09.青春は清く過ごすものだよ俺経験ないよ悪いかよ



 突然正面から嫌味が飛んできた。

 ヤーな予感を抱きながら視線を上げれば、うわぁぁああ……泣きたい。不良がいるよ不良が。どうして髪を若葉色に染めっちゃってんの! 目には優しいカラーだけれども日本人に若葉色は似合わないと思う。

 眉にピアスをしているしさぁああ! 見ているだけで痛いよっ!


 シズは眉間に縦皺を作り、相手にガンを飛ばしながら静かに舌打ちをかます。

 基本的に温厚なシズがこんな態度を取るということは、だ。もしかしてもしかしてもしかすると。


 若葉色の後ろからまた二人の不良が出現した。俺は大絶叫を上げたくなった。二人のうち、ひとりは全然覚えも無い女不良。髪は控えめな焦げ茶色。ひとりは俺のよーくよーく知っている相手。


「チッ、相牟田かよ。相変わらず眠気の誘うツラだな。おっ? プレインボーイもいるじゃねえか」


 ぬぁあああああ! ついに出たよ出ちまったよ登場しちまったよ!

 ヨウと肩を並べる黒髪に青メッシュの不良。俺のことを一々『プレインボーイ』だと呼ぶわ。舎弟になれと脅してはくるは。利二に危害を加えるは。俺をフルボッコにするは。出逢った不良の中でイッチバン性格の悪い奴。名前は日賀野大和、別名ジャイアン! 


 面白い玩具を見つけたとばかりに、ニタと口角をつり上げてくる日賀野に俺はブルッと身震いをした。

 体はまだフルボッコっていう痛い思い出を覚えているみたいだ。だってボッコボコにされたんだぜ? 痣なんかも作っちゃったんだぜ? あいつのせいで利二と喧嘩なんかもしちゃったりしたんだぜ? 忘れろって方が無理! トラウマだぜもう!


 たらたらたら、と冷汗が流れた。 


「よっ、噂の舎弟。さっきぶりじゃいな」


「え? お会いしましたっけ」


 貴方様とお会いするの初めてなんですけど。


「さっき『そいじゃ、また後での』って言葉を掛けたこと、忘れたんけぇ?」


 その言葉、確か駅に入る手前で言われた台詞だったような違ったような。あれは俺に向けられてた言葉だったのかよ! 分かるかい! しかも俺、あんたなんて存じ上げませんわよ!


「しかしヤマト、なんじゃい……ヨウの舎弟ってのは」


「普通だろ」


「それじゃい」


 普通ですみませんね! これでも今日を精一杯生きてる地味人間なんですよ。


「どんな奴かと思ったら……拍子抜けじゃ」


「拍子抜け? なんじゃいあんた、地味な俺に何を求めて」


「お?」


「るん……ですかー……あははは、なーんつって」


 俺の馬鹿ぁあああ。なんで自分から喧嘩売りに行ってどうするんだよ。ウッカリ口を滑らせちゃった、てへ。にも程があるだろ。

 どーんと落ち込む俺に対し、「地味って認めちょる」若葉色の不良はのんびりと笑声を上げていた。癪には障ってないようだ。良かった、命拾いした。不良にツッコミ入れるってこんなに冷や冷やするもんなんだな。

 手の甲で汗を拭っている俺に、日賀野がまたひとつニタリと笑ってきた。


「一ヶ月も顔を見なかったから寂しかったぜ。どうだ、考えは変わったか? それともまだあの単細胞の下で動くつもりか?」


 それって舎弟の話のことか……?

 ちょっ、まだ話続いてたのかよ。俺、断ったじゃんかよ。だからフルボッコにしてきたじゃんかよ。やだもうこの人、つくづく俺のトラウマだぁ。

 だけど俺は思った以上に日賀野に対してテンパっていたみたいで「もう一ヶ月もお会いしてなかったんですね。月日とは早いものです!」ワケの分からない言葉を返していた。代わりにシズが口を開く。


「残念だったな。ケイはヨウの舎弟だ。それは変わらない。ケイ、行こう」


 大パニックになっている俺に気付いてくれたのか、シズが軽く声を掛け背中を叩いてくれた。

 早足で階段を上り始めるシズに置いて行かれないよう、俺もテンパりながら早足で歩いた。歩き方がおかしいような気もするけど、テンパってるからよく分からない。


 なるべく視線を合わせないよう、目を逸らしながら日賀野達の脇を擦り抜ける。

 もう一段ある階段に足を掛けた次の瞬間、ブレザーの襟首を引っ掴まれて俺は後ろへと逆戻り。「ケイ!」シズが体ごと振り返ってきてくれるけど、「話くらい良かろうもん」若葉色の不良がシズに立ち塞がる。荒々しくシズは舌打ちをかましていた。


 一方、俺はというと、めっちゃ情けないことに固まっていた。

 弁解になるかもしれないけどさ、ヨウと肩を並べる最強最悪の不良が、俺のトラウマが、至近距離にいるんだぜ。この状態は密接っていうの? とにかく俺と日賀野の距離が近い! 固まるほか、どうリアクションを取ればいいか分かんないっつーの。

 「おいおい。ツレネェじゃねえか」左肩に腕を置いてくる日賀野に、そこは勘弁してくれと泣きたくなった。そっちの肩は怪我してるんだよ。マジ、腕を置かれるだけでも痛ぇんだって! 頑張って顔には出さなかった。出せばいいように弄られるだろうから。


「シカトすんなって。お前と俺の仲だろ?」


「あはは……、あの時はボコして下さりどーもです」


「まだボコしたこと根に持ってるのか? あれも一種のコミュニケーションだろ、なあ?」


 嫌なコミュニケーション! 経験したコミュニケーションの中でイッチバン最悪だったぞ!


「それで? 舎弟の件、考えてくれたか」


「確かそれ。一ケ月程前にお断りした記憶がっ……」


「だから考える猶予をやっただろ。言った筈だぜ、今度は良い返事を期待してるって、な」


「イッ―――!」


「ケイ!」


 シズの呼ぶ声が聞こえたけど、それに応える余裕はない。

 だってこいつっ、重傷を負ってる左肩に全体重を掛けてきやがった。明らかに故意的。日賀野は俺の左肩の怪我を知っているみたいだ。


「肩に何かあるのか?」


 白々しい台詞を吐いてはニヤついてくる日賀野を思いっ切り睨み付けてやりたいけど、容赦なく体重を掛けられる左肩が疼いて仕方がない。肩が燃えているみたいに痛い。

 「いじめるのは良くない」日賀野の行動を止めたのは、意外にも奴の仲間不良のひとり。やんわりとした口調で制してくる女不良の言葉にも、「可愛がってるんだよ」日賀野は笑声を漏らした。何が可愛がっている、だあ? コンチクショウ! 俺の反応を楽しんでいるだけだろ。


「ヤマト。そっちがその気なら……、こちらも遠慮はしない。退け、アキラ」


 シズは自分の前に立ち塞がる若葉色の不良を見据えていた。アキラ、今、あの不良のこと、アキラっつったか? ということはあれが魚住昭。ワタルさんの親友だったっていう不良か。


「それは無理じゃけん。無理じゃんけん。なんつって」


「お前から片付けられたいか」


「のんのんノンセンキューじゃい」


 べっと魚住はシズに向かって舌を出した。わぁーお、舌先にもピアスが。痛くないのかな、あれ。

 やっぱさ、ワタルさんの親友なだけあって結構うぜぇ! 話には聞いてたけどやっぱうぜぇ! ヨウ達も言っていたけどうっぜぇ! っつーか此処でやる気か、シズ。それは駄目だ。此処は人が多過ぎる。駅中で問題を起こしたら色々と面倒事になるぞ。


 いや、きっとシズは分かっていてやるつもりだ。ギラついている目がそう俺に教えてくれる。

 ああくそう、俺の足手纏い! 俺のせいで話がややこしくなってるんだぞ! また日賀野のいいようにされちまう! 利二の時もそうだった。いいように弄ばれて、俺は何も出来なかった。歯痒い、悔しくて仕方が無い。


 だけど肩を人質にされると、さすがにこっちも身動きが取れない。全体重を掛けている腕が、容赦なく黒痣になっている箇所を押し潰してくる。しかも肘で。頑張って足を踏ん張ってはいるけど、めちゃくちゃ痛いっ。

 どうにか日賀野から離れなきゃいけないのは分かっているのに。

 こんなところで騒動を起こしたら最悪警察沙汰に……先に手を出した方が負けだ。つまり先に手を出そうとしている俺達の負けだ。



「シズ。手ぇ出すんじゃねえ、場所を考えろ」 



 この声は。

 顔を上げれば、そこには眉間に皺を寄せた舎兄の姿。それに響子さんもいる。「遅いと思ったら」日賀野達の姿にヨウは忌々しく舌打ちを鳴らし、後は任せろとばかりにシズの肩に手を置いて魚住の脇を擦り抜ける。


「ヤマト、俺の舎弟に何してやがる。ケイから離れろ」


「これはこれは、プレインボーイの舎兄様。随分、兄貴面をかましてくれる。腹立たしいよな? プレインボーイ」


「イデデデデデッ、体重ッ! 体重掛けないでくれー!」


 黒痣ができている箇所を肘でグリグリ押され、俺は大絶叫を上げた。

 そこは全治二、三週間って診断された場所なんだぞッ! グリグリ押し潰されたら、どんだけ痛いと思ってッ。くっそう、そんなに俺を苛めて楽しいか!

 「ケイに何してやがる」早足で俺達に歩みって来たヨウは、肩に乗っている日賀野の腕を払い落とした。おかげで肩が随分楽になる。でも体重を掛けられていたせいでズキズキと肩が疼く。痛みを散らすように肩を擦っても、疼きは止まることは知らない。


 俺の様子にヨウは片眉をつり上げて、日賀野にガンを飛ばした。


「テメェ。ケイが負傷してること知ってんな?」


「ご挨拶だな、荒川。相変わらず虫唾の走る面だ」


 「質問の答えになってねぇ」地を這うようなヨウの声に、「答えてやるギリはねぇ」日賀野が薄ら笑いを浮かべる。


「その節はよくもハジメとケイを甚振ってくれたな。相変わらず、姑息な手でちょっかい出しやがって。正面から来る勇気もねぇのか、ハイエナが」


「お前と違ってここの使い方が違うんだよ。そっちこそ随分俺達のテリトリーで暴れてくれたようだな。お前等の暴れっぷりには仲間達も迷惑している」


「ハッ、お前等のテリトリー? どっからどこまでが?」


 「馬鹿に説明しても同じだ」「うぜぇ死ね」「黙れクズ」殺気立った二つのオーラがぶつかった。その側で痛みに呻いている俺の心境。泣きたい叫びたい恐い! 二人とも恐いっつーの! ほんと仲が悪いんだな。話には聞いてたけど、こんなに仲が悪いとは思わなかった。


 ピリピリと醸し出される雰囲気に通行人達が大袈裟に俺達を避けて歩く。

 迷惑そうな顔はしているけど、誰も何も言わない。通行の邪魔だって注意しない。此処にいるのは不良たちばかり。関わるのはごめんだって思っているんだろうな。


 チッ、ヨウはまた一つ舌打ちをすると他の不良たちに目を向けた。

 どっちも知り合い、つまり中学時代の仲間らしい。眉間によっている皺が深くなった。


「アキラに帆奈美ほなみ……たく、どいつもこいつも腹立つ面子だ」


 焦げ茶の髪を持つ不良の名前は帆奈美さんっていうらしい。不良にしてはワリと地味だけど、纏うオーラが大人を漂わせていた。耳に付いているピアスが一層それを引き立てる。

 「酷いご挨拶」帆奈美さんがふてぶてしくヨウに言葉を返した。


「噂は兼ね兼ね。貴方のその拳だけで何事も解決できる考え、ちっとも変わっていない。愚か」


「姑息な手を使うお前等もどうかと思うがな」


「貴方のような男と寝た自分が信じられない」


「それはまたご挨拶だな。俺もだ」


 寝た? それってヨウと帆奈美さんがセックスしたってことかよ。ってことは付き合ってたってことか。それともセフレ? 肉体関係?

 どっちにしたって嘘だろ……中学時代にナニしてんのあんた達。アダルティな世界に足を踏み込み過ぎだろ。イヤーンな世界に入り過ぎだろ。不良の世界は俺の想像を遥かに上回るって。


 耳障りだとヨウは肩を竦めて俺に声を掛けてきた。

 わざわざ荷物を持って来てくれたみたいだ。通学鞄を俺に差し出してくる。「ありがと」礼を言ってそれを受け取っていると、日賀野に笑いを含みながらこう言葉を掛けられた。「まだそいつの舎弟でいるつもりか?」

 ヨウは機嫌を最高に悪くした。


「まだンなこと狙ってたのか。テメェは」


「クズは黙っとけ」


「……おい、ケイ」


 に、睨むなってヨウ! 俺はお前の舎弟やめるつもりないし(できたら白紙に戻したいんだけどさ)、向こうが勝手に舎弟がどうのこうのって言ってるだけだぜ? 俺のせいじゃないぞ。これは。

 それに答えは決まってる。


「俺はヨウの舎弟なんで。どう誘われようとお断りします」


 しないと俺、確実に隣の方に殺されます。

 目の前の不良に断るという行為もすんげぇ勇気がいるんだけどね! 断った瞬間殺されそう! だからか、俺、ちょっと逃げ腰。


「あーあーあ。勿体ねぇな、プレインボーイ。クズの舎弟なんざ。お前、オモシレェから舎弟にすりゃ退屈しねぇで済むのに」


 あっれー、俺、確かヨウにも同じような理由で舎弟にされたような気がする。確か面白いから舎弟にしてやると言われたような気が。

 実はさ。根っこが似てるんじゃね? ヨウと日賀野って。性格は対照的だけど絶対思考は似てる筈。

 何度目なのか、日賀野が俺に舎弟になるよう誘ってくる。曰く俺はわりと使える……らしい。ナニに使えるのかスッゲェ知りたいところなんですが。


 しかも『わりと』ってところが気になるんですが。なんで俺に拘るよ。そんなに面白か、俺。


 それとも……一見すりゃ不良でも何でもない地味な外見だから、色々と使える。とか? だろうな。そっちの方がしっくりくる。


「どう誘われても俺は」


「プレインボーイ。返事次第じゃ、前に会ったダチ。見逃してやってもいいぜ」


 心臓が凍った。どういう意味だ。前に会ったダチって利二のことか。

 まさか、また利二に何か手を下そうとしてるんじゃ。あいつは関係ないじゃないか。不良でも舎弟でもないんだぞ。俺の友達ってだけで不良達とは関係ッ……俺と関わってるからあいつにまで被害が。

 激しく動揺していると、「そうやって姑息な手ぇ使ってくる」ヨウが話に割ってきた。


「本当は五木のこと、よく憶えてもねぇくせに。お前はいつもそうだ。自分の利害になる奴以外、顔なんざ一々覚える奴じゃねえ」


「どーだろうな。憶えてるかもしんねぇぜ?」


「ッハ、ムカつくぐれぇ口だけは達者だな。どっちにしろ手ぇ出してみろ。舎兄の俺が黙っちゃねぇぞ。仲間にしてもそうだ。ケイにしてもハジメにしても、俺の仲間を甚振った礼はぜってぇしてやる。行くぞ、ケイ。こいつ等と話すだけ時間の無駄だ」


 ヨウ、お前……。


 ありがとう、ヨウ。お前なりの気遣い、受け取らせてもらったよ。マジでありがとう。お前の言葉ですっげぇ安心するおれがいる。

 でもお前、やっぱどっかで責任感じてんだな。俺を巻き込んだこと。ノリで俺を舎弟にしちまったこと。今の台詞でそれが十二分に伝わってきたよ。ヨウ、何も気にしちゃないよ、俺は。



 と言ったら嘘になるけど……俺はお前を咎めるつもりなんてねぇよ。



 約束したもんな。俺達で、イケるところまでイくってさ。

 軽く背中を叩いてくるヨウと一緒に、俺はシズと響子さんのいるもとへと歩き出した。舌打ちをかますヨウは胸糞悪いと愚痴りながら、一段一段、踏み付けるように階段を上っている。

 「ああ、忘れていた」ヨウは途中で足を止めて、日賀野に向かってこう告げた。 


「お前等、特にお前。ぜってぇ潰してやっから。今日は潔く引いてやるけどな」


「ほぉー。そりゃまた物騒なこった。まあ、こっちはグループが分裂した“あの日”からそのつもりだったが」


 薄ら笑いを浮かべる日賀野の眼は本気だった。「だと思ったぜ」ヨウは鼻を鳴らした。


「テメェ等は俺等をマジにさせるために、ずっと挑発してきた。そう解釈するぜ?」


「勝手にしろ。どう思われようが、テメェ等の存在は目障りだ。潰してやるよ、荒川」


「そのまんま返す。今までいいようにテメェ等の手の平で踊らされたが、俺等だってもう我慢なんねぇよ。ヤマト」


 今度はこっちから仕掛けてやっから。楽しみにしとけ。

 ヨウはアイロニー帯びた笑みを浮かべた。これは日賀野達に対する宣戦布告だ。まさかこんなにも早く、宣戦布告するなんて思いもしなかったぜ。


 同じようにニヒルチックに笑う日賀野もまた宣戦布告の意思を見せた。

 ようやく本気でやり合える、そんな満足気な顔だった。日賀野は魚住や帆奈美さんを呼んでいた。向こうも今日のところは引き下がるようだ。



「なんじゃいヤマト。なぁあんもせんのか。つまらん。奴等の面を拝みに行くって言うけぇ、何かするって期待しちょったんに」



 肩を竦めてツマラナイと脹れる魚住に、「機会は幾らでもある」日賀野は細く笑った。 

 「男って本当に争いが好き。呆れる」帆奈美さんは盛大な独り言を吐いてこっちを見てくる。否、帆奈美さんはヨウに眼を投げているみたいだった。気付いているのか気付いていないのかヨウはまったく彼女に目を向けなかった。涼しい顔で背を向けてる。

 今のヨウの気持ちは分かんないけど、多分複雑なんだろうな。どういう関係か分かんないけどさ、肉体関係は持ってたみたいだし。帆奈美さんのこと、吹っ切れてるのかな。

 聞いてみたい気持ちもあるけど、やめた。


 今はそんな場合じゃないしな。ヨウにだって触れて欲しくないところだと思う。俺は疑問まみれた言葉を呑み込んだ。


「楽しみにしてっぜ。これから先、テメェ等がどう仕掛けるか。せいぜい俺等に泣かせないようにな」


 不敵な笑みを浮かべながら、日賀野は二人を率いて移動を始める。


 「うぜぇ……」愚痴りながらヨウも俺達に声を掛けて移動を始めた。みんなの後を歩いていた俺はふと足を止めて、もう一度だけ日賀野達に目を向ける。


 そしたら同じように帆奈美さんも足を止めて俺達の方に目を向けていた。

 俺は彼女とバッチシ目が合っちまう。すぐに目を逸らしたかったけど、向こうの鋭い眼光に逸らすことができなかった。目を細めて満遍なく俺の見てくる。

 そしてゆっくりと形の良い唇を動かしてきた。


「ヨウは仲間より自分のクダラナイプライドを優先する男。舎弟の貴方はいつか後悔する」


 今なら間に合う、ヤマトの舎弟になった方が利口。ヤマトはヨウよりも仲間を大切にする。助言めいた発言を残して俺に背を向けた。俺は呆然と帆奈美さんを見つめていた。


 ヨウが仲間より自分のプライドを? まさか、ヨウはそんな奴じゃねえよ。仲間のために突っ走る男だぜ?それは帆奈美さんだって知っているんじゃ。ヨウから過去話を聞くと中学時代からそうだったみたいだし……帆奈美さんは中学時代からヨウを知ってるんじゃ。


 俺からしてみりゃ、日賀野の方が仲間意識薄そうだけど。

 じゃあなんで、あんな発言を? わっかんねぇ。ワケわっかんねぇよ。


 首を傾げていたら、響子さんに声を掛けられた。俺は止めていた足をぎこちなく動かして、ヨウ達のもとへ歩み寄った。


 その間も帆奈美さんの台詞が脳裏にこびり付いて離れない。

 ヨウは仲間より自分の誇りを優先する。日賀野の方が仲間を大切にする。何を意図して帆奈美さんは俺にそう発言してきたんだろうか?

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