08.ビバ作戦会議
左肩が痛いのは不良との一戦のせい。
鉄パイプで殴られたんだぜ? 大切なことだから二度言うけど、凶器になりかねない鉄パイプで殴られたんだぜ! そりゃ痛いに決まっているだろ。青痣通り越して黒痣。なんて可哀想な俺の肩。
んでもって軽く胃が痛いのはやっぱり不良のせい。
何故か。一度しか言わないけど、語れば非常に短くも済むんだけど俺の家に不良が泊まりに来るから。しかも二人も。予定では舎兄のみ泊める筈だったのに、神さまは俺に試練をお与え下さったのか(なんて嫌味な試練!)、事の成り行きによって二人も泊める羽目に。
更に更に言うとな。
俺達、夕飯を食うために駅の中にあるハンバーガー店に向かっているんだけど、その行く面子がさ。俺だろ、泊まりに来るヨウとシズだろ、それに響子さん……これまた超気の強い不良が加わっちまったよ。
シズが響子さんを引き連れて公園に現れた時の、俺の、心境は「なんで貴方様までいらっしゃるのぉおお?!」大絶叫の嵐だった!
下手にヤーな顔もできない。俺、不良に向かってそんな顔ができるほど勇者じゃねえし、相手が響子さんなら尚更。いや、べつに響子さんのこと、苦手じゃないし、姉御肌で頼り甲斐のある先輩なんだけど、不良とは別の意味で恐いんだよ。
曲がったことが大嫌いだからさ、自分の癪に障る行動を起こした野郎は片っ端から鉄槌を下すんだ。俺もいつか鉄槌を下されそうで下されそうで……極力、相手の顔色を窺いながら行動しないと。
ちなみになんで響子さんがシズに引っ付いてきたかというと、公園手前でばったり会ったんだって。
シズが俺達に会いに行くことを知って、最初は俺達のツラを拝むだけに来たらしいんだけど、俺達が『夕飯はどうする? 外食で済ませるか?』って話をしていたら響子さんも同行したいって意見して。
めでたく、みーんなでハンバーガー店に行くことになったとさ。
昼はワタルさんと一緒に不良と喧嘩、夕方は不良仲間と夕飯、夜は不良が我が家へお泊り。今日はなんてワンダフル不良デーなんでしょうか! いつも以上に不良まみれな一日に、俺、ベッコベコにヘッコみそうだぜイェーイ!
テンション上げてないとやってらんねぇ!
「ケイ? お前、さっきから何、ブツクサ独り言いってるんだ?」
隣を歩いていたヨウが怪訝な顔で俺を見てきた。
どうやら田山圭太はショックのあまりマイワールドに浸るだけでなく、それらを口に出していたらしい。幸いなことに独り言の内容までは耳に届いてなかったようだ。「何言ってんだ?」ヨウは俺に再度質問をぶつけてきた。俺は誤魔化し笑いを浮かべて話を流す作戦に出た。
口が裂けても言えねぇだろ、不良まみれの一日に嘆いていました。なんて。俺、殺される!
「そういやケイ。あんたどうしたんだ、左腕。上がってねぇみてぇだけど」
チャリを押し進める俺の姿を指摘してきたのは響子さん。ハンドル握る手は右だけ、左はだらんと力なく垂れ下がっている。それに違和感を覚えたんだろう。
「あー……ちょっと」俺が言うと同時にヨウが答える。「昼間、喧嘩してやられんだよ」
「さっき病院に連れてってたら、全治二、三週間だと。下手すりゃ一ヶ月は掛かるらしい」
「ヤマト達関連か?」
響子さん、鋭い! そしてヨウが肯定しちゃうもんだから、俺の立場ないよ。
ワタルさんと収穫のない喧嘩は皆に報告する必要もない、って話していたのに! ……まあ、舎兄を黙秘を続ける自信もなかったけどさ。あんなに怒られキレられて脅されたらなぁ。
欠伸を噛み締めながらぼんやりと歩くシズは、「大丈夫だったか?」と俺の身を心配してきてくれた。ちょっと感激したよ、嘘、だいぶん感激した!心配してくれるシズに俺は大丈夫だと左肩を触りながら笑ってみせた。
「ヨウが病院に連れてってくれたしな。二、三日はチャリに乗るのも困難だろうけど、どうにかなるよ」
「ふぁ~……そうか……ならいい。けど、ヤマト達のことなら、後でちゃんと教えて欲しい」
教えて欲しいと言われても、収穫のない喧嘩だったんだけど。日賀野達と直接関わったわけでもないんだけど。それに半分以上はヨウに話しちまったしな。魚住のことだけはまだ言っていないけど、それは言わなくてもいいと思ってる。ワタルさんだって望んでない。
これだけは口が裂けても言えないよな。ワタルさんの意思が無い限り。
殆どヨウに話した。そうシズに伝える前に、これまた舎兄が先に口を開いた。「収穫がなかったとしても、直接関わらなかったとしても教えろ」
「ヤマト達のことはテメェやワタルだけの問題じゃねえんだ。俺達にだって関わってくる。テメェは俺達と関わってるんだ。分かってんのか、あ゛ーん?」
「イデッ、いでっ! 肝に銘じておきますっ!」
ドスドスと俺の頭を小突いてくるヨウに手を止めてくれるよう懇願した。これでも重傷者なんだっ、丁重に扱ってくれー! んでもって睨まないでくれっ、不良の眼光の鋭さっ、すんげぇ恐い!
「テメェは俺達と関わっている、ねぇ。ヤマトのことさえ教えなかった馬鹿舎兄はどこの誰だか」
容赦ない響子さんの言葉にヨウはうるせぇ、と舌打ち。
「そんな過去のこと忘れた」都合の良い言い訳を述べているヨウに、「なんて舎兄だ」響子さんは心底呆れていた。俺もヨウにツッコミたいけど、勇者じゃねえもん! 地味な平凡男子だもん! 不良にツッコミなんて命知らずなことできねぇー!
シズ、お前、欠伸バッカしてないで俺を助けてくれよ! それか響子さんのお小言を止めてくれ。ヨウの機嫌の温度がどんどん下がっているから! ……何も言えない俺が1番情けねぇ。
さて俺を助けてくれるように駅が見えてきた。良かった、この話に終止符が打てる。
ホッと安堵の息をついた俺は、皆に先に行ってもらうよう頼みチャリを近くの新古書店に置くことにした。駅前の駐輪場に置くと金を取られるんだよな。新古書店前にはズラッとチャリがとめてあるし、ちょっと場所を失敬しても大丈夫だろ。
あ、夕飯代あったっけ。
病院の治療費、ヨウに出してもらうほど今の俺の財布は寒いんだよな。千円はあった筈だし、ま、どうにかなるだろ。
チャリに鍵を掛け、更に盗難防止用の鍵を掛けて、俺はその場から離れた。向かうは駅中のハンバーガー店。
駅の大きな出入り口には上へと続く階段、それに下へと続く階段が存在する。上は電車乗り場や売店、それに俺が目指すハンバーガー店や喫茶店等がある。下はスーパーやラーメン屋や中華店、居酒屋なんかもある。
駅の中には名店街があるんだ。雑貨屋もあるし百円ショップなんかもあるし、文房具店や本屋、服屋なんかもある。ワリと大きな駅なんだ。
だからいつも駅付近は人の行き交いが激しい。夕方から夜にかけては特にそう。これから電車に乗る奴、電車から降りてくる奴、仕事帰りに買い物客。近くにバス停もあるから視界には人ひとひと! 何処に目を向けても、必ずひとりは視界に飛び込んで来る。人酔いまではしないけど、毎度まいど駅に来る度に人の多さには目を剥く。
俺は階段を上った。学生やリーマンの人達と何度も擦れ違う。
「そいじゃ、また後での」
ん? 今、妙な台詞が俺の耳に飛び込んできたような。
歩きながら俺は周囲を見渡す。何処を見ても人ばっか。
きっと誰かの会話が耳に飛び込んできたんだろ。気にすることもなく、俺は改札口横の自動扉を潜った。地方の名産が置いてある店の前を進んだ先に、ハンバーガー店がある。
ここのハンバーガー店はちょっと変わっていて、店と駅の通路が一つになってるんだ。店の敷地が通行人の通路にもなっている。だから此処でメシ食ってると、通行人の視線を感じる時がある。まあ、食ってる当人達は気にしてないし、通行人も景色の一部として視線を送ってるだけだろうけどさ。
ヨウ達は壁側の一番隅っこの四人席を陣取っていた。
みんな、先にハンバーガーとかポテトとかチキンナゲットとか買っていたみたいだから、一旦荷物を席に置いて俺もハンバーガーとポテトとアップルパイを買うと席に戻った。
響子さんの隣に腰掛けて、みんなが何を買ったのか何気なく目を通す。
ひとりだけ妙に量の多い人物がいるのですが。顔を引き攣らせる俺の心情を察したのか、正面に座っているヨウが肩を竦めて教えてくれた。
「シズのモットーはよく食べて、よく寝る、だそうだ」
にしたって、ハンバーガー5個にポテトLサイズ2個にサラダ2個にチキンナゲットって。胸焼けしそうだぞ! それ以上に全部で幾ら掛かった?! それ! 毎日の食費、大丈夫かよ!
もそもそとハンバーガーを食べているシズは俺達のトレイを見て眉根を潜めた。
「皆、ダイエット中……か?」
「そういうシズ、反ダイエットか?」
思わず俺はツッコんじまった。こればっかはツッコまずにはいられねぇ! 俺達の量、普通だって思うのにダイエット中かって。おかしいだろ!
「反ダイエット。ちがいねぇな」響子さんは笑声を漏らし、「ケイ。お前そんな単語をよく瞬時に作れるな」ヨウには感心された。感心されてもあんま嬉しくないぞ、ヨウ。
ポテトを口に放りながら、響子さんはシズとヨウに今日は俺の家に泊まるのか? って二人に話題を振った。
不機嫌そうな顔を作るヨウは「家に帰りたくねぇ」、相変わらず眠そうな顔を作っているシズは「家には愛人がいるからな」びっくり仰天な台詞を吐いてきた。「そうか」響子さんは何も言わず相槌を打った。
シズの家、かなり複雑なんだな。何も話さないヨウもきっと複雑な家庭環境なんだろうな。
なるべく反応が顔に出ないようにコーラを飲んでいると、シズが本当に大丈夫なのかと俺に話を振ってくる。ああ、泊まりのことを気にしてるのか。
「そういう面に関しちゃ親は何も言わないし、友達をよく泊めたりするから。一人や二人、増えたってどうってことないよ。最高で一週間、友達を泊めたこともあるし。まあ我が家は煩いと思うけど、そこは堪忍な」
「そうか……じゃあ、これからはケイの家を頼ればいいな」
「だな。これでも寝床をゲットするのに結構苦労するんだぜ。知人や先輩の家、付き合った女の家にも転がることもあったけど、大体どの家も気を遣うわ。面倒事になるわ。揉め事になるわ」
付き合っている女の家に転がったことがある、だと?
サラッと俺はモテてますアピールしたな! それともそこに反応する俺って悪い子ですか?! でもしょーがないじゃないですか。モテない男子なんですもの! 彼女いない歴16年ですもの! 青春真っ盛りの高校生ですもの! 僻みたくもなーる!
「ふぁ~。やっぱり気の置けない……、友達のところに泊まらせてもらうのが一番だ。ケイの家がOKで、ほんと良かった」
「ほんとだぜ。モトやワタルの家は結構厳しいからな。あんま邪魔もできねぇし。ハジメの家は論外だろ。弥生の家も泊まることになるとNGだろ。ココロは……なんか悪いしな。あいつ、じいちゃん、ばあちゃんと暮らしているし」
ココロには両親がいないらしい。
代わりにじいちゃんばあちゃんと暮らしているんだって。そっか、ココロの家も複雑なんだな。だけど良い子だよな、ココロって。
「んでもって響子の家は」
「だーれが野郎なんざ誰が泊めるか。事情には同情するが、よっぽどのことじゃない限り野郎は断固拒否! お断りだ!」
だ、そうだ。
つまり条件的にも居心地が良いのは俺の家。ベストハウスなのは我が家だってことだ。わぁお、喜ぶべきことか。これ。あんま喜ぶべきことじゃねえぞ。だってある意味、俺の家が部屋が不良の巣窟になりかねないんだぞ!
でも俺は余計なことに、「いつでも来いよ」なんて馬鹿言っちまった!
「ああ、そーする」
「ありがとうな……ケイ」
そしてこうやって面と向かって真摯に礼を言われたら、どんどん頼ってくれなんて思う調子こいた俺がいる!
イケメン不良の笑顔は勿論、普段は眠そうな顔を作っているシズでさえ、ニコッと俺に笑ってきたらなぁ。役に立ちたいとか思うよな? 調子こいちまうよな? な?
「良かったじゃねえか」響子さんも笑声を上げていた。
こうやって会話をしていると、不良とか、地味とか、関係ないんじゃないかって思う。どんなに外見を飾っても地味に身を潜めても、ヨウ達と俺は同級生。同い年なんだなぁって思う。色々抱えてる問題は違うけどさ。
一通り泊まりの話題が済むと、今度は日賀野達の話題になった。
間接的にだけど昼間日賀野達と関わった手前、あんまり奴等のことは耳に入れたくないんだけどそうも言ってられない。日賀野達の問題はヨウ達にとっても俺にとっても深刻になりつつあるから。……というよりも、俺がどんどんややこしい問題に足を突っ込んでるよな。
昼間の喧嘩の一件、俺達の学校の生徒会長のこと、俺やハジメのフルボッコの一件、俺が関わった限りの話題を三人は広げ始めた。日賀野達の動きを把握するために。
ヨウは残り少ないポテトを一気に口に入れて眉根を寄せる。
「俺んところの生徒会長がヤマトと関わってる可能性が出てきた」
シズもぎゅっと眉根を潜めた。「有り得なくはない話だな」
「向こうには……アキラがいる。あいつは顔が広い。関係を持っていてもおかしくはない」
「あいつ等の動きがちっとも読めねぇ。けど、俺達にちょっかいを出してきてることには違いねぇ」
「チッ、うぜぇ」
やり口が気に食わないと響子さんは銜えていたストローを齧った。
「ヨウ……黙ったままなんて……言わないよな?」
シズはヨウの意思を尋ねていた。シズ自身も我慢がならないんだろう。ちょっかい出されっ放しの状況が。
当たり前だとヨウは苛立たしげに食い終わったハンバーガーの包装紙を丸め潰した。やられっ放しなんて冗談じゃねえ、あいつ等がその気ならこっちもやってやろうじゃねえか。フンと鼻を鳴らし、異議はないなと俺達に意見を聞いてきた。
「誰も異議なんざねぇよ」響子さんは口角をつり上げた。こういう展開を待っていたとばかりに目尻を下げて笑う。
「いずれかは……ケリをつけるつもりだった」
スーッと目を細めるシズの瞳に静かな闘志が宿っていた。どれだけ向こうを敵視しているのか分かる目だった。
嗚呼、みんなやる気なんだな。俺的には乗り気じゃねえけど、舎兄がやる気なら仕方ないよな。舎弟も全力で手を出そう。それが俺とヨウの約束だ。俺はシズや響子さんと同じ返事をした。
空になったポテトの容器に丸め潰した包装紙を突っ込みながらヨウは話を続ける。
「ただ真正面から突っ込んでも俺達が馬鹿を見るかもしんねぇ。負けは勿論、勝ったとしてもこっちが痛手を負う可能性は大だ。今まで偵察程度だったが、これからは本格的に向こうの様子を探ってみようと思う。これは後日、此処にいないメンバーにも伝えるつもりだ」
「ヨウ、熱でもあるか? お前らしくない…知的な考えだな」
「真正面から突っ込むしか脳がねぇのに、どうした?」
レモンを丸呑みしたような二人の顔に、ヨウは決まり悪そうに舌打ちをかました。
「……うるせぇなシズ、響子。わーってるよ、俺らしくねぇ考えっつーのは。これはケイの意見だ」
「……だろうな」「おかしいと思ったぜ」シズと響子さんはうんうんと頷く。
普段、ヨウがどれだけ本能で動いているか分かる態度だな。普通に考えてまず準備なしに真正面から突っ込むっておかしすぎだろ! RPGでいえば、武器も防具もなしに敵へと突っ込むようなもんだろ。直球型なんだよな、ヨウって。
相手グループの頭は変化球型だから相性的には最悪だと思う。少しはしたたかにいかないとな。ヨウの直球型な性格に知が入れば、きっと相手を上回ると思うんだけど。そりゃ難しいよな、ヨウの性格からして。
知があるなら、俺の舎弟の件だってややこしくならなかったしな!
これからどうするか。どうするべきか。ヨウなりに顔を顰めながら考えて意見を出す。
「弥生が情報通だからな。俺達の情報源っていってもいい。取り敢えず、あいつにヤマト達の情報を掻き集めてもらうか。けどそれじゃいつもと同じだな」
「それに……ひとりじゃ無理だろ」今度はシズが意見した。
「弥生だけじゃ……限界がある。もっと人数を増やさないと」
「そりゃそうだが。じゃあ全員で情報を集めるか」
「だめだめ。そりゃやめた方がいいと思うぜ。全員で片っ端から情報を集めるとなると動きもそれだけ大きくなるだろ? 向こうはうち等の動きを結構察知しているみたいだから、動きは小さい方がいい。返り討ちにされかねない」
響子さんの意見に二人は同調した。俺も勿論そうだ。
「なあケイはどう思う?」ヨウが俺に話題を振ってきた。俺に振られてもー……そうだな。
日賀野達の動きを知ると同時にこっちの動きを知られないようにしないとな。向こうには魚住昭っつー誰と繋がりを持っているか分からない人物もいるみたいだし。誰と繋がりを持っているか分からないって恐いよな。
―――…誰と繋がりを持っているか分からない?
ということは、だ。
いつ・どこで・誰が俺達を見張っているか、俺達の動きを探っているのか分からないってことだ。
もしかしたらハンバーガー店にも繋がりを持った奴がいるかもしれない。まさかとは思うけど、でも可能性がないわけじゃない。俺達の会話を聞いてるかもしれない。ざわめつく店内に目を配った後、俺は三人にだけ聞こえるよう声を窄めて意見した。
「俺は喧嘩の経験も殆どないし、向こうのこともよく分からないから、どう戦法を組み立てたら勝てるか……なんて意見は出せないけど。日賀野達が誰と繋がっているか分からない以上、この話は別の場所でするべきだと思う。例えば誰かの家とかで。誰がこの会話を聞いてるか分からないしな」
ハンバーガー店には仕事中のリーマンや若いお姉さん達なんかがいたりするけど、俺達みたいな学生もチラホラいる。生徒会長の一件もそうだけど、日賀野達が誰と繋がっているか、ちゃんと重視しなきゃいけないと思う。でなきゃ本当に俺達が馬鹿を見る。
用心深いかもしれないけど、相手が相手だ。こっちも慎重に行動を起こした方が利口だと思う。
シズはひとつ頷いた。話は切り上げだと欠伸を一つ漏らし、冷めかけたチキンナゲットを口に放る。
「後日……誰かの家で集まって話し合おう。今はメンバーもいない上に、……ケイの言うとおり、用心はすべきだ」
「こういう場所こそ紛れやすいしな。ったく、アキラが顔広いのが悪いんだよな。あいつがいなけりゃ、まだ事がスムーズに進むっつーのに」
ガシガシと頭を掻いてヨウは天を仰いだ。やっぱり直球型は頭を使うことが不得意らしい。「乗り込んだ方が手っ取り早いんじゃね?」なんて恐ろしいことを口にしてきた。
ちょ、さっき真正面から突っ込んだら馬鹿見るって、(俺の意見だけど)自分が言っていただろ!
「バッカじゃねえの」響子さんはフロンズレッドの髪を弄りながら心底呆れていた。「うーっせぇ」反論するヨウの台詞に覇気がない。馬鹿なこと言ったって自覚はしているみたいだ。自覚があるならもう少し、頭を使ってほしいぜ。兄貴。
結局、日賀野達の話も打ち切りになり、俺達は世間話に花を咲かせることにした。
息の詰まりそうな話よりも、他愛もない話をしていた方が俺的にはこっちの方が楽しかった。ヨウ達もそうみたいだ。「あの時、先公に捕まってさ……」なんて自分の失敗談を話しては笑声を漏らしている。俺も笑声を漏らした。やっぱこういう話は肩の力が抜けて良いよな。
途中トイレに行きたくなった俺は一旦席を外させてもらった。「自分も行く……」シズも腰を上げてくる。
ハンバーガー店は通路と合体しているから敷地が狭く、店内には手洗いがない。面倒だけど敷地の外に出なきゃいけないんだ。俺とシズは全開されている扉から出ると階段を下りて、一階の手洗いに足を踏み入れた。
用を足した俺達は仲良く肩を並べて手を洗う。
「眠い……」
欠伸を噛み締めるシズに思わず笑っちまった。いつも眠そうだよな、シズって。
「シズって大食いなんだな。毎日あの量なのか?」
「ふぁ~……毎日三食、丼でメシ食ってる。間食も欠かしたことがない」
間食は欠かす欠かさないのもんじゃないだろ。絶対。
キュッと蛇口を捻りながら、俺はシズの胃袋のでかさに感服した。凄いよな、あんなに食べて太らないんだから。タオルハンカチで手を拭いていると、「そうだ」シズはまた一つ欠伸を噛み締めて俺を見てくる。
「ケイ……さっきハンバーガーと一緒にアップルパイを頼んでいたな。甘いものは好きか?」
「ンー、好きかって言われたら好きな類に入ると思うけど」
「丁度良かった……自分ン家の近所にケーキバイキングをしている店があるんだが」
嫌な予感がするぞ。しちまうぞ。俺の気のせいであってくれ! 一緒にケーキバイキングへ行こうなんてお誘い、俺の予想外れであってくれ。
「一度行ってみたいと思うんだが……ひとりはちょっと恥ずかしい。ケイが一緒に行けるメンバーで……良かった」
おぉおおおお俺はもう“行くメンバー”に入っちゃっているんですか!
お誘いすっ飛ばしてメンバーに入れるなんて、そんな予想、誰がしたよ。ってかさ、そんなに目を輝かせないでくれ。シズ。俺、断れないじゃないか。その前にアンタも不良だもんな、髪が水色だもんな。断る勇気なんて俺にはないよ。全然ないよ。
俺は空気が読める子だからな、シズに言うんだ。「シズや俺のほかにメンバーはいないのか?」って。俺って偉いな、嫌な素振りひとつも見せないんだからさ!
するとシズは洗面台に水気を飛ばしながら、ぶっすーと拗ねた顔を作った。珍しいな。いつも妖精さんと戯れているような顔をするのに。
「女子は誘えば……快く一緒に来てくれる。男はつれない奴ばっかりだ。取り敢えず……、この前、デザートバイキングに行った時はモトを引き摺っていった」
前にも行ったんかい!
しかもモトを引き摺ってって(かなり嫌がったんだろうな。モト)、うわぁ、同情はするよ。モト。俺も近々同じ運命を辿りそうだけどな。
フッ、しかもシズの中で勝手に『こいつなら一緒にデザートバイキングに来てくれるだろうメンバー』に登録されちまった。ある意味、モト以上に可哀想だ……俺。恥ずかしいんだろうな、デザートバイキングって女性のイメージがあるから。まだ焼肉とかだったらなぁー。
ええい、くっそう! もうどうにでもなれ! 腹括ってシズと行ってやらぁ!
「楽しみだなー」ヤケクソに笑いながら、シズと一緒にトイレから出る。
階段を上りながらシズは、頼みもしていないのにモトと行った時のデザートバイキングについて語り始めた。食べ物の話になると饒舌になるんだな、シズって。
「ワッフルが……まず最高だった。次にチョコレートスフレが格別に美味かった。季節限定のアイスが感動的美味。タルト……絶妙極まりない」
と、まあまあデザートの感想を教えてくれるんだけど、何がどう美味しかったのかが俺にはイマイチ伝わってこない。伝わってくるのは食べたデザートは全部美味しかったってことだ。
へえ、とか。それ食ってみたい、とか。シズの話に一つひとつ相槌を打ちながら話を聞いていると、
「シズ、相変わらず食い意地が張ってんのう」
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