04.「なんで? 不良の舎弟だからですよ」
◇
生徒会から疑いを掛けられて四日目。
ストレス溜まる日々を過ごしながらも、俺達は全授業をサボることなく出席していた。勿論、ストレスを溜めているのはサボりの常習犯になっているヨウ達なんだけどさ(正直俺もサボり癖が付き始めていて、気だるさは感じていた) 。
流石に四日目になると、残りの日も何事も無く過ごせるだろう。勝利すら感じていた。
だけど物事はそう簡単に流れてはくれなかった。
それは四日目の昼休み終わりの話。いつものようにヨウ達と昼飯を食い終わった俺はハジメや弥生と一緒に教室に戻った。
すると教室の隅でしゃがみ込んでいる地味友の透の姿を見つける。同じく地味友の利二と光喜が心配そうな面持ちを作って、何やら透に話しかけている。弁当箱と水筒を自席に置いた俺は迷わず、透たちの下に歩み寄った。
「利二、光喜。透、どうしたんだ」
「あ、田山……それがさ、小崎。さっきからこの調子で、こっちも何があったか分からないんだ」
眉を下げた光喜が教えてくれる。
自他ともに認める心配性のお母さんのこと利二が甲斐甲斐しく透に話し掛けているけど、透は項垂れたまま。床に顔を向けているから、どんな表情をしているか分からない。
「透、どうしたんだ」
俺も屈んで透に声を掛ける。
ピクリ、透は肩を震わせて俺を見上げてきた。目を剥いた。透の口端が切れている。まるで誰かに殴られたように、痛々しく口端がプッツリ切れて血が滲み出ていた。どっか泣きそうで、どっか悔しそうな顔を作っている透は俺の手首を掴んで、「圭太くん。ちょっと」声を震わせて立ち上がる。
俺の返答なんて待っている余裕は無い。そう言うように、早足で男子便所まで連れ出された。
便所にいた男子生徒が出て行くのを目で追った透は、辺りに誰もいないことを確認すると俺を見据えてきた。
いつものほほーんとして、地味に人を茶化す、あの透じゃない。瞳の奥にギラついた感情の炎が宿っている。ホント、どうしたんだよ。俺が声を掛けようとしたら、透が先に口を開いた。
「圭太くん……今日の昼休みの話なんだけど、いつものように不良と一緒だった?」
透の声は地を這うような、低いひくい声だった。俺は戸惑いながら一緒だったと返答。
直後、透は両手で俺のブレザーの襟元を掴んで迫ってきた。勢いのまま壁に背中を押し付けられる。痛くは無いけどスッゲェ焦る、この状況。それ以上に見上げてくる透の目は恐い。
「昼休み、一緒にいた不良は全員だった?」
「え?」
「だから圭太くんといつもつるむ不良は全員揃ってたかって聞いてるんだ!」
「ぜ、全員って」
「答えろ!」
男子便所に透の怒号が響き渡る。
透の怒りに呑み込まれそうになっていた俺は、一旦、軽く息を吐いた。落ち着け、おちつけ、透が何怒っているか知らないけど、落ち着かないと質問に対してまともに答えられないぞ。嫌な汗が背中に伝うけど、俺は無視して静かに答えた。「全員揃ってたよ」
透は本当かとばかりに、俺を睨んでくる。友達のガン飛ばしほど恐いものは無いよな。
そう思いながら俺は透が納得してくれるよう、昼休みのことを説明し始める。
「昼休み、俺はハジメや弥生と一緒にヨウのクラスで昼食を取った。ヨウは勿論、ワタルさんもいた。途中、タコ沢がヨウにパシられて教室にやって来た。俺がつるんでいる不良は今言ったメンバーだ。いつもだったら体育館裏で飯食っているんだけど、透も知っているだろ? 俺達は今、生徒会から疑いを掛けられている。しかも監視されている。だから下手な行動できなくて、昼食を取り終わった後はヨウのクラスで駄弁っていた――他に聞きたいことあったら聞いてくれ、透」
俺の説明に透は下唇を噛み締めて俯いてしまう。気付いちまった、襟元を掴んでいる透の手が震えているのに。
「ごめん、圭太くん」涙声を出して透はそっと手を放してきた。俯いちまっているから、顔は見えねぇけど、透の肩が震えているから、もしかしたら泣いているのかもしれない。
いや、透は泣いていた。透が顔を上げてくれたから、分かりたくなくても答えが分かちまった。泣き顔を誤魔化そうと透は必死に笑ってくるけど、変に顔が歪んで失敗に終わる。ブレザーの袖口で涙を拭いた透はまた俺に謝ってきた。
「突然、ごめんね。僕、ちょっと取り乱してて。ほんとにごめん」
「透、何かあったんじゃないか? 不良に何か関係することで。その怪我、なんかあったんだろ?」
俺の問い掛けに透の顔が強張った。やっぱり何かあったんだ、透の奴。
不良に関係する何かであったなら、尚更放っておけない。もしかしたら舎弟に関係する何かかもしれないし、見捨てておけねぇだろ。こんな風に泣いてる透のことをさ。
とにかくまずは保健室に連れて行こう。
怪我の手当てしてもらって、それから話を聞こう。昼休み、もう終わっちまうけど、この後は掃除だし。それに仮に授業に遅れたとしても、友達を保健室に連れて行く行為はサボりじゃないよな。授業遅れても大丈夫だよな。
あれこれ考えていたら、透が顔をクシャクシャに歪めて本格的に泣き始めた。まさに男泣き。いつもはのほほーんとしているのに、こういう時になると男らしく豪快に泣くもんだから俺は大いに焦った。男子便所に透のむせび泣く声が響き渡る。
「透、どうしたっ。ちょ、待て。落ち着け。いや、泣いちゃダメっつーわけじゃないぞ。悲しい時は泣け。遠慮せずに泣け。男が泣いちゃイケない法律なんて何処にも無いしな! けどちょっと落ち着け。せめて声、こえ、こえを抑え……あ、無理そうか? じゃあそのままでいいから、保健室行こうぜ。な?」
「むぅっ、っつ、うぅ、わぁーっ、わぁっ、わぁっ」
しゃくり上げている透が何か言おうとしてくれるのは分かるんだけど、残念なことに俺と透の間に以心伝心はないみたいだ。ちっとも伝わってこねぇ。困った。困ったよ。こういう時、どうすればいいんだ。
泣きじゃくる小さな背中を軽く叩いて、「取り敢えず保健室行こう」声を掛ける。
透は何度も首を横に振った。保健室に行かなくてもいい、ってことか? ということは教室に戻るってことか? いやでも、その状態じゃ授業なんて無理じゃ……あーくそっ、こうなりゃ無理やり連れて行く! こんなところでグズグズしててもしょうがないだろ。
「っ、け、圭太くんっ……いいっ、いいんだっ、僕っ、連れっ……もらう資格ない……」
俺の決心が顔に出ていたらしい。
途切れ途切れに言葉を発しながら、透が俺の行動を止めてくる。
「僕っ、圭太くんをッ……疑って……そういう人じゃないッ、知ってるのに。ごめんっ、圭太くんっ……ごめんッ」
「透……?」
「自分が可愛くてさぁっ……アレが大切でさぁ……。僕、君を……疑っちゃったんだ。最低なことをしようとしてたんだっ。ごめん、ほんとに圭太くん……ごめんね」
言葉を震わせながら、透は俺に泣いて微かに笑って謝ってきた。
どうして謝ってくるんだよ、透。なんでお前、そんなに辛そうな顔しているんだよ。ゼンッゼン分かんねぇよ俺。仮に透が俺に何かしたとしても、何をしたのか、それを言ってくれなきゃ謝られても気分が落ち込むだけだぞ。
大混乱する俺を差し置いて、透は「ごめん」詫びを置いて脇をすり抜けて行く。
「待てよ、透!」
声を掛けても透は振り返らなかった。男子便所を飛び出す透の背を追い駆けるために、俺もすぐ便所を飛び出した。
地味のわりに透は足が速い。もう姿が遠くなっていた。俺は転びそうになりながら、必死に透の後を追った。
だけど途中で姿を見失っちまう。
俺は舌打ちをして透の行きそうな場所を探すことにした。あの状態じゃ、教室に戻るって事はありえないよな。保健室も行きたくないって言ってたし。そういえば透は美術部だったな。美術室に隠れて、興奮した気持ちを落ち着かせてるかもしれない。
昼休みの終わりを告げてくるチャイムを無視して、俺は美術室に向かった。
この後掃除が入る、掃除時間は15分、まだ授業は始まらない。時間はある。掃除くらいサボっても大丈夫だろ。そんな気持ちを抱きながら、美術室前で立ち止まった。上がった息を整えながら、俺は美術室前の扉を見据える。
「いてくれよ、透」
呼吸を軽く止めて気持ちを引き締めた。その直後、両肩に勢いよく手を置かれて俺の心臓が飛び上がった。振り返れば、
「呼ばれて飛び出てワァアアアタルちゃーん」
なんでこの人がいるんだよぉおお! ちょ、なんで⁈
ワタルさんの出現にもう少しのところでコケそうになったし、マジで腰が抜けるかと思った。心拍数めっちゃ上がっているし。俺の反応にワタルさんはにやにやにやと笑い、肩に腕を置いてきた。
「そんなに喜ばないでよケイちゃーん。僕ちん、うれピくて思わずケイちゃーんに惚れちゃいそう」
「な、ななななんでワタルさんが此処に?」
「んー? それはねぇ。ケイちゃーんが楽しそうに走ってたからぁ。それに、トイレで地味っ子とお話してたでしょー? 僕ちゃーん、トイレの個室でちゃーんと聞いてたんだから。あ、ちなみになんでトイレの個室にいたかっていうとこの子と戯れようと思ったから」
ワタルさんはポケットから煙草の箱を取り出して俺に見せ付けた。
どーでもいいけど、ぶりっ子口調、どうにかしてくんねぇかな。俺、鳥肌立ってしょうがないんですけど。つまりワタルさんは、煙草を吸おうとトイレの個室に篭っていたわけだな。そしたら俺と透の話を聞いて、何やらただならぬ雰囲気を面白く思って俺の後をついて来た、と。
……それ、悪趣味だってワタルさん。
「ケイちゃーん。始終聞かせてもらったけど、あの子さぁ、透ちゃーんだっけ? もしかして今回僕ちゃーん達が巻き込まれてる事件のことで、何かあるんじゃないかな」
突然飛び出してきた真面目な発言に、俺は目を瞠った。
「不良に関係することで何かあったんじゃないか? ケイちゃーん、あの子にそう言ってたねぇ? 話の流れからして、多分、僕ちゃーんは今回の事件が絡んでるんじゃないかって思うんだよ~ん。まあ、あくまで僕ちゃーんの勘だけど? そう、例えばあの子がヤマトちゃーん達の手先になっちゃったとか」
絶句するとはまさにこのことだと思う。俺はワタルさんを凝視した。
下唇に刺さっているピアスを軽く触って、ワタルさんは「あくまで憶測」と俺にキッパリ言い切った。
「仲間、というよりも脅されて何かされているって思った方が筋じゃないかなー。ケイちゃーんがヤマトちゃーんに脅されたように、ね。向こうは、そーゆー無理やりプレイ好きな輩が多いから。ヤマトちゃーん達に関わっているのかどうか、何となーくあの子に話が聞きたくなってねぇ。追い駆けてきたわけ、お分かり?」
「仮に……仮にそうだとしたら、透を、ワタルさんはどうしますか?」
「さあ? 殴り飛ばしちゃうかも。そうなったらケイちゃーん、どうする?」
挑発的な問い掛けに俺はちょっと考えた。
もしもそうなったら、俺はどうするだろう。ワタルさんを止める……勿論それは、かの有名なカツアゲ伝説を作っている不良さまに喧嘩を売るわけで。けど透は俺の地味友なわけで。俺は一つ頷いて、答えた。
「そうなったら取り敢えずワタルさんが殴る前に、俺が透を殴り飛ばします。それから事情を詳しく聞きたいです。腕っ節の強いワタルさんに殴られたら、地味な奴等ってすぐ伸びますから」
身をもって経験しているからこそ言える。喧嘩慣れしている奴にぶっ飛ばされたら、地味な奴はすぐ伸びちまう。病院送りも夢じゃないぜ!
ワタルさんは一笑して、俺の背中を叩いた。
「ケイちゃーんらしい面白いお答えをどーもども。何だかんだ言ってオトモダチ思いなんだねぇ。自分で殴っちゃうだなんて」
「どっちかっていうと俺のためでしょうね。その時の俺、きっと頭に血が上ってるでしょうし」
ブレザーのポケットに手を突っ込んでワタルさんに苦笑いを向けた。
だってそうだろ? 身近にいる……地味友と信じていた奴が今回の事件に絡んでいる上に日賀野の手先になっていた! なんて知ったら、きっと俺、ショックを受けていると思う。なんで相談してくれなかったんだという透への怒りと、なんで気付けてやれなかったんだという俺自身への怒りが、きっと入り混じって一つの怒りになっていると思うんだ。
俺自身もそういう経験(未遂だけど)したことあるから、尚更、頭に血が上っていると思う。だから殴り飛ばして、そして事情を聞くんだ。何があったんだ? どうしたんだ? って。
……って、こんなことを思っている場合じゃない! 透を探さないと!
俺は話を中断して美術室に入った。
鍵は掛かっていなかった。昼休み、美術部が此処を使ってるみたいだし、もう掃除の時間だ。鍵が掛かっていなくても不思議じゃない。俺は透の姿を探した。小声で透の名前を呼んでみたけど返事は返ってこない。此処にはいないのか?
肩を落として踵返す。と、ワタルさんが美術室奥に向かっていた。首を傾げて後を追う。
「ワタルさん、何を」
「シッ、準備室から声が聞こえる」
人差し指を立てられ俺は口を噤んだ。
美術準備室から確かに声が聞こえる。先生、じゃなさそうだ。男子生徒の声が聞こえる。準備室って生徒立ち入り禁止じゃなかったか? そう思いながら、俺はそっと中を覗き込んだ。
……うわぁあ、いかにも悪そうな生徒がいる。いちゃっている。
髪チャラチャラ、装飾品ジャラジャラ、煙草スパスパしちゃってるよ。いかにも不良、てカンジ! 先輩かな?
うわっ、しかも携帯でお話している! 携帯は学校に持ってきちゃいけないんだぞ! ……まあ、俺も(不本意ながら)携帯持ってきているけど。
『ああ、倉庫裏だな。すぐ行く。ん? 確かに昼休みはマズったな。けど大丈夫だろ。あいつの大事そうにしてたコレがあるし、何かあれば呼びせばいい』
ドア越しに聞こえる会話。
中の様子を見ていた俺は「あ、」と声を上げた。静かにしろとワタルさんに目で咎められたけど、俺は構わず不良の手に持っているスケッチブックを指差した。
「あれ。透のスケッチブック。アイツがいつも大事そうに持っているヤツだ」
毎日まいにち、アイツ、スケッチブックに風景やデッサンを描いてるんだよな。本当はデザイン科のある高校に行きたかったらしいんだけど、親の目や将来のことを考えて行くに行けなかったと言っていた。
ほんとうに美術好きだから、あのスケッチブックに毎日絵を描いているんだ。透が描いた絵を大事にしてるのを俺は知っている。
「なんであの不良が持っているんだろ、って、ワタルさん?!」
隣にいたワタルさんが中に突撃していた。え、たった今まで静かにしろって目で訴えてきたのになんで乗り込んでいるんですか。
電話を終えた不良は突然の襲撃に目を剥いていた。刹那、悲鳴が聞こえてくる。俺は思いっきり顔を背けた。勇気を出してチラッと中を覗き込むんだけど、また顔を背けるハメになった……ワタルさんの攻撃、えぐい。
悲鳴が聞こえなくなると、俺はそっと視線を戻しておずおず中に進んだ。先輩不良は床に蹲っている。ワタルさんは準備室の棚を物色し始めた。そして錐(きり)を数本取り出すと、先輩不良に見せ付けた。
「あっはーっ、センパーイ! この道具、穴開けるヤツなんですけど知ってますかぁー? 先輩が満足する代物だと思うでよんさま」
「お、お前は貫名渉……、あのチビッ、チクリやがったのか?」
「あれれれれん? チビ? なーんのことでしょーかー? 詳しく教えて下さいませんか? そーれとも僕ちゃーんが先輩のためにこれで綺麗に穴を開けてあげましょうか? 全身ピアスが飾れるように。それとも? お好みならば? 泣いて喜ばせる上に失禁させるような、快感を与えて差し上げます。きっと満足させてアゲマスヨ。付け加えて言わせてもらうと僕ちゃーん、人の泣きっ面見るの、大好きなんですよぉ。泣けば泣くほど、顔が引き攣れば引き攣るほど、僕ちゃーん興奮シマース。一度ドウデス? セ、ン、パ、イ」
目を細めて笑うワタルさんに先輩不良も俺も絶句した。
ワタルさん、生粋の鬼畜だ! ドドドドドドSだ! やっぱ不良は恐ぇええっ、っつーかワタルさん恐ぇええええ! んでもってワタルさん味方で良かったぁあああ! 大事なことだからもう一回言わせてもらうけど、ワタルさん味方でほんっとに良かったぁあああ!
半泣きになっている俺を余所に、先輩不良は命乞いをするようにベラベラと喋り始めた――。
俺とワタルさんは美術室から出ると、ひと気の無い廊下でたむろっていた。掃除中に掛かる音楽がやけに遠い遠いものに感じる。
透のスケッチブックの中身を見てみると、あるページに足形が付いている。踏まれたんだな。しかも一生懸命描いた絵(これは美術部の風景か?)が皺になっていた。頑張って紙を伸ばしてみるけど、ちっと伸びない。俺は諦めてスケッチブックを閉じた。
透、もうすぐ美術のコンテストがあるって下書きいっぱい描いていたけど、この絵じゃなきゃいいな。知らず知らずにスケッチブックを握る手が強くなる。
肩を並べているワタルさんは、壁に寄り掛かって頭の後ろで腕を組んだ。「喧嘩に行って来ようかなぁ」そのぼやきは、俺の耳にも入った。
「話を聞いて、かんなりムシャクシャグチャグチャだし。確か、スーパー近くの倉庫裏でたむろってるって言ってたね」
「そう言ってました。徒歩10分ってところでしょうか」
「10分かぁ。僕ちゃーん、イチ抜けよーかなー」
含みのある言葉に、俺はワタルさんに視線を向けた。
「だって掃除サボっているし一緒っしょ?」悪戯っぽく笑うワタルさんは壁から背を離した。本当にイチ抜けるつもりなんだ。この人。抜けたら疑われる可能性が大きくなるっていうのにさ。そして俺も、大層馬鹿な奴だ。
俺はワタルさんの前に立った。
「ワタルさん、俺のチャリなら5分以内に着きます。自信持って言えます。5分以内で着きます」
「ケイちゃーん?」
「そんなに喧嘩できるわけじゃねぇけど、したくもねぇけど、どうしても今回は参戦したい。足手まといにならないよう努力はしますから! 俺、ニ抜けます!」
キョトンとした目でワタルさんは俺を見てたけど、指を鳴らしてニヤついてきた。
「そうこなくっちゃケイちゃーん」首に腕を回してくる。
「さっすがヨウちゃーんの舎弟。ノリがいいじゃじゃじゃーん。けど後で覚悟した方がいいよ」
「生徒会とヨウ達のことは一応覚悟をしておきますよ。でも今回だけはどうしても」
「おや? 君たち。お掃除はおサボりかな?」
ゲッ、その声は!
首を捻ればやっぱり須垣先輩がそこにいた。なんでこんなところにいらっしゃるんだろ、この人。ヤーんな時に会っちまったよ。
ワタルさんは「ハロー」って手を振ってはいたけど目がちっとも笑ってない。ワタルさんもヤなんだな。須垣先輩に会ったこと。俺達を満遍なく見た須垣先輩は、眼鏡のブリッジ部分を指で押した。
「もしかしてサボろうという雰囲気かな?」
あらヤッダァこの人、勘鋭すぎだわ! ……いや冗談抜きで鋭い、須垣先輩。
ワタルさんはピンポーンなんて自分から教えてるしさ。頼みますワタルさん、面倒事を増やさないで。ただでさえ今から面倒事に巻き込まれようとしているのに。須垣先輩は呆れたように俺達を見据えた。
「態度で見せてくれるんじゃなかったのかい? 君たちの誠意とやらを。やはり君たちは信用ならない」
手厳しい言葉を向けてくる。
「どぞどぞ、ほざいておいて下さい」ワタルさんはニヤついた笑みを浮かべながら反論した。
次の瞬間、ワタルさんは真顔になって垂れた前髪を掻き上げる。
「こっちもテメェのこと信用してねぇから。あいつ等と繋がりがあるかどうか分かるまでは」
「あいつ等?」
何の話だとばかりに須垣先輩が肩を竦めた。本気で分かっていないのか、ワザとなのか、俺の目には判らなかった。
須垣先輩は俺に視線を向けてくる。「君なら大丈夫と思ったんだけどな」意味ありげな言葉に俺は愛想笑い。残念、俺は外見地味、表面はイイ子ちゃん。でも中身はそんな真面目じゃない。面倒だからイイ子になってるだけだから。
「そこまでして、どうして関わるんだい? 不良たちと。君にメリットなんてあるのかい」
「メリット、デメリットだけで物事考えていたら、この世の中生きていけませんって。そう考え始めたら世の中デメリットだらけですよ」
「じゃあ質問を変えようか。今から君のすることは、完全にデメリット行為。なのに敢えてそっちの選択肢を取る理由、教えてくれないかい?」
んー、教えたところで、結局これは私情だしな。弁解にしかならないっつーか、さ。
俺は透のスケッチブックを軽く先輩に見せ付けて笑った。
「ま、堅苦しく言えば物事には何事も優先というものがあるので。少なくとも、今の俺は“おサボリ”が優先なんですよ。サボって生徒会やヨウ達にとやかく言われても、ね」
「ほんとほんと。特にヨウちゃんが怒ったらめっちゃ恐いよ。ケイちゃーん、後で一緒に叱られようねねねん」
肩に手を回してくるワタルさんに引き攣り笑い。
いやさ、やっぱヨウに怒られるって思うと恐いっつーか怖いっつーか…、恐怖! あーくそっ、男だろ。決めただろ。腹括れ、俺! 今、機会を逃したら、次の機会がいつ訪れるか分かんねぇだろ!
俺は須垣先輩に視線を向ける。呆れている、というよりも、どっか面食らっているような顔を作っていた。「なんで、そこまでするんだ?」先輩の問い掛けに俺は精一杯、強がりを言ってみたりする。
「なんで? 不良の舎弟だからですよ」
舎弟になった時点でデメリットばっかり選んじまう運命なんだ。俺って。俺はワタルさんと一緒に、須垣先輩を置いてその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます