軸機関銃、車載機関銃を撃ちながら接近する友軍と合流し遁走する敵部隊を跡形も無く粉砕していく。

 敵の第二次攻勢は総崩れとなり、正面に展開していた部隊は壊滅。残存は防御陣地の右翼面に逃げていった。しかし、そこはこれを見越して一番強固に、かつ高火力になるように作られていた。

 右翼面陣地に展開していた部隊と正面・別動隊の合同部隊が共同して敵を食いちぎった結果、ものの数分で戦闘は終った。


・・・


オペレーションカウンターナックル報告書より抜粋


損害

死亡 30名

重軽傷 206名

M1117ASV装甲車2両故障(泥濘に嵌まり、走行系が破損)

M6A1ガーディアン戦車4両大破(乗員の損失なし)


戦果

敵侵攻部隊の(文字通りの)全滅。

一部兵器の鹵獲。


(中略)


 本作戦において、我が軍は主導権を握り続けた。

 特筆すべきは第3独立戦車中隊の活躍だろう。

 旧式の装備しか持たぬ彼らを正面に配置する事で敵の攻撃を引き付け、別動隊の移動及び突撃準備の時間を稼ぎつつ敵部隊の勢力を削った彼らの仕事ぶりと隊長レイ・エーギシュガルト中佐、及び総指揮のイリヤ・シュリビアール少将の臨機応変かつ的確な指揮は称賛に値する。

 また、作戦に積極的に協力していただいた空軍も無下にすることは出来ない。


課題

 本作戦における課題は装輪式、装軌式装甲車両の不足だ。他国から輸入するにも間に合わない可能性が高い。二戦級装備の国産パンターG型やM4A3E8、M3A1コンバットカーなどを前線に出す必要があると思われる。


・・・


5月14日11:00

レイズ中心部 とあるカフェ


 作戦終了後、1日半の休暇を言い渡された自分はルイスとともにレイズの中心部に来ていた。どちらかといえば、こっちから誘った形だが。

「次は何処で戦うんかね?」

 ブラックコーヒーを啜っていたルイスが聞いてきた。

「たぶん・・・ネストリアだと思う。」

 紅茶のカップを皿に置く。

 ネストリアはレイズと帝都を結ぶ線の中間に位置する帝国第3の工業都市で、今は共和国に占領されている。

「自分が叔母さんならそこを落とすし、敵ならそこを徹底して守る。でも、それを決めるのは少将や皇女殿下だ。」

「そうだな。」

「だが、あの都市を通常兵力で落とすのは難しい。陸戦兵力じゃ市内に入るまでに損害が出て困難になるし、誘導爆弾でのピンポイント爆撃は倒しきれない。絨毯爆撃か無差別砲撃でもすれば別だけど。」

「国民と工場地域への被害は甚大、か。」

「ああ。しかも第3独立戦車中隊(うち)は旧式ばかりだから対戦車ミサイルとか対戦車ロケットへの防御は不充分。」

「どうするんかねぇ・・・。」

 自分の予想は当たった。通常の戦車、歩兵、大砲のみで攻略するという点を除いて。


5月16日 09:30

レイズ北東端 イルスタ駐屯地


「マジ、ですか?」

「マジもマジ。大マジだ。」

 自分は耳を疑った。

 イリヤ(この人)は

ネストリア攻略に装甲列車と多砲塔戦車2両を使う

  とか言い出した。

 列車砲と言わないだけマシ・・・か?

「装甲列車なんて・・・。」

「調べてみたらこの都市からネストリアまで、鉄道があったようだ。使われてはいたが、別方向に鉄道が出来て、自動車による輸送がメインになったから廃線になり、線路の管理だけされていたらしい。」

「はぁ・・・。で、なんで多砲塔戦車なんですか?」

「率直に言って、数が足りないからだ。鹵獲したT-28Eを改造して前後合わせて4つある銃塔を取っ払い20mm単装機関砲塔2つにしたT-28Tを投入する。鉄道の搬出入口は厳重なシャッターが閉まっていて、そのシャッターを戦闘工兵の爆薬、もしくは戦車やMGSの砲で破壊、突入する。」

 成る程。これなら市街地には極力被害を出さず、工場地域を占領後、市街地も占領しようと思えばできる。

「また市街地防衛の敵戦力が減れば、真っ正面から兵力を突入させることもできる。貴様たちには工場地域の占領をやってもらう。今度は突入隊の隊長だ。」

 「それはいいんですけど、どうやって運ぶんですか?戦車を。」

 ティーガーは超重量級なので通常のトランスポーターでは運搬出来ない。鉄道輸送するにも輸送用の履帯に換えないといけない。それにM6ガーディアンは鉄道輸送が考慮されていない。

 「戦車の輸送に関しては問題ない。線路は複々線以上。装甲列車とは別に第3独立戦車中隊のと、T-28T、M26、M4A3E8、国産パンター各2両分、ディフェンダー、A1ガーディアン各4両分の輸送列車を編制する。それと一部の戦車用に通常の履帯のまま積載出来る輸送車を作る。」

 「はぁ・・・。」

 ディフェンダーの分まで用意するのか・・・そんな金、どっから出てるんだ?

「決行は一週間後、それまでに準備を進めておくように。」

「了解。失礼しました。」

 ドアを開け外に出る。

 まったくどうしろってんだ・・・うちの隊には訓練の命令は出してある。あとは地図を元にどう攻めるか、考えないとなぁ・・・。

「眉間にシワが寄ってるぞ~隊長。」

 ルイスがいた。

「あ、ああ、ルイスか。」

「どうした?」

「次の作戦目標が決まった。」

「何処?」

「予想通りネストリア。」

「で?」

「斯々然々で使いづらい戦力を渡された。」

「何?」

「多砲塔戦車と装甲列車。」

「・・・は?」

「うん。わかる。」

「1940年代かよ・・・。」

「うん。自分もそう思う。」

「お前も気に入られてるなぁ。」

「そう思いたくない・・・。」

 一週間までかぁ・・・どうやって崩そう・・・?

 先は思いやられそうだった。


5月19日 10:30

レイズ南部 ミヅク駐屯地


 レイズの南にあるミヅク駐屯地。ここには帝国陸軍内で唯一の鉄道工兵隊の活動拠点で、自分は装甲列車と輸送列車の出来映えを見に来た。

「これは・・・。」

 クオリティが高かった。主砲が背負い式で搭載されている。前方へ指向できる火力は多い方がいい。

「こいつの主砲はM18戦車駆逐車と同じ76.2mm対戦車砲。これをFCSで管制、制御します。」

「成る程。あのガトリング砲は?」

「ああ、あれはVADS(バッズ)です。」

「VADS(バッズ)?」

「はい。20mmガトリング砲M61バルカンの地上設置型で、対空防御と掃射が出来るようになっています。各個でレーダーを使って動きます。」

「ほう・・・。」

「機関車の前後の兵員車にはRWSのM2を、先頭と最後尾の警戒車には赤外線センサーとレーダー、遠隔操作型の35mm単装機関砲塔が各一基取り付けてあります。」

 「・・・。」

 なんだこの電子装備マシマシな装甲列車は。

「輸送列車の方は?」

「それも問題ありません。ただ・・・。」

「載せてみないと分からない、か。」

「はい・・・。」

うーん。

「わかった。明日試そう。」

「了解しました。」


5月20日10:30

レイズ南部 ミヅク駐屯地


「そのまま~!そのまま~!よし、OK!」

 ミヅクでは戦車の積載試験が行われていた。積み方は輸送貨車に付いている跳ね上げ式のスロープを使う。降ろすときは一部の連結器のみを爆砕する。

「なんとかなるもんだな。」

 ルイスが汗を拭いながらやって来た。彼には積載する時の監督を任せてある。

「ああ。これだけは試さないと分からないし。それで、所要時間は?」

「うーん・・・。」

 ルイスは眉間にシワを寄せる。

「眉間にシワが寄ってるぞ~。」

「うるせぇ!ま、悪くもないが良くもないってところか。載せるのは2分、降ろすのに1分半だな。」

「いいんじゃないか?」

「出来れば降ろすのは1分まで縮めたい。」

「分かった。しばらくこれの為にこっちに人も戦車も置いて行くから存分にやっていいぞ。」

「やった!おいお前ら~!気合い入れていけー!降ろしは1分だ!」

「ウゲェ・・・。」

「マジですか・・・。」

 (ルイスが)楽しそうで何より。

 猛特訓の甲斐があってか、載せるのに1分半、降ろすのに51秒まで短縮された。


5月23日09:00

レイズ南部 ミヅク駐屯地


 作戦を知らされてから一週間後。

「鉄道隊、出撃せよ!」

 鉄道隊は作戦参加部隊の内、一番早く移動を開始した。

 輸送列車は第3独立戦車中隊用が

ディーゼル機関車×2(先頭と最後尾)、小型モーターカー×10(貨車と貨車の間に1両ずつ、連結器爆砕後の間隔確保用)、輸送貨車×14

 他が

ディーゼル機関車×2、小型モーターカー×6両、輸送貨車×8(車両配置は第3独立戦車中隊用と同じ)

 装甲列車は先頭から

警戒車、砲車、対空車、兵員車、機関車、兵員車、対空車、砲車、警戒車

 で、100km先にあるネストリア工業地域を平均時速80kmで目指す。

 長い列車4編成が今は使われていない鉄路を平均時速80kmで爆走しているのだから、誰かが見たら何事かと思うだろう。

 ちなみに第3独立戦車中隊の砲兵隊は待機、歩兵隊は線路の脇に設けられた道路を少し遅れる形で疾走している・・・はずだ。


同10:00

ネストリア工業地域の20km手前(レイズ寄り) 歩兵隊との合流地点


 鉄道隊はここで装甲列車と戦車と歩兵の合同部隊に別れる。

 装甲列車は合同部隊が工場地帯に進入まで待機となる。

「装甲列車の方、お任せします。」

『了解!気ぃつけて行ってこい!』

 鉄道工兵隊隊長の威勢の良い声に後押しされる。

「ありがとうございます。各車前進!」

 そして歩兵隊+αと合流し、平均時速20kmでバレないようにネストリアを目指す。


同10:45

ネストリア工業地域より2km手前


 ネストリアの目と鼻の先まで来た。ここで先ほど回収した+αが起爆スイッチを押す。

 このαは帝国陸軍司令部直属の特殊作戦小隊『EOP』の第一小隊の2人で昨夜の内にシャッターに爆薬を仕掛けて来た。戦闘工兵が爆薬を設置するのは危険だと上申しまくった結果だった。

 遠雷の様な音と地響きが起こり、爆破に成功したことを告げる。

「各車全速前進!死告天使(バンシー)の来訪を知らせろ!」

 ディーゼルが唸りを上げて、回転数を上げる。

  第3独立戦車中隊、初の市街地戦の幕が上がった。

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