EDR 守りたいもの
@yuyuto
第1話 プロローグ
カタカタカタ
パソコンのキーボードを叩く音が、薄暗い室内に響く。
「…よし。これで完成…」
最後のキーを押し、一息つく男性。
彼の名は、大翔と書いて、そら。有名では無い大学を卒業し、小さい会社ながらも、営業職に勤めだしてから3年。
ようやく仕事にも慣れ、今回初めてチームリーダーを担当する事になった。
仕事で使う書類を作成してた訳だが…元々、パソコンは苦手。
簡単な資料作りも一筋縄では行かず、パソコン業務ありと聞いてヤバイと思ったが、
入社した会社の社員数33名、うち80代3名
70代10名、60代10名、それ以下の年齢が10名(俺も含め)と、パンチの効いた年齢層の高さだった。
俺よりパソコンが扱えない竹槍精神の会社だったので、パソコンを扱える人間が、(経理おばちゃん1人含め)わずか5名。
この中に俺も入った。
家族経営の会社で、俺が入社する5年前に社長が突然の引退。社長の息子が会社を継ぐ事で収まったのだが、ここからが大変。
当時、新社長は28才と若く理想があったそうで、
アナログのどんぶり勘定を廃止して、パソコンを導入。オンライン化を図るとかで、使える人も居ないのにパソコン導入。お陰でこの10年社員の募集をしなかったシニアな企業に新人が入社したのが俺だった訳だが…。
カチャ
扉が開く音がしたので、大翔はチラッと目線を向けた。
「失礼します。お疲れ様です。」
と入って来たのは、同期の柳瀬裕人。この三年間で唯一残った同期だった。
「お疲れー新人採れたか?」
「まったく。」とため息をつきながら、
「大翔、それが聞いてくれ。最悪だった!
合同説明会に来たの何人だと思う。1人だよ!しかも、道に迷ったおばあちゃん!「私でも働けるかしらー」と、言って世間話。二時間絡まれたし」
「…、ひ、悲惨だな人事課も」
笑いそうになるのを堪え、机の上のコーヒーに手をかける。
「柳瀬、そう言えばこないだ頼まれた書類、そこ置いといたぞ」
「サンキュー」
柳瀬が自分のデスクに戻り、書類に目を向ける。ペラペラと紙をめくる音だけが室内に響く。柳瀬が小さい声で「完璧」。と呟きファイルへ綴じながら、
「そういや、今日、社長が支店回りするって言ってたけど誰かついていったんかな?」
と、少しそわそわしながら、スケジュールに目を向ける。柳瀬は人事課のわりに感情が直ぐ顔に出る性格で、今も明らかにもう一人の
同期の三木百合を気にしてるだけのようだ。
「社長は藤木専務と、出掛けたよ。三木は町田さんのとこ」
「町田っ…、大丈夫か?」と
少し驚いた様子で答える。
「大丈夫だろ、厳しい人だけど、無茶苦茶な事はしない人だから
今日は帰れないだろうけど」
そう、町田さんと言えば、昔ながらの職人で妥協を許さないが義理人情に厚い人だ。
「多分、今頃かみさんの手料理でも食べてる頃だろ」
と時計を見ると、夜九時になってた。
「今日はもう帰るか。柳瀬飯行くかー」
「賛成。三分で片付ける」
あわただしく片付け準備をし会社を後にした。
その頃、三木百合が大ピンチを迎えている事も知らず。
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