26.不良さん達は大パニックだよノ巻




 ◇ ◇ ◇



 荒川チームに吉報が入った。

 それは『エリア戦争』の勝者である浅倉チームが本格的に再出発をしたというもの。

 蓮さんの復帰により、榊原に引っこ抜かれた仲間の内、半数以上は浅倉さんの下に戻ったそうだ。全員が全員戻ったわけではないらしい。中にはチームという枠が嫌になり、去った仲間もいるようだ。それはそれで寂しい話だけれど、悲しんでばかりもいられない。浅倉さんを慕って一からやり直そうとする不良が彼の下に集ったのだから。


 チームを再結成すると決めた浅倉さん自身もリーダーとして責任と自覚を持ったみたいだ。

 二代目舎弟の桔平さん曰く、前以上に頼り甲斐のある人になりつつあるらしい。仲間の意見や気持ちをよく聴いて、苦手な頭を使おうと努力しているらしい。使い過ぎて「おりゃあ頭が爆発しそうだ!」度々嘆いているとか。

 まるでこっちのリーダーを見ているようで思わず話し笑っちまった。  


 初代舎弟の蓮さんはもう一度、浅倉さんの舎弟としてやっていくという。

 未だに自分を許せない彼は仲間と距離を置くことも多々だそうだ。

 けれど新たな気持ちでチーム再結成に協力していくと決めた以上、頑張っていくのだと俺に話してくれる。今度は桔平さんという新たな舎弟と共に舎兄を支えたい。許せるその日まで行動してみると決意を明かしてくれた彼とは境遇や立ち位置が似ていることもあって、とても仲良くなった。否、誰よりも仲良くなった。

 勿論、桔平さんや涼さん達とも仲良くなったけれど、向こうのチームで一番親しくなったのは蓮さんだった。メアド交換は勿論、プライベートで遊ぶ約束も結んでいる。彼と会えば必ず、二人で大はしゃぎしてしまうほど俺達は馬が合った。


 あんまりにも仲良くなってしまったものだから浅倉さんとヨウが口を揃える。

 「おめぇ等、仲良過ぎだろ!」「テメェ等で舎兄弟を結ぶんじゃねえだろうな?」蓮さんと大笑いしてしまった。そう思われるほど仲良くなってしまったようだ。うん、それもいいかもしれない。ヨウに聞かれたらシバかれそうだから冗談でも口にはしないけど。

 蓮さんに耳打ちをしたら、これまた彼は大笑い。その線も二人で考えておこうとウィンクをされてしまう。その時は二人で舎兄にシバかれる覚悟だな。



 こうして浅倉チームの吉報を受けた俺達は協定を結んだチームとして、ようやく『エリア戦争』の勝利した喜びを噛み締めることができた。

 彼等とはこれからも協定を結び、お互いに手を貸してほしい時が来たら、無条件で助け合う約束が交わされたとヨウが俺達に教えてくれた。異論はない。浅倉チームのためなら、俺達はまた相手チームを想って行動を起こすことだろう。向こうチームもそれは一緒だと思う。

 一件で荒川チームは弱小チームと呼ばれた不良達と、かけがえのない友好を結ぶことができた。これは今後の俺達にとって大きな強みになるだろう。


 閑話休題。

 向こうのチームの吉報、そして勝利の喜びを噛み締めることのできた俺達は遅めの打ち上げをすることになった。

 あれだけ奔走したんだ。少しくらい勝利に酔い痴れたって罰は当たらないだろうし、向こうの再出発に対してもお祝いをしてやりたい。浅倉さん達と合同打ち上げは残念なことにできなかったけれど、俺達なりに馬鹿騒ぎをして気分を盛り上げたいもの。

 学校が終わるとメンバー全員で、それこそ普段は俺等舎兄弟を敵視しているタコ沢も呼んで(ほらメンバーだしな?)、カラオケへ。

 本当は協力してくれた利二も誘いたかったんだけど、曰く今日から六勤だから無理とのこと。バイトが詰まっているらしい。若干、不良と関わりたくないですオーラが醸し出されていたような気がしないでもなかったけど……敢えて気付かない振りをしよう。


 ということでカラオケにやって来た俺等なんですが、いやぁ人数が人数なだけに個々人で歌う時間が勿体無い。

 だから二人ずつ、歌いたい面子が歌うことになったの、だけど。


「んじゃあ、俺、これで。ワタル、俺とお前の十八番きたぜ」


「ヨウちゃーん、さっすがぁ! それはお父様お母様世代ならば、必ず知ってるアニソン! リメイクもされてるアニメ、ワタルフラーッシュ! その次はハジメちゃーん、ヨウちゃーんとタッグで十八番のあれいきなよ~ん! ムーン……なんたらメークアップ! で変身するアニメの主題歌!」


「ヨウキシード仮面さま! 僕と是非一曲!」


「うるわしき乙女のために歌ってあげるのもまた慰めの一つ。薔薇を添えて歌ってあげよう、セーラーハジメ」


 ………お前等、それはなんのコメディ?

 ヨウ、ワタルさん、ハジメ。某アニメの主題歌たちが十八番なのかよ。

 カラオケでいつも何を歌っているんだ? 寧ろ、普通の歌ったことあるか? てかヨウ、お前、カラオケに来た途端、イケメンくんが残念イケメンくんになりつつあるぞ。ノリ良すぎっつーか、お前こそ、カッコイイクールな歌を歌わないといけないんじゃね? 女子のガッカリ度パねぇって。


「モトモトモト! 俺っち達の時代がやって来た! 行くぜっ、朝娘!」


「おっしゃあああ! オレ達の十八番、皆にお披露目だキヨタ! 目指せ、アイドル全曲制覇! この後はAKM!」


 ………アイドルグループに固執する、お前等って。

 まさかファン? ……ちげぇだろ、お前等、ウケを狙いたんだろ? カラオケってウケを狙うための場所じゃねえぞ。向こうではハジメとタコ沢が演歌の欄を熱心に見ているし。お前等はおいくつ? 俺と同い年じゃないだろう。

 皆の歌チョイスに唖然の呆然の遠目。個性豊かに色んな歌を歌っている皆のノリが良過ぎる。調子ノリもびっくりなノリだ。ついていけねぇ。


 タンバリンで音頭を取ってやりながら、俺は今日カラオケで歌うのは止そうかと考えていた。

 金の無駄にはなるけど、断然傍観していた方がおもろいぞ。この光景。皆の歌のチョイスがこれまたおもろいの何のって、皆、ウケ路線でカラオケを満喫してるもんだから普通の歌が来ない。ちっとも来ない。いや、いいんだけどさ。


 今度は弥生と響子さんが歌うみたいだ。

 わぁい、女の子が歌うんだ。普通に可愛い曲を期待してっ……ぬぁああ?! めっちゃデスメタきたっ。うっるせぇ!

 暗くなる個室、ジャンジャンドンドンガンガン鳴り響く音楽に俺は思わず耳を塞ぎたくなった。ヨウ達は予想をしていたのか、手を叩いて爆笑しているという。もはやハメを外しすぎである。そろそろ普通の歌が聴きたくなってきたのだけれど、俺がここで雰囲気を切るようにJ-POPを歌ったら水を差すようなものだ。



「ケイさんは歌わないんですか?」



 遠目で響子さんと弥生の勇姿を眺めていた俺に、ちょっと大き目な声で声を掛けられる。

 右隣に視線を流すとココロがタンバリンを片手に微笑んでいた。俺と同じように盛り上げ役を買って出ているようだ。さっきまで響子さん達の傍にいたというのに、移動をしてきたのだろうか?

 「ココロは?」自分は歌わないのかと尋ねる。彼女は苦笑いを零し、カラオケは不得意なのだと教えてくれた。彼女の性格上、そう言われても驚きはしない。人前で歌う行為が好きではないと肩を竦めている。


 うーん、苦手な人もいるよな。

 誰もがカラオケは発散できる場所! と思っているわけじゃない。寧ろ歌うことが苦手な人もいると思う。でも記念に一曲くらい歌えばいいのにな。


「なんか歌える曲ある? 良ければ一緒に歌おうか?」


「え?! え、えっと……私……声が小さくなりますし。やっぱり苦手なのでその……うーっ、ごめんなさい」


 ココロは極端に歌が苦手のようだ。音楽で実施される歌のテストに苦痛を感じるタイプとみた。


「謝ることないよ。苦手なら苦手で、皆で一緒に場を盛り上げればいいしさ。こういうのは空気を楽しめばいいよ」


 彼女が歌えないなら、一緒に盛り上げてやればいい。それだけでココロが楽しめるのなら俺も満足する。

 ココロに笑いかけると地味っ子の出番だと言ってタンバリンをシャラランと鳴らしてみせた。そうそう、それでいいのだと相槌を打ち、俺は響子さんと弥生が歌っている姿を眺める。二人ともノリノリだな。向こうでは野郎どもが次の曲を入れるために機械を操作している。


 目じりを下げると、俺は再びココロに視線を流した。

 彼女と視線が合うと微笑みが返ってくる。ガンガン鳴り響くBGMなんて気にならない。カラオケの室内は薄暗くて、盛り上げ役の光が忙しく四方八方に発光しているけど、彼女の笑みはちゃんと確認できる。 目を合わせるだけでも自然に笑える瞬間だった。


 ただただ俺の意識は彼女に傾いていた。


 『エリア戦争』が終わった今、俺は俺のすべき約束を果たさなければいけない。

 これ以上、予約を先延ばしにすることなんてできないじゃないか。決めているんだ、『エリア戦争』が終わったらココロに気持ちを伝える。伝えるんだって。彼女の気持ちを察しても、自分の気持ちは言葉にして伝えないと……相手に本当の意味で気持ちが伝わらない。俺はそう思っている。

 シャララン、シャララン、タンバリンを片手に不良達の歌う曲を盛り上げた。隣り合う俺達の距離はいつもよりも近く、目を合わさなくとも傍にいてくれる喜びを噛み締める。


 結局、俺は片手で数えられるほどの曲しか歌わず、ココロにいたっては一曲も歌わず、カラオケは終了してしまった。

 けれど、それで良かった。歌うことよりも大切な時間を過ごせた気がして俺は大満足だった。

 気付けば今日一日の大半を彼女の隣で過ごしている気がする。カラオケの時も、会計の時も、移動する時でさえも。勘の良い舎兄は既に何かを察しているのかもしれない。テンションが上がっている俺の様子をおかしそうに笑い、何度も気付かぬ振りをしてくれた。



 カラオケで一頻り歌った後はファミレスで夕飯タイム。  

 人数が人数なだけに全員が一つの席に座ることはできなかったから、ボックス席を二つ陣取って人さまのメーワクにならない程度に盛り上がっていた。不良さんでもな、ある程度のマナーは守るんだぜ?

 特に響子さんとかわりとマナーに煩い。はっちゃけそうになるワタルさんのストッパーを買って出てくれている。 

 おかげで平和に食事を堪能。ドリンクバーを頼んでいるから、何度か席を立ったり座ったりはするけど、今のところ平和に飯が食えている。

 他愛もない話を交えながら二テーブルで悠々と飯を食っていると、「おかわりいりますか?」ココロが自分のテーブルの面子にドリンクを持って来ようかと声を掛けていた。残念なことにココロと俺は別のテーブルだから、関係のない話っちゃ話なんだけどさ。

 盗み聞きをしていると四人分くらい持って来るみたいだ。手伝ってこようかな。一人じゃ大変だろ? なあ?


「ケイ、俺。コーラ」


 「は?」動く前にヨウが俺の目の前に空のグラスを置いてきた。

 ヨウ、お前、俺をパシリに……なーんてね。はは、気を遣ってくれているんだろう? ミエミエダヨ。

 「んじゃオレも」向かい側に座っているモトが同じのをオーダー。キヨタも頼めよ、モトに言われてアタフタと申し訳無さそうにオレンジジュースをオーダーしてきた。こいつ等、揃いも揃って俺をパシリか? 極め付けにタコ沢にまで……アリエネェ。俺はココロの手伝いをしに動こうと思ったのに。


 もしかして、気遣われたのかな? 皆に勘付かれているのかもれない、俺の気持ちにさ。

 今まではそれで慌てふためく自分がいたのだろうけれど、不思議と今の自分は落ち着いている。


 渋々腰を上げて四人分のグラスを片手に移動。ドリンクバーコーナーまで早足で歩いた。

 先にコーナーに立っていたココロは俺の出現に、「皆さんに頼まれたんですか?」目尻を下げて問い掛けてくる。頷きパシられたとおどけ口調で返す。クスクスと笑うココロは一人ひとり空のグラスにジュースを注いでいた。


「この後はどうするんでしょうね? 時間帯的に解散ならいいんですけど。私の家、門限がちょっと厳しくて」


「どーだろうな。また二次会的なノリでカラオケに行ったりしてな?」


「だったら私はお暇しないといけませんね。最後まで一緒にいたいんですけど」


 ココロは困ったような笑みを浮かべて、次のグラスを機械にセット。ボタンを押して量を確かめながら注いでいく。

 流し目で見ていた俺だけど、ちょっと間をあけて「頑張ろうと思うんだ」ココロに話を切り出す。何を頑張るつもりなのか、言うまでもないと思う。押す手を止める彼女は俺の言葉の意味を理解したのか、ほんのりと頬を紅潮させた。

 そしてちょっち意地悪な事を言ってくる。


「弥生ちゃんにですよね? 分かっています、頑張って下さい。私も頑張ろうと思いますんで」


 俺もちょっち意地悪になって返した。


「ココロはヨウにだろ? 頑張れよ。全力で応援しているから」


 勿論お互いに嘘だって分かっている。

 だから余裕でこんな意地悪を言えるんだと思うんだ。余裕がなかったら、真面目にへこんでいるよ。意地悪は照れ隠しの表れかもしれない。

 俺等はわざと目を逸らしたけど、すぐに視線を戻して笑声を漏らした。「嘘だよ」「嘘ですよ」ちゃんと意地悪を訂正。分かっているけどさ、万が一の確率で勘違いはされたくないから。ちゃんと伝えたい、ココロにこの気持ち。


 確かにさ、本当はこうして気持ちを伝えなくても彼女の傍にいるだけで居心地はいい。

 こういう感情が好きの一種だとしたら、俺は喜んで受け入れたいと思う。本当に居心地がいいんだ。ココロの隣は居心地がいい。ときめいている気持ちも何処かに存在しているけど、安心する方が上。馬鹿みたいに心音が鳴る一方で安心する。彼女の傍にいることが。


 でも、そんだけじゃ足りないかもしれない。

 貪欲な俺がいる。ちゃんと気持ちを伝えて、ちゃんとココロの気持ちを知りたい。聞きたい。ものにしたい。だから。


「なあココロ、ちょっとコンビニまで付き合ってくれないかな? この飲み物、皆に届けたら、コンビニまでさ」


 俺の誘いに、ココロは軽く瞠目していたけど気持ちを察してくれたのか、ほんのり赤くなっている頬を更に紅潮させて頷いてくれる。

 どこか緊張をしている顔に俺も緊張を覚えるけど、予約していたんだ。こりゃもう動くしかないじゃないか。俺からした予約だもんな。これ以上、なあなあにして予約を先延ばしすることもできないし、俺自身も我慢できない。勘の良い皆のことだから(特に舎兄とかな)、きっと勘付くと思うけど、誰にどう思われても良い。 俺はココロに気持ちを伝えたいんだ。


 各々四人分の飲み物を持ってテーブルに戻った俺は、まず人数分の飲み物を配布。


 次いで通学鞄に入っている携帯を取り出すと、ちょっと外に出てコンビニに行って来ることをテーブルの皆に告げた。

 途端にキヨタが、「俺っちも!」勢いよく立ち上がろうとするんだけど、向こうで待ってくれているココロを見て空気を察したのかモトが無理やり腰を下ろさせてくれたおかげで難を逃れた。ごめん、キヨタ。お前が嫌ってワケじゃないんだ。

 けど、今度こそ告白を成功させるには、お前がいちゃ駄目なんだ。悪い、今度兄分として奢ってやるからな。


「ケイ。駄賃として俺にラーメンだからな」  


 ほら、察しの良い兄貴が細く笑って意地の悪い顔を作ってくる。

 分かっているよ、意地の悪さの中に応援も含まれてることくらいさ。

 「へーい」ヒラヒラと手を振って、俺は待ってくれているココロの下へ。そして二人で仲良くファミレスを出た。真昼のように明るい店内とは対照的に、外は真っ暗くらくら。黒の絵の具を零したような空の上に、ぽっかりとお月さんがのっかっていた。






(――やっと動いてくれたか。なんっつーか、長かったぁ。勘違いは起こしているし、恋愛に消極的だし、一時の感情だとかほざきやがるし)



 何度その背中を一蹴したくなったか、ヨウは冷たいコーラで喉を潤しながら散々だった日々を思い返す。  

 嗚呼、お互いに気がありませんよ的なバレバレの視線に敢えて気付かない振りをしていた日々。ちょい発破を掛けてやろうと、アレやコレやら実は裏で動き回っていたあの日々。努力が結局実らず、ジミニャーノ組はちっとも距離を縮めようとしなかったという……これはラーメンだけで気が治まらないかもれない。


「二人がくっ付いたら、やーっと弄れるんだねねねねん!」


 長かった、ワタルは握り拳を作って満面の笑顔を作る。ヨウと同じように、ワタルもやっと動いてくれたかと思っていたらしい。


 すると響子が駄目に決まっているだろと一喝。弄りは禁止だと強く言った。

 何故なら、折角くっ付いても周囲がなじってしまえば、二人とも萎縮して結果的に破局。なんてこったい、まさかそんな……な展開勃発になりかねない! ということで、これからも二人の恋愛は優しく暖かく微笑ましく見守ってやるのだと響子。すべては可愛い妹分のためだと笑顔を作った。

 彼女の妄想には些か極端があったような気がするが妹分を思う故だ。ご愛嬌というところだろう。


 「うそーん」ワタルはゲンナリして肩を落とした。

 まーだ、あのもっどかしい光景を、なじることもできず指を銜えているだけだなんて酷過ぎる! そう言って嘆いている。


「でも大丈夫かな……二人」


 弥生が心配の念を口にする。

 「大丈夫だろ」さっさと告ってくっ付くだろーぜ、ヨウが言うものの、弥生はまだ浮かない顔を作っている。何か問題でもあるのだろうか?


「実はさ……私、二人が『エリア戦争』の前に好きな人の話をしていたのをちょっとだけ聞いちゃったんだよね」


 あれは『エリア戦争』が始まる直前のこと。

 倉庫裏、木材が積み重ねられている場所で二人は和気藹々と話している光景を弥生は目の当たりにしていた。偶然にも告白の話で盛り上がり、微笑ましいなと思っていたのだが。


「二人とも好きな人を応援していたんだ。どうもケイは、ココロはヨウのこと好きだと思っているみたいなの。ココロは……その私のことが好きって………あの、えーっと」


 え゛?

 その場にいた不良達全員が固まった。

 弥生はその後、すぐさま情報収集に出掛けたのだが、あれからどうなったのか知らずにいる。


「二人とも勘違いエンドってないよね?」


 不安を拭うように、尋ねてくるが、え、まさか、そんな展開? ええええっ、不良達は互いに顔を見合わせ、そして「……」暫し無言。


 次の瞬間、ヨウと響子が勢いよく立ち上がり、


「まさかの俺かよ。ココロの好きな相手が俺なのかよ。勘違いにも程があるだろ! なんだそりゃ! 助言していた俺の立ち位置が完全に嫌味な存在じゃねえか! あんの馬鹿っ、なんでココロの好きな相手がよりにもよって俺になるんだよ。やけに恋愛に対して自信喪失していると思ったらっ~~~ッ、おいワタル!」


「『別に好きな人がいるようです』そう言って、頑なに恋愛に消極的だったのはっ……ココロがあんなにも自分に自信を無くしてた理由はっ、そういうことかッ~~~、ワタル覚悟はいいか!」


「なんで僕ちゃーんが犯人扱い?! 意味ワカメ!」


「どーせテメェがケイをからかったんだろうが! ちったぁ空気読みやがれ! 俺等と種類が違うんだぞ阿呆がぁああ! 俺とケイの仲に亀裂を入れてぇえのかぁああ!」


「ココロに冗談は通じねぇとあれほど言ってンのにっ……女にすっぞ! 二人は晩熟だから、からかうなっつっただろうがぁあああ! 仲間内をネタにするなんざいい度胸だなぁああ!」


「だからなんで僕ちゃーんがやった前提?! 冤罪だっぽーん! 弁護士っ、弁護士呼んでぽんず!」


 地味組の舎兄と姉分に責められ、ワタルは自分じゃない。自分関係ない。寧ろ自分濡れ衣だと首を横に振る。

 日頃の行いは何とやら。残念な事にワタルの訴えは信用してもらえず……まったくもって二人の勘違い事情を知らない不良達は少しばかりファミレスでパニックに陥っていたのだった。


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