05.満月の夜の約束




 ◇ ◇ ◇



 どうも田山圭太です、今日はテンション低いです。最高にローテンション極まりないです。

 原因はハジメ、のこともそうだけど、その周りのことでちょっといざこざが。


 取り敢えず、あの後の話を簡単に説明したいと思います。


 あの夜、ハジメは地元の総合病院に搬送された。 

 救急車に運ばれる光景を目の当たりにするなんて初経験だった。それが自分の友達なだけに心境は極めて複雑だったよ、ほんと。

 俺等は一旦着替えを済ませるために各々自宅へ。さすがにずぶ濡れのまま病院に行くわけにも行かず、着替えてハジメの待つ病院に行くことにしたんだ。一刻も早くあいつの容態を知りたくて、俺等チームメートは全員で病院に向かった。


 だけど……病院で待っていたのは、なんとハジメの両親。  

 連絡を受けて病院にやって来たんだろうけど、俺等が来るなりハジメの両親は不良達を責め立ててきた。ハジメを駄目にした人間がよくもまあ、ノコノコと現れてくれただの。訴えるだの。これ以上息子を駄目にするなだの。散々ハジメの両親から文句を言われて、結局ハジメに会えず仕舞い。容態も分からず仕舞い。追い帰されちまった。


 そして、これはもう笑うしかない。

 向こうは弁護士をしているみたいで、法律に則(のっと)って訴えてやるだの癇癪を起こしてきたんだ。高校生相手に。親馬鹿というより、モンスターペアレントを目の当たりにした気分。脅された恐怖よりも、この人達がハジメの親なのか……そりゃハジメも肩身を狭くするよな、と揶揄したくなる気分になった。

 ハジメの両親は、特にハジメを不良に引き込んだヨウを責めて立ててきたんだけど、あいつは負けん気が強いからこう一喝。


「偽善な親面しやがって。ハジメに自分達の理想を押し付けて、あいつを散々苦しめていたくせにテメェ等があいつの何を知っているんだ。あいつがどんだけ苦しんでたと思う? あいつの素さえ見なかったテメェ等なんざ、ちっとも怖かねぇよ。訴える? いいぜ、訴えろよ。受けて立ってやる。テメェ等がどう言おうと、俺等の繋がりは俺等にしか断ち切ることができねぇ。エリート弁護士様じゃ一生掛かっても無理だ。絶対に。

 寧ろ俺はテメェ等のような親を持ったハジメを同情しちまうぜ。さっさと手前の理想なんざ捨てて、ガキの素を見るようプライドなんざ捨てろよ。ハジメは俺等の仲間。あいつが俺等を呼べば、俺等は何度でもあいつの前に現れる。大事な仲間だから」


 「ッハ、胸糞悪い大人だぜ」弁護士相手に堂々吐き捨てたヨウは俺等に行くぞ、と声を掛けて、ハジメの両親に背を向けた。

 どうせ此処で対立しても会わせてもらうことは出来ないし、病院にも迷惑を掛けると分かっていたんだろう。後日ハジメに会いに行く、俺等に言ってハジメの両親を睨んだ。

 ああいうタイプの大人ほど、ヨウは嫌悪感を抱くからな。顔を合わせるのも嫌だったんだろう。俺達は黙ってヨウに従った。


 後日、病院を訪れてみれば……はあ? マジかよ! な気分になった。

 なんとハジメは両親の金の力によって別の病院に移されていたんだ。俺等と縁を切らせるために、惜しみなく病院を変えてしまった。何処の病院に移されたのかと看護師さんに聞いても、キツク口止めされているのか一向に教えてくれなかった。

 これにはヨウも仲間も怒り爆発。なんで大人ってこうなんだ大人って汚ぇ! 息子の友達のことで親が干渉してくるなんて、どうかしている! 親馬鹿過ぎる! たむろ場で散々文句を吐いていた。


 そんなこんなで数日、俺等のチーム内は荒れ狂っていた。

 誰もが苛立ったり、悲しんだり、辛酸を味わうような顔を作っていたり。

 特に弥生はハジメの容態を気にしているのか、たむろ場に顔を出しても口数は少なかった。誰よりも弥生に会わせたいのに、なんてこったい。ここで親が出てくるなんて、しかも金と権力の力で病院を移されるなんて、大人の汚い面を垣間見た気がする。予想だにしてなかった、こんな未来。

 あんな親を持つと、ハジメも捻くれたくなるよな。不良にもなりたくなるよな。うん、納得。


 このまま一生この空気が続くんじゃないかと俺は懸念してたんだけど(空気が重いのなんのって集まっても全然会話がねぇ!)、空気を打ち崩してくれたのは弥生だったんだ。

 チームのムードメーカーの弥生は弥生なりに、チームの皆を気遣わせたくなくて、「きっと戻って来るよ!」ある日、俺達に元気よく宣言。笑顔を振り撒いて、大丈夫だと明るい空気作りに努めていた。


「だってハジメ、あんなにボロボロな状態でも戻って来たんだよ? だからきっと、戻って来るよ! 一旦離脱するだけって言ったんだし……元気になって、おどけた口を利きながら私達に『やあ待たせたね』とか言うんだよ。それまで私達で頑張らないと! ……そうだよ。ハジメをあんな風にした奴等を探さないと。そして、とっちめてやるんだ。ハジメの携帯に出た、あのクソ女に私、張り手を食らわせてやりたい」


 引っ叩いてやりたい、笑顔を作っていた弥生は一変して涙声。それでも笑顔を崩さないよう頑張っていた。


 こうして弥生が空気を打破してくれたおかげで、チームもいつもの空気を取り戻して当初の目的を見定めた。  

 そう、対立している日賀野チームへの決着。ヨウも俺達も一連の事件は向こうチームが関与しているんじゃないかと推測していたんだ。以前、ハジメは喧嘩の腕の無さで狙われたんだし、それをよく知ってるのは向こうチーム。

 こっちの神経を逆立てるようなゲーム感覚の喧嘩を贈ってくれたんだ。奴等に違いない。


 分かっていたからヨウは言ったんだ。「終わらせよう」と。


「もう……なあなあにして決着を先延ばしにするのはやめよう。先延ばしにすればするほど、この対立は周囲に茶々を入れられるから。ヤマト達と決着をつけよう。因縁の関係に終止符を打つ時が来たんだ」


 そう語るヨウの眼差しは強い光で満ちていた。

 必ずハジメの仇をとる。そう言わんばかりの光を瞳に宿らせて、ハジメの事件と平行して日賀野大和達を討ち取る準備をすると俺達に告げた。皆はそれに賛同していたし、俺も異存はなかったけど、その前に俺は舎弟として舎兄にやらなきゃいけないことがあるみたいだ。


 分かっちまったんだ、ヨウが無理していることが。

 人前じゃ一切弱音と本音を見せない、リーダー面してるヨウが……実は誰よりも無理しているんだって分かっちまった。

 ハジメのことを想っている弥生は散々気持ちを吐いてたから、幾分マシになっているみたいだけど、ヨウはそうじゃない。ハジメの無残な姿を目の当たりにしても、気持ちを吐くことはなかった。

 あいつは過度なまでに物事を背負う一面があるから、無理をしているんだと分かっちまった。雰囲気で、なんとなく、な。 


 ヨウの無理をしている様子に数人は気付いてたみたいだけど(シズとかワタルさんとか響子さんとか)、敢えて口を出さず、舎弟の俺に仕事を託してきてくれてるみたい。自分達は一切口を出そうとしなかった。

 ああ見えてヨウもプライドが高いからな、簡単には弱さを曝け出さないだろう。チームのリーダーだと念頭にもあるから、皆の前じゃ強がりたいのかもしれない。

 だから俺はメンバーがいない、それこそ二人きりになれる時間を探すことにした。




 ヨウと二人きりになれたのは満月が顔を出している夜のこと。  

 今日はこの辺で解散、その言葉によってチームメートは各々帰宅して行ったんだけど、倉庫裏でチャリの鍵を解除している最中、薄汚れた窓の向こうでいつまでも動こうとしないヨウの姿を見つけて帰宅を中断。


 倉庫に戻って、壁に背を預けて胡坐を掻きながら煙草をふかしている舎兄に歩み寄った。 

 古びた照明を見上げているヨウは俺の気配に気付くことも無く、短くなっていく煙草の灰をろくに落としもせず、物思いに耽っている。

 俺は舎兄の隣に腰を下ろして、放置されているひしゃげた煙草の箱を拝借。煙草を一本抜き取って、同じ場所に放置されている百円ライターで先端を焼いた。人生二度目の煙草チャレンジ、不良チャレンジは、一度目と同じくあえなく撃沈。盛大に咽た。

 くっそう、やっぱ俺、不良になれないみたいだ。煙草って何がいいんだよ。にっげぇだけだし! 田山圭太の舌はお利口な作りをしてるみたいだから、煙草の味が受付けられねぇ!


 さすがに舎兄も気付いたのか、「何しているんだ?」それ俺の煙草だし、ヨウは俺の様子に微苦笑を零していた。

 うぇっと舌を出して、煙草の不味さと格闘している俺は涙目になりつつ、「一緒に一服したくてさ」こうして吸っているんだと舎兄に笑ってみせた。「そうか」目尻を下げるヨウだけど、その顔にいつもの元気は見えない。


 二人っきりだということもあって幾分素を出しているみたいだ。まだ我慢はしているみたいだけどさ。

 ふーっ、俺は紫煙を吐き出して小さく笑みを作った。


「そうリーダー面しなくてもいいじゃんか。今は舎兄弟の時間を楽しもうって。俺とお前しかいないんだから」

 

「んな顔をしているか?」


「自覚が無いなら、お仕事熱心にも程ありますよ兄貴」


 「どーしたんだ。元気ないぞ」ポンっと肩に手を置いて、俺は率直にヨウの気持ちを聞く。

 まどろっこしい遠回しな尋ね方より、こうやってストレートに物を尋ねた方が舎兄にも気持ちが伝わりやすいと思ったんだ。

 それに、お前が教えてくれたんだぞヨウ。心配よりメーワクを掛けろって……落ち込んでいる俺にお前が教えてくれた。今度は俺の番だ。ヨウが俺にメーワクを掛ける番なんだよ。


 此処には誰もいない、俺とヨウの二人だけだって再三再四教えてやる。

 少しくらい気を緩ませてもいいんじゃないか、俺はお前の舎弟。背中を背負(しょ)ってるんだ、半分くらい分けろって。お前の今の気持ち。俺の言葉にヨウは力なく笑って銜えていた煙草の灰を地に落とした。


「なんか……怖ぇんだ。すっげぇ怖い」


 何が怖いのか、ヨウは具体的なことを教えてくれない。いや、言葉が見つからないのかも知れない。

 怖いんだと恐怖を口にするヨウに、「ハジメのことか?」言葉を重ねて質問。生返事を口にして、舎兄は煙草を銜え直した。


「ハジメを守ってやれなかった。俺、あいつに言ったんだ。誰が欠けても嫌だって……なのに守れなかった。リーダーなのに」


「馬鹿。お前のせいじゃないって。あれは……ハジメを襲った奴等が悪いんだ。ハジメを利用したかったんだろうけど、あいつにもプライドがあるからさ。チームのため自分のために……逆らう道を選んだんだ」


「仲間を守れないリーダーなんてリーダーじゃねえ」


 ヨウは自分を諌めるように吐露、言葉を吐き捨てた。

 ハジメに重傷を負わす前に、助けられる手立てがあったんじゃないか。もっと別の道があったんじゃないか。項垂れるヨウは堰切ったように俺に気持ちを吐いた。腹の底から搾り出すように、自身を苦しめている気持ちを吐き出し始めた。

 怖いんだと繰り返すヨウは、「大事な仲間を失った」クシャッと顔を顰める。

 一時的な離脱とはいえ、この場から気の置けない仲間が消えてしまった。こんな思いをこれからも重ねていかなければいけないのか。それが怖い、ヨウは恐怖の正体を口にする。自分でも納得したように、仲間を失う事が怖いんだと俺に吐き捨てた。


 見てられないほど舎兄は震えていた。いや、俺と同年代の男子が震えていた。仲間を失った恐怖に、ただただ震えていた。

 ヨウは喧嘩に強い不良、容姿も抜群のイケメン不良、でも中身は俺と変わらない……ちょい大人ぶった同級生。友達を失った(そして本当に失うかもしれなかった)、現実に堪えかねて震えている。


 こんなにも苦しい思いをするなんて思わなかった、ヨウは銜えていた煙草を落とす。

 それを拾うこともせず、「誰も失いたくねぇんだ」チームの誰彼が大事だから失うことが一層怖い。辛酸を味わうように言葉を漏らすヨウ。リーダーとしてこれからチームにできることはなんだろう、なんて漏らしている。ヨウこそ、自分を捨てそうな気がして聞き手の俺の方が怖くなった。

 「ヤだぞ」俺は思わず震えている舎兄に意見する。


「俺だってヨウと同じだ、仲間を失いたくない。ヨウを含む仲間を失いたくないし、傷付くのだって見たくない。ヤだからな、ヨウ。リーダーだからって自己犠牲するのだけは、絶対ヤだからな」


「……そんなことは思ってねぇけど」


 思っているだろう、その態度。やっぱり、そんな馬鹿なこと考えていたのかよ、お前! 

 意表を突かれたような顔を作ってるヨウに、「そんなことをしたら許さないからな!」肩を掴んで自己犠牲になるようなことだけはやめてくれと懇願。

 確かにリーダーはチームを纏める頭だ。それは認めるよ。でもチームメートのために、先陣を切って自己犠牲になるような役割を持っているわけじゃないだろ。ハナっからチームの自己犠牲になるための頭なら、そんなリーダーなんていらない。

 「お前がそのつもりで考えているなら」俺はヨウの肩を握りなおして、小さく笑って見せた。


「俺がその役目、受け持つ」


 ヨウの体が一際震えた。俺の腕を握って首を横に振る。


「馬鹿言うな。テメェはたかがチームメートにしか過ぎないだろ。喧嘩もできねぇくせに……引っ込んでろよ」


「だけど俺はヨウの舎弟だ。所詮チームの“足”にしかならない俺だ。お前の思う役目は弱い俺が引き受けた方がチームのためにもなるだろ? もしもの時は俺がお前の役目を引き受けるよ。ヨウ、お前はチームのリーダーだぞ。お前がいなくなったらチームは困る。でも俺がいなくなってもチームは困らない。俺の代わりなら……代わりの舎弟なら幾らでもいる」


 「ざけるな!」俺の胸倉を掴んで引き寄せてくるヨウは絶対に許さない、鋭い眼光を舎弟に飛ばしてくる。そんなの許すわけ無いだろ、チームに使える使えないの問題じゃない。大事な仲間がチームから消えるのが嫌だとヨウは怒声を上げてきた。

 「分かれよ。どうして分からないんだよ……舎弟のクセに」テメェを含む誰もが大事なんだと睨んでくるヨウ、俺は柔和に綻んでやった。


「ほらヤだろ?」


 そう言って掴まれている胸倉をそっと放させると、ヨウの首に腕を回して、「俺もヤなんだよ」舎兄と同じ気持ちなんだって教えてやる。

 一気に相手の怒気が霧散、零れんばかりに目を見開くヨウは俺の顔を凝視。そんな舎兄を余所に俺は舌に馴染みつつある煙草の灰を地に落として、ゆっくりと銜えた。


「嫌だよ、チームの誰が欠けても……ヨウが欠けても。俺は嫌なんだ。だって皆、大事なチームメートだから」


 これからどうすりゃいいか俺にも分からないし、先行き不安なチームは大きな危険にだって直面するかもしれない。

 けどヨウは一人じゃない。舎弟がいる。仲間がいる。ヨウを信じているチームメートがいる。一人で背負い込まなくていいじゃんか。皆の前で強がるリーダーでいたいなら、せめて舎弟の前だけでも舎兄の素の顔になって欲しい。

 舎弟は舎兄の背中を預かる役なんだ。だったら俺に背中を預けて、少しは気持ちを楽にしたらいいと思うんだ地味くんは。  


「俺は最後までお前についていく。そう言ったよな? 何があっても、お前についていくさ。こういう辛さは折半だ。ハジメのことも……責任を感じているなら、俺も一緒に背負うよ。なあ? 兄貴。そんくらい弱い舎弟くんにだってできることだろ?」


「――るっせぇよ、格好つけ。地味不良のくせに一丁前なことっ……言いやがって。俺っ、ダセェだろうが」


「胸を貸してやってもいいよ? 俺ってイケメンね!」


「うるせぇクソ野郎」


 地味だの格好付けだの散々悪態を付いてくるヨウは、立てた片膝を抱えて張り詰めていた糸が切れたように項垂れる。 

 俺の腕を払うこともせず身を震わせているヨウはダンマリになって暫くの間、口を閉ざしてしまった。隣から聞こえてくる微かな嗚咽には幻聴だと思い込む。夜風のさざめきだと思い込むことにした。なあんも聞かなかったことにして、俺は銜えていた煙草を指で挟み、ふーっと紫煙を吐き出す。


 あ、やっべ、結構慣れてきたぞ煙草。喫煙者になりそうで怖いな。

 今日限りでやめておかないと、近未来の俺は煙草に小遣いをはたくことになる。最近、煙草も値上がり傾向だからな。なるべくは喫煙者になりたくないんだ。喫煙する場所も限定されつつあるし、煙草の臭いって結構人から嫌がられるからな。


 まあ、なったとしても仕方がないか。

 不良の舎弟をしているんだし、なったらなったで仕方が無かった、で割り切ることにするよ。

 ジミニャーノではあるけど、仲間に認められちまったおめでとう地味不良くんだもんな。傍から見れば一応不良、なんだろうな俺も。


 軽くヨウの肩を叩き、相手の気を落ち着かせながら俺は煙草の灰を地面に落とす。

 制服に染み付く煙草の臭いと宙に消える紫煙。短くなる煙草の先端を見つめながら、俺はただただ舎兄の傍にいた。リーダー面も何も作っていない、素の顔を曝け出している友達の傍にいた。


 どれくらい時間が経ったのか、一本目を吸い終わった頃、弱々しい声でヨウが俺の名前を呼んでくる。

 間髪容れず返事をしたら、「少し疲れたんだ」蚊の鳴くような声で弱音を吐いてきた。頭がパンクしそうだと苦言、現実が辛過ぎて感情処理が追いつかない。どうすればいいのかも分からない。仲間を失った喪失感ばかりが胸を占めている。

 ヨウの弱音に一つひとつ相槌を打って、「背負いすぎているんだよ」俺は改めてヨウの“過ぎる”面を指摘。


 悪いとは言わない。そういう面はヨウの長所だと思う。

 でも同時に短所だと思うよ。疲労を感じているということは、過度なまでにヨウが現実に責任を感じて背負い込んでいるということだ。これはヨウだけの責任じゃない。皆で歩んだ結果がこんな未来を呼んだ。ヨウだけの責任じゃないんだよ。


 だけど十分承知の上で、皆、チームに身を置いている。お前について行っているんだ。

 俺の励ましに、スンっと洟を鳴らしてヨウは不安を口にする。


「なあケイ……ハジメは戻って来るよな」


 本当に仲間は戻って来るだろうか……小さくて淡い不安を口にしたヨウは顔を顰めた。

 「当たり前だろ」俺はコンマ単位で即答してやった。


「戻って来るよ。あいつは此処が好きなんだから。一時離脱するだけって言っていただろ? ハジメは持ち前の頭脳で親なんて障害はひょいっと飛び越えて戻って来る。付き合いの長いお前が信じてやらないでどうするんだよ。待とう、ハジメの帰りを」


「……ケイはいなくなるなよ。頼むからテメェまでいなくなるなよ」


 不意打ち食らう俺はキョトン顔でヨウを見つめた。けれど向こうは真剣だ。表情が険しい。


「大事なメンバーがいなくなって俺はこのザマだ。舎兄が支えにしている舎弟までいなくなったら、俺はマジでどうすりゃいいか分かんねぇんだ。テメェは俺に言ったな。最後までついて行くって。じゃあ、守れよ。最後の最後まで俺について来いよ。俺に言った言葉、ぜってぇ守れよ。男に二言はねぇからな」


 いつもの勝気口調に戻るヨウは、「テメェのことを信じているからな」俺を見据えて最後までついて来ることを約束するよう言ってきた。

 うっわぁ、めちゃくちゃプレッシャー掛けてくるな、俺の舎兄さまも。

 だけど彼の言う通り。ついて行くって言ったのは誰でもない俺だ。口先だけなんて格好悪い。「ああ」約束だ、俺は目尻を下げてヨウに右の手で拳を作ると、それを舎兄に向ける。 


「怪我をしたって、這ってでもお前について行くさ。俺はいなくならないよ。ヨウも、勝手にリタイアするなよ。ついて行く相手がいなくなったら、俺も、チームも、路頭に迷うじゃん。それと自己犠牲思考は捨てろよ? 皆で頑張るんだ。何のためのチームだよ」


「言ってくれるじゃねえか、ケイ。俺がリタイアするわけないだろ。俺もいなくなんねぇ。それに……テメェの言う自己犠牲思考は捨てることにする。あくまでチームだよな、俺等は。チームで終わらせるぞ、この対立」


 コツンと俺の拳に自分の拳を当ててくるヨウは約束だと泣きっ面ながらも綻んで見せた。

 あーあ、泣きっ面にイケメンじゃあ、その容姿も台無しだな。ほんと友達にしか見せられない酷い顔だぞ、イケメン不良くん。いや、お前にとってイケメンなんてオマケ的存在なんだろうな。



 ヨウ。

 最初こそお前を恐がっていた俺だけど、今ならお前を堂々友達だと言えるよ。

 お前は学校一恐れられている着飾った不良。日陰男子の俺とは対照的なドハデ日向男子。だけど、俺と同じ高校生。中身は俺と同い年。俺と同じように不安や弱さ、そういった心を持つ……俺の大事な友達。

 お前は俺の大事な友達だよ。胸を張って言える。


「ヨウ、終わらせよう。この対立、因縁、諍い。全部、ぜんぶ……終わらせような」


「ああ、終わらせるぞ。これ以上、ハジメみてぇな犠牲者を出さないためにも、すべてを終わらせる」


 荒川庸一は俺、田山圭太にとって、大事なだいじな友達だ。




 ◇ ◇ ◇




【某区二丁目路地裏】




「――アキラっ、おいアキラっ。ホシ! 何があったっ、おいホシ!」




 数日前の暮夜(雨天)。

 バーで寛いでいたヤマトは仲間の緊急連絡により、某区二丁目の薄汚れた路地裏に駆けつけていた。彼が目にしたものはボロ雑巾姿の仲間二人。若葉色に髪を染めているチームの情報網と、ピンク髪にしている後輩。揃いも揃って、汚らしい路地裏で倒れていた。


「アキラさん! ホシ!」


 共にいたケンは仲間の哀れな姿に驚愕、差していたビニール傘を放り出し、急いで仲間の一人を抱き起こす。

 ヤマトもアキラを抱き起こし、「どうした何があった!」いつもの余裕を掻き消して仲間にしっかりしろと声を掛けた。呻き声を上げ、じわじわと目を開けるアキラはヤマトの姿に失笑。情けない姿を見せてしまったと詫びを口にした。


「アキラっ、何が……」


「さあ……分からん……辻斬りにあった気分じゃい。いっきなり知らん……輩に真っ向勝負……売られて……人数で……敵わんかった」


「真っ向勝負……だと。真っ向勝負なんざ、俺の知る限り……」


 真っ向勝負好きな連中はあのチームしかいない。

 ではまさか、この仕業は。「くそっ」ヤマトは眉根をギュッと寄せ、盛大に舌を鳴らす。向こうも協定を結んだと聞く。幾分頭を使うようになった、優勢になるために仲間を。昔からそうだ、真っ向勝負好きとは言うが自分達の優位を保つため、また優位に立つため、小さな芽は絶やす。奴等の仕業しかない。


「チッ、奴等め。やりやがったな。アキラ、立てそうか」


「わしは……何とか。それより、ホシが……やばい」


 よろよろと自力で上体を起こして姿勢を保つアキラはホシを病院に、呟いてヤマトに凭れ掛かる。

 「貴様も十分ヤバイじゃねーか」今すぐ病院に連れて行くから、ヤマトはアキラを背に乗せてケンに声を掛ける。


 同じようにホシを負ぶっているケンが、そっとヤマトに視線を送る。思わず目を細めた。ヤマトはこれまでになく憤っている。



「……ヤマトさん」


「こいつ等を病院に連れて行ったら、すぐに集会だ。そろそろ決着をつける頃合みてぇだしな。ゲームに本腰を入れる時期がやって来た。荒川め、やってくれやがって」



 クッとシニカルに笑みを浮かべるものの、ヤマトの眼はちっとも笑っていなかった。




「荒川達を潰す……気に食わない奴等を潰す。それが俺達の最大最終目的。決着をつけるぞ。俺の仲間を弄くってくれた礼をたっぷりと返してやる」




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