13.平行線は一捩じりされた



【太陽マーク看板下・某大手電気屋前】



 闇夜を蹴散らすような、ギラギラとした照明灯達を纏っている電気屋前に到着した俺達は早速ヒントを探すために乗り物を降りた。ハジメ曰く、出入り口付近にあるらしいからな。

 出入り口付近を重点的に調べ上げれば、きっと例えば出入り口近く向こうの電柱とか「あッ!」

 俺は思わず声音を上げた。「見つけたか?」期待の含むヨウの声音。残念、俺が見つけたのは……。


「健太……なんで」


「圭太っ、お前なんで此処に」


 不良ジミニャーノの健太。

 俺の姿を見つけた健太はどうして此処にいるんだと五メートル先で立ち止まり、俺を指差してくる。お前こそなんで。待てよ待てよ待てよ。お前がいるってことは……。

 俺達はハッと状況に気付き、「ヨウ!」「ヤマトさん!」早くヒントを探すよう声音を張った。


 そう、健太がいるってことは日賀野達も近くにいるということ。向こうチームも謎掛けを解いて此処にやって来たんだ。

 休戦とはいえ両者の敵チームが顔を合わると、事態は悪い方向へと転がり込む。俺達の声に弾かれた両者チームは急いでヒントらしきものを探す。俺や健太も目を凝らしてヒントを探す。

 「何処だヒント!」荒川チームの俺、「出て来いヒント!」日賀野チームの健太、「返事してくれると思うか?」田山の俺、「だったら苦労しないだろ」山田の健太、なんだか砕けた会話をしながらヒントを必死に探す。


 俺と健太は揃って視線を上げた。

 電気屋の前には等間隔に電柱が並んでるんだけど、その一本は街灯。ながっひょろい銀のボディに不自然なピラピラ紙切れを見つけて「「あった!」」、俺達は見事に気持ちをハモらせる。急いで駆ける俺に、「譲れって!」健太も駆けて俺の足を引っ掛けようとした。

 でも俺も負けちゃいられない。崩れそうになった体勢を整えて、一歩前を走る健太にタックル。一緒にコケた。通行人の邪魔になっているけど、そんなこったぁ知ったこっちゃない!


「放してくれよ! 帆奈美さんが危ないんだっ!」


 健太が切迫した声音を出してくる。勿論、俺は嫌だと大きく拒絶した。


「俺達だって必死なのは同じなんだ! ……人質に取られているのは俺の……俺の、彼女なんだよッ!」


 一呼吸置いて俺は譲れないと健太に懇願。

 思い詰めた顔で見つめ返してくる健太は、クシャリと顔に皺を寄せた。


「圭太……お前……ごめん、ほんとうに悪い。気持ちは察する。でもおれ達も必死なんだ!」


 揉み合いになる俺と健太は近くにいたリーダーにヒントを取ってくれるよう頼む。


「安心しろケイ。ぜってぇ取ってきてやる!」


「ケン、大手柄だ。アキラ! 援護しろ!」


 両リーダーは任せろと言わんばかりに走った。

 魚住がヨウの妨害をしようとするけど、ワタルさんが阻止。シズがヨウを援護しようとしたら、副頭の斎藤が前に出て妨害。某大手電気屋前で喧嘩まがいなことを勃発させる俺達は完全な営業妨害をしているけど、店側は大層迷惑そうな顔をしているけど、構ってられない。

 ヨウと日賀野はほぼ同じスピードでヒントらしき紙切れをキャッチ。セロテープで貼っ付けてあった紙切れを二人が掴んでそのままビリッ――真っ二つに裂かれた。おい嘘だろ……半分に裂かれたってことは。


 一部を握り締めるヨウは中身を開いて舌を鳴らした。

 「読めねぇ」半分じゃ解読不可能だと向こうのリーダーにガンを飛ばす。「それを渡せ」同じく舌を鳴らす日賀野は、半分に裂かれたメモ紙を握り締めて一歩足を踏み出した。冗談じゃないとヨウはメモ紙を握りなおし、そっくりそのまま台詞を日賀野に返した。「それを渡せよ!」


「チッ、休戦つったが貴様等相手じゃそれも長続きしねぇな。荒川」


「同感だな。さっさと渡せ、俺達は一刻も早く仲間を救出しねぇといけねぇんだよ」


 「ヤなこった」日賀野は自分達も同じなのだとガンを飛ばし、渡せと大喝破してくる。「渡すか!」ヨウは負けん気をフルに発揮。両者決して譲ろうとしない。

 青い火花を散らすヨウと日賀野。リーダー二人が喧嘩を起こしたら、それこそチームも一丸となって喧嘩に参戦。某大手電気屋前は大惨事になること間違いない。勿論そんなことをしている場合じゃない。俺達は仲間を救わないといけないという優先順位を持っている。

 おかしいな、気持ちは同じなのに。この瞬間にまでいがみ合うなんて。いがみ合うなんて……いがみ合うなんて。



「こうして衝突するとお互いに負傷。ゲームの勝率は二割減少するでしょう」



 能天気な声を出してきたのは向こうチームメートのひとり。


「アズミさぁ、思うんだけど…、今この時点でヒントを奪っても無意味だと思うよ?」


 バイクに座ってピコピコパチパチとゲームを堪能している女不良のアズミだ。

 両チームの衝突に呆れながら「たっくんラブ!」、キタキタキタと乙ゲーに黄色い悲鳴(おいおい)。

 次いでアズミは俺等と自分のチームを交互に指差す。今の面子じゃ五十嵐にほぼ勝てないときっぱり断言。自分のチームも敵チームも五十嵐にシてやられると肩を竦めた。「犬死にもいいところだよねぇ」はぁっと溜息をついて、後ろ向き発言。


 アズミは単に超乙ゲー好きの二次元ラブちゃん不良だって思っていたんだけど、実は日賀野チームを代表するインテリ不良らしい(嘘だろ。見えねぇって!)。

 ゲームを一時中断すると両チームをこと細かく分析。両チームの特徴を的確に指摘するために、まずは俺達のチームを指差した。


「対峙してる荒川チームは攻撃突破型。アズミ達チームにはない攻撃性、つまり“押し”を持っている。その押しがアズミ達チームにあれば勝率は25%アップ。半々の確率で五十嵐に勝てる」


 次いで自分のチームを指差し、目を眇める。


「アズミのいる日賀野チームは攻撃作戦型。荒川チームにはない作戦と“守備力”を持っている。その守備力が荒川チームにあれば勝率は25%アップ。半々の確率で五十嵐に勝てる」


 でもお互いに不足している。だから各々五十嵐達に勝てる率は25%だとアズミは肩を竦めた。

 どんなにお互いが別のチームと協定を結んでいたとしても、勝てる率は25%から上にあがることはない。

 何故ならば五十嵐達が完全に“今”の自分達を攻略しているから。シビアな現実を口にするアズミは「仲良くすれば勝率も上がるのに」、能天気に欠伸をしつつ助言。


 冗談じゃないと両チームのリーダーは素っ頓狂な声音を上げた。

 「誰が好き好んでこいつと」唸る両チームの片割れ、日賀野はアズミにどっちの味方だと些か不機嫌声で質問を投げる。アズミはむぅっと脹れ、前々から因縁対決に興味などなかったと主張。日賀野に向かって舌を出す。

 ただ今絡んでいるチームが好きで一緒にいるだけ。中学時代の因縁など、自分には無関係なのだと鼻を鳴らした。


 それを言っちまえば俺や健太だって……なあ?

 俺と健太は思わずお互いに視線を向けて、苦笑を零す。


「そうやってぶつかり合い、まーた五十嵐の策略に嵌る。バーカみたいだとアズミ思うんだけど? アズミ、あんま馬鹿なチームに身を置きたくないんだよねぇ。面倒事にも巻き込まれたくないし。こうしている間にも帆奈美姐の助ける時間は削られていく。大敗するのは目に見えている。分かっているんじゃないの? 今のままじゃ勝てないことくらい」


 最初から勝てないチームに身を置くほど、自分も馬鹿じゃないとアズミ。

 本当に負けを覚悟で突っ込むなら、チームを抜けてしまいたいとまで愚痴を漏らす。更にぶっすーっと頬を膨らませて、「帆奈美姐が泣く思いをするよ?」自分のリーダーに意見を述べた。 


「バッカみたいに意地とプライドを取って、仲間を犠牲にするのって変なの。ヤマトも、向こうチームのイケメンさんも、今が何がしたいの? アズミは因縁も何も知らないしカンケーないけど、今の状況を把握することくらい分かるよ。ね、たっくんッ、うっわぁあ! お客さん来たみたい!」 


 一変してアズミが悲鳴、どうやら五十嵐の回し者がやって来たようだ。

 無用な喧嘩は買うだけ体力の無駄。俺達は一旦身を引くために、各々乗り物に乗って撤退。粘着質の高い不良達はヨウや日賀野達といった不良に個人個別に私怨を持っているのか、はたまたそうするよう五十嵐に指示されたのか、バイクに跨って執拗に追い駆け回してきた。


 逃走する大半はバイク組、俺とヨウだけチャリ組。

 前を走るバイクを見送りながら、俺は脇道に入って先回り。「あんま逸れるな」集団で行動したいと指示してくるリーダーに相槌打って、舌を噛まないよう頼んだ。


「あの道を使えば早いから。うっし、気合を入れろヨウ」


「ゲッ……まさか。テメェ、あの階段を」


 ヨウの引き攣り笑いに、「そのまさか!」俺は満面の笑顔で団地に飛び込む。

 この先の四つ角交差点で皆と合流するには、団地の敷地に入って例の階段を下るしかない。そう、決戦の時に使ったあの階段なんだぜ!

 「あそこはムリムリ!」兄貴の懇願なんて聞いちゃられねぇ。俺はハンドルを切って瞬く星の下、夜の空気を切るように――ドンッガン、ガンガンッ、ギャアァアアア!


 悲鳴を上げつつ、ブレーキも悲鳴を上げさせつつ、一気に下ると細い道を突っ切って大通りに戻った。

 「うぇっ」最悪だってヨウは嘆き、おぇっと顔を顰めているけど、ははっ、俺も大概で参っているんだからな! 運転手がいっちゃん緊張するってこと忘れるな!


 先回りをしたおかげで四つ角交差点に差し掛かった俺達の前に逃げて来る仲間達、そして向こうチームのバイクがやって来た。

 「寄せてくれ」ヨウのご命令を忠実に聞く俺は、ちょいと歩道から路面に出て境界線ぎりぎりを走る。エンジン音で声は掻き消えるから、ヨウは指でニケツしてバイクの後ろに乗っているキヨタに指示。その指のサインはヨウが作り上げた合図。脇道に入って撒け、集合場所はあらかじめ設定していた場所だと指示している。

 幸いな事に、街はネオンで満ちていた。指示する指はキヨタの目に飛び込んでくれる。こっちに伝わるようコクコクと大きく頷くキヨタは運転しているシズの右肩を叩いた。

 するとシズがバイクのホーンを鳴らし、他の奴等に合図。了解だとばかりにホーンがやまびこした。「うっし」ヨウは俺に歩道にチャリを戻すよう頼んで、集合場所に向かおうと肩を握り直してくる。


 頷く俺は、一旦歩道に乗り上げると急ブレーキを掛けてハンドルを切った。

 向かうは俺達のたむろ場。あの倉庫は危険だけど臨時避難所くらいにはなるだろうということで、俺達はそこを避難所に指定している。

 何かあればたむろ場に飛び込むシステムを作っているんだ。たむろ場までの道は俺にとって庭みたいなもの。俺は誰よりも早く到着するために、追っ手を振り切りながらペダルを漕いだ。ただただ夜風に乗って、必死にチャリを漕いだ。



 さほど時間も掛からず俺とヨウは一番乗りでたむろ場に到着。

 チャリを倉庫内まで持って行き、薄暗い倉庫の明かりを付けて他の皆が来るのを待つ。程なくしてバイク組の皆も無事にたむろ場に到着した。あー良かった良かった、になれば良かったんだけど……残念なことにオマケもついてきた。


 そう一緒に逃げてい日賀野チーム。

 どうやら追っ手は撒けても向こうチームは撒けなかったみたいだ。次々にバイクが飛び込んでくる。

 人様のたむろ場に対して無遠慮に入ってくる日賀野達は、バイクに降りるや否やヒントの紙切れを渡すよう睨んできた。仲間を助けたい気持ちは同じだから、俺達もバイクを降りてガンを飛ばし拒絶。再び一触即発雰囲気が到来した。


 だけど、ちょい両チームのリーダーの雰囲気が違う。

 ガンを飛ばしているんだけど、何やら互いの本心を探りあうような眼を飛ばして口を閉ざしていた。不意に日賀野が口を開く。


「どーあっても……ヒントを渡す気にはならねぇんだな、荒川」


「ああ。俺達も必死なんだよ。テメェ等と一緒でな。今の俺達の目的はテメェ等じゃねぇ……五十嵐だ。できることならこの衝突は避けてぇ」


「まったくもって不本意だが同意見だ。このまま衝突すりゃどーなるか馬鹿でも分かる。このままじゃ帆奈美も……チッ、ねぇなマジで」


 「ああくそっ」日賀野が盛大に舌を鳴らした。

 ふてぶてしくヨウから目を逸らして仲間内に声を掛けると、たむろ場にいる仲間に連絡を取るよう命令。今すぐ仲間を此処に集わせるよう告げていた。

 向こうと同じ動作をヨウもしてくるもんだから、チームメートの俺等はちょっと困惑。でもすぐにリーダー達の考えが読めたから、黙って指示に従った。従う他なかったんだ。


 指示から数十分後、各々チームメートが此処倉庫という名のたむろ場にやって来る。向こうのチームを見る余裕は無いのだけど、俺達のチームからは情報収集に行っていた弥生や響子さん。たむろ場で待機していたハジメは利二に介抱されながら、倉庫内に足を踏み込んできた。

 全員が揃うとヨウはチームメートを集合させて、「テメェ等の意見を聞きたい」率直に物申す。破れたヒントの切れっ端を手の平に転がし、低いトーンで話を切り出した。


「今、ヒントは俺とヤマトが半分ずつ持っている。奪おうと思えば奪うこともできるが……俺達の怪我は完治してねぇ。ただでさえ不利なんだ。狡い手を使う五十嵐相手に怪我なんざしてられねぇ。此処までは分かるな?」


 俺達は小さく頷く。

 「続けるぞ」ヨウは切れっ端を握り締めて一人ひとりの顔に視線を投げた。


「本来の目的は奴等を潰すことだ。今ここでチームのプライドを懸けた喧嘩もできる。けど状況が状況だ。チームのプライドじゃなく、チームの仲間のために別の道を取ることもできる。特に中学時代の因縁を持つ奴等に聞きたい。どっちがいい? プライドか、仲間か。これは個人的な意見だ。誰も咎める権利なんざねぇ。正直に答えてくれ」


 静かに質問してくるヨウに、高校から絡み始めた俺やキヨタ、タコ沢に利二に弥生は何も言うことはない。言えない。因縁のない俺達は、謂わずも……もう答えが決まっているんだ。


 だけど中学に因縁を持つ面子は一口に「これだ」とは決められないと思う。

 決められないよな。思い思いのこともあるだろうし。こればっかしは途中参加した俺達じゃ答えを出すことはできない。


「分かり切ったことを聞くんだな……リーダー。お前らしくもない。思い付きが十八番なお前なら……仲間のため……意地でも意見を押し通すくせに」


 眠気を吹っ飛ばして、シズの一笑を零す。皆はもう答えは決まっていたみたいだ。

 仕方が無さそうに溜息をつく響子さんは「可愛い妹分を取るに決まっているだろう」、どっちでもいいとばかりにワタルさんはニヤニヤ、オモシロソーなんて言っている。「しゃーないですよね!」不機嫌に腕組みしているモト、「上手くいくとイイケド」苦笑しているハジメ、それにヨウ自身も苛立ちを募らせて「あ゛ー」とか唸っている。


 でも皆、答えは決まっているんだよな。

 現状を目の当たりにして、肌で体感して、タイムリミットを気にして……今、何をすべきか、ナニが大事か分かっちまっているんだよな。

 皆、俺にとって大事な仲間だ。迷わず仲間を選択してくれる……大事な……。


 誰も何も言わないその結論。

 謂わずも理解しているヨウは、ほんとうのほんとうにイヤーな顔をしつつ向こうチームに視線を飛ばす。

 丁度向こうも話に区切りが付いたみたいで、ヤーな顔をした日賀野が溜息をついて、また溜息をついて、んでもって「最悪」悪態を付いて歩み出す。


 両者十メートルくらい歩んで立ち止まると、まず睨んで、次に大きくも大袈裟に溜息。

 「アリエネェ」「黒歴史追加だ」本音を呟いた後、視線を戻して舌を鳴らし合った。刹那、地を蹴ってヨウに日賀野に向かって拳を振るう。受け流す日賀野はヨウに膝蹴りをお見舞いしようとするけれど、我等がリーダーはそれを両掌で受け止めて見せた。

 いきなり勃発する喧嘩だけど、喧嘩じゃないと分かっているから両チームはリーダー達を止めない。止めないんだ。


「条件その1! 少しでも俺の仲間に何かしやがったら、テメェを真っ先にシメる。いいな、ハイエナ!」


 ふわっと赤メッシュの入った金髪を風に靡かせて、相手の腹部に肘打ちするヨウ。


「条件その2。和解するわけじゃねぇ。一度っきりだけあの頃に戻ってやる。不本意だが状況が状況だからな。いいか、勘違いはするな単細胞」


 びゅんっと左足を振り、青メッシュの入った黒髪を宙に舞わせて、相手の背中に蹴りを入れる日賀野。


「条件その3。俺達は負けの喧嘩にもゲームにも興味はねぇ!」


 闘志を剥き出しているような赤々としたメッシュが動きに揺れ、


「少しでも足手纏いなことしやがったら容赦しねぇ」


 秘めた闘志を表しているような青々としたメッシュが大きく宙に舞い、「ヤマト! 組むからにはぜってぇ」「勝つ気でいろ。荒川!」パンッ、互いの利き手拳を受け止めてガンを飛ばし合うリーダー二人。


 それは中学時代以来、そして俺にとって初めて条件付き協定が成立した瞬間を目にする。

 グループだった頃からいがみ合い、憎み合い、チーム結成後。本格的に潰し合いをしていた両チーム。そのチームが亀裂を乗り越えて協定を結ぶ。 五十嵐を潰すまでという短いスパンではあるけれど、確かに対峙してしていたチームが一つになった。誰が予想をしていただろう? こんな未来。こんな展開。こんな光景。


 リーダー二人はバッと相手の手を振り払って後ろに飛躍。

 一旦距離を取ると、一呼吸置いて持っていたヒントの切れっ端を突き出した。クシャッと曲がった切れっ端を突き出して、荒々しくもぞんざいに重ね合わせる。そっと書かれていた文字を読み上げ、二人はチームメートに聞こえるよう声を出した。

 五十嵐が俺等に出したヒントは『漁夫因 縁』変な四字熟語だけど、中学時代に関わっているヨウや日賀野その他不良には一発で分かったらしい。


 俺も薄々とは分かったよ。

 漁夫は『漁夫の利』の略語、つまりヨウ達が使った『漁夫の利』作戦のこと。そして因縁はその作戦が使われた場所のこと。そう、五十嵐は決着の場所として。



「ケッ、因縁の場所でケリを着けようってか」


「ッハ、随分と最高のショーにしてぇようだな。自分の墓をまたあの場所……“港倉庫街”を選ぶとはな。五十嵐」



 不敵に笑うヨウと日賀野、その笑みはまさしく勝機に満ちていた。




 始まる。

 中学時代に一つのグループとして動いていた荒川庸一と日賀野大和が手を結んだ反撃が。

 これまでにない力で五十嵐竜也に喧嘩を売る、二つチーム合わさった反撃が始まる。


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