11.全員一致



【交渉三日後:午後8時10分】



 大通りの一角にそびえ立つ、交差点四つ角の某ビル二階ビリヤード場にて。



 コツコツ、コツコツ、コツコツ。 

 塗装されていないコンクリート肌剥き出しの階段を一歩一歩のぼる。

 わりと広い階段はヒト二人分が並んで歩けるスペースがあった。でも切れそうな電灯がチッカチカチカと発光しているせいか、階段一帯は非常に不気味だ。何か出そう。それこそ幽霊とかな! ……言ってて恐くなった俺、阿呆だ。

 いや、この後、幽霊よりも恐い場所を訪れるんだけどな。


 俺達が向かっている場所は浅倉さん率いる不良チームのたむろ場なんだからな。

 嗚呼、初めてだよ。他の不良チームのテリトリーに入るなんて。ううっ、一生体験したくないことを俺は今、身を持って体験しようとしている。田山圭太、もしかしたら今日で人生が終わるかもしれない。


 ……い、嫌だ、俺にはまだ夢も希望も願望もあるんだ!

 そりゃ今日(こんにち)の日本は就職難で氷河期を迎えているけど、若人の人生もお先真っ暗で恐いけど、それでも俺は人生を楽しく生きたい。集めている漫画も連載終了まで見届けなきゃいけないし、ゲームだって山のようにしたいし、もっと青春人生エンジョイしたい。できれば一度でいいんで甘酸っぱい恋愛をしてみたい。

 彼女だって持ちたいよ。長い目で見て三十年の間に、一度くらいは……な?


(はぁーあ……大体なんで俺まで駆り出されているんだろう)


 留守番しておきたかった。

 いいよなぁ、留守番組は。どうして俺は留守番組に入れなかったんだろう。小さな小さな、でっも、ふっかーい溜息をついて肩を落とす。


 今日は浅倉さんチームに協定の返答をしにたむろ場を訪れているんだ。

 放課後、協定の最終確認をチーム内でして、その答えを持って行くためにこうやって訪問しようとしてるんだけど……全員で行く必要も無いだろうとヨウは副リーダーのシズ、悪知恵の働くワタルさん、そして機転の利くハジメを指名して一緒に来いと命令し、他は待機しておくよう告げた。

 正直、他の不良チームのたむろ場に行くなんてごめんだった俺はやったぜ、留守番組だ! と能天気に喜んでいた。


 だってなぁ? どんなに不良チームに身を置いているとはいえ、やっぱり不良とは極力関わりたくないわけだ。身内ならともかく他の不良チームに赴くなんて……返答をしに行くとはいえ、顔は出したくない。俺のチキンハートがそう言っている。

 だからこそ俺は大いに喜んで、留守番組と一緒に「いってらっしゃ~い」手を振って見送ろうとした。ら、モトに思いっきり頭をはたかれた。


「ウワァアアア! ケイさんに何するんだよぉおお!」


 キヨタがギャンギャン喚いていたけど、モトは構わず俺の背中を叩き押す。


「ケイ! なにボサッとしてるんだ、アンタも行ってくるんだよ! ヨウさんの舎弟だろ!」


「え゛? 俺も?」


 素で驚いていたら、お前は喧嘩を売っているのかと言わんばかりモトに胸倉を掴まれてぐわんぐわん揺すられた。

 「ケイさんに失礼なことしないでくれよぉぉおおお!!」キヨタは発狂しそうな勢いで止めてくれるけど、「アンタ。バッカだろ!」モトも発狂しそうな勢いで吠える吠える。脳天に響くほど吠える吠える。


「舎弟がついて行くのはあったり前だろぉおおお! アンタ、オレにぶっ飛ばされたいか! ヨウさんの舎弟として自覚足りないんじゃねえの!」


「えええっ、でも指名されて「ケーイ、何しているんだ。テメェも行くんだぞ。テメェは俺の舎弟なんだからな」



「………ケイセンパイ、アンタ、なんか言うことは?」


「………ハハハ、ボク、シャテイとして行ってキマスネ。モトクン」



 ギッと眼光を強くさせる中坊に怖じながら、俺は綺麗に引き攣り笑い。

 うそーん。俺も行くの? だって指名されなかったじゃんかよ。指名されなくても舎弟は常日頃から舎兄に付いて行かなきゃいけないってヤツ? アニキ、おいらぁ不束者っすが何処でもお供しやすぜ! 的な? ……だったらぬか喜びにもほどがある!

 嗚呼、折角、不良の巣窟に足を踏み入れずに済むと喜んでいたのに。こんなことなら最初から言っておいて欲しかったぜ! フェイクなんていらなかった! 


 ガックシ項垂れて「イッテキマス」肩を落とす俺に、「手間の掛かる奴」フンと鼻を鳴らすモトは不機嫌面しながらポツリ。 


「アンタって手間の掛かる地味でダサくてどーしょーもない不良だな。年下のオレに世話焼かれちゃ、面子も立たない無いぜ。そんなんでな、そんなんでなヨウさんの舎弟やっていけると思ったら大間違いだぞ! ヨウさんはな、超イケている誰もが敬わなきゃなんねぇ不良なんだからな!」


 ガミガミと垂れてくるうざったいモトのお小言を右からに左に流したのは言うまでもない。

 まあ、あいつは手厳しい性格をしているけれど、悪い奴じゃない。何だかんだで舎弟や俺自身のことを認めてくれている。さり気なく俺のことを“不良”と呼んでくれた。これは仲間意識の表れだ。ヨウ崇拝発言プラス、毒吐きはご愛嬌だろ。いつものことだしな。

 そんなわけで、モトのお小言と、「ほんっとすみませーん!」親友の暴言に謝罪するキヨタ。その他留守番組諸々の面子の見送りを受けながら、俺はヨウ達と夜が更けていく空の下、こうやって浅倉さん達の住処に足を運ぼうとしているわけだ。


 超絶帰りたい。

 別の不良チームのテリトリーにたった五人で訪れるなんて、しかも内二人は喧嘩できない組。ついで言えば、俺は不良ですらねぇ! 足を踏み入れた途端、どんな白けた眼が飛んでくるか。想像するだけで身震いだぜ身震い。密かに背筋に悪寒が。

 この感覚はヨウの仲間に紹介される直前の感覚だな。懐かしいなぁ。できることなら二度と思い出したくない感覚……嗚呼、胃が痛ぇ! 悲鳴あげてらぁ! 帰りたいって泣いてらぁ!



「此処か」



 ヨウの言葉に、俺はまたひとつ深い溜息。

 階段を上り切った先には、空間と隔離しているような廊下。そこの最奥に木造の扉がそびえ立っていた。廊下と遮断している扉の向こうからは喧しい声が聞こえる。皆、不良の声なんだろうな。泣きたい。永遠に訪れそうにも無い場所の前に俺は立っているのだから。


「僕まで行く必要あった?」


 今まさに入ろうとした時、ハジメが物申してくる。

 いざという時(いざは俺達の間では“喧嘩”を指す)、足手纏いになるのがオチなんだけど……卑屈交じりに愚痴を零すハジメ。今なら自分も留守番組に回れるのだけれど、逃避を口にするハジメに、「だったら俺もそうだって!」自分だけ安全地帯に逃げようとするなよとツッコミ。

 俺だってな、恐いんだぞ! 不良のナリも何もない俺、超KYなんだぞ! それでも果敢に行こうとする俺なんだぞ! 正しくは行かせられようとしている俺なんだぞ! その俺を差し置いて、喧嘩できない理由でトンズラするつもりなら、俺の方が当て嵌まるって!

 今はチャリもないしな! アウチ、喧嘩になったら最初に昇天することは間違いない。


「お前は……チームで一番機転が利く。いてくれないと……困る」


 欠伸を噛み締めながら、そうハジメに言うのはシズ。

 「脳みそ使わないしな……うちのリーダー」その分、頭の回転が速いメンバーが必要なのだと意見。でなければ手を焼くのは自分だとシズは遠目で語る。「うるせぇな」最近は努力しているだろうが、舌を鳴らすヨウに対し、まだ不安だと遠目の遠目になるシズ。

 言われてやんの、ワタルさんがゲラゲラ腹を抱えて笑う。それにまた舌を鳴らしながら、ヨウは振り返って、ハジメの肩に手を置いた。


「頭を使う分には信用されてねぇ俺だ。欠けている分はテメェが補ってくれ」


 代わりに喧嘩は俺に任せとけって。

 はにかむヨウに目を瞠るハジメだったけど、小さく表情を崩して「敵わないな」照れ臭そうに言葉を返す。傍で見ていた俺は自分のことのように嬉しくなった。だってハジメ、自然に笑ってくれているから。


 なあ、ハジメ、卑屈にならなくてもいいんだぞ。

 お前は自分のことを過小評価する癖があるけど、ハジメが思う以上にヨウ達に、チームに、必要されている存在なんだから。家庭環境を聞く限り、ハジメは勉強に雁字搦め、勉強一色の窮屈な世界で生きてきたんだろうから、その分頭が良い。

 だから余計な事まで気を回して考えちまうんだろ? 考えなくてもいいことまで考えちまうんだろ? でもハジメが思うほど、小さい存在じゃないよ。お前って。ヨウ達だってお前が自分を卑下していると、悲しい思いするよ。


 さて、と。 

 どうやって浅倉さんチームのいるビリヤード場に足を踏み入れるか。やっぱり、ここは三回ノックをして「失礼します」と呼び掛けするのが一番だよな。礼儀だよな。親しき仲にも礼儀あり、不良相手にも礼儀あり、だろう。

 どんなに相手が素行の悪い不良さんだとしても、まずはご挨拶するってのが「ワタルがよ~ばれてじゃじゃじゃじゃ~ん!」



 ………礼儀……いずこ?



「みんなお待たせ。アイドルのワタルちゃんが遊びに来たっぽ!」



 嗚呼……不良のテリトリーに、ワタルさんってばもう……。


 俺は額に手を当てた。

 今まさにヨウがドアノブに手を掛けようとした瞬間、ワタルさんが先に役目を取って勢いよく扉を開けた。ウザ口調を付けてな!おかげで中にいた奴等の白けた眼といったら……しかもやっぱ皆不良さんだし……髪の色がカラフルだし……。


「おいマジかよ。ワタル、何してくれてるんだよ」


「……引かれたな」


「うっわぁ……早速帰りたくなったんだけど。僕」


 ヨウやシズ、ハジメも勘弁してくれと顔を顰めている。

 嗚呼、三人とも俺と同じ思いなのね。付き合いの長い不良さんでも、ワタルさんのウザさについていけない時、あるのね。良かった、俺だけじゃなかったんだ。一安心。


 「トゥース!」胸を張って右手の人さし指を挙げて皆様に輝かしいウィンクするワタルさん。

 「空気を……読め!」シズが容赦なく肘鉄砲したのはその直後。よってワタルさんは静かになったけど、シラッとした空気は拭えずにいる。ないってこの空気。初対面に好印象を持たれるには、第一印象が大事だって知らないのか? ワタルさん。



「なんだテメェ等」



 近くのビリヤード台に腰掛けていた不良数人が俺達にガン飛ばしてくる。

 おわぁあああ、恐い、怖い、KOWAI! 射殺しそうな眼が俺のハートをビビらせているんだぜ! いつでも何処でも不良と一緒だけど、不良慣れなんて一生できないんだぜ! 帰りたいんだども! 半べそを掻く俺を余所に、リーダーが雄々しく話を切り出す。 


「浅倉に話がある。通してもらいてぇんだが」 


 向こうから舌打ちが聞こえたのはなしてでしょうか?


「あーん? 和彦さんに? ……テメェ等、エリア戦争に関わってる回しもンだろ? だったら容赦しねぇ。おい」


 不良達が臨時態勢を取り始める。


 話がある=回し者。

 それっておかしい図式だと思うのは俺だけじゃないよな。話があると言っているだけなのに回し者の容疑が掛かっちまうなんてありえないんだけど。

 ちょ……不穏な空気が漂ってきたよ。これは訪問早々喧嘩のニオイか。だったら喧嘩っ早いな、不良って! 警戒心を募らせている複数の不良達のガンを受け止め、「めんどくせぇ奴等だな」ヨウが悪態をつく。


 それにより、空気が一層悪くなったのだけれど、リーダーは場慣れているらしく、やや声音を張って目的を告げた。



「浅倉に協定の件で返事しに来た。そう伝えろ」



 憮然と肩を竦めるヨウに対し、ガンを飛ばしていた不良達の空気が変わる。

 警戒心を抱いたまま、俺等の身の上をしっかりと確かめてくる。


「協定? じゃあ、お前等、荒川チームか」


「そうだ。浅倉はいるか?」


 「少し待ってろ」不良の一人がビリヤード台から下りて、颯爽と部屋の奥に向かう。ビリヤード場は二部屋あるみたいだ。

 俺達が荒川チームだと分かった瞬間、周囲の不良の皆様方の空気が緩和。不穏は霧散していた。良かった、どうにか喧嘩にならずに済んだみたいだな。喧嘩になったらどうしようかと……これもそれもあれもワタルさんがウザ口調でご挨拶するから。

 取り敢えず、俺等は向こうの動きがあるまで出入り口で待機。全員ビリヤード場に入って向こうの返事を待つ。

 その間、痛いくらい浅倉チームの視線を浴びる羽目になって、息苦しいのなんのって逃げ出したい空気だ。ヒソヒソ声も聞こえてくる。「あれが荒川か」「噂には聞いてたが」「地味だな」と、まあまあ、なんか誤解されているような気がしてならない会話に、俺は顔を引き攣らせる。まさかだと思うけどさ。


「カモフラージュとしては完璧だな。ありゃ敵も欺ける地味ダサくんだ。思わずカツアゲしたくなるもんな。いやぁ策士だな、荒川。で、あいつの舎弟は?」


「噂じゃそこの赤メッシュらしい。美形だな、あいつ。向こうの方がリーダー格に見える。知っているか? 荒川とその舎弟って夜な夜な、二人で族と会っているらしいぜ」


「マジかよ。族ってやばくね? そりゃ日賀野チームと渡り合える筈だよな。噂によると先公をリンチしまくっているそうだな」


「らしいぜ。超キレ者らしいぞ」



 俺等の評判、最悪じゃないか。身に覚えのない噂まで立っているし。

 族? ンなのに関わったら最後、田山圭太は極道に走るぜ! ……嘘、関わったその瞬間、俺は警察に逃げ込むぜ! 自分と命一番だろ!

 しかも思ったとおり、ヤな勘違いをしているしさ。俺は荒川庸一じゃない、田山圭太だってーの。カツアゲしたくなるナリ? やかましい! やれるもんならやってみろ! 俺なんて地味っ子にカツアゲしたらな、簡単にできちまうんだからな! 財布はいつも寂しいことになってるから遊びの足しにもならないぜ!


 「アリエナイ」俺の嘆きに、「リンチはしたことねぇ」教師を軽くボコしたことはあるけど……ヨウが神妙に呟く。

 ものすっげぇ物騒な独り言を耳にした気がするけど、聞き流すことにした。スルースキルを高めるのも人生において必要だよな。ツッコむだけが人生じゃないよな。


「和彦さんが奥に来て欲しいそうだ。案内する、荒川」


 と、浅倉さんに報告した不良が戻って来た。


 先ほどの態度とは打って変わり、案内すると愛想よく笑ってくるのはいいけどさ……何故に俺に言うんだよ。

 いや分かっているよ。誤解してくれているんだろ! アリガタ迷惑な事にさ! 浅倉さんの時と一緒だろ?! 引き攣り笑いを浮かべる俺に、もうダメだと大笑いするワタルさんとシズとハジメ。俺の不幸を清々しく笑ってくれる。くそう、俺の不幸を笑ってくれやがって。きっとヨウも悔しい思いを抱いている筈。

 振り返ってヨウに救いを求めれば、「行きましょうぜ。兄貴」笑いを堪えながら俺の肩に手を置いてくる調子乗り一匹。

 イケメンくんは笑っていても、意地が悪くても、何でもイケてて腹が立つのですが。ぶっ飛ばすぞ、お前! 勿論、出来る筈ないけどさ! ンなことしたらモトに絞め殺される!


「ヨウ! お前、何ふざけてくれちゃってるんだよ!」


 怒声を張る俺に、笑声を漏らしながらヨウはキョトン顔を作っている案内役の不良に自分が荒川だと名乗る。

 不良の反応はこうである。


「いや、ここでカモフラージュをしなくても。あんた等が策士なのは分かっているけど、此処では普通にしようぜ。俺等、あんた等には友好的に接するつもりだし」


 アウチ、デジャヴ。


「いや、だから俺が荒川で」


「お前がリーダーっぽく見えるのになぁ。頭いいんだな。お前のリーダーって」


「こっちが田山」


「まさか、地味くんがリーダーなんて誰も思わないし」


「……またこのパターンか。なんでこんな噂が立っているんだよ。ケイ、なんかしただろ?」 


 その言葉、そっくりそのままお前に返す。

 舎兄弟の悪い噂が立っているなら、十中八九舎兄に原因があると思いますけどね! 俺より兄貴の方が素行も悪いし……舎弟はいっつもとばっちり受けているんだからな! お前にだけは絶対に言われたくねぇやい!

 途方に暮れている俺等を助けてくれたのは、頭脳派くんのハジメだ。


「あの、噂はデマだから。僕等のリーダーはまんま美形不良のこの人。地味な彼はヨウの舎弟。確かに地味だけど僕等のチームメート。彼はこれでもチームの戦力の要になっているんだ」


「ああ、それもカモフラージュとしての説明か」


「……いやだからね」


 ハジメの懇切丁寧な説明のおかげで、誤解を乗り越えることができた俺等は不良の案内のもと、浅倉さん達のいるビリヤード室に入る。


 全部で六つ、並列に等間隔に並べられたビリヤード台の一つに浅倉さんがいた。

 本来ビリヤードを楽しむ筈の台は、すっかり不良の腰を下ろす休憩場と化しているようだ。浅倉さんは最奥の右側のビリヤード台に座って、暮夜の景色を窓から眺めていた。彼の両隣には副リーダーの涼さんと、彼の舎弟桔平さんが立っている。

 残り数人の不良達が各々ビリヤード台前に立っていたり、寄り掛かっていたり、床の上で胡坐を掻いていたり。


 注目を浴びる中、ヨウとシズが先頭に立って向こうのリーダーに歩み寄る。

 「よっ」軽く手を挙げる浅倉さんに、「返事しに来た」挨拶代わりの言葉をヨウは投げる。回りくどい言い方は不要だと微苦笑を漏らす浅倉さんはどこか諦め顔だ。

 そりゃあ、な……弱小チームと協定を結ぶ馬鹿はそうはいないだろ。ましてやエリア戦争に加担するなんて、日賀野チームと対立している俺等かしてみれば負担極まりない。内輪でも話題にあがったほどだ。負担になるし、もしかしたらこれが原因で負ける可能性だって出てくるかもしれない。


 なかなか協定を結んでくれる馬鹿はいないだろう。


「いいか浅倉。始まる前からンな面してんじゃねえぞ。テメェはチームのリーダーだろうが」


 浅倉さんの表情を叱咤するヨウは、「そんなんじゃ先行き不安だな」と毒言する。

 取り巻きが不快な表情を浮かべているけれど、リーダーは物怖じせずに言葉を続ける。


「仲間を守りてぇなら、死ぬ気でやれ。テメェがそれじゃあ、こっちも困るんだよ。今からたむろ場に帰って、仲間に返事の変更を伝えないといけねぇじゃねえか」


 微苦笑が崩れ、浅倉さんの顔は驚愕に変わる。ヨウはしたり顔を作った。

 なあ浅倉さん、俺等のリーダーは馬鹿で真っ直ぐなんだ。直球型不良なんだ。何より義理と人情と仲間を大切にする、不良だけど不良らしくない奴なんだよ。弱小関係なく、信頼関係を最重視する馬鹿なんだ。このチームなら俺等と友好的に手を結べると思う、信頼を重視する奴なんだ。

 副リーダーもそう。何だかんだいって、結局は信頼を築き上げることを選択。それに俺等チームも異存はない。寧ろ、こうなることを、誰もが予想していた。


「俺から出す条件は三つだ」


 ヨウは一歩前に出て、条件を挙げた。



「ひとつ、勝利のために俺の仲間をダシにしやがったらその時点で協定解消。少しでも俺の仲間を傷付けるような真似してみろ、容赦しねぇぞ。俺は仲間が傷付くのを何よりも嫌っているんだ。作戦であれ仲間をダシにすることだけは、チーム頭の俺が許さない。


 ふたつ、裏切る素振りを見せた時点で俺等はテメェ等チームを潰す。テメェ等から持ちかけてきた話だ。責任を持って俺等と手を結んでもらおうじゃねえか。ヤマトに寝返りでも見せたら最後だぜ? 俺等、これでも奴等と対立してる状況だ。仮に相手に唆されたとしても、裏切り行為は俺等に敵意を見せたってこと。俺等は協定を解消して、テメェ等を壊滅に追い込む。


 みっつ、俺等は負けの喧嘩なんざ眼中にねえ。俺等と協定を結ぶっつー覚悟があるなら、常に勝つ気でいてもらう。弱小チームだから、腕っ節ねぇから、不良の落ちこぼれだから……ンなちゃちい言い訳は俺等に一切通用しねぇ。


 勿論、協定を結んだ後は日賀野チームを負かすために協力してもらう。俺等がエリア戦争でテメェ等の肩持つって言っているんだ。それくらいの見返りは求める。どうする、浅倉。今ならまだ間に合う。協定の話、無かったことにもできるが?」


 ヨウはアーモンド形に目を細め、まるで威圧するように向こうの頭を見据えると、ビリヤード一室に響き渡るような声音を張った。




「これは俺の意思だけじゃなく、チームの意思であり決定。俺達はテメェ等に信用と覚悟を腹に決めて返事をしている。協定を結ぶ気でいるなら、常にエリア戦争の勝者になる気持ちでいろ浅倉。俺達のチームは全員一致で、テメェ等チームとの協定を受け入れてやる!」




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