11.イケメン不良は宣誓する



 時刻は一時を過ぎた。

 まだ起きておいてもいいけど明日も学校があるし、何かと布団の中にいた方がいいと判断。

 しかもシズに関してはこっくりこっくり夢路を歩き始めた始末。俺はベッド、二人は敷布団に潜って電気を消す。夢路を歩いていたシズは寝ちまったみたいでスヤスヤと寝息が聞こえる。寝るのが趣味なだけあって寝付き良いよな。枕がかわっても寝られるタイプだろう。


 対照的に俺は疲労が溜まっている筈なのに、頭が冴えていた。それはヨウも同じみたいで頭の後ろで腕を組んでぼんやり天井を見つめている。ヨウとベッドが近いこともあって、「眠れないか?」俺はそっと舎兄に話し掛ける。「まあな」ヨウは曖昧に笑声を漏らした。


「宣戦布告しちまったなぁ……って、改めて考えてた。手前から言ったっつーのにな」


 びっくりするほど静か、そして消えそうな、ヨウの声。俺は聞く。


「もしかして後悔してるのか?」


 間を置いてヨウは言葉を返した。

「後悔なんざねぇ。けど……どっかで自信がねぇ自分がいる。漠然とした不安っつーのかなぁ。そういうのが片隅にあるんだ」


 思わず瞠目。

 初めてヨウの口から弱音を聞いた。いつも喧嘩に対しても、何に対しても、自信で満ち溢れているのに。

 ヨウは何に対して不安を抱いているんだろう。宣戦布告したことで仲間が傷付くんじゃないかと考えているのか、離れていくんじゃないかと考えているのか、それとも先の読めない未来に畏怖しているのか。


「俺は喧嘩はできても、ヤマトと違って後先のことなんざ考えねぇから。時々……、どうしようもねぇくれぇ自己嫌悪する」


 どういう気持ちで俺に吐露してくれているんだろう、ヨウは。

 ゆっくりと瞬きをした後、負傷している左肩を気遣いながらうつ伏せになって頬杖。ヨウを見下ろして視線を合わせた。


「なんとなく今のヨウは、全部を抱え込もうとしてる気がする。全部全部ぜーんぶさ」


 ヨウが小さく目を見開いてきた。

 俺は肩を竦める。「なんとなくだよ」しっかりと言葉を付け加えた。


「ヨウって人三倍仲間意識や責任感が強いからさ。仲間も守りたいし傷付けたくもないし、だけど日賀野達にも勝ちたいし、寧ろ負けられないし。そんな重たい気持ちをいっぺんに背負っている。俺にはそんな気がする」


「ケイ……」


「どっかでヨウは気遣いし過ぎているんだ。仲間に対してさ。余計なところまで気を回してるっていうか、ちょっと考え過ぎっつーか」


 でもさ、それがヨウの良いとこでもあるんだと思うよ。気遣いが悪いとは言わない。

 ただ極端に“過ぎる”んだよ。ヨウは律儀で義理堅いから“過ぎる”面に気付かないかもしれないけど、俺からしてみればちょっと背負い過ぎている。

 ヨウが何に対して不安になっているのか、上手く言えないけど、きっと背負い過ぎているから漠然とした不安がでてくるんだと思うんだ。自己嫌悪もそう。ヨウは“過ぎる”ところがある。ある意味、ヨウのそういうところがちょっと心配だったりするかも。

 笑声交じりにヨウに率直な意見を言えば、限りなく穏やかな舎兄の顔がそこにあった。


 「かもしれねえなぁ」曖昧に返事を返して、ヨウは大きく息を吐いた。


「俺にとって今つるんでる奴等は、どいつもこいつも気の置けない奴等バッカ。失いたくねぇってのが本音だ。だから……無自覚にあれこれ考えちまうんだろうな」


「そりゃな。あのメンバーは気の良い奴等ばっかだから」


 「なんで他人事のように言ってるんだよ」ヨウは可笑しそうに笑った。


「テメェもだよ、ケイ」


 その言葉と笑みに嘘偽りはなかった。

 瞠目している俺から目を逸らしてヨウは天井に視線を向ける。顔は変わらず穏やかだった。「今日は本当に嬉しかった」改めて、ヨウは泊まりの礼を紡ぐんでくる。


「泊まりに来いって言ってくれたことも、こうやって世話になったことも、また泊まりに来いって言ってくれたことも。スゲェ嬉しかった。まさか……ここまでテメェと親しくなるなんてな。ケイを舎弟にしたあの日は想像も予想もしなかった」


 俺だって想像も予想もしなかった。不良に対して泊まりに来いとか言ったり、家に連れて来て家族に紹介したり、ゲームしたり駄弁ったりするなんて。舎弟になったあの日は絶対に“パシリ生活”が始まるって思っていたのに。


「ケイみてぇな地味タイプと話したことはあれど、テメェほど気が合う地味不良はいねぇよ」


 語頭に地味って付けてるけど、敢えて俺を“不良”って呼ぶヨウ。それは俺を仲間だって意識をしてくれている証拠なんだろうな。単なる舎弟じゃなくて仲間意識を持ってくれているから、気が合う地味不良って言ってくれる。

 くそっ、小っ恥ずかしい奴だな。

 本人を目の前に、そんな恥ずかしい台詞をポンポンポンポンぽんと。俺が女ならイチコロだぞ、イケメン不良。俺もイケメンに生まれて小っ恥ずかしい台詞を吐いてみたいもんだぜ。

 照れ隠しのためにポリポリと頬を掻きながら、俺は言葉を返す。


「ヨウにならとことん……ついて行ってもいい気分。うん。あの時、日賀野大和の舎弟にならなくて良かった。これからもなる予定ないけど……ヨウ、サンキュな。あいつに脅された時、お前は俺を庇ってくれた。嬉しかったよ、マジで兄貴って感じだった」


「大したことなんざしてねぇよ」


「それが兄貴っぽいんだって。ヨウ、これから先どうなるかなんて分かんねぇけど、俺は最後までお前について行こうと思う。舎弟としても、友達としても。俺はヨウの舎弟だ」


 口に出して決意が固まる。俺はヨウについて行くって。

 帆奈美さんがヨウのことをどうこう言っていたし、彼女の言ったような一面がヨウにはあるかもしれない。

 だけどさ、こうやって恥ずかしい台詞を俺に向かって言うヨウがいることもまた事実。俺はヨウを信じてついて行こうと思う。この先、日賀野達との対立の果てに何があったとしても。俺達は約束した。いけるところまでいこうって。

 喧嘩に関しちゃ誰にも負けない不良舎兄と喧嘩さえ避けてきた地味舎弟。異質極まりない舎兄弟だけど、俺達でいけるところまでいこうって約束した。


 そりゃ舎弟を白紙にしたいけど、もう……そんなことも言ってられないだろ。日賀野達に宣戦布告したんだから。俺はそこにいたんだから。俺はヨウの舎弟だ。そしてヨウの足だ。精一杯、俺のできることをさせてもらうさ。


「どこまでもついていきやすぜ、アニキ」


 おどけ口調で言えば、嬉しそうな笑声を上げてヨウは「ああ」と返事を返してきた。


「おう、どこまでもついて来いよ」


 二人分の笑声が俺の部屋に満たされる。「お前って恥ずかしい奴だな」ヨウに茶化されたから、「ヨウほどじゃねえって」反論してやった。俺も結構言うようになったよな、不良に対してさ。いや今は、ただの友達か。

 二人で笑い合っていたら、「どっちもどっちだ……」眠たそうな声が飛んできた。シズが欠伸を噛み締めながら寝返りを打って俺達の方を向いてくる。

 なんだよ、シズの奴、起きてたのかよ。


「聞いてるこっちが……恥ずかしくなる……余所でしろ……余所で」


「テメェも加担するか? クッサイ話に」


「冗談……死んでも……ごめんだ、ヨウ。舎兄弟で……勝手にしろ」


 布団の中に潜るシズに俺とヨウは小さく一笑。

 人から言われて改めて思う。俺とヨウって舎兄弟なんだって。クッサイこと言い合ってる俺達は本当の意味で、どーしょーもない舎兄弟の関係になりつつあるんだって。な。




 ◇




「あーあーあー。暇じゃい。暇じゃい。暇じゃいけん。暇じゃんけん。なんつって」


 アキラは痛んだソファーに腰掛け、ぐわぁあと天井を仰ぎ、何度も暇と連呼していた。

 そんな彼の口に、勢いよくチュッパが突っ込まれる。ウグッと嘔吐(えず)くアキラは顔の位置を元に戻し、チュッパを口から出して大きく咳き込む。胸を叩きながら、「なんじゃい!」素っ頓狂な声を上げてこれを突っ込んだ犯人にガンを飛ばす。

 フフンと鼻を鳴らすその犯人は、爪を眺めながらソファーの背凭れに腰掛けた。


「だってアキラがあんまりにも『暇ひま』言ってるからさ。ボクの耳にタコができそうでできそうで。どう? 大した刺激になったでしょ?」


「とんだ刺激じゃい子。ホシ、あんまりじゃい」


「ごめ~んね」

 ウィンクするホシは持ち前のピンク髪を弄り始める。


 更に爪の表面に目を向け、「痛んでるぅ」さも悲しそうな声を出した。

「あーあ。だから素手で戦うのヤだったんだよぉ。やっだぁ、ボクの愛しの爪ちゃんが」


「お前は相変わらず乙女じゃのう。息子さんを取ったらどうじゃい?」


「やっだぁ、えっちい発言よしてくれる? ボク、体はいたいけな男の子なの」


「それは悪かったのう。乙女ホシちゃーん。それにしてもじゃ、暇じゃい。せぇーっかく今日、ヨウ達にあったけん、ひゃっほーいできると思ったんにぃ」


 ぶすくれるアキラに、「文句はヤマトに言ってよぉ」ホシは大げさに肩を竦めた。

 「じゃけん、言えんけんお前に言いよるんじゃ」アキラはチュッパを舐めながら顔を顰める。

 ヤマトに文句を垂れても、向こうはどこ吹く風。機会は山のようにある、とせせら笑うだけなのだ。機会は山のようにあっても自分は今日、ヨウ達に手を下したかったのだが。今日の気分は今日でしか処理できないのだし。

 嗚呼、今夜は美味しい機会を逃してしまった。残念過ぎる。ヨウも、シズも、響子も例の舎弟もいたのに! アキラは嘆いた。「例の舎弟見たんだ?」ホシは興味津々に尋ねる。


「噂どおり普通じゃい普通。なぁーんも目立つもんがないのう。じゃけども、ヤマト好みの奴じゃった。あの舎弟はノリが良いんじゃ」


「ヤマトは面白い奴大好きだからね」


「しかも情報によると、あの舎弟は自転車の腕が良くて、地域の裏道を熟知しているそうじゃ。喧嘩の面じゃ使えんが、ある意味危険人物じゃい。田山圭太っつー奴は」


「そっかなぁ?」


「目立たない奴ほど、何を持っているか分からんけんのうみそ。ヤマトも諦めてないんじゃないかんづめ」


「……その口調、うざいってアキラ。まあ、ボクとしてはシズ、そしてワタルらへんが危険なところだと思うよー? シズって常日頃から寝てるくせに、ここぞと時に本領を発揮する。ワタルは全体的に食えない一面を持ってる。アキラ、君と同じようにね」


 意味あり気にホシは口角をつり上げた。

 『ワタル』という名を耳にしたアキラは不気味に笑声を漏らした。「確かにのう」舐めていたチュッパを音を立てながら真っ二つに噛み砕く。



「ワタルほど食えない男、わしは知らん! ある意味、ヤマトより悪知恵が回っているからのう。あっはー! じゃから、自分の手で奴をぶっ潰したくなるんじゃい! のう、ワタル。お前もそれを望んでるんじゃろ? わしには分かる。なにせ親友じゃったからなぁ、わし等は。どっちが上か、どっちが下か、あの分裂事件でどっちが正しいかそうでないか、そんなのわし等の中じゃどーでもいいんじゃい。ただ潰したいだけじゃのう。お互い似たり寄ったりの性格じゃけえ、きっとお前もそれを望んでる。わしには分かる。敢えて言うなら、プライド勝負じゃな、これは。ま、どっちでもええ。互いに宣戦布告した以上は」



「何が何でも勝つ、だ」



 カウンターの奥の部屋からヤマトが出てきた。

 「さっき全員にメールした」含みのある笑みを浮かべ、ヤマトはドア枠に寄り掛かる。「全員を呼び出したの?」ホシの問い掛けにヤマトは肯定の返事を返す。


「これまでのゲームは余興にすぎねぇ。お楽しみはこっからだ。ゲームは何事も楽しくなくっちゃなぁ」


 腕を組むヤマトは細く笑った。ホシは相変わらず爪を眺めていた。肩を竦め、気だるそうに口を開く。


「グループが分裂したあの日から随分経ったけどさ。結局僕等の目的って一つだよねぇ。気に食わない奴等を潰す」


「そりゃそうじゃろ。分裂したあの日から、んにゃその前から気に食わない思った奴等じゃ。向こうもそう思ってる筈じゃ。“潰す”ってのう。ただ向こうの場合、今まで、それを抑え込んでたようじゃけど。まあ一部、曝け出してる輩もいたけんどなぁ」


 ニタァと笑い、アキラはチュッパをガリガリと口腔で噛み砕いた。


「ヤマト、改めて聞きたいんじゃが。これからの目的はなんじゃい?」


 「今更なことを聞くんだな」ヤマトは肩を竦めた。



「決まっているだろうが。俺達の目的はひとつ、荒川達を潰す――」




 ◇




 嗚呼、なんてこったいセニョリータ。ドンマイケルだぜ田山圭太。

 俺、見事にヤラかしちまったよ。アラームのセットし忘れちまったよ。今、8時22分だよ。あ、二十三分になっちまった。


 寝惚けた目を抉じ開けながら、目覚まし時計を手にした俺は大きく溜息。最悪……完全に遅刻だ、遅刻。家を出る時間とっくに過ぎちまってるって。

 上体を起こしてポリポリと頬を掻き、俺は視線を下ろす。そこにはスヤスヤとまだ夢の中にいるヨウとシズの姿。起きる気配はまったくなし。予想は付くけど一応、二人に「遅刻するぞ」と声を掛けてみる。何度目かの呼び掛けに二人はモゴモゴと答えた。「遅刻なんてどーでもいい」「まだ……寝る」っだってさ。


 寝ている二人を置いて、俺だけ学校に行くわけにもいかない。


 仕方が無いから先に洗面と制服に着替えさせてもらって、軽く朝食の準備して(自分の分は食ってしまって)、二人が起きてくるまでテレビを見ることにする。

 朝から流れる話題のニュースを眺めていたら、利二からメールが来た。それに返信して、またニュースを見る。そうやって時間を潰していたら、ようやくヨウが起きてきた。学校のジャージのまんま。時刻は九時を回っている。余裕で授業始まっちゃってるよ、おい。


 何処に座れば良いか分からず居間の出入り口に立ち尽くしているヨウを手招きして、テーブルに着いてもらうよう指示した後、俺は台所に向かった。

 カフェオレをコップに注いで、皿にあんぱんを載せてたら、シズも起きてきた。俺は二人分の朝食を用意して居間に戻る。ヨウは目が覚めたみたいだけど、シズはまだ眠たそうだった。いやシズはいつも眠たそうだけどさ。


「今日のことだが……ケイ、シズ、学校をサボらねぇか? 俺はみんなにメールを送って呼び出そうと思っているんだ。今の時間帯なら、近くの寂れた公園に集まっても誰もいねぇだろうからな。集められるだけ集めて話したい」


 あんぱんを口に入れながら、ヨウはテーブルに頬杖ついた。

 行儀悪いぞ、なんて言ったら睨まれそうだから、代わりにさっきの問い掛けの返事を返した。「いいよ、話し合いは早めにするべきだろうしな」

 眠たそうに目を擦りながらシズも返事を返す。「ああ、異議はない」

 母さんにばれたら大変だろうし、サボりたくもないけど、でもこればっかりはな。早め早めに話し合って手を打っておかないと。俺達は日賀野達と本格的に対立する。テーブルの上に置いてあった携帯を手に取った。


「ヨウ、俺がみんなにメールを出すよ。お前、まだメシ食ってるし。メールは早い内がいいだろ?」


「悪いな、頼む。みんなにはこうメールしてくれ」


 ヨウの言葉をそのとおり打って画面に表示させていく。


『From:貫名渉... 件名:無題どうしても話したいことがある。

授業がサボれる奴は×公園に来て欲しい。できない奴はメールを返してくれ。重要な話なんだ。なるべく、全員来て欲しい。俺、ケイ、シズは一足先に×公園でみんなを待っている』



 俺は、ボタンに指を掛けて一斉送信した。




「モトで最後だな。うっし全員揃った」 


 ブランコに乗って、悠々と立ち漕ぎしていたヨウは、全員揃ったことに満足気に頷いて勢いよくブランコから飛び降りた。反動でギィ……ギィ……と公園に金属の軋む音が鳴り響く。

 誰もその音に目をくれる奴はいない。隣のブランコに腰掛けていた俺も、ヨウの後を追うようにそれから降りてみんなに歩み寄る。


 最初に公園に来たのはワタルさんだった。

 はじめから学校をサボってたみたいで俺達が公園に到着する頃に合流した。その次はハジメと弥生。授業の最中にも関わらず抜け出して来たらしい。次に響子さんとココロ。一時限目だけ授業を受けて抜け出してきたようだ。地味真面目ちゃんのココロまで抜け出してくれるのは意外だと思った。マジで。


 最後はモトだ。中学校から公園まで若干距離がある。だから一番最後にやって来た。

 つまり誰一人欠席せずに、この場に全員揃ったということだ。一部を除いて、みんな、何となく呼び出された雰囲気を察してるんだろうな。

 「ヤマトのこと?」ハジメが開口一番にヨウに疑問を投げ掛けた。ヨウは頷いて昨日のこと、宣戦布告してきたことについて話し始める。さして誰も驚く様子はなく、そういう展開になって当然だという顔をした。


 だよなぁ。ずっとちょっかい出され続けていたみたいだから、そういう展開になってもおかしくないよな。


「中学の“あの日”の対立からこれは始まった。あの日から今日に至るまで随分俺達は奴等にしてやられてきたが、もう我慢の限界だ。今度はこっちから仕掛ける。本気で掛かるつもりだ」


「やーっと本気でやれるりんこ。判断を出すのが遅いってぇ」


「うるせぇなワタル。判断を出すってなんだよ。俺は別にリーダーじゃねえぞ」


「も、リーダーも一緒でしょ。あの時の対立から、ヨウちゃーんはリーダー的存在だったし? 向こうはヤマトちゃーんが頭(かしら)だもののん。じゃあヨウちゃーんがこっちの頭するべきなのが筋ってもんっしょいワッショイ」


 「もしかして無自覚だった?」ワタルさんはケラケラ笑う。この状況でよく能天気に笑えるな……感服するよ。

 響子さんもワタルさんの意見に同調していた。ヨウはリーダーだって。そして副リーダーはシズだって。それぞれそういう素質がある、彼女は煙草の先端を噛みながら言った。

 まあな、ヨウはヤマト対等にやり合えるだけの力はあるし、シズもいざって時になると的確な指示や意見を出すみたいだしな。リーダー、副リーダーってのも分かる気がする。うん納得。「リーダーって柄でもねぇんだけどな」ヨウは顔を渋めながら話を続けた。


「宣戦布告した以上、もう後には引けねぇ。特にワタル、シズ、ハジメ、響子、モト、そして俺は引けねぇ。なにせ分裂した時のメンバーに入ってるんだからな。引いたら最後、負けを認めることになる。ンなの、俺の性分じゃねえ」


「誰でもそうだって。うちだってちょっかい出されっぱなしで腸煮えくり返りそうだ」


 響子さんはゆっくりと紫煙を吐き出しながら鼻を鳴らす。分裂時のメンバーは全員同意見みたいだ。引く気配も異論を唱える気配もない。

 「問題は三人だろ」響子さんは名前を呼ばれなかった俺、弥生、ココロを順に指差す。

 そりゃな……俺達は中学の事件と全くの無関係。高校から知り合った関係だから、関係ないっちゃ関係ないけど。陰男子という名の勇気を振り絞っておずおずとヨウに意見する。


「俺はヨウの舎弟だし二人だってもうヨウ達と関わった。関係ないけど関係あるだろ? 関わるなって言われても、多分もう手遅れだと思うぜ。俺なんて日賀野に二度も絡まれてるんだし」


「これで関係ないって言われて突っ返されたら、私、ヤマト達のとこに行っちゃうかも」


「えええっ 弥生ちゃん。ほ、ほんとに?」


「嘘だよ、ココロ」


 オドオドするココロに弥生は舌を出した。

 ココロはもう、と呆れたような顔で微苦笑を漏らす。俺達の気持ちに満足したヨウは、改めて、俺達を見据えるとハッキリ言った。


「これからはグループじゃねぇ。チームだ。俺達はチームとしてこれから動く。もう、ヤマト達から何度もちょっかい出されるような、ちんたら適当につるんでるグループじゃねえ」


 ヨウはブランコ側に落ちていた空き缶を拾いに歩き始める。


「正直言うと、俺は前々から奴等のことは潰してやりたかった。ワタルやシズ、モトと何度か、ヤマト達の仲間を潰したことはあるけど、本格的に潰してやる機会はなかなかなかった」


 空き缶を拾ったヨウはグシャッと片手でそれを握り潰す。


「けど宣戦布告した以上、もう引けねぇし。分裂した事件がどうのこうの……じゃねえ。これは俺達のプライドがかかってるッ、と!」


 空き缶を設置されているごみ箱へと放り投げて俺達に振り返った。



「俺達の目的はひとつ、ヤマト達を潰す。そのためのチームを此処で結成だ。いいな、テメェ等。奴等にヤラれることがあっても、ぜってぇ負けんじゃねえぞ」



 ヨウの言葉を聞いて俺は目を伏せた。

 今をもって俺は完全に不良の世界に両足を突っ込んだ。もう、逃げられない。

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