02.知恵熱の本当の意味を知っているかい?



――たむろ場に到着すると、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、そわそわのうろうろ。



 忙しなく倉庫前でぐるぐる歩き回っているココロと、それを微笑ましそうに見守っている響子さんや弥生の姿を最初に発見した。

 光景にヨウはお前愛されてるねぇ、こんなにも首を長くして待ってるじゃん的台詞を吐かれた。う、う、うるせぇやい。こんな風に待たれてな、嬉しくない俺がいる筈ねぇんだぞ! すっげぇ嬉しいよ! 幸せ者だよ、ド阿呆!


 心中で毒づきながら、俺はココロに改めて視線を向ける。

 それにしたってココロどーしたよ、あんまりあっちこっち動き回っていると疲れるんじゃないか? そんなにアタフタと歩き回って……雰囲気も随分違う。一目で分かった、ココロの雰囲気が違うことは。


 とてつもなく落ち着きのないココロに、「よっ」チャリを押しながら彼女に歩み寄って話し掛ける。

 ビクビク。肩を震わせた後に、カチンコチンに静止するココロは「こ、こ、こんにちは!」物凄い緊張交じりのどぎまぎ声で挨拶を返された。俺に対して緊張している、みたいだ。気にしたら多分、負けだと思うから俺はココロを見るなり綻んだ。


「髪、切ったな。ショートになっている」


 今までココロはセミロングヘアだったんだけど、今はバッサリ切ってショートヘアになっている。とても髪が軽そうだ。


「に、に、似合っているでしょうか?」


「うん、凄く似合っているよ。雰囲気も変わったし、前以上に明るくなったな」


 どっちの髪型も好きだったのだけれど、セミロングへアの時のココロは前髪を伸ばしがちで顔を隠していたから、俺はどちらかといえば今の方が好きだ。

 率直にそう言うと、彼女はちょっと照れたのか、柔和にはにかんでくる。女の子のはにかみってどーしてこんなに可愛いんだろうな。男がしても可愛いも畜生もないのに。


「良かったじゃねえか、ココロ。決心して切ったかいがあったな」


 フロンズレッドの髪を弄りながら、響子さんはココロに笑みを向けた。髪を切るのに決心って……ちょい大袈裟な気がするけど。

 「女の子がバッサリと髪を切るって意味があるんだよ」弥生が俺の心中を見越したように助言。

 意味がある……うーん、そういえば女の子は野郎と違って髪を長く伸ばすことができるから、伸ばしている子にとってみればバッサリ髪を切るって勇気がいる行為かも。雰囲気もガラッと変わるしな。わりと男にもあるけど、雰囲気をガラっと変えるのは随分と勇気がいることだ。

 特に地味っ子はお洒落な格好に憧れつつも、「あ、やっぱいつもどおりで」とか美容師さんに言っちゃうんだ。髪染めとか論外だぜ、雰囲気変わるどころじゃない!


 それにしても、なんで髪を切ろうとしたんだ? 心境の変化の表れ?

 心の中で疑問を抱いていると、ココロがズバリ回答してきてくれる。


「わ、私……もっとしっかりしようと思ったんです」


 しっかり……とは?


「ココロ、いつもしっかりしているじゃん?」


「わ、わ、私! 少しでも舎弟のケイさんに見合う……お、女の子になりたくってっ! ……か、髪を切ったんです。気持ちを強くする。努力をするって、ケイさんに言いましたから……その髪を切ろうと思って」


 ホーホケキョ。

 俺の中で唖然ウグイスくんが一声。思わず握っていたハンドルを手放しそうになった。

 「うわっち?!」傾くチャリを慌てて起こすと、俺は赤面しつつも反応を待っているココロを流し目。そ、そういうのって反則っつーんですよ、ココロさん。


「へえ、ココロも女だなぁ。ケイのためにとか、男心分かっているよなぁ。ケイ、愛されてるぅ」


 ニンマニンマのヨウ。完全にからかいモードだな、ドチクショウ。


「バカ、ココロはうちの自慢の妹分だぞ。男心だって、簡単に察することのできるスゲェ女に決まっているだろうが」


 鼻高々の響子さん。完全に親馬鹿、姉馬鹿? モードに入っている。

 猫可愛がりしてるもんな、ココロのこと。

 だから彼女を恋人にしましたと姉様に報告すると、「泣かしたらうち等と同じ女になろうな」と満面の笑顔で脅された。い、今思い出しても身震いだ。この人だけは絶対に怒らせないようにしよう、あの時……心の底から誓ったぜ。


 とにもかくにも周囲の目がジクリジクリと突き刺さってくる。  

 注目をしてきてくれてるっていうの? 微笑ましく見守って下さっているらしいんだけど、なんか一部悪意を感じる。そこの舎兄とかな。見るからにからかいたくてウズウズしてる顔を作っている。ああくそっ、皆寄って集って高みの見物か?! 羨ましいご身分だな! 不良のご身分はそんなにエライか! ……ワカッテマス、エライですよね。俺、身を持って経験してますんでエライってのはワカッテマスです、はい。


 嫌味な周囲の目を無視することに決めた俺は片手で頬を掻いて一呼吸、待っている彼女に表情を崩す。

 おかしなことに気持ちは緊張していても、自然に笑える俺がいた。


「ありがとう。その気持ち、受け取っとくよ。なんか俺ってすげぇ幸せモノだ。ココロに倣って俺も頑張るよ。努力するから」


 ちょっと力を込めて頬を掻きながら照れ隠し。彼女はますます照れ隠しをするように指遊びをする。


「あ、あんまり頑張らないで下さい。私が追いつけなくなります……その、私……頑張ってケイさんみたいに努力して、心を強くして……そ、そして」


 そんなことないんだけどな。

 ココロは十二分に努力してくれてると思うし、あんまそういうことされたら俺の方が参っちまうって。

 

「け、ケイさんのようにノリのいい子になりたいと思ってますっ、から!」

 

 ………俺?


 ちょっと待とうか、色々と待とうかココロさん、全力の全力で待った。ストップ・停止・落ち着こう! それは別の意味で俺が参っちまうから。

 え、俺のように調子乗りになりたいって? イェーイ田山圭太普通っ子万歳……的な乗りを君は受け継ぎたいおつもり?

 は、早まるなココロ! 本人の俺が言うのも何だけど、俺のようになったらな、可愛さ半減だぞ! いやもう全滅! 可愛さ絶滅! 寧ろ俺は泣く! 俺の性格第二号にでもなっちまったら、責任を感じて彼氏の俺が泣くから! 男泣きするから! ココロは今のままで十分だ! ナニが悲しくて俺と同じような調子乗り(女子版)を見ないと……ココロ、やめてくれー!


 今度こそ俺はハンドルを手放してチャリを倒しちまう。

 カゴに入っている通学鞄が外に放り出されたけど、構わずココロの両肩を掴んでブンブン首を横に振った。「今のままでいいです!」全力で止めに入る。ああ、止めて見せるさ。ある意味彼女のピンチ! 彼氏の俺は全力で止めてみせる!


「こ、ココロ! そこまで頑張らなくていいんだぞ! ノリの良さなんてあっても面白さとウケしか生まれないっつーかさ! いや、ココロの気持ちは受け取っとく! ありがとうサンキュセンクス! だけど今のままで十分なんだって、ココロは」


「ええぇえ……で、でもケイさんってノリの良い人が好きそうで。お喋りな子が好きといいますか……見ていたらそんな感じが」


 俺好みのタイプになろうとしてくれている……のかな?

 確かにお喋りでノリの良い子は大好きです。今まで好きになった子のタイプは全部そうでした。ココロさん、ご名答でございます。よく俺を観察してらっしゃる。

 だけどさ……あー……それは結局好きなタイプの話であり基本的に好きになる人の基準。つまり枠ってわけで。実際に人を好きになったら、それまで築き上げていたタイプと違う人だっているわけだ。まさしくココロがそうだ。


「俺はココロが好きだから……そのままでいいよ。ノリとかそんなの気にしてないしさ」

 

 照れのあまりぶっきら棒な物の言い方になったけど、本当のことだ。


「頑張って俺好みにならなくても、既にココロは俺好みというか……」


「ケイさん……」


「あー、ほら、俺みたいになっても……なあ? 可愛くないっつーか、うん、今のココロを好きになったというか」


 う゛ぅうぇい。

 なんだかすっげぇ気恥ずかしくなってきたぞ。

 もう周りがどんな目で俺を見ているのか、見回す勇気もねぇや! チックショウ、分かっているよ、俺が言ってもギャグになるってことくらいさ!


「つまりそのままで十分!」


 あははっ、あははっ、俺は誤魔化し笑いを上げながらお寝んねしているチャリを起こすと、急いで通学鞄を拾って肩に掛けた。

 「チャリを置いてくるから」俺は逃げるようにチャリを押して倉庫裏に向かう。


 するとココロがすぐに俺の後を追い駆けて来て一緒に行くと肩を並べてきた。あどけない顔で見上げて綻んでくる、その頬はちょっと赤みをさしていた。

 倉庫裏まで目と鼻の距離。でも彼女と一緒に行くのも悪くないと思う。気付かれないように視線を流すと、バッチリ視線を受け止められて思わず一笑。髪を切ったことで明るい顔が見えやすくなったよな、ココロ。笑った顔がよく見えてイイカンジ。本人には気恥ずかしくて、こんなことは言えないけどさ。


「あのですね、ケイさん。今日、実は昼休みにこんなことが」


 向こうの学校生活を聞かせ始めてくれるココロ、一生懸命な彼女に俺は目尻を下げた。

 今はまだ、彼女にしてあげられることが少ないし楽しい思いもなかなかさせてあげられないけど、こうやって傍にいることはできる、とか、クサイことを思ってみる。

 でも全部本当の気持ち。ココロに対する本当の気持ちだ。例えば、ココロが俺のために行動したことは、全部俺にとって糧になることなんだと思う。


「それでその時、先生が来まして。響子さんの煙草がばれそうになって」


 例えば、ココロが俺のために行動をしたことは、全部俺にとっても意味のあることなんだと思う。


「へえ、危なかったな。見つかれば処分対象だろ?」


 例えば、ココロが少しでも俺を思ってくれた気持ちは、全部俺にとって大きな気持ちを貰ったことなんだと思う。


「シズさんと響子さんと私、三人で逃げちゃいました。でも後で先生に呼び出されてしまって、こってり絞られちゃいました。お説教だけで難を逃れられたんですけど」


 無理に俺に合わせようとしなくたっていいんだ、ココロ。

 そんなことをしなくてもココロの気持ちは十二分に伝わっているんだよ。お腹一杯状態だって、これ以上されたらさ。今だってこんなにもときめいているのに。


 ココロは今のままで十分だ。

 ノリの良い子になるとか、お喋りが好きな子になろうとか、そんな考えを持たなくてもいい。有りの儘でいてくれたら、それで十分なんだ。傍で笑ってくれてたら十分なんだよ。髪を切った行為は、凄く嬉しい似合っているから何も言うことないけど、性格はそのまんまでいいよ。


「ケイさんは、今日どんな一日だったんですか?」


「ンー、それがツイてない一日でさ。数学の時間の時に居眠りしちゃって……皆の前で叩き起こされて恥掻いたんだ。あ、これは自業自得か」


 ココロはココロのままでいいんだよ。

 チャリに鍵を掛けてチェーンの錠をしっかりと下ろした後、俺は倉庫裏でココロとひと時の会話を楽しんだ。

 すぐに皆のところに戻ろうとせず、限られた二人だけの時間を惜しむようにその場に留まって会話。倉庫の壁に寄り掛かって何気ない会話を楽しんだ。これが今の俺達の小さな恋人の時間とも言えた。








「――ココロの奴、ケイとデキてからすっかり明るくなったな。嬉しい反面、うちのポジションをケイの野郎に取られて畜生って感じだぜ。てか寂しい……ココロ。うちは寂しいぞ。最近のアンタの会話にはケイしか出てきてないっつーか……いや前々からケイが話題に多かったけどよぉ。あ゛ー……デートってのをあいつ等に体験させてやりてぇな。はぁ……あんな会話程度の時間じゃ足りねぇだろうに。ッハ! ヨウ、弥生、計画をうち等で立てるのも策だよな? 最初は誰だってデートなんざ分からないだろうし、向こうだって晩熟だろうから。初デートのルートくらいうち等の手で決めても」


 こっそりと倉庫裏をデガバメしていた響子はグッと握り拳を作り、妹分のためにと燃えていた。

 普段は姉貴肌で仲間から慕われているお姉さんキャラが、残念台無しとなっている。傍らでデガバメをしていたヨウや弥生も呆れるほかない。「人の恋路はなんたらだぞ」ヨウは頭部を掻きながら、やめとけやめとけと肩を竦める。


「ンなに世話焼いても本人達が嫌がるだろうが(俺もご免だっつーの!)。響子、テメェは極端にココロ馬鹿なところがあるぞ」


「折角ここまできたんだ。楽しい思いさせてやりてぇだろ! デートってのは何回でもできるけどなぁ。初デートってのは一度っきり! 初デートは可愛い娘の晴れ舞台だぞ!」


「……テメェはどこの親馬鹿だ」


「響子のカックイイ姉御の面が、馬鹿によって台無しになってる」


 まったくである。

 ヨウは相槌を打ち、本人達の好きにさせてやれと助言。本人達のテンポで恋路を進んでもらうのが一番なのだろうから。

 それに……今はデートという気分ではないだろう。しかめっ面を作るヨウはケイから恋人ができた喜びと、それに対する不安の両方を聞いていた。相談されたのだ、「強くなるってどうすればいいんだろ?」と。


 相談内容が内容だっただけに、ヨウは驚きを隠せずにいた。

 今まで腕っ節や喧嘩の面に対して自他共に弱いと認めていたケイだが、認めるだけで強くなりたいと口にすることはなかったのだ。

 だから相談を持ち掛けられた時は驚いてしまう。舎弟は舎兄に不安だと弱音を吐いた。また利二の時のような大切な人を人質を取られてしまう、“あの時”のような場面に遭遇してしまったらどうすればいいんだろう、と。

 思い出す、彼との会話。


『俺はさ。喧嘩できないとか、経験が少ないとか、何かと理由をつけて……今まで強くなることを避けていた。別の面で補えれば、それでいいんだって思っていた。だけどさ、これからはそれじゃ駄目なんだと痛感している。俺はヨウの舎弟で名前も売れているから、知名度が上がった分、喧嘩売られる回数も増える。回数が増えたら、それだけ俺の周囲に危険が及ぶ。ヨウは俺の友達を守ってくれると前に言ってくれたけど、俺もこれからは守られるじゃなくて守る方に回らないといけない」


『ケイ……得意不得意っつーのは誰にでもあるんじゃねえか?』


『弱いと自覚はしているよ。しているから怖いんだ。もしも日賀野にココロを人質に取られて、舎弟を迫られたら今度こそ……そう思うと大切な人を作るって怖いと思った。この大変な時期に告白してよかったのか、今更ながら悩んでる。不安にさせるからココロには口が避けても言えないけどさ』


『……ケイ』


『ごめん、ちょっとグルグルしているんだ。まだフルボッコ事件が尾を引いているんだろうな。そろそろ断ち切ってもいいだろうに……これも俺が弱い、せいかな』


 不安を吐露し、相談してくるケイの表情は苦笑いにまみれていた。 

 調子乗りで人に合わせることを大得意としているケイ。しかし人に弱さを見せることを極端に嫌うケイは、不良の自分達とすぐに一線引く悪い癖を持っていた。そのケイが惜しむことなく不安や弱音を舎兄の自分にはいてくれるようになったのは、それだけ自分を信用してくれている証拠だろう。

 一線を飛躍、大きく隔たりを越えて相談を持ち掛けてくれる仲間に嬉しさを噛み締めつつも、不安に駆られている仲間に目も当てられなかった。


 だがヨウは一つ、ケイに言いたかった。

 ヨウは信じていた。例えば舎弟が恋人を人質に取られようとも、そういう最悪の面に直面し、条件を突きつけられても……ケイは大丈夫なのだと。ケイは弱い男じゃない。簡単に屈しない男だと、ヨウは真摯に信じている。

 自分の弱さ、そして自分の裏切りを恐れているケイにヨウは強く告げた。


『ケイ、俺はテメェを信じている。テメェは俺等を裏切るような奴じゃねえって。確かにテメェの腕は弱い。手腕なんざこれっぽっちもねぇけど、テメェが思っているほど弱い奴でもねぇよ。立派に俺の舎弟してきたじゃねえか。よくもまあ逃げずに此処までやってきたと思うほどに。俺の舎弟ながら感服するぜ。俺の思いつき行動で随分振り回しているのに、テメェは俺の舎弟をやってきた。そりゃテメェの糧にしてもいいと思う』


『……ヨウ』


『ケイ、もっと自分を信じてもいいんじゃねえか? テメェだって伊達に喧嘩を乗り越えてきたわけじゃねえんだ。あの事件のテメェと今のテメェを比較してみろ。テメェは確実に強くなっている。俺が保証してやっから。それにココロだって弱い女じゃねえだろ?』


 不意打ちを食らったような面を作るケイに、ヨウは彼の首に腕を回し、自分の選んだ女だろ? と一笑。


『ココロも弱い女じゃねえ。そういう場面に出くわしても、ぜってぇ大人しく従う女じゃない。信じてやれよ、ココロを。テメェの女だろ? テメェ等なら大丈夫だ。俺はテメェ等を信じているし、俺も仲間を守るために最大限努力するつもりだ。何よりも俺のためにな』

 

 誰よりも仲間を、舎弟を信じると決めているヨウは彼に信じていると綻んでみせた。

 大丈夫、仲間の誰もが不甲斐ないリーダーを支えてくれる強い面子。個々人にその持ち前の能力が違っても弱い面子ではない。強いつよい、自分の大切な仲間達なのだ、と。居場所を作ってくれている仲間を、自分はチームの頭として誰よりも守る努力をしよう。ヨウはケイに誓ってみせた。

 自分の言葉に幾分励まされたのか、舎弟はイケメンが言うと何でも格好良く聞こえるとおどけていたっけ。


 記憶のページを捲っていたヨウだが、ふと引っ掛かるものを感じ、思案を更に巡らせた。 


(最近思う……このまま潰し合う意味はあんのか? って。向こうの過度なちょっかいに腹を立てて、宣戦布告をしたのは誰でもない俺だけど……このまま潰し合った先に待っているものは何だ?)


 元々中学時代の仲間だった自分達が、今こうして潰し合っている。

 対立の契機は意見の食い違いから。考え方と価値観の違いから。グループは分裂し、自分とヤマトを中心に二つに分かれた。最初は分かれて終わる筈だった。廊下や靴箱で顔を合わせれば、いがみ合うような空気を作っていたが、小競り合いも些少ながら起こっていたが、ここまで酷くなかった筈。

 売り言葉に買い言葉、売り喧嘩に買い喧嘩、そんな関係になってしまった自分達だが、何故ここまで酷くなってしまったのか。

 向こうがちょっかいばかり出してきたからこっちも。いやこっちが、ちょっかいを出したから向こうも……どっちだ? どっちが先に手を出してこうなった? どうだったかも、もう憶えていない。


 『エリア戦争』で学んだ。


 喧嘩に勝って得られるものもあれば、後味の悪い勝利もあるのだと。一件の事件で今更ながら対立していることに意味があるのかと、ヨウは疑念を抱くようになっていた。決着をつければすべてが終わるのだろうか。答えは見えない。


(仲間が傷付くだけなんじゃないか……最近はよく考える。因縁も何もカンケーねぇケイやココロ、弥生、キヨタにタコ沢とってしてみればいい迷惑だよな。ケイなんざ……ダチと絶交宣言を交わしちまう始末だし。ケイ……ダチに直接言われていたな)


『ケイ、次会う時が楽しみだな。ははっ、お前を潰すのは誰でもないおれだ。荒川の舎弟なんて知るか。ヤマトさんのお気に入りなんて知るか。おれはお前を殺す勢いで潰す。それこそお前の抱く妄想すら潰してやるさ。ははっ、あっはっはっは、お前がいつまで夢を語れるか見物だよ!』


――と。



 ヨウは倉庫裏で駄弁っている、カレカノの微笑ましい光景を見つめた。

 彼女と和気藹々会話している舎弟はあどけない顔で笑っているが、チームに身を寄せているせいで辛い思いをしている。舎弟という重い肩書き、不本意の絶交宣言、友人との対立に大切な者を作る不安。恋人を作っても立場と状況を考え、今は極力外出を控えている。


 自分はからかいがてらにケイに言ったのだ。彼等が結ばれた夜、ファミレスに戻って来たケイに「明日にでもデートしてやれよ」と。

 しかし彼は首を横に振り、それはできないと真顔で否定。まさか真顔で否定されるとは思わなかったのだが、ケイは決着がつくまで恋人らしい行為はすべて控えると舎兄の自分に宣言。彼女とよく話し合って決めたことなのだと、一変し微苦笑を向けられた。

 滅多なことじゃ表には出さないが、この結末の見えない対立に彼は怖じている。


「あれれれん? こーんなところでいちゃいちゃ中? ケイちゃーん、ココロちゃーん」


「うわっつ?! ワタルさんっ、どっから現れてるんですか!」


 入り口という入り口から敷地に入るのではなく、金網フェンスを乗り越えて登場するワタルにケイもココロも驚き仰天。  

 「こんなところに隠れちゃって」もしかしてチューでもしようとしてたのかなぁ、お邪魔した? 等々要らんジョークを言うものだから二人は赤面。声音を張り「違う」と全力否定している。ワタル自身、鬼(響子)の居ぬ間にからかおうという寸法なのだろう。

 またまたぁ隠しちゃってぇ、と肩を竦めてケラケラと笑っている。が、しかし、人生山あり谷あり川あり、渡る世間は鬼ならぬ響子さまばかりである。


 お局さまが隠れながら微笑ましく様子を見守っていたために一部始終を目撃。

 「あんの阿呆! 弄るなっつっただろうが!」響子は地団太を踏み、太い青筋をこめかみに浮かび上がらせる。そして握り拳を作るとズカズカ倉庫裏へ。


「くぉおらっ、ワタルぶっ飛ばされてぇかアンタ!」


 彼女の怒声に、「ゲゲゲの響子ちゃーん?!」素っ頓狂な悲鳴を上げ後退するワタル。

 絶対に一発くらす、憤っている響子が逃げるワタルを追い駆け始め、ワタルは慌てて振り下ろされる拳から逃げるために二人の後ろに、ついでにココロ寄りに避難。ココロの後ろが一番安全だと彼は知っているのだ。

 おのれ卑怯な、ジリジリ詰め寄る響子が拳を作り直す。

 フツフツと怒りを沸騰させる彼女に対し、ワタルはフンだと変に開き直ると発破を掛けるようにべっと舌を出して、「僕ちゃーん冤罪掛けられたし?」子どもっぽく唇を尖らせる。


「何度も違うって言ったのに信じてくれないモンブラン。だから、だから、どーせ冤罪を掛けられるなら、思いっきり弄くって怒られた方がマシ! ……うぇい、このままじゃヤバイっ! ケイちゃーん、ココロちゃーんを借りるねんころり! いこうココロ姫!」


「あっ、えっ?!」


「へ? え゛っ?! ちょちょちょっ、ワタルさん!」


 おいおいおい、ワタルやり過ぎ。

 心底呆れるヨウは肩を竦め、こっちに向かって逃げて来るワタルのために道をあけてやる。ココロを肩に抱えて逃げるワタルに響子は地団太を踏みまくり。ケイはケイで慌ててワタルの後を追い駆けている。しかも全速力で。


「ワタルさんっ、嘘でしょ! そんなのあんまりですからぁああ! ココロを返して下さい! おぉお俺、指で数える程度しか彼女に触れていないのに! まだ手しか握ったことないのに!」


「わぁあああたあぁあるぅうう! うちにどんだけ喧嘩売るつもりだ!」


「お、下ろしてください……ワタルさんっ!」


「あんれぇ? ケイちゃーんにされた方がいい?」


「そ、そうじゃなく……う゛ー……否定できない自分がいます」



「うわぁおノロケられたぁあ! てっ、こっちも来たぁあ!」



 「ワタルさんっ!」「ワタルっ、あんた待ちやがれ!」

 両者に追い駆けられているというのに(しかも一方はチームのお局さまだというのに)、ワタルは何処となく余裕と愉快の両方の笑みを浮かべて逃げていた。長髪のオレンジ髪を靡かせながら。

 ヨウはワタルを捉え、瞳に閉じ込めて仲間を想う。ワタルは大親友というべき男と対立している。辛くない……なんてないだろう。


 グループが分裂する際、ヨウはワタルとアキラの関係を心配し、無理して自分側につかなくて良いのだと素っ気無く言ったことがある。

 ヨウはワタルがどちらのチームにつこうか最後まで迷っていたことを知っていたのだ。ワタルはヤマトのことを嫌っているわけではないし、寧ろヤマト達の考えに理解も示していた。親友は向こう側についてしまったが、さて自分はどうしよう。


 一見飄々としているワタルだったが、内心では随分と苦悶していた。

 事件以前から自分と親しげに接してくれたワタルの苦悶している姿を見たくなくて、冷然と素っ気無く向こうに行くよう一蹴したのだが……向こうは自分の演技に大笑い。演技がド下手くそだとヒィヒィのゲラゲラ。人を指差して腹を抱え散々笑った後、実はもう決まっていたとばかりにワタルは自分の肩を叩いた。


『これからもよろぴく。ヨウちゃーん』


『ワタル……テメェ』


『だーって? アキラはアキラ、僕ちゃんは僕ちゃん。これは自分で決めることっしょ? 連れションじゃないんだから、向こうがヤマトちゃーんにつくからって僕ちゃーんも合わせる必要はナッシングだよん! ……自分を偽って後悔するくらいなら、ヨウちゃんを選んでアキラと大喧嘩した方がマシ。これは僕ちゃんの意志だよ、ヨウちゃーん。例えヨウちゃんでも、僕ちゃんの決定を曲げることは不可能。自分でそう決めたんだから、でしょ?』


 最後の押しが欲しかったのだと、彼は素の笑顔を見せてきてくれた。

 手前で決めたから自分達の関係のことは心配ご無用だとワタルは自分に告げてきたっけ。

 しかし、結局未来である今はワタルの傷付く結果となってしまったのだ。大喧嘩の末に二人は対立してしまったのだから。

 ワタルだけじゃない。他の仲間だって、向こうに因縁を持っていたり、犬猿の仲だったりするが、傷付くことを望んでいるわけではない。決着をつけたいとは思っているかもしれないが、傷付けることも傷付くことも望んでいるわけではないのだ。

 結局この対立と衝突の繰り返しは仲間を傷付けてしまうだけの、無意味な喧嘩なんじゃないか?


 ヨウは思っていた。

 仲間が傷付くよりも、仲間とワイワイ賑やかに楽しく過ごしていきたい、と。浮かない顔を作る仲間、辛酸を舐めているような顔を作る仲間を見ているよりは、全員で馬鹿みたいに笑い合う仲間の光景が見たい、と。


 いやしかし、仲間が穏やかに過ごしていくには向こうを潰すしかなく……潰したら仲間が傷付いて……んじゃ潰さずに仲良くしましょうと交渉を持ちか……だぁあーれが奴等と仲良くなるか。向こうだって何のジョークだと鼻で笑うだろうし、内輪揉めの原因にもなりかねないっつーの。なんのための宣戦布告だドチクショウ。今まで何をやってきたんだって仲間に怒られるぞ。

 嗚呼、だけどどうすればいいんだ。向こうを潰す。仲間を傷付かないようにする。仲間を守りたい。これは悪循環? エンドレス? イタチゴッコ? 俺は誰? 俺は荒川ようい……ゼンッゼンカンケーない。


「あーごちゃごちゃしてきた」


 ヨウは苦手な頭を使い過ぎてパンク状態になりつつあった。

 「頭が爆発する」ついでに芸術は爆発だそうだが、芸術よりもはるかに自分の方が爆発しそうだ。頭の細胞が使い過ぎによって爆ぜている気がする。うんぬん悩み、小さく唸っているとパチン―、眉間に衝撃。

 「イッテ」小さな痛みによって現実に思考を戻されたヨウは眉間を擦りながら前方を睨む。「油断大敵」そこには悪戯っぽく綻ぶハジメの姿があった。何をするんだと鼻を鳴らすが、どこふく風でハジメは似合わないと人差し指で再びヨウの眉間を弾いて、大袈裟に肩を竦める。


「ヨウらしくないね。眉間に皺を寄せているなんて。考え事かい? そんなに頭を使っていたら、知恵熱が出るからよしときなよ。まあ、知恵熱の本当の意味は“乳児にみられる原因不明の発熱”って意味だけどね。どう? 息抜き程度の豆知識。ためになったかい?」

 

「おかげさんで、超小ばかにされた気分だ」


「ご名答。よくできました。リフレッシュしてくれたみたいで嬉しいよ」


 おどけるハジメが肩を並べてくる。

 シルバーの髪を微風に靡かせハジメは、ココロを取り戻そうとしているケイ、響子、逃げるワタルと担がれているココロの騒がしい光景を佇むように見つめていた。その瞳にナニを宿して、光景を見つめているのかは分からないが彼は恍惚に光景を瞳に映している。

 「平和だね」ポツリ、不意に零すハジメの感想に、「ああ」ヨウはそうだなと相槌。本当に平和だ。ここ数日の日々は大きな喧嘩もなければヤマト達との衝突もない。骨休み的な日常。心がとても安らぐ。


「こういう風に皆で平穏に……の方が僕的には好きだな。一々喧嘩なんてやってたら身が持たないよ。ヨウに愚痴ってもしょうがないか」


 苦笑いを零すハジメを横目で見つつヨウはポケットに捻り込んでいた煙草を取り出すと口に銜え、百円ライターで先端を焙った。

 「羨ましいなぁ。ケイは」彼女なんか作っちゃってさ、ハジメは頭の後ろで腕を組む。必死にワタルの前に出てココロを下ろしてくれるよう頼んでいるケイを微笑ましそうに眺めている。


「テメェも告ればいいじゃねえか」


 誰とは言わない、けど相手に好きな女いることは知っている。自分から見たら相思相愛だと思う。相手は告白してくれるのを待っているのでは?

 そう茶化しても相手には効果はいまひとつだったらしい。彼は軽く笑うだけで流してしまった。


「弱さに溺れている落ちこぼれくんに告る選択肢はナシ……ってところかな。僕はケイと違って自他共に認める頭でっかちの卑屈さんだから、行動する前にあれやこれやら考えるんだよ。ヤダヤダ、こういう男ってモテないから気を付けなよヨウ。ああ、君は既に美形くんだからイラナイ心配だよね。羨ましいことで」


「……落ちこぼれねぇ。生憎いねぇよ、チームにそんな奴。落ちこぼれなんざ耳障りのする奴は俺のチームメートにいねぇ。優等生くんならいるけどな。優等生不良さんの頭脳のおかげさんで、『エリア戦争』の勝機を掴むことができた。その頭脳、少しは俺に分けて欲しいくらいだ」


 紫煙を吐き、「そうやって吐けばいい」ヨウはハジメにつっかえている胸の内を吐けばいいと笑う。

 幾らだって聞いてやる、それがリーダーだ。静かに煙草を吸い、その煙の味を噛み締めるように味わう。苦味の中に、仄かなしょっぱさ。自分が愛用しているお気に入りの煙草の味は、そんなしょっぱさが煙に染み込んでいる。

 呆気に取られていたのはハジメだった。すぐに息を吹き返し、「君は不思議な人だね」柔和に綻ぶ。


「どうして、そうやって人の不安を融解しちゃうのかな。昔からそうだ。ヨウは人の心に不法侵入してくる。ほんと……訴えたくなる」


「おい、随分な言い草だな。そこは素直に褒めてくれねぇのかよ……なあハジメ、テメェは俺の仲間だ。言っておく、何があっても俺はテメェを信じている。テメェがどういう気持ちでチームにいるのか知らねぇし、どうして弥生に告ろうともしねぇでヘタレを見せているか、俺には全部を理解してやることはできねぇ」


「ヘタレは余計だよ。自覚ありだけど」


「手前の弱さで心苦しい思いをしているなら言えばいい。そうやって俺の前で卑屈を零せば言い。何度だって聞いてやるよ、仕方ないからな。チームメートの前にダチだってことを忘れるな。ちなみに卑屈ばっか言って、『ボクなんてもうチームに不必要な存在なんだウェーン』なんざ泣き言を漏らしたら、その時は容赦なく一発張り手だかンな。話は聞く、んで目覚めに一発かます、至れり尽くせりの俺って超ヤサシー」


「優しくないの間違いじゃないかい、それ?」


「俺は貪欲だから、誰が欠けても嫌なんだよ。こうしてチームを結成して、チームの中心になって……なんっつーか、改めて仲間っつー大切なモノを考えさせられている。あーあ、俺もイイ青春をしているぜ。クッセーの」


 隣で笑声を漏らし、「本当にね」言っている事が一々クサイ、とハジメ。

 しかし言葉に茨は纏っていない。賛同してくれるような柔らかな声音で返答してきてくれる。「仲間か」ハジメは軽く目を瞑り、その瞳を瞼の裏に隠して口を動かす。


「ヨウ、実を言うと僕は少し、物の考え方が変わってきているんだ。相変わらずの捻くれ思考は持っているけど、チームメートが散々僕を持ち上げてくれるから……此処にいてもいいかなと思える気持ちにはなっている」

  

 自分はチームの中でも弱い。

 だから以前、ヤマト達に狙われて袋叩きにされた。弥生にも怖い思いをさせた。それが許せなかったのだとハジメ。弥生さえも守れない、仲間の手を煩わせてしまう自身が。

 頭が使えても守れないと意味なんてない、仲間の足を引き摺っている、何もできない自分は落ちこぼれだ。そう思っていた。いや、まだ思っている自分がいるのだと彼は吐露する。


「弱い自分を許せないから、どっかの誰かさんに告白すらできないんだろうね。それこそ僕は弱いんだと思う――そんな僕でも、必要としてくれる仲間がいるから僕は卑屈になりながらも此処にいられるんだと思う。仲間の一員、そう思うくらい許してもいいんじゃないか……そう思えるようになった。人はこれを進歩、もしくは前進と呼ぶのかもしれない」


「まどろっこしい言い方すんじゃねえよ。俺にこれ以上、頭を使わせるな。知恵熱が出るっつーの」


 ヨウはハジメの首に腕を回し、「難しく考えるなって」相手に笑顔を向ける。

 片手で銜えていた煙草を持ち、ゆっくり紫煙を吐くと向こうではしゃいでいる仲間達を顎でしゃくった。


「テメェもあそこで騒いでいる奴等と一緒、欠かすことのできねぇ奴だ。変に考え込んでも一緒だと思うぜ、インテリ不良くん。仲間、それでいいじゃねえか」


「ヨウみたいに単純になってみたいよ」


「へーへー。褒め言葉はそれくれぇにして、おらっ、そこで弥生が待ってっぞ。行って来い」


「え? ちょ、ちょ、ちょ……ッ!」

 

 ハジメの強く背中を押して、向こうでポツンと倉庫の壁に背を預けている弥生のところへ行って来いとヨウは口角をつり上げた。

 「なんでそこで弥生が」苦虫を噛み潰す顔を作るハジメだが、ヒトリで佇んでいる弥生が気になったのか向こうへと歩んで行く。「鈍ちゃん」ヨウは小さく肩を竦めて、短くなりつつある煙草を銜えた。


「弥生は羨ましいんだよ。ケイに告白されたココロが。テメェもさっさとしちまえってんだ、ヘタレド阿呆」


 ある種、ジミニャーノ組よりも厄介な片思い組かもしれない。ハジメと弥生は。

 だがヨウ自身、そんなハジメや弥生を羨ましく思う事がある。何故ならば一歩を踏み出そうとしない彼等でさえ、ああやって好きな奴の傍にいられるのだから。こっちなんて顔を合わせれば畜生と苛立つは、離れたら離れたで苛立つは、向こうの男に抱かれてると思うだけで舌を鳴らしたくなるは……散々だ。


「ま、手前で招いた結果だしな。仕方が無いか。しょっぺえな、俺のセーシュン」


「盛大な……ふぁ~……独り言だな」


 大きな欠伸を噛み締めつつ、自分に声を掛けてきたのは副頭。

 たった今、たむろ場に到着したのか、肩にはぺったんこの通学鞄。手にはコンビニ袋、中身は買ったばかりのお菓子類。「しょっぱい青春の……お前に」お優しいことにチュッパを恵んでくれた。味はコーラのようだ。どうでもいいが、完全に茶化しと皮肉が篭っているだろう。このお恵み。

 「ドーモ」優しさを受け止め、煙草を地に落とすと靴裏で揉み消し、封を切って大きな飴玉を口に銜えた。まったくもって甘い。煙草を吸っていたせいか、口内に広がる甘味がより甘く感じる。


「平和だな……こう暇だと……眠くなる」


「テメェはいつもだろうが。マジで平和だな……こう平和だと色々考えちまうな。対立の渦中にいるからこそ、この平和は不気味だ」


「ふぁあ……ねむっ……同感。同じ事を考えていた」


「そうか」


 相槌を打つヨウは、眠そうに欠伸を噛み締めているシズと共に仲間達を見つめる。

 今は和気藹々と騒ぎ、平穏な空気を作っている仲間。この仲間達を大切にしたいと思う反面、この先に待っている末路は自分達にナニを与えてくれるのか、ヨウは未来に少々恐怖を感じていた。最近の日常が平和だからこそ余計に不安を煽る。考え過ぎといえば、考え過ぎかもしれないが。

 何事も無い日常を過ごせるといい。この日常が続けばいい。ヨウは強く、願った。

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