第3話

同06:15

レイズ南西端 防衛拠点正面(第3独立戦車中隊展開中)


 作戦開始の通信以降、しばらくは自分の戦車の通信機が音を受信することも発信することもなかった。

 中隊の他戦車や砲兵、歩兵に連絡することはおろか、本部テントに電波を飛ばすことすら許されない。その電波が傍受されていた場合、この軍全体を危機に晒す。

 搭乗員同士の間で使うのでは?と思うかもしれないが、騒音を出さないためにエンジンを止めている。なので車体の前にいる操縦士や通信士にも声が届く。

 この無線封鎖は敵を見つけた場合のみ解除される。

 入念に偽装の施された戦車のキューポラから頭だけ出し、陸軍第一工廠製の双眼鏡を覗き込む。

「来た来た。」

 敵の戦車が見えた。数は50両程。その後ろにトラック数両とAPC 60両も見えた。

 頭を車内に入れ、キューポラのハッチを閉める。

「いましたか?」

「いるいる。」

 装填手にそう答え、通信手に声を掛ける。

「ユーリ、本部に連絡。2500m前方に敵戦車、及び歩兵を発見。T-72(タンゴセブンツー)らしき戦車19両、T-64(タンゴシックスフォー)らしき戦車29両。T-44(タンゴダブルフォー)らしき戦車3両、T-34/85(タンゴスリーフォーエイトファイブ)らしき戦車2両。歩兵はAPCとトラックの数から概算3個大隊。戦闘を開始すると共に砲撃支援を要請する。だ。」

「了解。本部(ホーム)、こちらハンマー031(ゼロスリーワン)。展開地点前方2500mに敵戦車、及び歩兵を発見。T-72(タンゴセブンツー)らしき戦車19両、T-64(タンゴシックスフォー)らしき戦車29両、T-44(タンゴダブルフォー)らしき戦車3両、T-34/85(タンゴスリーフォーエイトファイブ)らしき戦車2両。歩兵はAPCとトラックの数から概算3個大隊。戦闘を開始すると共に砲撃支援を要請する。」

 通信機に繋いだヘッドフォンから返答が聞こえた。

『了解。砲撃支援は2分後に初弾を発射する。着弾観測にあたれ。貴隊の武運長久を心から祈る。』

「了解。中佐、お聞きの通りです。」

「よし、各車射撃用意!」

 実は防衛拠点入口に着いたとき、砲弾を一発だけ補給された。

 この砲弾をあらかじめ装填しておくことで一発多く撃てる、つまりは即応弾ということだ。

「照準は先頭のT-44だ。装甲を増設しているようだが、今のティーガー(これ)なら車体正面でも撃破できる。」

「了解。」

「中隊各車、射撃用意完了。」

「各車攻撃開始、撃て!」

 砲手がトリガーを引き絞り主砲の撃鉄を落とす。撃鉄は薬莢の底を叩き、砲口から砲弾を吐き出す。後退した後、装填手の手で開放された尾栓から余ったガスと薬莢を吐き出す。

 吐き出された砲弾から何かが分離する。

 これが2500m離れていても傾斜のある120mmの車体装甲を貫通するための秘策、装弾筒付き徹甲弾(APDS)だった。

 APDSは増加装甲付きT-44(便宜上T-44改と呼ぶ)の車体正面装甲を難なく叩き割り、撃破させた。

 別行動中の3両を除く中隊各車と臨時編入されたM26 RISE 2両、M60A1 RISE(TTS) 3両、BS-1対戦車砲4門も発砲を開始する。

 1両のウィルベルヴィンド、オトマティック、4両のM45インターセプトは水平射撃でトラックとAPCを跡形もなく粉砕していく。オトマティックは自慢の76mm速射砲を戦車に向けて撃っていた。

 撃破されたT-44改の後ろを移動していたT-34/85(便宜上T-34/85改と呼ぶ)の車体に砲弾が直撃し、砲塔が天高く飛び上がった。

 支援砲撃が始まる前にT-44改2両、T-34/85改2両、T-64 5両、全てのトラックとAPC 46両を撃破し、6両T-72の足を止めた。

『砲兵隊(アーチャー)よりハンマー031、初弾発射。あと20秒で弾着。』

 後方配置の砲兵隊から通信が来た。

「了解。戦闘を続行しつつ着弾観測を行う。」

『そうしてくれるとありがたい。』

 7、6、5、4

『3、2、1、インパクトッ!』

 敵中ど真ん中に大量の土煙が上がる。初弾とは思えない正確さだった。

「アーチャー、初弾命中。修正の必要はない!そのまま撃ち続けてくれ!」

『了解。これより効力射に切り替える。』

 そして、きっかり30秒後。1000発を超える榴弾が敵の頭上に降り注ぎ、土煙が晴れた頃には残存したと思われる2両のT-72が撤退していくところだった。

「敵部隊、撤退を開始。これより待機に入る。」

『了解。』

 ひとまずはなんとかなった。しかし敵が部隊を再編成し、また同じように攻めてきたら・・・次もどうにかなる可能性は低い。

 だが、ここから引く訳にはいかない。何故なら自分たちは帝国(この国)を守る守護神であり、帝国を勝利に導く戦女神であるのだから。


同06:30

レイズ南西端 防衛拠点本部


 本部テントは敵を退けたという勝利よりも敵が一時的でも下がったという安堵に包まれていた。

 しかしその安堵から現実に引き戻したのは陸軍部隊ではなく空軍所属のAWACSだった。

『こちらランターン01。そちらに敵航空機部隊が大量に向かっている。こちらの迎撃機は既に上がっているが間に合いそうにないし、数が少ない。』

「了解。こちらでも対処する。」

『ラジャー。』

「少将、どうなさいますか?」

「・・・アレを実戦投入する。」

「まさか・・・!」

「ああ、そのまさかだ。」

 帝国陸軍には基地防空を一手に担う兵器があった。それは

「スティンガーに連絡!目標、敵航空機部隊!」

「はい!」


同06:32

レイズ南西端 防衛拠点後方 対空陣地


 対空陣地の一角に陣取っていたのは6両の8輪トラックと3両のM12。

 しかし6両の内3両は荷台が何やら2行10列の20個の直方体を縦に並べた物を載せ、残りは船舶用の12フィートコンテナを載せているような外見をしており、M12は本来後部座席のある位置にレーダーと何かの照準装置らしきものが載っていた。

 これが帝国の基地防空の要となるべく開発されたM6自走VLS「アーセナルシップ」である。対空ミサイルへの電源供給は12フィートコンテナの様なバッテリーを搭載した電源車が、照準はM12を改造した索敵照準車となる。画像認識誘導型短距離地対空ミサイル「サジタリウス」は発射機1両あたり20発搭載されている。

 AWACSの指示の元、迎撃が行われる。目標は作戦本部を潰しに来た敵爆撃機編隊100機。

 そして射撃が始まり、全てのサジタリウスが投射された。

 発射された60発の内、正常に作動したのは54発で目標に辿り着いたのは50発だった。


同06:33

レイズ南西端 防衛拠点付近の上空8000m


 共和国の第10爆撃航空団第1空襲大隊は未曾有の危機に襲われていた。

 ほぼ真下から54発ものミサイルが襲い掛かってきたからだ。

 回避しようにも勢いがつきすぎていたし、とても密集していたので回避のしようが無かった。

 チャフやフレアを撒き散らしながら回避行動に移っていく。が、周囲の機体とぶつかって墜落する機体が多かった。

 100機あった大型爆撃機はミサイルと衝突による墜落で49機に減った。

 さらに追い討ちを掛けるが如く、迎撃のJAS39CFとDF、合計10機が上昇してきた。しかも運が悪いことにその戦闘機隊はホワイトウィザーズに次いで2番目に最強の第1航空戦闘師団第1迎撃中隊「フリーハンズ」であった。

 前方下から上昇したフリーハンズは手持ちのAIM-120全弾を放ち、誘導しながら突っ込んでいく。

 放たれた40発のAIM-120は16発が逸れ4発が同じ目標に向いた。

 ミサイルの直撃を受けた爆撃機編隊は28機に減った。

 ここで敵が大胆な回避を始めた。数が大きく減って機体同士の間隔が空いたからだろうか。

 しかしフリーハンズは手持ちのAIM-9X-2(サイドワインダー)2発を放ちそのまま上昇。20発の内2発はフレアによって逸らされたものの残りは全て一番強い赤外線を発している部分に突き刺さって信管を作動させるか、その近くまで行って近接信管を作動させた。

 10機にまで規模を減らした第10爆撃航空団第1空襲大隊は撤退するべく進路を反転した。しかしフリーハンズ全機が迫り来る。

  20秒後、27mm機関砲弾の洗礼を受けた第10爆撃航空団第1空襲大隊は文字通り全滅した。


同06:40

レイズ南西端 防衛拠点正面本部


『こちらランターン、全機の撃墜を確認。』

「こちらのミサイルはどれだけ当たった?」

『60発中50発ヒット。6発が動作不良、4発は外れた。』

「そうか、ありがとう。」

『構わない。航空支援要請はランターン01を呼んでくれればいつでも対応する。俺は通信拠点も兼ねているんでね。』

「了解した。」

 自走VLSにはまだまだ改良の余地がありそうだったが有用であることは確かだった。


同09:00

レイズ南西端 防衛拠点正面(第3独立戦車中隊展開中)


 再度の攻撃が始まったのは第一次攻勢終了の2時間半後だった。

 しかも第二次攻勢の最初には嬉しくないプレゼントが付いてきた。

「オトマティックより緊急通信!こちらの射程圏外から空対地攻撃機3機接近!恐らくガンシップ!」

 要請を出すところを聞いていたので大急ぎで通信を飛ばす。

「ランターン01、こちらハンマー031!敵のガンシップが来た!何とか迎撃出来ないか?」

『こちらランターン01、こちらでも確認した。空対地支援も必要か?』

「ああ頼む!早くしてくれ!」

 今度は250両の戦車と150両のAPC、そして1000人以上の歩兵でこちらにほぼ勝ち目は無い。

『了解した。そちらに第6戦闘攻撃中隊が向かっている。旧式のレシプロ機ばかりだが精鋭だ。』

「なんでも良いから早く寄越せ!」

 88mm砲がT-64の側面を貫通し、撃破する。

しかし、まだ数が多い。

「オトマティックより通信!後方より味方航空機接近!」

「第6戦闘攻撃中隊だな。」

『こちら第6戦闘攻撃中隊。ハンマー031、攻撃地点の指定はあるかい?』

「敵のいるところとガンシップを徹底的に叩いてくれ!」

『了解!』

 すると上空からエンジン音。サイレンの様な音も聞こえる。


・・・


『全機突撃!戦闘隊はガンシップ迎撃、残りは対地攻撃開始!』

『イェッサー!』(×9)

 古い翼は最後(?)の煌めきを放とうとしていた。

 ガンシップ3機にはBf109G-6 2機と爆装していないモスキートFB.MkⅥ 2機の戦闘隊が、地上部隊には残りの全機が突撃していく。

 戦闘隊はガンシップ前方の上空から畳み掛けるように降下。ガンシップ一機に対し、一機で挑む。

 機首にあるコックピットを撃ち抜き、そのまま降下。綺麗にインメルマンターンを決め、後ろにつき片翼のエンジン2基を破壊され全ての機体が撃墜された。

 地上部隊に向かったのはA-1Dスカイレイダー 2機、モスキートFB.MkⅥ 2機、Ju87G-3「スツーカ」 2機、そしてハリケーンMk.Ⅳd 2機でスツーカを除く全機が爆装し、スカイレイダーはナパーム弾を懸吊している。

 敵部隊は航空機に対処するための対空火器を持たなかったので一方的に叩かれることになった。

 爆撃を受けた後、車両は上から40mmと37mmの徹甲弾で撃ち抜かれ、歩兵は20mmや7.7mmの鉛弾で倒れていき、ある程度削ったところで低空から侵入したスカイレイダーが止めと言わんばかりにナパーム弾を投下。大きな炎が上がる。

 この航空攻撃と第3独立戦車中隊の砲撃でで戦車50両、APC60両が撃破され、歩兵約100人以上が死傷した。


・・・


「ランターン01、今の攻撃は見事だったと伝えてくれ。」

『了解した。』


同09:05

レイズ南西端 防衛拠点本部


 正面の攻勢はなんとか切り抜け、両翼面も守り抜いている。そして正面は崩れかかっている。

「頃合いだな。全部隊に通達。逆襲を開始せよ。」

 反撃の狼煙が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る