12.ひとりよりふたり、独断より協調性、ニッポン大衆国!


 ◇ ◇ ◇



【協定集会・場所:倉庫(荒川組たむろ場)】



 嗚呼、なんてこったいマドモアゼル。 

 とんでもジョニーな光景に、俺の気持ちは勘弁してくれフロイラインだ。かつてない光景に圭太、喪心しそうッス! こんなにも多くの不良に恵まれてしまって俺、泣きたいッス! 勿論感涙じゃなく、悲しみの涙ッス! 涙も心もしょっぱい気持ちで一杯ッス!

 ……阿呆なことはここまでにして、この不良の数はない。過度に言いすぎかもしれないけれど、それにしたってこの人数には「……」だ。俺達のチームと浅倉さんチームを合わせると結構な数になるもんなんだな。若干向こうの方が人数的には多い気がする。俺は向こうのチームを見やって不良の数を数えた。



 俺達チームの人数は男女合わせて11人(と、チームに手を貸している利二を合わされば12人)。

 一方、向こうの人数は15人。現時点では4人、向こうの方が数が多いみたいだ。

 ただ俺等と決定的に違うのは向こうには女がいない。見事に野郎ばっか。もしかしたら“エリア戦争”に参加するからと、女の子は入れてないのかもしれない。チームから抜けさせているのかもしれない。力的な意味で女の子は足手纏いだし、やっぱり女の子に怪我をさせるのはなぁ。


 そういう面じゃ俺等も同じで、基本的に女子は待機組(もしくは情報・作戦組)に回ってもらっている。

 響子さんは自ら喧嘩に参加すると言っているからあれだけど(でもヨウやシズは今回に関しては反対しているみたい。だから補佐をしろ、と条件を出していた)、非力な弥生やココロに喧嘩に加担しろ、なんて酷だしな。


 ま、非力な俺も十二分に酷な戦場に借り出されるんだけどさ! 死亡フラグ満載どーするよ……。 

 がっくり肩を落とす俺は、改めて集会光景を見つめる。

 協定集会が始まったのは午後五時。夕焼けが何年も掃除されていない倉庫の窓から射し込んで、倉庫内を見事な真紅に染め上げている。比例して皆の制服や肌の色が夕陽色に染まっていた。


 集会が始まる前から向こうのチームは険しい面持ちだった。

 協定を結んだ俺等に友好的な感情は見せてくれているものの、未だに俺等を信用していないのか、もしくは『エリア戦争』に憂慮を抱いているのか、硬い表情が殆ど。おかげで各々不良に妙なオーラが取り巻いて、圧死しそうな威圧感が倉庫を満たしていた。空気が重い。超重い。息苦しさにトンズラしたくなるほどだ!


 そんな中で始まった集会。

 野郎は各々ジベタリングしているため、倉庫内はお行儀の悪い光景極まりない。

 まずは浅倉さんが代表してリーダの自分と副リーダーの涼さんを紹介してきた。人数が人数だ。全員を紹介する時間が惜しい。せめてチームの中心人物だけを憶えていてもらおうという配慮から、自分を含むチームの頭を俺等に紹介。

 それに倣い今度はヨウが改めて、浅倉さんチームにリーダーの自分、副リーダーのシズを紹介。簡単な自己紹介後は、浅倉さんが早速『エリア戦争』について現状を全員に説明する。



「エリア戦争は全部で4チームが参加している。おれ等、榊原、都丸、最後に刈谷チームの4チームだ。

 既にエリア戦争は始まってらぁ。圧倒的に今、優勢に立っているのは榊原チームだな。商店街の支配エリアが確実に広い。おれ等は劣勢なんだ。此処で質問は……って、ん? なんか荒川チームがキョトン顔しているが……え? なに? ちっとも話が見えてこない?


 ああ、悪い悪い。

 話す順序がちげぇな。あまりにも端折りすぎた。おれ等チームは分かっているけど、お前等は分からないよな?

 んじゃ、まず最初に商店街の構造と支配エリアについて説明することにするぜ。悪いな、おりゃあ説明ベタなんだ。けど頭として精一杯、説明させてもらう。


 池田達が支配していた商店街の地形はダイヤのような形をしている。

 普通のダイヤの形を想像してくれれば良い。まだ想像し難い場合はトランプに載っているダイヤのマークを想像してくれ。とにもかくにも寂れているくせに、『廃墟の住処』って呼ばれている商店街は妙な形をしているんだ。


 この商店街の地形の面白いところは、ダイヤの形した各々の突端に出入り口があるってことだ。つまり、ダイヤの形の角っこ角っこに商店街の出入り口があるって話だ。出入り口は全部で四つ、東西南北それぞれにある。

 わりと大きな商店街だってことくれぇは想像付くよな? 少し前まで……あー昭和時代は賑わいを見せていたらしいからな。平成に入ってからデパートやらコンビニやらの出現で廃れちまったけど、近所じゃ有名な商店街だったらしいぜ。商店街のエリアは結構でかい。


 各チームはそれぞれ出入り口を支配して、自分の陣地を徐々に増やしていこうという魂胆だ。

 おれ等は北の出入り口を支配している。だが陣地は少ねぇ。戦力不足で出入り口付近を守るのが精一杯だ。おれ等と同じような状況下にあるのは東の陣地を支配してる都丸チーム。あっちも戦力不足なのかぁ、支配エリアは少ねぇ。実力的にはおれ等とどっこいどっこいだ。


 西の陣地を支配しているのは刈谷チーム。ちょい優勢で、陣地的にはおれ等よかは広く取っている。おれ等は先日、このチームに一部のエリアを取られちまった。実力的にはどっこい、だが数が多い。厄介っちゃ厄介だ。


 いっちゃん厄介なのはおれ等と対立している榊原チーム。

 奴等は南の陣地を支配しているんだが……こいつ等は商店街の半分のエリアを支配している。おれ等は北側だから、まだ影響は少ねぇが……両サイドの東西エリアを支配している都丸・刈谷チームは影響が出てるみてぇだ。

 それだけ榊原チームが力を持ってやがるってことだ。元はおれ等とチームだった奴等。実力者ばっかが集っているチームだってことは、ハナっから理解している。数も多いしな。


 しかも日賀野チームと協定を結びやがった。下手に手出しすりゃ、日賀野チームが駆けつけるかもしれねぇ。他のチームはそれを知っているから、なっかなか仕掛けられない状況下にある。おれ等としては榊原チームを伸すのが最大の目的だが、東西エリアを支配している都丸・刈谷チームを無視することはできねぇ。ま、現状説明はこんなところだ。ご質問は?」



 浅倉さんが俺等に顧みて、質疑応答の時間を設けた。

 なるほど既に『エリア戦争』は始まっているわけか。俺は頭の中で商店街の地形とそれぞれの不良チームの配置を想像する。東西南北をダイヤの形に割り当てると、北が浅倉さん。南が潰したい榊原。東に都丸。西に刈谷。半分くらいは榊原達に陣地を奪われているらしいけど、幸いなことに浅倉さんチームは北。

 東西の陣地を取っている二チームが、ある意味バリケード的な役割をしてくれているんだな。


 つまり榊原チームが浅倉さん達を潰すには、東西の陣地に腰を据えている二チームの目を避けては通れない。片方に気付かれないよう動いても、片方に気付かれることだろう。商店街の敷地面積はわりとあるけど、あくまで“わりと”だ。

 両チームの目を盗んで行動できるほど、大きい敷地とも言えない。

 向こうチームと正反対の場所に陣地を取ったことが幸いしている。反面、俺達が攻め込む時はバリケードが厄介だ。“障害物”になるのは確かだし、二チームの目を避けて通れない。向こうチームと同じ条件が突きつけられる。


 俺の知る限り、『廃墟の住処』は単に店同士が肩を並ばせているわけじゃない。等間隔に店は並んでいるけれど、全部が全部店同士がくっ付いたように並んでいるわけじゃく、ある所でぽっかりと隙間が顔を出す。隙間イコール抜け道になるわけなんだけど、商店街には幾つか抜け道が存在する。

 攻め込むなら抜け道を使うのが有効的だと思う。


「んー、俺的には正面突破してぇところだよな。まどろっこしいのは嫌いだ」


 真顔でお馬鹿発言をするのは我等がリーダー。

 おいおいおい、大事な集会でなんて馬鹿な発言を……それができたら苦労しないだろ! それこそ集会なんてまどろっこしいモノ開かないで、さっさと攻め込んでジ・エンドだろーよ!


「てか、考えるのがめんどくせぇな。俺は考えるのが苦手だ」


 ……やめてくれよ、ヨウ。チーム全体がお馬鹿だと思われるだろう。


「気が合うなぁ。おりゃあ、その手段が一番好きだ。喧嘩はなあんも考えず動くのが一番だもんな」


「ああ、同感だな」


 能天気に笑声を上げる両者チームの頭。

 おかげで緊張感漂う空気がキレイサッパリに掻き消え、代わりに漂うのは皆の落胆と不安を含むズーンっと淀んだ空気。嗚呼、皆苦労しているんだな。考えなしに動くリーダーに苦労しちゃっているんだな。ある意味、これとは別の同盟が組めそうだ! ……似ているよな、浅倉さんとヨウって。お互い真っ向勝負が好きそうだもん。


 「ヨウ……」これ以上チームのレベルを落とすのはやめてくれ、副リーダーのシズがヨウの脇腹に肘打ち。

 「浅倉さんも」真面目に考えましょうよ、同じく副リーダーの涼さんが溜息交じりにツッコむ


 悪い悪いと片手を出すヨウは、改めて俺等に疑問はあるかと聞いてくる。 

 今のところは別に無いけど……俺は軽く顔を顰めて商店街の地形をぐるぐると考える。正しくは商店街外の地形を考えていた。不利だな、浅倉さんチームの陣取った場所は。んでもって榊原チームは有利だ。もしも地形を目論んで、榊原が南の陣地を取ってたとしたら、本当に策士だぞ。


 だって南は……。


 眉根を寄せている俺を余所に話し合いは進む。 

 今回の集会は“話し合い”というよりも、実情は説明会に近かった。俺等のために浅倉さん達が懇切丁寧に説明をする、みたいな流れになっている。

 ある程度の話し合いが終わった後、浅倉さんは陣地の状況と敵の動きを見てくるよう仲間内数人に指示した。するとヨウも仲間を同行させると意見し、三人を抜擢。もしも喧嘩になった時のために腕の立つキヨタ。状況判断が長けている響子さん。そして俺の三人だ。


 おい嘘だろ、怖い怖い不良さんを偵察かよ! と思った反面、ヨウが指名した意図を汲み取る。 

 正直、感謝したくなった。だって自分の目で確認できるから、商店街の地形を。

 ただ向こうのチームからの反応はよろしくなかった。ひとりは女だし、残り二人は見た目真面目くん。不良とかけ離れたイメージを抱く人間が同行するため、こいつ等で大丈夫なのか? と、不安を抱いたようだ。


「おい荒川」


 浅倉さんが物言いたげな顔を作った。陣地の状況と敵の動きを偵察するということは、最悪、敵方と遭遇して喧嘩になるうるかもしれないということ。彼はシズやワタルさんなど、手腕のある人間が同行した方が良いんじゃないかと考えているようだ。

 その証拠に浅倉さんが抜擢した人間は見た目的にもガタイがある野郎ばかりだ。

 けれど、ヨウは何食わぬ顔で俺達に宜しくと片手を挙げてくる。変更する予定はないらしい。


「響子、陣地の状況をしっかり見てきてくれ。キヨタ、もしもの時は先陣に立て。ケイ、テメェの動きたいように商店街を見て来い。ああ、そうそう。喧嘩になったら、とりあえず全部潰せよ。今、ヤマト達に俺と浅倉が手を結んだなんて知られたら面倒なことになる」


「分かった。うちとキヨタで潰す。なあに、キヨタがいるんだ。大丈夫だろ」


 意味深に笑う響子さんに、「テメェは少し控えろよ」女なんだから、とヨウが釘を刺す。

 「いや、どうかなぁ」実は男のアレがついていたりねぇ。ワタルさんが余計なことを言った瞬間、響子さんのハイキックが炸裂した。顔面を強打し、くらっと倒れるワタルさんの哀れな姿を見た浅倉さん達はさぞ胸に刻んだことだろう。響子さんを怒らせるべからず、と。


「にしても、チビと荒川の舎弟は……大丈夫かよ」


 浅倉さんチームのひとりがぽつんと本音を漏らす。

 申し訳ない、俺は大丈夫じゃないです。響子さんやキヨタと違って手腕皆無です。これでもヨウの舎弟として毎日を必死に生きているんだけど、頑張ってはいるんだけど、やっぱり喧嘩の能力は零なんです。まったく使えないからヨロシクお願いしやす!


「ちょっ、大丈夫ってなんっスか! ケイさんを侮辱するのは俺っちが許さないっすよ!」


 ここでしゃしゃり出てきたのは同行するキヨタだ。

 聞き捨てならないと吠えるチビ不良は、「兄貴の実力を知らないから」そんなことが言えるんだと鼻息を荒くした。キヨタもまた不安を煽っている要素なのだけれど、それには気付かず、ひとりで興奮している。

 あああっ、こいつはもう……俺をこんなにも愛してくれちゃって。おかげで面倒事が増えるだろ!


 「き、キヨタ。落ち着けよ」必死に止めるんだけど、「ケイさんは凄いんっスよ」燃えに燃えているキヨタはグッと握り拳を作って高らかに吠えた。



「ケイさんはチームイチの男前なんっス! 舐めたら痛い目を見るっスよ! ……確かに身形は地味っこくて不安を煽るかもしれないっス。俺っちも失礼ながら、初対面当時は思っていました。こんな人がどーしてヨウさんの舎弟なんだと思った時期もありました。だけど一皮剥けば、誰よりもクールで男前! 爽やかで輝いているっス! その心意気に惚れない女はいないっス! 男だって尊敬しちまうっス!

 それに、ケイさんは俺っちにとてもとても大切なことを教えてくれました。何だと思うっスか? ……それはっスね、人は見た目じゃない、中身が大事なんだってことっス!

 俺っち、ケイさんほど男前な人は見たことないっス! ケイさんは俺っちのハートを盗んでいった罪作りな男っス! ルパンも顔負けな手際の良さでハートを盗まれたっス! 罪な男っスね……あ、ケイさんなら罪さえも許されると男っスけど!

 なんなら俺っち、一晩かけてケイさんの素晴らしい武勇伝を語ってもいいっス。武勇伝、武勇伝、武勇でんででんでんLet's go! ケイさんカッコイイ!」


 カンカカンカカンカカッキーン。

 ハイ、キヨタの発言、いつにもましてライク美化されてる。ペケポン!

 フッ、決まったぜ。俺、マジで芸人さんになれるかも。こんなにもノリノリにキヨタの無茶振りを心中で……心中でノった俺の大馬鹿野郎。でも口に出して言わなかった俺は凄い! 偉い! 成長した! んでもって……。


「あああっ、すみません! 気にしないで下さい! この子、ちょっと俺を美化して見る傾向があるんです。偏見と言いますか、妄想と言いますか、過大評価すると言いますか。素敵で兄分想い、でも残念っ子なんです。キヨタには後でよく言っておくます。ほんっとすみません」


 弟分の無礼講に頭を下げる羽目になったのだった。



 あだしごとはさておき、俺はキヨタ、響子さん、そして向こうチームの不良さん方と共に陣地状況と敵の動きを偵察しに赴いた。

 今回は向こうチームの不良さんのバイクに乗せてもらう。“足”としての活躍はなし。少々寂しい気持ちもするけれど、楽チンだったからよしとしよう。たまには休暇があったっていいだろう?


 夕暮れから夜に染まる紫紺空の下、俺達は敵対している不良達に悟られぬよう気を付けながら、商店街周囲をぐるりとバイクで走る。

 商店街一帯にはごつい不良がチラホラ見受けられた。素通りするバイクに不良が乗っていたら、ギッとガン飛ばし(恐!)、警戒心と威嚇をいっぺんに向けてくる(真面目に恐!)。

 どうやらそんな態度を取る不良達は全員、『エリア戦争』に関わっている不良達のようだ。幸いな事に、各々敵方の陣地に乗り込む様子は見受けられないけど、何処も一触即発の雰囲気を醸し出している。半歩でも足を踏み入れたら、その瞬間に地雷を踏んでドッカーン、喧嘩が勃発しちまいそう。おそろしやおそろしや。


 バイクの切る強風を正面から受け止めつつ、俺は目を眇めて商店街の風景を観察した。

 敵対しているチームの様子は他の面子に任せることにする。ヨウが俺を指名したのは俺に敵の観察をして欲しいわけじゃない。ただ不良達の観察をするくらいなら俺じゃなく、判断力と分析力に長けているワタルさんを抜擢しただろう。


 言葉にしなくても分かる。ヨウが俺に任せてきた仕事が。

 流れすぎていく風景を観察を凝視する。目まぐるしいスピードで通り過ぎる景色は、自分の目で確認するだけの価値はある。運転している不良さんに愛と勇気と根性を持って(今日の最重要ポイントだぞ!)、少しだけ商店街の道も走ってもらった。


 暮夜の刻となる。

 一頻り、商店街を見て回った俺達は、これ以上偵察する必要もないだろうと判断し、たむろ場に戻った。

 すると早々首を長くしていた両チームのリーダーが呼びつけてくる。既に話し合いはどう相手チーム達を伸していくのか、その作戦に移っていたようだ。まずは敵の様子を報告。向こうの動きはまだ見受けられない、そう告げると、浅倉さんはそうかと頷く。ある程度予測していたみたいだ。

 一方、ヨウは腕を組んで意味深に息をつくと、「てめぇの方はどうだった?」主語もなしに俺に質問を浴びせてくる。舎兄と同じ顔をして、「俺なら南を取るね」現状を有りの儘に伝えた。


「四つの陣地の中で、一番有利なのは南なんだ。なにせ、あそこには裏道がある。それを踏まえて陣地を取ったなら、向こうの戦略勝ちだ」


「ケイがそこまで言うってことは……戦力に次いで地形的にも不利か」

  

「あの、何の話です?」


 浅倉さんの隣に立っていた涼さんが首を傾げてくる。

 「地形の話」単刀直入に申すヨウは、舎弟(つまり俺)に地形を見てきてもらったのだと回答。


「ケイはチームイチ土地勘に優れている。商店街や周囲の地形を見てきてもらったんだ。こいつなら商店街の土地を攻略してくれると思ったからな」


「ンー、この地味っこい奴がなぁ?」


 半信半疑の浅倉さんに俺は空笑い。信用されてねぇな、おい。

 疑心を払拭するように、「ケイの土地勘は確かだ」それは舎兄の俺が保証する、ヨウが静かな声音で明言した。


「ケイ、具体的にてめぇの見た問題点を挙げてくれ」


 舎兄に頼まれたため、軽く説明する。

 俺が南の陣地を有利だと思う点は周囲の抜け道にある。商店街内の地形はさほど問題視しない。どこを陣取ったってたかが商店街内部。細かい道は存在するけれど単純な道が連なっているし、規模的にも商店街は狭い。複雑な道中にはなっていないから大丈夫だろう。

 問題なのは南陣地の周辺。商店街に行く際、近道として裏道が存在する。そこを使えばチャリで5分以内に大通り道に出られる。もう察してくれていると思うけど、その裏道が宿敵榊原チームが陣取っている南入り口付近なんだ。


「この裏道は直接大通りと繋がっている。例えば俺達が榊原を追い詰めるところまで追い詰めたとしても、向こうに存在する裏道を使われたら協定を結んだ不良の援軍がやって来る可能性がある」


 それこそ日賀野達がやって来る可能性もあるし、向こうが別の協定チームと手を結んでいたとしたら、その応援も来るかもしれない……。 

 幾ら俺達でも援軍が束になってかかってこられちゃ不利も不利。最悪、全滅する可能性がある。どんなにヨウ達が強くても数が多かったら、こっちのスタミナが切れちまうって。


 榊原達が陣取っている南周辺の裏道は近所でも知れているから、その道を知らないとは思えない。

 なにせ、あの裏道は凄く便利なんだ。商店街から普通の道を使って大通りに出るためには15分を要する。けど裏道を使えば5分で済ますことが出来る。行き帰り一本道。とにもかくにもあの裏道はとても便利なんだ。

 榊原達も多分それを知っていたから、より優勢を保つために南の陣地を取ったように考えられる。


「あの道さえなかったら、向こうの優勢も簡単に崩す事ができるんだろうけど」


「一本道なんだな? 裏道は」


「ああ。平坦一本道。チャリ5分前後、徒歩10分ってところかな。走れば間を取って7分前後」


「なるほどな。ハジメ、今の状況をどう分析する?」


 俺の説明に一頷きしたヨウは、振り返り背後に立って話を聞いていたハジメに意見を求める。

 眉根を寄せるハジメは一思案した後、「一本道なんだね?」再三再四俺に状況確認。頷いて見せれば、「待ち伏せは使えるよなぁ」盛大な独り言を漏らした。直後、我等がリーダーに意見する。


「例えば、援軍を懸念するんだったらその一本道の出入り口。特に商店街から大通りの流れに沿う入り口で待ち伏せ、援軍を呼ばれる前にはっ倒す手が一つ。仮に携帯で援軍を呼ばれた場合は、大通りから商店街の流れに沿う入り口で待ち伏せ。一気に伸す手が一つ。二通りの手段が今のところ考えられる。ただし懸念し過ぎると当初の目的を見失いかねないよ、リーダー」


「ヤマトチームのために俺等が一本道のところに待ち伏せていたら……『エリア戦争』の方が疎かになるってことか。ヤマト達は俺等が食い止めるのが一番だろうが、目的を履き違えるのも気が引ける。負けたら意味がねぇ」


「僕の考えとしてはヤマト達が喧嘩に出ている隙を狙うのがいいと思うよ。向こうも血の気が多いからね。『エリア戦争』に僕等が加担していると知らない内は自分達の喧嘩を楽しむだろうし……、弥生が情報を集めてくれる筈だよ。ね?」


 ハジメに話を振られ、弥生は擽ったそうに、けれど得意気に綻んで任せておけと首を縦に振った。


「ハジメにそう言われちゃ、頑張らないわけにはいかないじゃん」


 一瞬でもアッマァイ雰囲気を感じたのは俺だけか、俺だけだろうか、俺だけなのだろうか。

 くそう、リア充め! フリーへの嫌味だろ、それ! そんなにも甘い雰囲気作ってからにくさ! 俺もリアリアに充実してぇ! ……彼女が欲しいよなぁ、切に。甘酸っぱい恋をしてみた……い、と思った瞬間、どっかの誰かさんが脳裏を過ぎって俺はひとりこっそりと悶絶(心中の俺「何故にあの子が脳裏を過ぎるんだチクショォオオオオオオ」)。

 嗚呼、自分で自分の首を締めた気がしてアウチな気分だぜ! 


 そんな俺の余所で、意見を聴いたヨウは皆の意見をブツブツ反芻。「こりゃ時間との勝負だな」結論づける。


「ヤマト達に事を知られたら厄介だ。ヤマトは喧嘩をゲーム感覚で楽しんでやがるからな。狡い手を使って襲ってくるに違いねぇ。協定を結んだ不良達を束ねてやってくる可能性も大だな。シズ、てめぇはどう思う?」


「同意見……向こうも情報通だ。早いうちに事を片付けておくのが手だろう……ふぁ~……ねむ」


 こんな時に欠伸を噛み締められる我等が副リーダーは大したもんだぜ。

 俺だったら欠伸どころか、眠気一つ出てこないや。だって周囲は不良不良不良ふりょうバッカだもの! 眠気どころか胃がちっと痛むぞ! 胃炎にならないといいけど。


「一気に嗾(けしか)けるしかねぇ」


 ヨウは戦法プラスの真っ向勝負で挑もうと意見。

 なるべく一日、二日で片付けたい。特に浅倉さん達の因縁であろう榊原チームは一日目で片付けてしまいたいもの。でなければ日賀野達の耳に事が飛び込む。『エリア戦争』に直接参加する日を、なるべく一日で済ませたいと強く言った。

 ちなみに戦法は今から立てる、そこのところは忘れていないとばかりにしっかりと補足して。


「これから俺等チームは役割分担を決めっぞ。意見は最後に聞くから、取り敢えず分担する。まず具体的な戦法は頭の俺、副のシズ、頭脳派のハジメでいく。タコ沢、てめぇは戦法を立てる際、俺等に不良内情を教えろ。テメェが一番付近の不良内情には詳しいからな。俺等につけ。

 戦力把握はワタル、響子。どれくれぇの割合なら力が均等になるか調べて欲しい。弥生はヤマト達の情報をちょい探ってみてくれ。なるべく奴等の行動を知りたい。その際、キヨタ、てめぇは弥生のサポートに回ってくれ。夜に情報探るってのは危険な行為だからな。弥生が襲われねぇようしっかり守れ。勿論、弥生のサポートもしてくれ。

 地形のことはケイが担当しろ。てめぇが一番地形には詳しいからな。その知識をモト、ココロに提供して、テメェ等はテメェ等なりの戦法を考え出してくれ。後で俺等で決めた戦法を照らし合わせて調節すっから。ケイ、中心になって戦法を立ててくれ。以上だが、なんか意見はあっか?


「へいへいへーい、ヨウちゃーん。僕ちゃんから一ついい?」


「何だワタル」


 挙手するワタルさんは、こほんともったいぶったように咳を零して口を開く。


「タコ沢ちゃーん、こっちにも回してくれる? 戦力の把握はOKなんだけどさ。均等に戦力を分けても、向こうの不良達チーム全員と対等になれるとは思えないわけよんさま。つまり相手チームに合った戦力でこっちもいきたいわけねねねねん。戦力に詳しそうな不良内情を知ってるタコ沢ちゃん、こっちも欲しいな~む」


「うちも同意見だな。タコ沢をこっちに回してくれ、ヨウ」


「……さっきから黙って聞いていれば、揃いも揃って俺は谷沢だゴラァ。誰がタコ……っ、誰がたこだっ」


 青筋を立て、片眉をつり上げ微動させるタコ沢の文句なんぞ皆スルー。

 ヨウはワタルさん、響子の意見になるほどと頷き、腕を組んで思案。そして提案、「先にそっちにタコ沢を行かせる」二人の要求を受け入れた。タコ沢には後でこっちに来てもらう、ヨウの下した判断に一人を除いて納得。

 ちなみに除かれた一人は当人のタコ沢、「テメェ等っ勝手に決めやがって!」地団太を踏んで吠えていた。どう吠えてもタコ沢の運命は決まっているのにな。


「はい。ヨウ、俺からもいいか」


 前者に倣い俺も挙手した。

 「なんだケイ?」流し目にしてくる舎兄に対してこう意見する。


「戦法はヨウたちが立てるんだろう? だったら地形もまとめてした方が時間短縮にならないか?」


 でないと俺中心に戦法立てる羽目になる。

 今まで学級委員、応援団、生徒会員等など、目立つ仕事を避けてきた俺が、俺が、おれが中心になって戦法を立てるなんて恐れ多いにもほどがある。


「確かにご尤もだが、俺達が立てる戦法はチーム同士がぶつかった後のことだ。一方、ケイ達に任せたいのはぶつかるまでの過程。今回は特に地の戦法が必要になってくる。俺達はぶつかった後の戦法を集中的に話し合いたい。つまり、その前の流れはテメェ等に任せたいんだ。ケイ、テメェが中心になってやれば安心だ」


「んなこと言っても、俺」


 人についていく、合わせるってのは得意なのに……まさかの司会進行役がくるなんて。

 尻すぼみする俺の心境を悟ったのか、「自信持てって」俺の舎弟はやってくれる男なんだ、と人の首に腕を回してニッとイケた笑顔を向けてくる。

 「テメェ等も期待しているぜ」不良だから、地味だから、そんなの関係なしに俺等チームメートに期待を寄せてくるリーダーは本当に俺等のリーダーだった。心の底から俺等に信用を置いてくれてるんだな、ヨウ。友情を感じるぜ……涙も誘うほど熱い友情を感じる。

 だけど反面、プレッシャーがな! そんなに期待をされても困るんだぜ! 俺に務まるかなぁ、司会進行役! ああああっ、胃がいてぇ! そりゃ内輪で話し合うから別にいいけど……。


「荒川、こっちもチームを分担した。お前等の分担グループと合流させてくれ」


「ああ、分かった浅倉」


 ねえ、圭太、お聞きになりました? 向こうのチームの人と合流でやるんですってよ。いやそりゃそうですよね、協定を結んでいるんですから。

 でも圭太、大丈夫? 向こうの皆様、みーんな不良でございますわよ。戦法は置いときましても、なんたって地形に詳しいのは圭太なんザマスから、不良様方に説明するのは圭太本人なんザマス。おほほほほ。

 ……父さん、母さん、弟の浩介! 田山家長男、田山圭太は今日、学級委員並み、いやそれ以上のお仕事をして参りますね!

 命があったら、今宵また顔を合わせましょう~~~っ、うわぁああっ、胃がいてぇええよ! 無理やり学級委員……いや、生徒会長の仕事を押し付けられたみたいに責任の二文字が重く両肩に圧し掛かってくる! おつ、俺乙だぁあああ!


 頭を抱えて身悶えている俺の肩にポンッと手が置かれた。

 振り返れば、浅倉さんの舎弟桔平さんがにこやかスマイル。


「まずは地形の説明、宜しく」


 桔平さんの向こうに俺よりもガタイの良さそうな、んでもってドハデなアタマしたカラフル不良数人。

 くうっ、なんなんだお前等っ、同じ十代後半とは思えねぇナリしやがってからにコンチクショウ! そんなに俺のリーダー素質を目覚めさせたいかっ。開花させたいか! そんなものなっ、これっぽっちもな、ねぇんだぞ! 胸張れるんだぞっ! けどな、男にはやらなきゃなんない時がある。そう、やらねばならない時が!

 だがしかーし! やらねばならいその前に、人には心の準備時間が必要なのである。それなしに行動を起こせば、次のようになってしまうので注意だ!


「じゃあ……まずは皆さん……ええぇえっと話を聞きやすいよう円にでもなりましょーかー? な? モト!」


「ん、いいんじゃね?」


「その後は質疑応答の時間に。な? モト!」


「べつにいいと思うけど」


「てかこれでいいのかな?! モト!!」


「……どーしてさっきからオレに振るんだよ」



「独断より協調性! ニッポン大衆国! ひとりよりふたり、みんなの意見尊重! 赤信号、皆で渡れば怖くない! OK?! 答えはハイもしくはイエスで!」


「……アンタなぁ。ヨウさんの舎弟でやってきているんだろ? テンパるなって……しっかりしろよ。ココロもさ、ケイになんか言ってやって」


「え、あ……えーっと、が、頑張って下さい、ケイさん。ケイさんならできます!」



「~~~ッ!! あーうーっ、ちょっ、期待がよりプレッシャーというかなんというか。俺ならできるっ……ジミニャーノ、期待されてるぜ。どうするよ、どうしようもねぇ。やるっきゃねぇ。俺はいつも舎兄に鍛えられているわけだからっ、頑張れる。いやでも鍛えられてるのは足だろ。必死にチャリを漕いでるわけだしッ、ああっ、プレッシャーで死ねそうッ」



 ぐわぁあっと頭を抱えてしゃがみ込み苦悶する俺。

 「えっとえーっと」言葉を誤ったかとオロオロするココロ。「しまった逆効果か」しっかりしてくれとばかりに脱力するモト。ポカンとしている向こうのチーム数人。皆様に大変ご迷惑を掛けることになりましたが、俺が復活するまで1分弱掛かりました。いや、心の準備ができてなかったんだから仕方が無いよな? な? ……皆様、ご迷惑掛けました。スンマソです。


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