№06:売られた喧嘩は買うのが礼儀

01.Twitter中毒



【ツイッター中なう】



いがらし(@×g●×g●)プロフィール

⇒取り敢えず、毎日を平々凡々に生きてる男。刺激を求める夢追い人。刺激ある喧嘩を求め㊥

最近、とある不良どもを喧嘩の舞台に誘って遊んでるw



[タイムライン(↑古新↓)]


@×g●×g● いがらし

wktk(ワクテカ)キタ。これからちょいと復讐喧嘩に行って来るw作戦決行してくるなうw

(××日前)



@×g●×g● いがらし

馬鹿どもが踊らされてドンパチしてるなう、見るだけで満足してきたw

ここまで踊らされてるとこれはこれでヤッてやったぜ的気分w帰ろうかなぁwww

(××日前)



@h●r×h×r● ふるわたり

@×g●×g● ちょwww見るだけ見て終わりとかwww計画変更とかないわw 

真面目にお仕事してきてくらはい\(^^) /

(××日前)



@×g●×g● いがらし

h●r×h×r● うぃっす、がむばってきますwww

(××日前)



@h●r×h×r● ふるわたり

@×g●×g● 楽すぃ報告まってますわ(^з^)-☆Chu!! 

(××日前)



@×g●×g● いがらし

三階に上がりあがり㊥。おっと、踊らされていた馬鹿リーダー二人発見。すっごい形相だw

(××日前)



@×g●×g● いがらし

ほぉら、『漁夫の利』作戦が始まった。

馬鹿どもはどよめきと悲鳴を上げ、傷付いて行く仲間に対して心を痛める。それが奴等の最大の強みであり弱点でありなう。

(××日前)



@×g●×g● いがらし

これにて『漁夫の利』作戦は幕引き。

ククッ、だがこれで終わらせないぜ。仲間ごっこしている奴等を完膚無きまでに叩きのめす。それが俺の最大の復讐であり、今一番熱中しているゲームだ。

(××日前)



@h●r×h×r● ふるわたり

@×g●×g● こwわwいwwwww

(××日前)




 ツイッターのタイムラインを見返していた古渡はクスリと笑声を漏らし、足を組んで柔らかな太腿に肘を乗せて頬杖。

 「更新率高いわ」ソファーに流し目、寝そべっている五十嵐にツイッター中毒者と皮肉る。ツイート数も軽く四桁は超えているではないか。まだ始めて一ヶ月も経っていない筈なのに。熱中し始めたら徹底的にのめり込むのだから感服してしまう。一日のツイート数を教えて欲しいもの。

 と、タイムラインが更新された。



>>@×g●×g● いがらし

そんなにも褒められると照れるんだぜw

(15秒前)



 わぁお、言葉でなくわざわざツイッターで返答。

 なんのためのお口だろうか? こんなにも傍にいるというのに。中毒者め。

 心中で毒づきつつも古渡はクスクスと笑い、携帯を閉じるとソファーに寝転がっている五十嵐に歩み、スペースの空いたソファーにどっかり腰掛ける。浮き沈みするなめし皮ソファーはギッ、ギッ、と軋んだが古渡は気にすることなく、染まった長い銀髪を骨張った指に絡ませた。

 「これからどーすんの?」漁夫の利作戦を成功させた我等がチームの頭に質問を飛ばしてみる。

 まさかこれで終わるのか? だったらツイッターで呟いていた言葉は嘘であり、自分とその他仲間をぬか喜びさせるだけなのだが。


 すると風船ガムを膨らませた五十嵐が、それを自分の舌で割り、弄くっていた携帯を閉じるとガムを口内に戻す。


「終わるわけねぇだろ。高校に味わった雪辱を晴らすまでは執拗に甚振ってやるさ。特に荒川と日賀野は容赦してやんねー。ったく、今も思い出しただけで腹立たしい。あいつ等がいなかったら、地元で悠々でかい面できたっつーのに」


「何処の王様気分? 元はと言えば、竜也があの二人のいるグループにちょっかい出し始めたのが原因でしょー? 竜也が気に食わない理由で仲間を弄った。だからしっぺ返しの『漁夫の利』作戦を喰らった。でしょ?」


 意地悪く鼻で笑ってやれば、五十嵐はぶうたれる。眉根を潜めたままぶっきら棒に言葉を返してきた。


「俺は、今まで上手くいかない事の方が少なかったんだよ。言うなりゃ人生の勝ち組ってヤツ? 思い通りにならなかったことも少なけりゃ、俺に逆らう奴もそうはいなかった。別に厨二病発言をするわけじゃねえが、『力量さえあれば他人なんざ意のまま』だと思ってきた」


「うっわ。引くんだけど」


「……あ? 十二分に厨二病だって言いてぇのか? んじゃ、それでいい。とにもかくにも力量あってこその世の中だと思うわけだ。厨二病らしく言えば、『クハハッ、所詮この世は弱肉強食! 強ければ勝ち、弱ければ負け!』だ……漫画っぽい台詞? そりゃ俺流に言葉は換えたが、これ、どっかの漫画キャラが吐いていた……って、どうでもいいだろうそんなこと。弱ぇ奴なんざ、弱いから悪い。気弱だから苛められたり、ストレス発散道具として扱われている。それが当たり前だと思っていた。力量のある勝ち組のために存在してくれるとさえ思っていたぜ」


 語り部が古渡の豊富な胸に目を向ける。

 舌なめずりをしている時点で揉んでやりたいなどと下心を持っているに違いない。このスケベめ。


「結局のところ何が言いたいかって言うと、俺は勝ち組だって自負していたし、今の今まで大敗したことがなかった。奴等が『漁夫の利』作戦を決行しなければ、敗北の『は』も知らなかった。

けど俺は負けた。向こうの見事な戦略で大敗も大敗。狡かろうが何だろうが、中坊に負けたのは油断していた俺に敗因がある。あの時の大敗は俺にとって人生最大の屈辱。レッテルを貼られた気分だった。しかも仲間ごっこしている不良達に負けた。プライドがズタズタに引き裂かれたぜ」


 伸ばしてくる疚しい手を叩く。

 どさくさに紛れて、美味しい思いをしようとしてもそうは問屋が卸さない。


「奴等ほど仲間ごっこしてる奴等はいねぇ。ある程度の仲間は、互いの利得のために必要不可欠だろうが『友情』なんて反吐の出る情をにおわせている奴等に負けたなんて、胃袋が捩れそうだった。ああいう甘っちょろい奴等は嫌いなんだ、俺は。仲間がヤラれたから、どんな手を使ってでも勝とうと仇討ちしてきたあの中坊達。バッカみてぇなことしてくれた奴等に負けた俺。惨めなうなう。あ、過去形か。作戦成功のおかげさまで幾分気分が晴れたしな」


 しかし、それはあくまで“幾分”だと語り部は言い切る。

 完全に気が晴れるまで、何度も甚振るつもりなのだろう。何度だって絶望をあわせるつもりなのだろう。恐ろしい男だと古渡は口角を持ち上げた。


「すべてが終わった時、俺はもういっちょ思い通りに地元の不良達を甚振ってやろうと思う。これでも俺、ヤラれる前まで地元の不良には恐れられてた存在なんだぜ? 地元は俺のもの……ってな」


「厨二病っていうより、ジャイアニズムよ。竜也のその発言。で、これからどーするの?」


「誰よりもあの二人を甚振ってやりてぇからな。奴等のいっちゃん精神的ダメージになりそうなことを起こす」


 例えば、日賀野大和はセフレを随分大事にしているそうだ。

 輩のセフレの名前は小柳帆奈美、荒川庸一の元セフレだった女。風の便りによると荒川庸一も、未だにその女に未練があるらしい。

 それから荒川庸一自身は『漁夫の利』作戦で性格をよく理解した。輩は舎弟を何よりも心の支えにしている。目の前で随分と嬲ったが、あれほど取り乱すとは思わなかった。予想外だった、仲間、特に舎弟を支えにしているのだと五十嵐にはすぐ分かったのだと言う。


「地味っこいあれが支え。ッハ、笑えるぜ。直海、小柳帆奈美と荒川の舎弟をマークしろ。ありゃ特に使える」


「リョーカイ。私もちょい興味あったんだよねぇ。荒川の舎弟……正確には荒川の舎弟と繋がっている彼女の方だけど」


 古渡は嫌味ったらしく口角をつり上げ、形の良い上唇を赤い舌で舐めあげた。

 根暗のココロのくせに彼氏、仲間、ずいぶんと楽しそうな玩具を持ったじゃないか。また自分に苛めて欲しいみたいだ。根暗のココロを一丁苛めてみようか、クスリと笑声を漏らす古渡は、早速行動に移ると携帯を弄くり始める。ゲームは熱中している間に長くながく楽しみたいから。

 「仕事熱心で助かる」五十嵐はガムを噛みながら古渡に一笑。「楽しいことは好きだからね」ウィンクすると、ソファーで寛ぐ五十嵐が再び携帯を開き始めた。ツイッターで心境でも呟くつもりなのだろう。古渡は肩を竦めて自分のすべきことを脳内で考える。すべては己の快楽のために。





「あーあーあ、義兄さん。調子付いてきたなぁ。これだから不良って奴は」


 塾から帰って来た須垣誠吾は廊下の壁に背を預けて彼等の会話を盗み聞きし、ヤレヤレと肩を竦める。

 須垣誠吾と五十嵐竜也は二つ違いの異父兄弟だった。家庭事情により別々の屋根の下で暮らしているが、ちょいちょいこうして義兄が我が家に押し開けて寛いでくる。十中八九、自分に仕事を与えるためだろうけれど。

 義兄がこんなジコチュー不良なため義弟の自分は何かと苦労している。


 眼鏡のブリッジを押し、「早く全部が終わらないかなぁ」誠吾は小さく吐息をついた。



「僕はウンザリなんだよ。義兄さんの傍若無人っぷりには」



 大体荒川と日賀野が仲間を率いて義兄に喧嘩を売らなければ、勝利しなければ、こんなメンドくさいことにはならなかったのだ。とはいえ、義兄がこうも上手くいっていると腹立たしい。少しはその鼻、へし折ってやりたい気分だ。今は従順なよき義弟を演じてやっているが――。


「すこーし義兄さんに刺激を与えてあげてもいいかな」


 黒く忍び笑いする誠吾は義兄に気付かれぬよう抜き足差し足忍び足でその場を立ち去る。

 あくまで表向きでは演じてみせようじゃないか、義兄の成り下がり義弟を。水面下では、さあ、どう本性を秘めておこうか――?


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