第2話 失敗
三木百合の今朝は、目覚ましが鳴らなくて、起きたら遅刻ギリギリの時間で、化粧もろくに出来ず髪もハネたままだった。
通勤電車も満員で、揉みくちゃの上
吊革を掴んでた見知らぬ叔父さんの肘…
頭の上に乗せられた。
会社につけば、朝礼中にトイレに行きたくなるし。朝礼長いし。挙げ句、ラジオ体操させられて、漏れそうになるし。
朝から、そう、今日はついてない。
いつもなら、お昼がすぎ、夕方からの会議の資料をホッチキスで順番で止めたりと、のんびりしている頃のはずが、急遽、社長に呼び出された。
「三木さん、今から技術部の町田製作所に行ってきてくれ。どうも、トラブル発生のようだ。」
「かしこまりました。トラブル?て何かあったんですか?」
「詳しくは、着いてから調査して欲しいんだか
どうも経理がおかしいようだ。単なる、金額打ち込みミスなのか…」
と、社長はため息をつき顔を曇らせた。
「とりあえず、今から町田さんとこの経理資料をチェックしてきてくれ、話はつけてある、この事は他言無用で」
「かしこまりました」
それって、横領ですか?と聞きたいが言葉を飲み込んだ。それが事実だとしたら、大変な事になるからだ。
町田製作所は
うちの会社の技術部であり、社長の叔父の町田さんが手掛けている部署にあたる。
迂闊なことは言えないなと。
慌てて準備をし、社用車に乗り込んだ。
車を走らせる事10分到着。
インターホンを押し暫く応答を待つ。
中から、ぶっきらぼう目に
「どちら?」
「あの、本社の三木と申します。社長からの…」
言い終わらないうちに、ドアがひらく。
「はいはい!聞いてますよ。入って!」と
おばさまが出てきた。
「すみません。失礼します」
中に入ると、作業中の人が10人ほど。機械音のなる作業所を通過し、邪魔にならないように事務所に入った。
部屋の中には、人の良さそうなおじさんが一人と事務担当の奥様だった。
この人が横領?と疑問に重いながらも
「あの、すみません、社長からお聞きした件で、内容は此方で聞くようにと言われたんですが」
「すみませんねーお忙しいのに。実はこれ、見て欲しいんですが」
と
指を指した先には一台のパソコンが置かれていたのだった。
「パソコンですか?ちょっと失礼します」
画面に目をやったところ、ちょうど経理の打ち込みをしていたようだ。
「これが頂いた金額なんですが。収益と合わなくて」
と、打ち込みされている表に目を向けた。
「え?これって…この表はどなたが作られたのですか?」
「あ、それは、私が」
と、奥様が答える。
「単純にたし引きしてる表に思うのですが。…計算間違ている箇所ありますね。」
「あら、やだ。電卓叩き間違えたのかしら」
「…え?、これって自動計算じゃなくて」
と言った瞬間、
それまで、大人しく黙っていた旦那さんが
いきなり、
「さっきから
目上の人に対して、え?っとは何事だ!
ばかにしてるのか!もういい帰れ!」
と顔を赤らめて怒鳴りだした。
「馬鹿にはしてませんが、表の作り方が、そもそも間違えてますので、後日データ送らせてもらいます。資料拝借いたしますね」
と、
きっ、と睨みながら事務をあとにした。
もーなんなんーさいてー
勝手やわー。
と
ムカムカしながら車を運転し、社長に文句を言うつもりで、いきよいよくハンドルをきった。それがまずったのか、交差点で、ひょいっと出てきた自転車に、ぶつかりかける。
慌てて、急ブレーキを踏み、回避。
ぶつかりはしなかったが、
変にかわそうとした自転車が、乗っている人ごと、道路脇の
田んぼに突っ込む姿が、見えたのだった。
「あーあーなんなんー今日ー」
と、つい叫びながら、
慌てて、車から降りた。
「大丈夫ですかー!?」
大声で、呼びかけた。
田んぼの中で、もぞもぞと動く人影を見つけ、近寄る。
「大丈夫です。すみません」
と、顔をあげたのは小学生くらいの目のぱっちりした色の白い
ベリーショートの似合う美少女だった。
少し、見とれながら、はっと我に帰り
「怪我ないですか?」
「怪我は田んぼがあったから大丈夫。だけど、服と靴がぐしゃぐしゃですね。」
と少女が笑いながら、困ったと答える。
「よかったら、うちまでおくりましょうか?」
「今、自転車で日本横断中だから嫌。それより、自転車も修理したいし、少し足もひねったみたいだから、暫くおねーさんちにホームステイさせて」
と屈託もなく笑う。
「いや、あのそれは困…。」
断ろうかとした瞬間。
「交通事故って車が悪いんですよねー
あーいたあー!
今から、警察行きますかー?」
…と意地悪く笑う。
「…分かりました。なおるまでです…」
「やったー、らっきー寝床ゲット!」
捻挫してるはずなのに、少女は
すたすたとたちあがり、自転車も後部座席に
軽々とかついでしまう姿に、違和感を覚える。
「さ、おねーさん出発しましょう」
と掛け声と共に車を走らせ、呆然状態の私の、一人暮らしのマンションに到着。
少女は部屋に入り、泥だらけなので
シャワー借りるねーと風呂場に向かう。さっきの違和感を思い出す。
あの子、顔の割には筋肉質だったな。
え…?っと
まさかね…
そこで浴室から下半身にタオルを巻き付けながら出てくる人影が…
「おねーさん。俺、男だから流石にワンピースの着替えはないわーふつーの貸して」
そう
彼女が拾ったのは、
美少女ではなく、美少年だったのである。
EDR 守りたいもの @yuyuto
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