18.プライドを懸けてもう一度




 ◇



 須垣先輩の提供した情報の真偽はともかく、仕入れた収穫を持って俺達は急いで二チームが集う神社裏に戻った。

 仲間内に収穫した情報を伝達し、まず信じるか信じないかで審議。時間が無い上に須垣先輩の性格と義兄に対する心情を考えて前者を選択した。

 既に時刻は五時半前。あと一時間ちょいで残り24時間になってしまう。どうせ奴の場所は特定できているんだ。嘘だとしてもキャツの拠点に乗り込むことには違いない。時間の猶予もないし、俺達は須垣先輩の情報を信じることにした。根っから信じられるかと言われたら顔を顰めてしまうけれど。


 次に情報を元にどう動くかを話し合った。

 しかし両リーダーは既に己の中で結果が出ていたのか、俺達にこう告げてきた。

 6時から移動を開始、残りタイム24時になった時点で五十嵐のいる“港倉庫街”に乗り込む、と。

 30分は休息と話し合いの時間に設けて、6時になったら一斉に移動する流れで行きたいと両チームは口を揃えた。

 早く人質を助けてやりたいのもあるし、丁度7時で残り24時。更なる奇襲を掛けられてヤラれるよりも、こっちから仕掛けた方がマシだというのが両リーダーの意見だった。インテリ不良のハジメやアズミも意見に賛同。よって俺達も同意した。


 それから少しでも情報を手に入れるために、俺達は須垣先輩に教えてもらったツイッターで五十嵐のことも検索。

 アズミがツイッターをしているらしく、ツイッターのことに関しちゃ彼女に任せた。携帯でも見られるみたいで、ちょっと覗き見をさせてもらった。ふーん、ツイッターのサイトを初めて見たけど、テレビで言っているようにみんな思い思いのことを一言で呟いている。それこそ挨拶から愚痴、自分の内に秘めた感情まで様々だ。

 さて五十嵐いがらし(@×g●×g●)の名前を探す。何件かヒットするもすぐにキャツを見つけた。いやさ、プロフィールのところを読んで一発でこいつだって分かったよ。


【いがらし(@×g●×g●)プロフィール

取り敢えず、毎日を平々凡々に生きてる男。刺激を求める夢追い人。刺激ある喧嘩を求め㊥ 最近、とある不良どもを喧嘩の舞台に誘って遊んでるw


 こいつで決定だろーよ。

 特に後半の紹介文。モロ俺等のことだろ? 喧嘩の舞台に誘って遊んでる……とか、土曜に起こした決戦のことだろ?



>>×g●×g● いがらし

馬鹿な不良どもは今頃、人質を血眼に探してるんだろうなw

バカスでもヒントの答えくらいは導けた筈www

(3時間前)



 呟き(ツイートと言うらしい)を見てたらこれまた……なあ?

 五十嵐はツイッター中毒者だと須垣先輩は言っていたけど、本当にそうみたいだ。

 ツイッターにアップされているツイートの時間帯を見たら、小まめ小まめにアップをされている。大した呟きじゃない。自分の今の心情や行動、見た物の感想を簡単な文にしてアップしている。最後のツイートが『準備を整えるために⑥時まで仮眠なうw』だ。

 準備。ということは須垣先輩が言っていたように、午後七時ジャストから奇襲という名の総攻撃をするつもりなのか。


 こうして六時まで向こうが仮眠を取るのはツイッターで分かった。

 六時から本格的に向こうは準備をするみたいだから、俺達は休息を取りつつも早速準備は開始する。

 まず足手纏い……という言い方は悪いけれど、足手纏いになる怪我人のハジメ、外部から協定チームや敵の動きを見るために連絡係りの利二、アズミは先に移動してもらうことにした。


 奇襲を掛けてくる。それはいつ此処がヤラれるか分からない。怪我人のハジメがまた負傷したら一大事だし、外部と連絡を取り合ってくれる大切な連絡係りが負傷するのも頂けない。三人には俺達よりも一足早く移動してもらって仕事をこなしてもらうことになった。

 ちなみに利二とアズミは、日賀野側の協定チームのたむろ場で待機するそうだ。ハジメはこのまま帰宅をするんだけど、利二やアズミと連絡を取り合って同じように連絡係りをしてもらう予定だ。

 ハジメはタクシーで駅まで、二人は協定チームのバイクに乗って移動。各々仲間内の連絡係りの三人を軽く見送る。


「では荒川さん。自分はお先に失礼します。ご無理はしないで下さい。皆さんも、どうぞご無事で」


 丁寧に頭を下げる利二はたむろ場で待機しつつ、自分のできることを精一杯させてもらうとリーダーやチームメートに告げた。「テメェもな」何かあれば連絡しろってヨウは利二の肩を叩く。


「テメェは俺等のチームなんだからな。遠慮なく電話して来いよ」


 面を食らったような顔をしていた利二だったけれど、すぐに柔和に綻んでポツリと零す。

 それは俺達には聞こえない、小さなちいさな声。でもヨウにだけはしっかり届いていたみたいで、「サンキュ」満足気に頬を崩している。

 え? 何て言ったの? 俺、スッゲェ気になるんだけど。「利二ワンモア」リピートしてくれと頼むと、「さあな」利二は意地の悪い笑みを浮かべて肩を竦めた。何だよお前、俺とお前の仲じゃないか。隠し事とかお互いナッシングにしようぜ!

 だけど利二はちっとも教えてくれない。


「ちゃんと彼女、取り戻して来い。だがカッコつけるのは大概でやめておけ。また病院送りになるからな」


 クスクスと笑い、俺の脇を小突いて「無理するなよ」心配の言葉を掛けてくれるだけだ。ちぇ、ケチ。後でヨウに聞いてやるんだからな。利二。


 ヨウは利二と会話を交わした後、目と鼻の先にある大通りに松葉杖をついて向かう予定の怪我人に視線を投げる。

 すっぽりとキャップ帽をかぶっている不良はヨウの視線を受け止めると、「また離脱しちゃって悪いね。今も昔も足手纏いばっかりでごめん」相も変わらず卑屈を零してきた。自分を卑下することがほんと好きだな、ハジメ。

 いやハジメは捻くれているから卑屈で自分の気持ちを隠しているんだろう。

 自分を卑下するわりには顔は穏やかだ。捻くれた台詞はハジメのコミュニケーションだって思ってもいいかも。付き合いの浅い俺が分かるんだから、中学から絡んでいたヨウは尚更分かっていたみたい。頭を小突いて「さっさと戻って来いよ」ぶっきら棒に鼻を鳴らした。


「いつまでも戻って来なかったら俺とタイマンな。容赦してやんねぇ」


「わぁお、それは困るな。君の実力が痛いほど知っているんだ。リーダーとタイマンなんて死んでもごめんだって。大丈夫ヨウ、僕は卑屈を零すけど今しっかりと誇れるから。だってさ、いつまでも帰りを待ってくれるチームがいてくれるんだ。嘆くなんてカッコ悪いじゃないか。そうだろ? 必ず帰るよ。僕は君の立ち上げたチームの一員だ。今なら堂々と口に出来る」


 目尻を下げるハジメに、仏頂面作っていたヨウも一変して目尻を下げた。軽く右の手を挙げ待っていると意思表明。了解だとばかりにハジメはあいている左手でハイタッチ、しっかりと約束を交わしていた。絶対にチームに戻って来るという約束を、しっかりと。


「そーだよ。ハジメ、戻って来ないと困るんだって!」


 柔和な空気を破ったのはチームのムードメーカー様。

 「戻って来たら覚悟ね」立てた人差し指を自分の口元に寄せてウィンクする弥生にハジメの目は点、馬鹿みたいに間の抜けた顔を作る。唐突過ぎて意味が分からなかったみたい。勿論、傍観者の俺達は他人事なんで? すぐに分かりましたとも。弥生嬢のお言葉の意味!

 ニッタァっと口角をつり上げて成り行きを見守る。いやこれもさ、チームの優しさですよね? 意味を理解して赤面、ヘタレをかましているハジメくんと、強気の弥生嬢を見守るのもチームの優しさですよ、ね?


 俺達の悪意ある眼を全身で受け止めながらも、ハジメはまず盛大に咳払い。

 頬を紅潮したまま「絶対に戻って来るから」とボソボソ声で彼女に決意表明をした。次に小さく息を吐いて気持ちを静めると、真顔で彼女を見つめた。


「弥生。君も隊に入っている。現場に赴くだろうけど無理は絶対にしないでくれ。絶対に。間違っても暴力には加担しないで欲しい。例え相手が女性相手でも……逃げるんだ」


 弥生が起こすであろう行動にしっかり釘を刺すハジメは、フッと表情を和らげてキャップ帽を弥生に被せた。

 声を出す弥生に、「宣戦布告は受けてたつから」俺達にも聞こえる声で彼は宣言。弥生の出した宣戦布告を全力で受け止める、そして自分も宣戦布告すると一笑した。


「勿論勝つのは僕だけどね」


 捻くれなりの告白返しだというのは誰が見ても一目瞭然。

 こういう時くらい好きと言ってやればいいのに、ハジメには思うことがあるのか宣戦布告だけ彼女に残した。呆然としていた弥生だけど、「上等だよ!」喜びを溢れさせてはにかんだ。弥生にとっては宣戦布告は何よりも励みになる、そして心暖まるものだったみたいだ。ハジメが大通りに向かって歩き始めても、俺達と別れても、終始笑みを零していた。

 ただし。


「ちゃーんと喧嘩はするつもりだけどね。これ、私の喧嘩でもあるし。女だって喧嘩に参戦したいんだよ」


 ぺろっと舌を出して、ハジメのキャップ帽を大事にかぶり直す弥生の独り言を俺はバッチリ聞いてしまった。

 思わず弥生を凝視しちまったよ。情報係りを主に担当している弥生が自己申告で救出隊に入った理由はそれだったのか。てっきりココロが心配で救出隊に入ったのかと思ったけど……それだけじゃなかったんだな。

 女の子ってこういった精神面じゃホント強いよな。戦場になるであろう喧嘩にも自ら乗り込むんだから……俺も見習わないとな。怖じを抱いている場合じゃないっつーの。


 ハジメを筆頭に、バイクに乗る利二やアズミを見送った俺は仲間達と神社裏に戻って支度を開始。

 予定移動時間前15分になったんだ。のんびりと休息バッカ取っているわけにもいかない。支度というのは何も移動する準備だけを指すわけじゃない。腹ごしらえだって立派な支度だ。飲まず食わずじゃすぐバテちまう。

 これから先は持久戦なんだしな。俺なんてチャリ漕ぎっぱなしなんだぜ? しかもオッソロシイ日賀野を乗せてっ! 体力温存しとかないと心身病む、じゃない、心身ともにバテる!


 俺は前もって買い置きされていた軽食のパンを急いでカフェオレで流し込む。

 急に飯をとったら胃がひっくり返るけど、驚くよりも先に胃には食っているものをぜーんぶ栄養価にして俺に支給して欲しい。なんでかってそりゃ俺は日賀野を乗せて以下省略。怖い思いする以下省略。長期戦になったらチャリの俺は圧倒的に不利以下省略。


 立ち食いというお行儀の悪い行為をしながら飯を食っていた俺は、ふと買い置きされたコンビニの袋に目が留まる。

 袋は無造作に地面上に放置されているんだけど、中に四個あんぱんが残っていた。余分に買って来ているわけじゃない。人数分が揃っている筈なんだ。先に抜けたハジメ、利二、アズミの分を抜かしても三つあんぱんは残るわけで。

 フツーに考えれば一個余分に余ることなんてないんだ。なのにあんぱんが余っているってことは、誰か食ってないのか?


 俺は神社裏にいる面子をグルッと見渡す。

 みんな一人一個はパンを食っているよな。食い終わっている奴もいるけれど、包装袋を手に持っているし。

 周囲をキョロキョロとしていると目に留まったのは、皆から離れた場所で缶珈琲だけ飲んでいる青メッシュ不良。日賀野が食っていないのか、あんぱん。神社を囲っている石柵に腰掛けて始終宙を睨んでいる。なんだか余裕は無さそうだ。今まで見たことないほど表情が切迫している。

 もしかして日賀野……帆奈美さんの心配をして?


 ふわっと青メッシュの髪を風に靡かせて宙に焦点を定めている不良は、黙々と微動のコーヒーだけを飲み進めている。

 健太曰く帆奈美さんのことを好いているみたいだからな。日賀野の気持ちは分からないでもないや。俺もココロのことを思うと胃がキリキリ痛む。

 でも食っとかないと体力も持たないし、みーんなに迷惑が掛かるぞ。

 自分から歩むか、歩んじゃうか、トラウマ不良に歩むか俺! あんぱんを渡しに歩んじゃうか?!


 だ、大丈夫だ。

 あいつが怖くなったら『犬っころブッコロしゅん』だ。それにあいつだって同じニンゲンだもの! 話せば、ちったぁフレンドリーになれるんじゃないか?! 今のところ惨敗だけどな! 第一向こうのコミュニケーションの取り方に問題もあるし! 田山苛めをしてくるし!

 けど時間も無いんだ。さっさと渡してこよう。「よし」袋からあんぱんを取って決心を固める。


 矢先、ヨウが俺の行動を見越して「放っとけ」と一言。今、渡しても向こうは食べないだろうとぶっきら棒に言ってきた。

 話によると日賀野は喧嘩前になると大抵ああやって一人になりたがるそうな。もしかしたらああいう時間を設けることで、気持ちを整理しているのかもしれない。


「邪魔をするとすーぐ不機嫌になる」


 そう淡々と語るヨウは食べなかったことは自己責任だと忌々しく鼻を鳴らして、勢いよく缶珈琲の中身を胃に流し込んだ。

 いや、寧ろ不機嫌はお前じゃないか……とか思ったけど言葉は嚥下することにした。余計な一言だと思ったから。多分ヨウも帆奈美さんのことで思うことがあるんだろうけど、俺が何か言ったところで機嫌を損ねるだけだろう。

 チラッと舎兄を一瞥する。あらまあ、不機嫌が一変してぼんやり顔になってらぁ。

 数秒前まで不機嫌だったのに宙を眺めてぼんやり顔とか……百面相もいいところだぞヨウ。


「どうした?」


 当たり障りなく声を掛けてやる。

 「ンー」間延びアンド生返事をするヨウは、三拍くらい置いた後、須垣先輩のことを思い出していたと返してくる。その場凌ぎの話題は見え見えだったんだけど、深くツッコまず話を続けてもらうことにした。


「あの生徒会長の『不良の犯す愚行は時に家族さえ巻き込む』って言葉を思い出して、なんっつーかアレだ。家族のことを……なぁ。いや別に両親はどーでもいいけど、散々俺を振り回してくれたしな。なあんにも思うことはねぇ。ただひとみ姉にメーワクを掛けていたと思うと、ちょい罪悪感だ。再婚相手の子供で血の繋がりも何も無いけど、ひとみ姉だけはいつも俺の味方でいてくれたからなぁ。入院した時もあいつだけだ、家族として俺を心配していたの」


 別段仲が良いわけじゃない。だけど仲が悪いわけでもない。

 入院の時を思うと仲の区分する際、きっと自分達は仲の良い部類に入る。不良をやめるわけじゃないけど、義姉にだけは迷惑掛けたくないような気がする。「ひとみ姉。性格も良いしな」家族の中でいつも愛想よく接してくれるのはひとみ姉だけだと、ヨウは複雑な心境を俺に語ってくれた。


 そういえば身内に不良を持つから自分達は迷惑うんぬんかんぬん……須垣先輩は毒をたっぷり含ませて吐き捨てていたっけ。

 ヨウやハジメを見ていたら不良には不良のジジョーがあるけど、その身内には身内のジジョーってのが存在するんだな。何だか話を聞いてたら家族の在り方って難しい。

 ヨウは両親と自分の間に壁を作っちまっているけど、味方になってくれる義姉のことを考えていないわけじゃない。できることなら迷惑を掛けたくないと思っている。身内だからこそ、この問題は複雑化するわけだ。


「ひとみ姉……文句も言わねぇしな」


 ヨウは溜息混じりに肩を落とした。


「当たり前のように俺を受け入れてくれるから戸惑うんだよな。ん、相手を受け入れるっつーのはムズイ。あームズイ。受け入れるっつーのは相手をある程度認めるわけで? けど生理的無理な奴もいるし? 迷惑を掛けられたら、そりゃ受け入れるなんてムズイ中のムズイし? ひとみ姉はやってのけているし? あ゛ーヤダヤダ頭が爆発しそうだ」


 語り部は余った缶の中身を一気に飲み干していた。

 前半は義姉と家族について吐露をしているけれど、後半は何だか自分自身について吐露をしているみたいだった。

 とても複雑な顔を作っているヨウが向こう側を流し目にする。俺に気付かれないよう流し目にしたつもりなんだろうけど、俺は誰に視線を送ったのか容易に気付いちまった。そして聞いちまうんだな。ヨウがボソッと言う言葉を。


「キザ男には一生敵わないぜ」


 二人の間に入る隙なんて1ミリたりとも無いじゃないか。分かってはいたけれど何となくムカつく。ああムカつく。

 ブツクサブツクサと文句垂れるヨウは舌を鳴らし、唸って、「イテッ」俺の頭を叩いて軽く八つ当たり。何に対してヨウが苛ついているかって、そりゃあやっぱ日賀野と帆奈美さんの関係なんだろう。

 さっき日賀野が須垣先輩に向けた発言を思い出す。日賀野は須垣先輩に向けて人質に対する憂慮(そして好意)を含む発言をしていた。


 第三者から見ても、日賀野の切な気持ちは帆奈美さんに対する想いで一杯なんだと分かる。

 確かにあんなことを言う日賀野はキザでカッコ良かったけど、ヨウの努力次第ではまだまだチャンスあると思うんだけどな。本当にヨウも大概で不器用男なんだろうな。顔はイケているのに恋愛に関しちゃ暗中模索状態じゃんかよ。

 「苛々する。自分にも現状にも」俺にだけ聞こえるような声で呟いた後、ヨウは俺の背中を軽く叩いてまた八つ当たり。


「ぜってぇココロ助け出すぞ。首を長くして王子の登場を待っているだろうしな」


 一変しておどけ口調で笑うヨウ。

 激しい喜怒哀楽の変わりようは今の舎兄の心情をまんま表しているみたいだ。荒れているというか、自分の感情処理が追いついてない。そんな感じ。

 俺はヨウに笑みを返して、「お前のイケメン要素が欲しいよ。そしたら王子になれるのに」他愛もなく言ってやった。「そりゃそうだ」憎まれ口返してくるイケメン不良はやや皮肉って補足。


「ま、ルックスだけの世の中だったら俺は今頃天下をとっているけどな。セフレだって取られてねぇし。性格もイケメンになりたいぜ」


 俺は舎兄を真似っ子、笑いながら頷いた。



「そりゃそうだ」



 ◇


 


 時刻はちょっきし6時。

 時間になった俺達は急いで移動を開始する。

 目指すは隣町“港倉庫街”。ヨウ達が中学時代、五十嵐を狡い手で伸したという因縁の場所だ。当然徒歩で行くには時間が掛かるから、バイクという画期的な乗り物を使って向かう。俺はチャリで隣町に向かう気満々だったんだけど、「阿呆か」日賀野に無駄な体力を浪費してどうするんだと注意をされた。


「バイクは協定チームが貸してくれる。貴様は俺の後ろに乗ればいい」


 いやそりゃそうだけど、チャリはどーするんだよチャリは。

 俺にとってチャリは喧嘩の必須アイテムなんだぞ。新品の愛チャリは二重ロックをして神社裏にでも留めておけばいいけど、問題は現地にチャリがないということだ。チャリが無いのは俺にとって致命的だし作戦の流れではチャリは数台必要。どうやって調達するんだよ。


 泉のように湧く疑問に対し、日賀野は当てがあるとニヤリ。

 とにもかくにも愛チャリで現地に向かう必要は無いみたいだ。あんましっくりこないけど相手が自信満々に言うんだし、信じてみよう。俺は愛チャリを神社裏に置いて日賀野の運転するバイクに乗せてもらった。殆どバイクの後ろに乗る機会はないんだけど、運転に集中しなくてもいいし、何より楽ちんだ。乗るだけでいいもん。

 悠々とした気持ちでバイクの後ろに乗せてもらうこと15分、あっという間に隣町に到着する。“港倉庫街”付近にはわりと大きな町が存在していて、そこでまずチャリを調達しないといけない。さてとチャリじゃどーやって調達するんだ。


 あ、分かったぞ! 日賀野のことだからきっと先に協定チームにチャリを持って来させているんだ!

 これだったら日賀野がチャリを置いてけってのも納得できるな。やっぱさすが日賀野大和だな。先の先まで読んで行動を「おい、プレインボーイ来い。今からチャリパクしに行くぞ」………What?


 何を言われたかは分からず目を点にする俺に対し、日賀野は当然のように周囲を見た。


「そこら辺に確かチャリ置き場がある。警備員もいない時間帯だし、今の時間帯ならチャリが大量にある筈だ。チャリを二、三台パクるぞ」


 大層なことを言ってくれる日賀野は制服の襟首を掴んでこっちだと引き摺った。

 ちょ、ちょちょちょっ、この人、ナニ外道なことを言ってくれちゃっているの! パクる……それってもすかすて窃盗するんじゃっ?! いやまさかそんな、俺、日賀野大和兄貴のこと信じているから? 怖くても信じているから? そんなそんな、まさか窃盗なんて。


「いいか。なるべく良品なチャリを選べよ。ケン、ペンチの準備をしとけ。それとアキラと貫名に見張りをしろって言っとけ」


「はい。了解です」


 ナニ手馴れた口調で了解とか言っちゃってくれてるの、健太さん。

 引き攣り笑いを浮かべる俺はスーパー裏のチャリ置き場に佇んでいた。ごみごみと密集しているチャリを数台パクろうなんて考える事がえらく狡いぞ日賀野大和。あ、狡賢さは天下一だったなお前。


 だ、だけどやるっきゃないぞ! 犯罪だけどやるっきゃないんだからな! 良い子の皆はマネなんてしちゃ駄目だぞ!

 ま……まあさ。ぱ、パクるんじゃなくて借りるだけだと思えば心も休まるよな! よく考えてみれば俺も路上に放置されていたチャリを失敬したことがあった! か、借りるだけだ! よしっ、チャリを選ぶぞ! あんまりモジモジしていたら日賀野に怒られちまうし!


 ということで俺は素早くチャリに目を向けて、良品なチャリを三台選ばせて貰う。

 良品というのはタイヤの空気が入っているか、簡単に二人乗りできるチャリか、ライトの点き具合良いかの三点だ。

 俺的に運転に関わるハンドルも考慮したかったんだけれど、そこまで見る時間は無かった。目分でこれでいいかな? と思うチャリを三台ほどパク……じゃない、三台ほど借りるために候補を探す。俺はチャリ慣れしているから、ある程度のチャリだったらどんなものでも乗りこなせる自信がある。ただし今回は他の奴もチャリに乗るからな。なるべくは使い勝手の良いチャリを選ばないと。


 しゃがんでチャリのタイヤを具合を見ていると、「おい。邪魔だ」背後から声を掛けられる。否、軽く蹴られる。

 前につんのめる俺は慌てて地に手をついた。あ、アッブネ。誰だよ、背中を蹴ってくるヤツ! 俺は今なぁ、平成のルパンファミリーの一員になろうとしているんだぞ。チャリっつーデッカイお宝をパクる……じゃない。借りようとしているんだぞ。


 バッと顔を上げて振り返る。

 そこには不良……というよりヤンキー兄ちゃん数人が立っていた。不良とヤンキーの違いってよく分かんないけど、取り敢えずヤンキーはチャラそうでお洒落な私服を身に纏った奴だと俺は認識している。

 集団でチャリを引き連れていることから、俺のいる場所にチャリをとめようとしているみたいだ。


「さっさと退けよ」


 俺にガンを飛ばしてくるヤンキー兄ちゃんのひとりは、ふとナリを見てくるや否やニヤッと笑みを浮かべてきた。

 うっわぁ悪そうな面だな。おい、なあに考えているんだよ。どーせロクなことじゃないんだろ? 例えばさ、「交通止め料くれね?」ほーらな。人生初のカツアゲ危機か。俺。


「俺達さ、今チョー金に困っているんだけど?」


 へへっ、俺は今チョー金に困っていないんだけど。寧ろ困っているのはチャリなんだけど! カツアゲする気ならチャリを恵んでくれ! 良品なチャリを恵んで……あ。

 俺はヤンキー兄ちゃん達のチャリをまじまじと見つめた。兄ちゃん達が持っているチャリ、見るからに超使い勝手が良さそうだな。ハンドルも俺好みで運転しやすそうだし、二人乗りもしやすそう。スーパー裏にとめてある多くのチャリは、幼児を乗せるチャリが多いから二人乗りが不可能なんだよな。


 ジトーッと視線をチャリに向けた後、ヤンキー兄ちゃん達を一瞥。

 顔立ちからして年齢的には俺等と大差が無さそうだよな。うん、これはもう……善良な一般市民様のチャリをルパンの如く盗むよりは、俺という弱い者をカツアゲしようとするヤンキー兄ちゃん達を選んだ方がお互いに得策。罪悪感も薄れるってもんだ!


「おい聞いてんの?」


 片手でチャリを支えながら、片手で胸倉を掴んでくるヤンキー兄ちゃん達に俺は満面の笑顔を浮かべる。


「いやぁ。良いチャリですね。いいなぁ、羨ましいなぁ、此処にあるチャリのどれよりも乗り心地が良さそうだなぁ」


 ヘラヘラ笑う俺に訝しげな眼を向けるヤンキー兄ちゃん達。

 何処からともなくパキパキっと関節を鳴らす音が聞こえてきたけれど、俺は構わず言葉を重ねる。

  

「すみません。ちょーっとお借りしますね。絶対此処に戻しますから! 三台ほど頂きます」


「はあ? さっきからナニ言っているんだ。ザケてないで金をさっさと「口答えするなんざナンセンスだな」


 ガシッ、俺の胸倉を掴んでいる腕を握ったのは日賀野大和さま。

 ドえりゃあ笑顔なのは、素晴らしいチャリが見つかったからか。それとも鬱憤を晴らせるカモが見つかったなのか。とにもかくにもニッコリ笑顔がちっとも似合わないその不良は、「ウダウダ言わず、貸せよ。そのチャリ」輝くスマイルで作った握り拳を見せつけてきた。


「そーそー。ありがたーくチャリを借りるだけだから安心しろって。あとケイから手ぇ引いてもらえるか? そいつは俺の相棒だ」


 パキパキッ、反対側からこれまた輝くスマイルを作っている不良さま一匹。

 地元で有名過ぎる不良二人に笑顔を向けられるなんて、ヤンキー兄ちゃん達はカワイソーだ。どういう運命を辿るか容易に想像ついちまう。実質、ヤンキー兄ちゃん達は「え、お前不良の仲間?」みたいな顔を青褪めて向けてくる。


「こいつ等、日賀野に荒川じゃね? その赤と青のメッシュ……そうだっ、日賀野に荒川だ! ってことはこの冴えない野郎は荒川のしゃ……舎弟?!」


「あ゛?! 聞いたことがある。荒川が異色の舎弟を作ったって……こ、こいつか!」


 隣町にまで俺等の名前は轟いているらしい。

 有名なったよなぁ、ほんと。まったくもって不名誉な有名だけどな!

 「チャリ渡せ」日賀野の極悪笑顔、「仲間から手ぇ放せ」ヨウの凶悪喜色満面、何処吹く風で視線を逸らす俺に、ヤンキー兄ちゃん達の見事に真っ青面。チャリ置き場はカオスなことになっていた。そして笑顔を貼り付かせたままの不良二人が動いて刹那、ギャアアアアアア―――!




「――うっし、不良流の貸し借りも済ましたし。ヤマト、準備万端だな」


「ああ。こっちの動く準備はな。後は協定チームと連絡係りが上手くやってくれる筈だ。取り敢えず連絡を待つぞ」


 腕時計を見て時間を確認している日賀野はヨウにそう返事をしている。

 ちなみに“不良流の貸し借り”を目の当たりにした俺の心境は、かなり穏やかなものじゃなかった。しごく怯えています、目前二人の不良に。やっぱお前等手を組んだ方がいいんじゃね? ナニ、あの不良達をシメる……じゃない、不良達に物を貸してもらう時の身のこなしっぷり。動きが軽やか過ぎて俺は開いた口が塞がらなかったヨ。

 もはや二人に恐怖どころか、ある意味尊敬の念を向けたくなったね! そしてシメられ……じゃない、自転車を泣く泣く貸さなきゃいけないことになったヤンキー兄ちゃん達にはすこぶる同情した。本当に同情した。


 心中で当時のことを思い出しつつ、俺は借りたチャリに跨ってハンドルを握ったり離したりして気を紛らわす。

 チャリを調達した後、俺達は“港倉庫街”から目と鼻の先にある寂れた駐車場に溜まっていた。わざわざ人目のつかない住宅街の中の一角にたむろっている。殆ど駐車されていないその場所で、周囲に五十嵐の刺客の目が無いかどうか警戒心を払いながら刻一刻と進んでいる時間を肌で感じていた。


 もう五十嵐との対決は目前だ。

 一時間以内で残り24時間を迎える。丸一日でどうにかこうにか人質を救出、キャツとも決着をつけないと。早くココロに会いたい、無事を確認したい。

 募る感情を静かに嚥下して俺はふぅっと息を吐いた。感情だけ先走りしても好い結果はやって来ない。慎重に尚且つ迅速に相手陣地に乗り込まないとな。


「最終の打ち合わせするぞ」


 時間を確認していた日賀野が腕時計から視線を外した。

 これから先は二手、否、三手に分かれて行動する。まずは斬り込み隊。両協定チームと一緒に突っ込んでいく。五十嵐が用意した協定チームはこっちの料亭チームに任せて、斬り込み隊はとにかく五十嵐達を引っ掻き回す。

 指揮を取るのは我等がチームリーダーのヨウ。率いるのは両チームの副頭にタコ沢、ホシ、紅白饅頭双子不良。手腕もしくは体力根性に自身のある奴等ばかりが集っている。


 そして挟み撃ちを仕掛ける本隊の指揮を取るのが向こうチームの日賀野。面子は俺、ワタルさん、魚住、キヨタ、イカバにモト。健太、響子さんと弥生。本隊から救出隊として何人か抜けたりするけれど、基本的に少人数で行動。裏からなるべく向こうの戦闘スタイルと現状を把握し、探りを入れつつ合流する役目を任されている。


「斬り込み隊の行動手段はバイクオンリーだが、本隊はバイクプラスにチャリでいく。いいか?」


 すると異議ありとばかりにヨウが口を挟む。


「一台だけこっちに回せヤマト。斬り込み隊とはいえど、混乱するであろうその場の状況を冷静に見る役目が欲しい。バイクよりかはチャリの方がやり易いからな」


「なるほど。馬鹿にしては考える」


「だろ? ……ん? おいヤマト、今なんて」


「ミジンコからノミくれぇの脳みそを持つようになったじゃねえかって褒めているんだよ」


 「ノミ……」表情を引き攣らせるヨウに対し、何処吹く風でチャリを一台回してやると日賀野はニヒルに笑いながら肩を竦めた。

 よって危うく喧嘩ムードが二チームを襲うところだったけど、時間が押してることもあり何とか喧嘩にまでは至らず済んだ。ヨウはすっげぇ日賀野をぶっ叩きたい面してたけどな。ホントこの二人、好いコンビなんだか悪いコンビなんだか。


 気を取り直してチャリに乗る面子を決める。

 勿論俺は乗る面子。じゃないと、俺、ちっとも使えない地味くーんになっちまう!

 ということで一台は俺、残りは二台。一台はヨウご指名でタコ沢。「なんで俺だよ!」キャツはギャンギャン吠えていたけど、満面の笑みを浮かべてヨウは言った。


「エリア戦争の時、超ママチャリが似合っていたからな。何かとチャリに縁があるみてぇだし、体力もある。てめぇで決定だ」


「あ゛? ヨウ貴様ッ、それは嫌味か。チャリに悪縁があるって言っておこうか。大体俺がッ、俺がッ、此処にいる元凶はっ……どっかの誰かさんがチャリで俺を轢いたからで!」


 轢いたんじゃなくて踏ん付けただけです。ついでに俺は憶えがなかったりするのですが。

 ギッと睨んでくるタコ沢の視線をサッと避けて、俺はてへっと愛想笑い。嗚呼、向こうのボルテージが上がったようだ。こめかみに青筋が二つほど立ったヨ。ごめんタコ沢、でも俺、お前のことをマイフレンドだって思っているんだぜ! だから仲良くしようぜ!


 結局一台は体力と根性が自慢のタコ沢で決定。後ろにはカマ猫と称されているホシを乗せるみたいだ。

 残り一台は自己申告で健太が名乗りを上げた。どうせ救出隊にもチャリが必要不可欠、迅速に尚且つ見つからないよう移動しなければいけないのだから。


「それにおれ、ある程度は鍛えられてます。どっかの誰かさんとチャリを乗り回していたから」


 結構腕には自信があるのだと綻んで見せた。

 確かに健太ならチャリの腕は一般人よりかは上回っていると思う。中学時代は二人であっちこっちチャリを乗り回していたし。これにて最後の一台は健太に決定。後ろに乗るのは同じ救出隊のモトだ。


「えー? 犬と一緒のポジション? 不服なんだけどー?」


「ハアア?! それはこっちの台詞だっ、カマ猫! せいぜい落ちないようにな!」


 ワンワンニャンニャンと言い争い、青い火花を散らすホシとモト。

 こいつ等もほんと仲が悪いよな。根本的に根っこから気が合わないんだろうけど、こんな時くらい仲良しこよししたって罰当たらないと、俺は思うんだぁ。うん。



 ピピピピ――。

 日賀野、ヨウ、俺、各々携帯が鳴った。連絡係りにはそれぞれ特定の人物に連絡するよう打合せされている。連絡係りのアズミは日賀野に、ハジメはヨウに、利二は俺に、連絡をするようになっている。携帯に出た俺は利二にこう告げられた。浅倉さん達が“港倉庫街”近くの廃屋にいるそうな。

 同じように日賀野達が結んでいる協定チームも近くの廃屋に、そしてヨウはハジメに伝達されたことを俺達に伝える。 


「五十嵐が俺等の姿が見えねぇことに不審を抱いてるそうな。向こうの動きが慌しくなってるらしい。ヤマト、時間は?」


「6時48分。12分で7時だ。斬り込み隊は移動してもイイ頃合だ」


 「うっし」気合を入れて頷くヨウは、メンバーに招集を掛けて移動すると指示。斬り込み隊が乗り込んだ後、本隊の俺達はこっそりと“港倉庫街”の出入り口に移動して斬り込み隊の合図があるまで待機する。合図があり次第、俺達も裏から乗り込んで行動を開始する魂胆だ。

 『挟み撃ち』作戦は『漁夫の利』作戦と違って狡い戦法じゃなく、ヨウのお得意特攻戦法と日賀野のお得意深慮戦法が合わさった立派な戦略だ。どっちが欠けても成り立たない作戦が上手くいくかどうかは俺達の手にかかっている。対立していた二チームがどれだけお互いを信用できるかにかかっているんだ。大袈裟に言ってみるけど、本当の話。

 中学時代の因縁を乗り越えて信用し合わないと、お互いを認め合わないと、絶対に成功はしない。


 だけど、俺は思うんだ。


「ヤマト、下手こいたらブッコロしゅんだぜ?」


「チッ、るっせぇ。いい加減、ネチネチしつけぇんだよ荒川。貴様こそ馬鹿起こしてヘマするんじゃねえぞ」


 余計なお世話だとヨウは鼻を鳴らし、日賀野は相手に背を向けている。

 まあリーダー達個々人の私情はともかくさ、チームはお互いを認めあっているんじゃないかな。俺には個人的な因縁はチームに無いけれど、日賀野チームの面子は普通に凄いと思っているし手を組めばすげぇ奴等だって再確認した。

 きっと向こうだって思っているに違いない。俺がすげぇって思うように、向こうだって。

 それが“認める”一歩なんじゃないかと思うよ。ま、俺は因縁に直接関わっていないから何とも言えないんだけどさ。


「行くぞ、テメェ等。ぜってぇに勝つぞ」


 斬り込み隊の長はそう全員に言い放ち、


「負けになんざ縋るんじゃねえぞ。先日の借りは必ず返す」


 本隊の長は低い声で唸った。



 始まる。

 土曜の決戦の借りを返す、そして人質を取り戻す最後の戦いが。手を組んだ二チームが一チームになって今、再戦を挑む。

 ヨウ達の乗るバイクのエンジン音が夕月夜の空に舞い上がる。俺はシズの運転するバイクの後ろに跨る舎兄に声を掛けた。


「ヨウ、すぐ俺達も参戦するからな。先陣切ってきてくれよ」


「ああ。余裕で先陣切ってきてやっから」


 「待っているぜ」ヨウはイケた笑顔を俺に向けると、斬り込み隊に右の手を挙手して合図。走り出すバイク達は風を切って一足先に“港倉庫街”に向かった。


「ねえ、ターコ。早くしてよねぇ」


「だぁあ俺は谷沢だ! カマ猫っ、振り落とすぞ!」


 チャリ組のタコ沢とホシだけが出発に遅れていたけど、どうにかチャリを発進させて皆の後を追っていた。



 本隊の俺達は待機しつつも連絡係りと連絡を取り合って、いつでも出発できる準備をしておくことにする。

 この喧嘩は中学時代に五十嵐と関わりを持つ不良達だけの喧嘩じゃない。先日負けたチーム全員の誇りを懸けた喧嘩だ。惨めに負けても、大事な者を人質に取られても、狡い手で奇襲を掛けられても、俺達は屈しないし負けやしない。


「荒川達が先陣切るからって気を緩ませるな。今からでも気張れ」


 本隊の指揮官が喝破するけど、言われるまでもない。

 さあ、今一度プライドを懸けて挑もう。これは俺達の喧嘩。俺にとって今まで一番でかい喧嘩。



「ココロ、待ってろ。今すぐ助けに行くから。今すぐ迎えに行くから」


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