21.雪辱を果たせ五十嵐戦(本隊出動②編)



 一台を撒き、来た道を戻って小道を出たおかげで、もう一台とは遭遇せずに済んだ俺達は急いで東から北エリアに向かう。北は東エリアと違って無駄に倉庫数が多い。もしも人質が軟禁されているとしたら、ここら一帯が可能性的に高いだろうな。

 ココロはもう救出されたかな。あー駄目だ駄目だ、彼女のことを考えるとヘタレ田山が出てくる。心配故にポカを犯しそうで怖い! 自分の仕事に集中しないと。

 彼女なら、ココロなら大丈夫。仲間達がきっと助けてくれている筈だ。信じることも大事な勇気だぞ俺。日賀野だって帆奈美さん取られても、平然を装っているじゃないか。きっと内心は大荒れなんだろうけどさ。


 それでも表に出さない日賀野って凄いと思うよ。

 似た立場にいる俺からしてみれば、日賀野は強い。喧嘩とは別の強さを持っている。羨望を抱くくらい日賀野は芯が強いよな。俺も一抹くらいその強さが欲しいなぁ。性悪な性格は一抹もいらねぇけど。


 なるべく倉庫影に身を隠すようにチャリをかっ飛ばしていると、日賀野の携帯が鳴る。

 「俺だ」手早く携帯を取り出して電話に出る日賀野、お相手は魚住らしい。アキラという固有名詞が口から飛び出していた。淡々と会話を交わした後、「了解」日賀野はシニカルに笑って電話を切った。

 こういう時、日賀野がお仲間でホント良かったと思う。敵だったらこの皮肉った笑みを目の当たりにした瞬間、内心絶叫の嵐だぜ俺。



「東エリアで荒川達がドンチャンしているらしい。ということは五十嵐は東エリアにいる。これである程度把握ができた。南と西は見張りの戦力しか置いてねぇ。此処、北エリアは、見る限り両協定チームがドンチャンしてやがる。協定チームたちの戦場っつっても過言じゃねえ。

 東に五十嵐がいるせいで偏った戦力が東に集中してやがる。荒川達がドンチャンしてくれているからだろうな。

 同時並行で五十嵐は必要以上に、俺達の動きを懸念してやがる。よっぽど『漁夫の利』作戦に苦い思いを噛み締めたんだろうな。満遍なく戦力を配置すりゃいいものを、自分の居るところに戦力を固めてやがる。それが揚げ足取られたりするんだがな。協定チームを連れて行く。偏った力は隙だらけだ」


「え、でも。まだ協定チームは向こうでドンパチしていますけど」


 ブレーキを掛けた俺は、倉庫影に身を隠しながら向こうを指差す。

 バイクのライト達が辺りを照らしている暗闇の向こうでは、まだ協定チームと敵の協定チームがドンパチドンパチ。敵の方が数的に多そうなんだけど。俺の素朴な疑問に、「安心しろ」数はともかく実力ではこっちが上回っている。

 それにこっちが手を加えれば、随分向こうの手も空くだろう。と、言うや否や日賀野はブレザーから連なった赤い筒の束を取り出す。


 え、ナニソレ? なんか見るからに物騒なもの、っぽいような。


「玉城兄弟お気に入りの代物だ。プレインボーイも投げてみるか? 爆竹」


「ば……ばくちっ?! だ、だけどそれっ、投げたりしたら味方もっ」


「聴覚を攻めて怯ませるだけだ。それに向こうでドンパチしているのは俺達の協定チーム。爆竹はお手の物だって知っている」


 爆竹使用=日賀野チームという図式ができるらしい。

 もしかしたら浅倉さん達のチームがいるかもしれないのに、日賀野は周りの状況を見て爆竹を使用すると楽しそうに舌なめずり。爆竹の音でビビったところを協定達が伸してくれるだろうと得意げに語る。

 おいおい……本当に大丈夫かよ。その物騒な作戦。


 訝しげな眼を向ける俺に、「いいから行くぞ」当然のように命令してくる。成功するに決まっているだろ、と補足して。

 その自信はどこから来るんだか。責任はぜーんぶ目前のキャツに押し付けることにして、日賀野兄貴の“足”としてせいぜい頑張らせて頂きます。

 ということで物騒な爆竹を片手に持っている不良と一緒に、乱闘を繰り広げている不良さん達のところへレッツゴー。マジで怖い乱闘を繰り広げている不良達に向かって、日賀野は指笛を吹く。すると数人はこっちを見てきた。日賀野はもう一度指笛、次の瞬間持っていた爆竹に火を点してブンッと乱闘中心部に投げ放る。


 パン―! パン―! パン―! パパン―!  


 火薬が弾けて銃声のような音が辺りに散らばる。

 よって不良達が挙動不審になり、何事だと周囲を見渡してきた。一方爆竹の使用犯を知っている不良達は、そんな彼等に対して一気に攻め込む。なんだか狡い手極まりないけど、これも日賀野の戦略だよな。あんまり俺達のチームでやらない戦法だから、不慣れな光景だけどこれが相手の戦略。すんなり受け入れられた。 

 不意打ちにより数がグッと減る敵、それを見た日賀野は「何人かこっちに回れ!」協定チーム達に指示。主に日賀野達チームの協定だから、日賀野の指示を聞くや否や「半分向こうに回れ!」誰かが声音を張っていた。



 こうして俺達はその場でドンパチしていた協定チームの半分を引き連れて東エリアに向かうことに。

 皆、移動手段はバイクだからチャリは遅れをとりがちだけど、日賀野はしきりに協定チームや魚住と連絡を取り合って挟み撃ちにするための集合場所を定めている。

 だから指揮官が少しくらい遅れて現れても大丈夫だろう。俺は自分の出せる最速スピードで指揮官を乗せたまま、コンテナとコンテナの間にできた小道を走って東に向かう。



「っとっ、うわっつ?!」


「っ、プレインボーイ! 急にブレーキ掛けるんじゃねえ!」



 頭上から怒気を含む声が降ってくるけど、しょーがないじゃないか!

 いきなり目の前にチャリらしきものが飛び出してきたんだから! こんな小道にチャリが飛び出してくるなんて思わないだろ! ……ん、チャリ?


 俺は目の前のチャリをマジマジと見つめる。

 半月に照らされている目前のチャリには健太とモトの姿。向こうも俺達がイキナリ飛び出したことに驚き、ブレーキを掛けたらしい。血相を変えて「誰だよ」と健太が悪態を付いている。対照的にモトが俺と日賀野を指差して「なんだ二人じゃん」何をしているのだとキョトン顔で質問を飛ばしてきた。

 何しているも何も、こっちは東エリアに向かっているんだって。挟み撃ち作戦を決行しようとしているんだよ。


 率直に返答した後、俺は二人に何しているんだと質問。

 二人は救出隊だった筈。仲間のイカバや響子さん、弥生は? 俺の矢継ぎ早の質問に健太は淡々と答える。


「救出隊のバイク組は今、追っ手を撒いているところ。 人質の居場所が分かったから、おれと嘉藤は先に倉庫に向かっているんだ。おれはピッキングしないといけないし、でも一人じゃ危ないから嘉藤がついて来てくれている」


 曰く、倉庫に手当たり次第侵入して人質を探していたら、シメあげた敵のひとりが人質の場所を白状したとか。

 なんと人質二人はばらばらに拘束されているらしい。


「ヤマトさん、帆奈美さんは五十嵐の下です」


 顔を顰める健太の言葉に、目を眇める日賀野はそうかと一言。

 ということは二人が助けに行くのはココロ……馬鹿、俺には俺の仕事があるだろ。ナニ、身勝手な事を思っているんだ。軽くかぶりを振って俺は二人にココロのことをよろしく頼むと口を開く。

 でも、その前にモトが真顔で俺と日賀野に言った。


「ヤマトさん。これからはオレがケイの代わりにチャリ運転します。もう作戦目前ですし、土地勘も必要ないでしょ? 必要なのは喧嘩の手腕。オレ、ケイよりかは喧嘩できる自信ありますから! それに倉庫の場所はオレ達より地形を叩き込んだケイの方があると思うんで時間のロスも最小限に抑えられます」


 え。モト……それってもしかして。


「アンタは山田と行けよ。終わったらこっちに来ればいいじゃん。アンタが来ても足手纏い極まりないだろうけどな」


 フンッと鼻を鳴らすモトの、不器用な優しさに俺は瞠目するしかない。

 間を置かず日賀野は仕方が無さそうにチャリから降り、健太に降りるよう、次いでモトに運転するよう命令。


「終わったらこっちだ。田山」


 助けたからと安心するな、あくまで勝利が目的。足手纏いでも戦力は多い方がいい。

 ココロを救出したら、男手はこっちに回すよう命じ日賀野は運転側に回ったモトの肩を掴んだ。唖然とする俺は去って行くチャリを呆けた顔で見送っていたのだけれど、ポンッと肩に手を置いてくる健太の一言で我に返った。


「な? ヤマトさんは優しいだろ? 彼女を人質に取られているお前の気持ちは、誰よりも……あの人がよく分かってくれているんだよ」


 綻んで目尻を下げてくる健太は、急ごうと俺に促して後ろに乗ってくる。

 ジワリジワリ皆の優しさが伝わってきた。俺は頬を崩して、「ホント優しいな」フルボッコというカタチで出逢わなかったら、案外日賀野とは気が合っていたかもな。うん、結構ヨウと似た部分があるんだ。別の形で出逢っていたら、きっと気が合っていたんじゃないかな、俺達。


 俺は日賀野やモト、健太の優しさに感謝しつつペダルを踏んで大きくチャリを旋回させた。



 こんな状況でも、皆の優しさにちょっぴし感涙する俺がいた。


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