16.決め台詞にはポーズが必要不可欠



 かくして日賀野が指揮する本隊に配属された俺は、ヨウ率いる斬り込み隊に未練たらたらのまま話し合いに参加する。

 まあ大丈夫。ヨウが言うように日賀野はただのジャイアン不良なだけであって、俺と同い年の人間。男田山圭太、ココロ救出のためにトラウマを克服してやらぁ! そうだ、いつもいつでもいつまでも日賀野に怖がっていると思ったら大間違いなんだ! そう、大間違いなんだ!


「なあ……圭太、ヤマトさんは優しい人だから大丈夫だって。ちょっと悪ふざけを仕掛けてくるだけだから……アーおれに貼り付くのやめてくれるか?」


「う、煩い。俺は自分と闘っているんだ。じゃ、邪魔するな!」


 意気込みもむなしく、俺はガタガタブルブルで健太の背中に貼りついていたという。

 ナニ、臆病? 腰抜け? 意気地なし? どうとでも言うがイイ! 怖いもんは怖いんだ! 人間ってのはなぁ、正直に生きてこそ輝く人生だろ! 俺は正直に素直に有りの儘に、怖い気持ちを此処で曝け出す! 俺って誰よりも正直者!


 本隊と救出隊が全員揃うや否や、日賀野は指揮官として早速グループ集会を開始。

 事細かな動きを念密に打ち合わせ始めた。斬り込み隊はとにもかくにも真正面から突っ込んで混乱を招くよう暴れるだけ。持久戦になるだろうから、どう体力を持たせるよう話し合えばいいけど本隊はそうはいかない。現状と向こうの戦力、戦闘形態を把握して裏から挟み撃ちにしないといけないんだから。

 更に救出隊はそれを前提に倉庫に回って人質を救出しないといけない。無駄な動きはなるべく省いておきたい寸法だ。


「取り敢えず当時の動きはこれでいいが、イマイチ向こうの動きが分からずじまいだからな。斬り込むまでの動きに下手なことはできねぇ。いいか、貴様等。五十嵐の動きが現段階で読めない以上、極力は動きを最小限にしろ。この作戦がばれたら元も子もねぇ」


 散々俺を弄くってくれる日賀野だけど、リーダーとしてのカリスマ性はピカイチだ。

 俺達が苦戦を強いられただけあって、本隊リーダーの頭の回りようはパない。小さなところも見落とさず、インテリ不良や俺等に意見を求めて作戦や動きを組み立てていく。そのカリスマ性だけには敬意を払いたいと思ったよマジで。性格は最悪だけど。 



 ようやく纏まりを見せ始めた両チームが話し合いを始めて約二時間。

 一旦、休みを取るために各々で一息。俺も一休みを取るために神社裏から表に回った。皆、裏に溜まっているから表には人気が無い。シンと静まり返っている空間が俺の心を落ち着かせる。

 取り出した携帯のディスプレイで時間を確認。12時半か。昼時だけどココロは飯を食っているかな。軟禁されているであろう彼女のことを想うと胸が締め付けられる。直ぐに迎えに行く、そう言ってもう40時間以上が経過している。辛いな。彼女に会えない日々も、助けに行けないもどかしさも酷く辛い。


 溜息をつくと、神社の鳥居付近の神木前に立った。ひっそりと天に伸びている神木を見上げる。

 サワサワと揺れている木の葉達に目を眇めて、俺は肩の力を抜いた。

 大丈夫、ココロは弱い女の子じゃない。怖い思いをしているだろうけれど、簡単に屈する女の子じゃない。じゃないんだ。大丈夫、俺はココロを信じている。


 ふっ、と煙草の香りが隣から漂ってきた。

 それはヨウが吸っている煙草の香りとはまた別の香り。ワタルさんや響子さんが吸っている煙草の香りともまた違う。

 ゆっくりと視線を流す。そこに立っていたのはダークブラウンに髪を染めている不良くんの健太。いつの間に肩を並べて立ってたんだろう。神木を見上げてスパスパと煙草を吸っている。


 久々だな。健太と二人きりになるのって。

 決戦以降、何度か顔は合わせたけれど、周囲には必ず人がいた。二人だけで水入らず、は久々だと思う。

 神木に視線を戻し、「怪我は大丈夫か?」俺は当たり障りの無い話題を切り出した。相槌を打つ健太は同じ質問を返してくる。それなりに、答を返して俺は苦笑を零す。あの時はズタボロにされたな、なんて苦味のある台詞を噛み締めながら。

 やっぱり相槌を打つ健太は、俺と同じ表情を零して灰を地に落とす。


「まあ、そのおかげさまで……荒川チームと手を組むことになったけどな。圭太、変な感じだな。あれだけいがみ合っていたおれ達が、こうして協力しているんだぜ? 何だったんだろうな、あの決戦。仕切りなおしなのかなぁ」


「さあ、これが終われば、またぶつかるかもな。無事に五十嵐との衝突が終わればな。無事に終わってくれたらイイケドな」


「無事に……ねぇ。また病院送りかも」


「今度は同じ病室だといいな。無事に終われば、それもないんだろーけど」


 もしもタイムリミットを迎えてしまってしまったら、敗北してしまったらココロは、ココロは――。

 やっべぇ、どーして人間ってすぐにネガティブになっちまうんだろうな。ポジティブにならないといけないのは分かっているのに、ふっとした拍子にネガティブが発生。暗い方向に考えた方が人間って気が楽だから、そうやってすぐにネガティブになっちまうんだろうな。ニンゲンって厄介。

 情けない面を浮かべていたのだろう。健太が気遣うように言葉を投げかけてくる。

 

「心中察するよ。お前はおれ等以上に苦境に立たされているもんな。お前を見ているとヤマトさんを見ているようで……なんだかなぁになる」


 日賀野の名前に、思わず表情を強張らせてしまう。

 だけどすぐに表情を戻して、「そっか」小さく相槌を打った。日賀野もセフレの帆奈美さんを人質に取られているんだっけ。

 でも不安は一切見せないよな。ヨウも帆奈美さんに想うことはあるみたいだけど、あんまり面には出していない。日賀野はもっと出していない。不安じゃないことはないだろうけれど、俺と違って二人は強いのだと思う。

 率直な意見を漏らせば、「まさか!」健太は俺の意見を全否定してきた。


「ああ見えて、ヤマトさんはいつも以上に切迫しているよ。余裕はなさそうだ。好きな人を取られているんだし、心境はお前と同じだよ」


「好き、なのか? 日賀野……帆奈美さんのこと」


 だってセフレなんだろう?

 俺が知る限り、日賀野の彼女に対する好意は見ていない。この前の決戦なんて、帆奈美さんとヨウのキスを平然と見ていた記憶がある。あの時は帆奈美さんを置いて戦場から一時離脱までしていたんだけど。

 すると健太は周囲を確認して、「ヤマトさんは帆奈美さんが好きだよ」素っ気ない態度ばかり取っているけれど、彼女を大切にしている。そう教えてくれた。

 人様の恋愛事情をこれ以上聞くのはどうかと思ったんだけど、健太が続け様に教えてくれる。リーダーは現在進行形で彼女が好きなのだと。


「アキラさんが言うには、中学時代からずーっと好きだったっぽい。あ、これ、ヤマトさんには言うなよ。おれが殺されるから!」


 俺が日賀野にチクれるわけないだろう。ただでさえ、あいつに怯えているのに。


「どうもヤマトさんは荒川と帆奈美さんがセフレになるずっと前から好きだったぽい。ヤマトさんは見た目によらず、一途で情熱的な人だからな。二人がセフレになったと知っても帆奈美さんを想っていたみたい。あの人なら気持ちに従って人を蹴落としたり、奪おうとしそうなのに、敢えてそれをせず二人を見守る側についていたんだって。帆奈美さんが落ち込んでいたら相談役を買ってはいたみたいだけど、それだけだったっぽい。なあんもせず、手も出さず分裂事件まで二人を見守る側に立っていたんだとか」


 驚いた。

 あいつにそんな純粋な一面があるなんて。


「だけど分裂事件でヤマトさんは思うことがあったみたいで帆奈美さんを自分側に引き込んだ。おれが思うにヤマトさんは帆奈美さんの支えになりたかったんだと思う。今はセフレをしているけれど、絶対に恋人にはしようとしないんだよな。あの人は帆奈美さんを大事にし過ぎているから……仲間内でも度々その大事にする面で懸念を抱くほどだ。

 冷静沈着を装っているけれど、帆奈美さんのためなら突っ走る人だ。帆奈美さんのこと好きなくせに、彼女を安心させる言葉は吐いて自分の気持ちは全然口にしない。セフレにしているのは、自分と後腐れのない関係にしたいから。いつでも彼女の気持ち優先にしているから……きっと」


 それってつまり。


「あの人のことだから、いつでも荒川の下に戻れるように環境を作っているんだろうな。別にこれはチームのことじゃないから、おれから思うことはないけど……ヤマトさんは損な役回りをしているよ。しょっぱい青春送っているよな。帆奈美さんも荒川も、何だか変な三角関係だし……恋愛って難しいよな」



 日賀野はそんなにも帆奈美さんのこと好きだったのか。

 いつもシニカルに笑い、ギラついた瞳を獲物に向けながら容赦なく相手を甚振るってイメージがあるんだけど。そんな人情らしい一面もあるんだな。良かった、やっと同じ人間だと思えるよ。

 俺と健太は暫し沈黙を作り、佇んで神木を見上げていた。背後から神木に否、俺達に歩もうとした赤メッシュ不良が、ふっと踵返して神社裏に戻って行く姿に俺達は気付かない。口を閉ざして神木を見つめ続ける。サワサワと揺れている木の葉、そこから漏れている木漏れ日がやけに眩しかった。


「圭太も……ヘーキじゃないよな。彼女を人質に取られてさ」


 不意に切り出される話題。

 俺は目を伏せて肩を竦めた。自分でも思っている以上に切迫しているよ、彼女を人質にされてさ。


「仲間を裏切りそうで怖いよ。タイムリミット寸前で身売りをしそうだ」


 古渡の出した降伏条件が脳裏をよぎる。

 彼女の彼氏になれば、ココロの身と引き換えに解放ができる。これはいばら道でありながら、俺にとって残酷且つ一番楽な道であった。少なくともココロが無傷で帰ってくるなら、藁にも縋りたい。どこかで楽な道を選ぼうとする自分がいる。

 ただし、仲間がそれを許してくれない。馬鹿みたいに弱い俺を信じてくれるから。だから。

 「身売り?」眉間に皺を寄せる健太のチームにはそういった条件を突き付けられていないようだ。俺は軽く説明してやる。古渡が出した条件と、それまでの経緯を。


 静聴していた健太の目が大きく見開いて凝視してくる。

 「馬鹿じゃないか」不機嫌に返されたのは直後のこと。そんなことをしても状況が変わるわけじゃないだろう。向こうの言いように踊らされるだけだと鼻を鳴らした。


「そうかもしれない。でも、馬鹿なことを思っちまうほどココロのことが大事なんだ。俺は彼女が本当に好きなんだ」


 笑われる覚悟で俺の気持ちを健太に吐露する。

 思いの外、あいつは笑わずに聞いてくれた。寧ろ「そんなにも好きなのか?」質問を投げてくる。間髪容れず答えた。そんなにも俺は彼女が好きなんだ。

 ははっ、恋は盲目だな。周りが見えなくなりそうで本当に怖い。

 だけど、大丈夫。周りが見えなくなりそうになったら仲間が止めてくれる。きっと、そうきっと。間違えそうになったら止めてくれるだろうから、安心して今この瞬間を過ごせる。楽な道を選ぼうとしても舎兄が拳で止めてくれるだろう。 


「ココロちゃんってどんな子? もしかして料理は上手い感じ?」


 突然替えられた話題。

 俺はクッキーの味を思い出し、即答で上手いと返答してやる。すると健太は頭部を掻き、煙草の灰を地に落としながら「ストレート三拍子じゃんかよ」ボソボソッと口ごもった。

 ストレート三拍子? 間を置いて健太を見つめた。次の瞬間、意味を理解した俺のこめかみには青筋がひとつ浮かぶ。ストレート三拍子、イコールそれは健太のモロ好み三拍子ということで? こいつの好みは清楚・料理が上手い子・ひんぬー……こいつ! こんのドスケベ野郎が!

 「けーんーた」握り拳を作って詰め寄る俺に、「いやタイプの話だから! ココロちゃんを狙うわけないじゃないか」愛想笑いを浮かべる元ジミニャーノ。でも目が泳いでるんですが!


「お前っ、ココロの半径3メートルに近付くなよ! あああっ! 思い出した。お前のむっつりスケベ光景! お前、マッジマジとココロのむ、む、胸をっ!」


 誰が忘れられようか、ココロの胸を舐めるように見ていたクソ光景を!

 けれど健太は反省の色も見せず、豹変したように高笑いを上げて俺を見下す。


「おれは男のサガに忠実なんだよ。圭太、お前も男だろう? おれの気持ちを分かってくれないなら男じゃなーい!」


「わっかるかぁああ! 一般女性ならまだしも、よ、よ、よりによって俺の彼女の胸を!」


「ンマー。心の狭い男は嫌われますわよ。それで良くって? 圭太さん。おほほほっ。アタシのお好みの子だったザマス。良き胸をしてますワ!」


 開き直った調子ノリに、田山圭太のこめかみは大変な事になっていた。

 お、お、おのれ許すまじ山田健太! 色々と許すまじ。彼氏を目前にその発言はあるまじきものだぞ! ジリジリと健太に詰め寄って関節を鳴らす俺に、「男に告られていた変態だったじゃないか」キヨタのことを出して健太はゲラゲラと笑ってくる。その変態が彼女作るとか生意気だと笑って逃げるキャツを俺は全速力で追い駆けた。

 「お前ふざけんな!」ダークブラウンに染めた髪を追い駆けて制服の襟首を掴もうとするけど、「ははっ、おれはいつでもマジ!」振り返って掴む手を避ける健太は小生意気に鼻で笑ってきた。


「ほおら気晴らしになった。馬鹿な考えは忘れちまっただろう?」


 一変して柔和に笑い、目尻を下げてくる。

 不意打ちを喰らった俺は思わず泣き笑い。俺が間違えそうになったら、誰かがきっと止めてくれる。それは仲間内に限ったことじゃない。敵側についている友達にも同じ事が言える。俺と健太は絶交宣言を交わし、不本意ながらも不仲になり、今まで対峙をしてきた。喧嘩をしてきた。いがみ合ってきた。表向きで。

 水面下じゃそんなことをしたくなくても、結局俺達はお互いにお互いを傷付け合った。


 これから先、また俺達は傷付け合うかもしれない。これが終われば傷付け合う関係かもしれない。

 それでも、俺達は確かに友達でいようとしている。今この瞬間に、健太は俺を支えてくれようとしている。友達の優しさがフツーに伝わってきて涙腺が疼いた。

 嬉しかった。中学時代(あの頃)に戻った気がして、泣きたいくらい嬉しかった。本当の俺達はまたこうして馬鹿をしたいんだと思う。いがみ合いも隔たりも乗り越えて、ただただ馬鹿して笑い合いたいんだ。

 泣きたい気持ちを悟られたくなかったから、「健太!」俺は元気よくキャツの名前を呼ぶ。「何だよ?」可笑しそうに頬を崩してくる健太に、俺はにこやかな笑顔で質問。


「健太さん、人間にとって一番大切なのはハートですが、何故大切なのでしょうか?」


 すると健太はキリッと表情を変えて握り拳を作った。


「お答えしましょう圭太さん。それはハートがないと愛は生まれないからです。愛……フッ、素晴らしいじゃないですか。愛は地球を救うのですよ! 恋愛に友愛に家族愛、アダムとイブの間に愛がなかったら、人類は誕生しなかった! 愛は地球を支えているのです。現在進行形で!」


「素晴らしいお答えですね、さすがは健太さん! つまり俺と貴方の間にも友愛、そうハートが宿っているということですね!」


「そのとおり! ですが圭太さん、貴方は彼女というものを作ってしまって友愛が涙ぐんでいますよ。おれより先に彼女とかありえないんだぜ!」


「シアワセでごめーん! 毎日リア充なんだぜ!」


 悪ノリかます俺と健太、「久々に!」「山田山(やまださん)の復活!」「ちげぇって田山田(たやまだ)!」「それこそちげぇ!」イェーイとハイタッチでギャハハギャハハと騒ぎまくる。やっべっ、楽しい! これだよこれ、俺と健太はこうでくっちゃ! このノリは久々で楽し過ぎる! 

 二つの笑い声が神社一杯に広がった。今だけだと分かっていつつも、あの頃に戻れた俺も健太もこんなやり取りをしたくてしたくて、馬鹿みたいに笑い声を上げた。あの頃のように不仲じゃなく、あの日々のように、傷付け合った時間を忘れるように笑声を上げていた。



「およよーん? ケン、キャラが違うんじゃないのんのん?」


「ありゃりゃ~? ケイちゃーん第二号がいるぷー」



 神社の表に回ってきたワタルさんと魚住の登場に健太は、はたっと我に返る。

 曰く、健太は調子乗りの一切を封印しているそうだ。普段はジッミーでクールな不良で通している(らしい)。

 だからチームメートの前で素を曝け出したと分かるや否や、「いやこれは陰謀で……」違うのだとアタフタ否定。愛想笑いを浮かべてこいつに乗せられただけだと、人を親指でさし、ちょいちょいと俺を個別に呼び出して、無理やりしゃがみ込まされた。


「(馬鹿っ! ナニっ、乗らしてくれるんだよ! この性格は仲間に隠しているつっただろう!)」


「(隠し事はいつかはばれるものだぞ? 素直に認めちまえ。お前は生粋の調子乗りだ!)」


 グッと親指を立てる俺に、「っるさいお前ぶっ飛ばすぞ!」健太は胸倉を掴んでぐわんぐわん揺すってきた。

 この調子乗りを封印するのにどれだけ時間を要したと思っているのだ等々責め立ててくる健太に、俺はどこ吹く風で諸手を挙げた。ごめんちゃいと舌を出せば、相手の怒気が増す。

 「圭太。ここで決着をつけたいか」「お? つけるか?」言うや俺達は素早く立ち上がって後ろに飛躍すると、ワタルさん達の前で田山圭太は先攻のライダーポーズを取ってみせる。


「誰が呼んだか調子乗りとは俺のこと。青い春で愛の力をつけたリア充田山圭太、此処に参上!」


 同じく真顔でライダーポーズを取るのは後攻の山田健太。


「脱調子乗りを目指すも、秘めるツッコミは今も変わらず。外見だけイメチェンしてみた非リア充山田健太、此処に見参!」


 瞬く間に傍観者たちは大爆笑し、乗ってしまった健太は真っ青になって膝から崩れる。

 「またやっちまった」調子ノリは中学時代の思い出として封印してきたのに、健太は頭上に雨雲を作って打ちひしがれている。ふふん、俺は得意げな顔で相手を見下す。


「健太。俺の勝ちだ。お前のクールな性格は俺の前じゃ通用しない!」


「こ、この野郎……あ、ああぁあああアキラさん! 違うんです! 今のは本当に!」


 作られた性格が剥げ落ち、どんどん素の顔が出してしまうことに健太は焦っているようだった。

 ニマニマと笑っている魚住は「わしはそっちが好きじゃい」なんでもっと早くからその性格を見せなかったのだと告げ、狼狽えている地味不良の首を絞めている。もがいている健太はこんなつもりじゃなかったのに、と嘆きながら四肢をばたつかせていた。

 そんな健太の肩に手を置いて俺はどんまいと声を掛けた。お前のせいだと怒鳴られたのは直後のことだ。


 でも実の話。


「ケン。ヤマトがお前の調子乗りを暴露しとったから、ある程度は皆にばれているぞい。素直に素を曝け出す方が後々のためだと思うのう」


「う、うそ……!」


 魚住からぶっちゃけ話を聞かされ、すこぶる健太が落ち込んでいたのは余談にしておく。

 やっぱ調子乗りはいずればれるんだよ、健太。どんまいだぜ!


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