14.どこでどうしたら攻め女になったそうなった!



 □ ■ □



 翌日の放課後。



 戦場は私立エレガンス学院の正門前。

 あ、間違った。訂正。

 場所は私立エレガンス学院の正門前。


 下校中の生徒達が群がっているその門前で大事件が発生。大事件が発生。至急対象生徒は避難せよ!


 喧(かまびす)しく本能の警鐘が鳴っているけどもう遅い。対象生徒は避難しそびれてしまった。

 ドッと冷汗を流す俺は正門から目を放して叫びたくなる。なんで貴方様がこんなところにいらっしゃるんでっしゃろう! っと。


 正門前に立っている宝塚の人、じゃねえ、男装した学ラン姿の王子系プリンセスは同校生の注目の的。


 カッコイイだの、なんだの聞こえてくるけど。でもって女子生徒数人が声を掛けてたりしちゃっているけど、向こうは笑顔で応対しているけど、何が問題かってやっぱ彼女が此処にいることだ。


 昨日の一件じゃ鈴理先輩に話してないから、バレた時が余計怖いんだよ。

 嗚呼、しかもバッドタイミングなことに俺の両隣を歩く先輩方、右は鈴理先輩、左は大雅先輩、各々驚いていらっしゃる。


 ちなみに後方付近には宇津木先輩と川島先輩がいたりいなかったり。あ、フライト兄弟が向こうにいる。俺、今日はクラスメートと帰ろうかな……変に逃げたら疑心を向けられるよな。


 さあてどうする豊福空。

 お前に出来ることは、彼女が俺以外の人物に用がありますようにと願うことくらいだぞ。まさしく神頼みだ。


 いや、もしかしたら俺なんぞ忘れているかもしれない。

 見ろよ、女子に対するあの満面の笑顔。視線を向けている男子生徒なんて総無視して、王子スマイル全快。


 うん、自意識過剰だよな。彼女はおんにゃのこスキーなんだ。野郎キラーなんだ。

 きっと鈴理先輩に用事があるんだよ。あ、宇津木先輩に用事があるとか。彼女は宇津木先輩のこと気に入っていると大雅先輩が言ってたしな。


 御堂先輩を含む群がっている女子達を遠巻きに見ながら、「何をやっているんだ」ついに鈴理先輩が動いた。


 流石は好敵手。

 あの集団に堂々と声を掛けるなんて肝が据わっているよ。 

 女子達に時間が来たようだと手を振る御堂先輩は、颯爽と彼女に歩んで挨拶。柔和、というよりは何処となくシニカルな笑みを浮かべている。負けん気の強い彼女はシニカルに笑みを返した。


 よって互いの間に青い火花が散る。好敵手らしいご挨拶だ。


「此処で何をしているんだ。女子を口説きたいなら、自分の通っている学校ですればいいものを」


「この学院の女性には女性の美があるからな。声を掛けてくれた女性に挨拶をしていたんだ。もしや君も口説かれたかったか? 仕方が無いから口説いてもいいぞ」


「あたしに向かって上から目線とは生意気だな。それにあたしは口説かれるではなく、口説き専門だ」


「君は本当に可愛くないね」


「そっちもな。女にちやほやされている麗しの王子様?」


 A-HAHAHA!


 高笑いする二人、ちょ、ナニナニナニ、あんた等、怖い。怖いよ。

 こんなにも二人って怖いオーラを放ち合うもんだったのか? それともナニ、数日前の二人は素を隠していたってヤツ? 公共の場に行くから自分を隠していましたよー。みたいな? ど、どっちにしても怖いんだけど!


 小刻みに震える俺に対して、大雅先輩は「あれ普通だぞ」指差して気を宥めてくれる。


 そ、そうっすか。普通……なんっすか。あれ。


 こっそりと生唾を飲む俺を余所に、


「あたしに対して謝罪でもしに来たか? なにせ、あんたは数日前にあたしの彼氏と噂になったのだからなぁ」


 青筋を立てる鈴理先輩。

 用がないなら此処からさっさと消えてしまえ、そう台詞に茨を巻いて吐き捨てる。

 正門前で目立たれても通行の邪魔だと勝気、強気に発言。

 様子からして、かんなり憤っているもよう。俺と御堂先輩の噂、超根に持っているみたいだ。


「なんだ。悔しいのか」


 御堂先輩は挑発的に笑ってみせた。

 おぉおおっ、そこで怒りを煽るような発言を返さなくても。


「豊福との関係を公言する勇気もなく、こっそりこそこそ付き合っているからこうなるんだ。ははっ、僕が君だったらあの場で彼氏だと言うぞ」


「なっ、なっ……あたしにむかってよくもまあそんな暴言を」


「所詮君の本気とはその程度だってことさ。少し張り合わないうちに、随分と鈴理はチキンになったものだ。せいぜい大雅とイチャイチャラブラブしておくんだね」


 カッチーン、鈴理先輩がわなわなと体を震わせて握り拳を作った。


「なんであたしがあんなヘタレと」


 地団太を踏む鈴理先輩の傍で、「俺をそこで出すなって」大雅先輩が呆れ返りながら後頭部を掻く。

 二人の気持ちを知っていながらも御堂先輩はラブラブしておけば良いと毒づき、シニカルに微笑。

 怒気を纏っているあたし様は嫌味を吐きにきたのかとガンを飛ばす。


 すると王子は一変して破顔した。




「奪いにきたんだ、君から王子ポジションを。僕も欲しくなった」




 瞠目する御堂先輩にウィンクする王子。

 奪う、なんてまんま宣戦布告である。

 知らず知らずのうちに汗を流す中、「意味を問おうか」冷静に物事を見据えるあたし様が口を開いた。

 御堂先輩は答える。


「そのままの意味だよ。君のヒロインが欲しい。僕のお姫様にしようと思ってね」


 隣に立つ大雅先輩がまじまじと俺を観察してくる。

 かぶりを振り、俺じゃない、人違いだと態度でアピールするも、某王子は人を追い詰めることがお得意な模様。


「僕は豊福に一目惚れしたようだ。彼には責任を取ってもらわないと気が済まなくてね」


 名指しされ、複数の野次馬の眼が俺に向けられた。

 当の本人はといえば現状に頭を抱えてしまう。

 なんで、どうしてこうなった。初対面は男なんて嫌いだツーン。二度目ましては豊福なんて滅べのツーン時々デレ。三度目ましてで、一目惚れ発言。しかも学校の正門前で。

 噂が、また此処で噂が立つんだけど!


「ほぉ、さすがはあたしのライバル。見る目はあるじゃないか。なんだ、空のエロい腰にやられたか。言っておくが、簡単に恋人を奪えるなど」


「豊福と恋人になる気は毛頭ないよ。僕は彼と婚約を結ぶ」


 鈴理先輩と御堂先輩の間に吹き抜けていく風は空高く舞い上がった。

 「なっ」顔を引き攣らせる鈴理先輩、「あ?!」大雅先輩が俺を凝視、周囲の動揺の声を上げる中、俺は唖然と相手を見つめる。

 今、なんて言った? この人。え、婚約? 婚約ぅ?


 婚約。英語ではエンゲージ。

 綴りは確か……いや、なに言っているのこの人?! 婚約ってのは将来を誓い合う結婚のお約束! あたし、この人と結婚するから、予約として婚約しちゃいましょうってのがエンゲージっ! なんで三度目ましての人と婚約したいとか言っちゃっているの?!


 衝撃を受けているあたし様の脇をすり抜け、王子が俺の前に立ってくる。

 向けてくる笑顔は本物だ。作っている笑顔じゃない。


「豊福、僕の調子を狂わせた責任取って婚約してくれ」


「じょ、冗談やめて下さいよ。婚約なんて」


「冗談じゃないさ。僕は君と婚約を前提にお付き合いをしたい」


「俺は男っすよ!」


「僕は女だが?」


 何か問題でも? 首を傾げてくる御堂先輩は婚約を成立させるには十分すぎる条件だろ、と問いかけてくる。


 確かに条件はクリアしている。

 だけどですね、俺は貴方の大嫌いな男なんっすよ。なにより、どうして俺なんっすか! 他にも良い男がいるっすよ!


 俺の主張に御堂先輩は嫌だと返した。

 すっぱり他の男は嫌だと返し、「僕は男嫌いなんだ」と不機嫌になる。じゃあ俺は? おにゃのこに見えるとでも?


「昨日、君と会話し、その体に触れて一晩考えてみたんだ。確かに君は男だった。まごうことなき男だった」


 ウワァアアア! 誤解っ、発言に誤解がっ!

 ち、違うんっすよ! 俺達はやましいことなんて一切合財していません。紅茶を啜りながらイチゴ大福を食っただけの関係っすか!


 だからそんな目で見ないで下さいっ、大雅先輩っ、鈴理先輩ぃいいい! その他諸々の方々っ! 俺は無実です!


「君は僕に男友達が欲しいから、と助言してくれたが……やはり僕は男が嫌いだ。それは現在進行形で変わることはない。だが豊福を男だからと言って距離を置くにはあまりにも惜しいと思った。男であろうと僕は君と繋がりを持ちたいと思ったんだ。それは何故? 自問自答するまでもない。僕は君自身の魅力に惹かれてしまったんだ」


 目を盗んでそろそろーっと大雅先輩の背後に隠れようとしたんだけど、「君は僕の心を奪った」彼はドンッと御堂先輩に勢いよく押されて転倒しそうになっていた(大雅先輩「玲、テメェよくも!」)。

 両手を取ってしっかり握ってくる王子は熱い眼差しを送って、俺を瞳に閉じ込めてくる。


「僕の負けだ。意地張って君のことを気にしないよう努めていたが、もうやめた。素直になる。僕は豊福が好きだ。僕の彼女になってほしい」


「か、かのっ」


 彼氏じゃなくて彼女。貴方様まで俺をカノジョ扱いにするなんて!


「君に惚れてしまったんだ。今は鈴理に心を奪われているかもしれない。だけどいつか、その心を僕が奪ってみせる。宣言する。

 無論、冗談なんかじゃないさ。婚約を前提にお付き合いしたいと思っているのだから」


「ど、どこからツッコめばいいんですか! 第一に婚約前提ってのがおかしいですよ! 俺は庶民ですよ? 財閥でもなんでもない平々凡々な家庭の子供っす! 俺には鈴理先輩がいますしお、お断りです!」


「庶民出身でも良いよ。僕には許婚がいないから、何処かの誰かさんと違って堂々と婚約者になれるぞ。なにより、僕は君をこの手で抱きたいんだ豊福」


 抱きた……ああもう、その言葉に慣れ始めている俺がいるんだけど。



「僕は君を守りたい。彼女がいるなら、そのポジションを僕が奪うまで。奪って、そして君をカノジョにする。鈴理と同じように、僕だって男ポジションに立ちたい女なんだ。

 昨日、君は言ったよね? カッコイイ女性がいてもいい。ヒーローを望む女性がいてもいい、と。

 なら僕は君の王子になりたい。攻め女と称されるなら、僕はきっとそれだ。好きだよ、豊福」

 


 前触れもなしに腰を引かれて、抱擁される。

 ちょ、マジで勘弁して下さい……俺には彼女がいるんですよ! どんなに口説かれようとっ、貴方のお気持ちには応えられそうにないです。

 ついでにっ、ウワァアア、こ、腰触るのや、やめっ! 腕を抜け出したいのに力強っ! この人、めっちゃ強!


「御堂先輩ィイ!」


 悲鳴を上げながら腕の中で暴れる俺の髪を梳いて、


「そんなに可愛い声を出すな。襲いたくなるだろ」


 見当違いなお馬鹿発言をする王子。

 これはいつも女性に言っている台詞、でも男の君にも言えるのは君が特別だから……と笑声を漏らす。

 ちょ、その甘い囁き、いつも女性にゆーてるんですか?! それはそれで問題っすよ。



「れ~い~ッ、あたしの前でいい度胸だ。空を放してもらおうか。そいつはあたしに鳴かされるために生まれてきた男だ」



 ぐぇっ、襟首を掴まれた俺は蛙の潰れたような声を出して御堂先輩から引っ剥がされる。

 その場に尻餅をつく俺の頭上では、人の体を挟んで「久々に燃えてきたな鈴理」「まったくだな玲」


 ゴロゴロピッシャーン、バチバチ、青い火花にイナズマその他諸々雷雲が漂っていた。


 絶え間なく汗を流す俺は繰り返し、自問自答。

 なんでこうなった。なんでこうなっちまったんだ! 俺が悪いのか、俺が悪いんだろうか!


「空と噂になった時点である程度覚悟はしていたが、やはりきたか。男嫌いのクセに、あたしの彼氏を狙うとはいい度胸だ」


 まあ、あんたに漬け込む隙などないが。

 フフンと得意気な顔を作る鈴理先輩は余裕綽々アンドニヒルチックに笑みを浮かべた。負けん気が強いのは御堂先輩も同じようだ。

 それはどうかなと鼻を鳴らして腰に手を当てると、「豊福は僕に気を許しているんだぞ」どどーんっととんでもないことを言ってきた。


 ナニを言う気っすかっ……俺は貴方に気なんて全然。



「君がどれほどの時間を費やして豊福を落としたかは存じ上げないが、僕は彼と初日で噂になった。更に二度目ましてで、彼は僕を家に上げてくれた」



 ゲッ、それは昨日の。

 青褪める俺の頭上で空気が急下降している。


「ほぉ。それで?」


 意気揚々と語る御堂先輩に続きを話してくれるよう促す彼女。


「聞きたいか? じゃあ話してやる」


 右の人差し指を立て、軽く宙に円を描きながら王子は語り部に立つ。


「家に上げてくれるどころかお茶をしたんだ」


 いやそれはっ、貴方様が和菓子を買って下さったから家に上げてお茶を出しただけであって。


「しかも二人っきりのお茶だった」


 親が仕事で留守だったんです! 決して故意的じゃないっすよ!


「でこちゅーだってさせてくれたし」


 無理やりだったっすよ!

 俺は許可した覚え、爪楊枝の先ほどもないんっすからね!


「極め付けに、豊福自身から服を脱いでくれたんだ。二度目ましての相手に上半裸になるだなんて、とても大胆なお誘いだと思わないか? ははっ、君より僕の方が相性が良さそうだな」


 それは貴方様がいつまでも俺を女だと疑うからであっ「脱いだ。なるほどなぁ」


 地を這うような声音が降りてきた。

 悪寒を背筋に走らせながら目線を持ち上げてみる。大後悔。


 一見女神のような笑みを作っているように見えるけど、見据えてくるその目は悪魔の眼そのもの。


「怒っていないぞ」


 ニコッと笑ってくるけど、絶対に怒っていますよね! その目は怒っていますよね!

 屈んで視線を合わせてくる鈴理先輩は一笑を零して宣言。


「これはあたしに非がある。欲求不満だったあんたの気持ち、ちゃーんと理解してやらなかったからな。安心しろ、この後とびっきり可愛がってやるから」


「ち、違いますってっ! こ、これにはワケが……えーっと、事の発端は和菓子を御堂先輩がくださってですね。それで、その」


「なるほど、あんたは食い物に釣られて他の女の前で脱いだのか。んーっ?」


「いや、そういうことでもなくって!」


 オロオロうろたえる俺に、


「いいさ。言い訳は後でゆっくりと体に聞けるもんな」


 ニッコニコ笑顔で処罰を下してくる。

 やばい。俺は今、彼女の逆鱗に触れたぞ。

 オーラで分かる。四日前の悪夢が脳裏に蘇って思わず身震い。鳴かされる。ガチで。



「――鈴理、今の君じゃ僕には勝てない。必ず僕は君から姫を強奪してしまう」 



 目を細めて、上体を起こす鈴理先輩は「あたしが負ける?」それはどういう意味だと、クエッション。

 そのまんまの意味だと御堂先輩は不敵に口角をつり上げた。



「僕は“婚約”を口にした。それがどういう意味か分かるよな。分からないわけないよな。

 財閥界でそれがどのような重要性を持っているか、知らないわけじゃないだろう。それだけ僕は本気だぞ。君と競り合いたいから、当然それもあるが僕は生まれて始めて“男”に興味を持った。異性に好意を持った。僕自身も興味深いことだ。

 ふふっ、三度目ましてなのに、僕ともあろう女が“男”に興味を持つとはね。


 本当に君が本気なら、婚約を心に決めた僕にその本気をぶつけてみせろ。

 男嫌いな僕は彼となら家庭を作っても良いと思っているぞ。自分の許婚の件さえどうにもできない君は、どうだろうな? 自称ヒーローさま?」



「言ってくれたな玲。そうか、そんなにあたしを敵に回したいのか。

 良いだろう、あたしの本気、あんたに見せてやる。婚約なんて目じゃないほどにな。言っとくが、あたしは空のことになるとこれっぽっちも黙っちゃないぞ。何故ならば、あたしは空のヒーロー。一度、あたしのものと言った以上、全力で守ると心に決めている。


 奪う? ああ奪ってみせろ。

 仮に奪えても、あたしは倍返しで奪ってやるさ。

 空がどこへ行こうが、必ず奪還してみせる。それくらいの覚悟なくてなにがヒーロー。手放す気などさらさらない。絶対に。

 あんたがあたしと同じ“攻め女”と言うのならば、見せてみろ。その攻め魂とやら。あたしは逃げも隠れもしない、真っ向から受けて立つ。


 あんたとは過去、様々なことで競り合ってきたが、かつてない勝負になりそうだ。面白くなってきた」


 不敵返しといわんばかりの笑みを作り、鈴理先輩は背丈のある好敵手に向かって堂々反論。


 かくしてあたし様とプリンセスは下校生徒の注目を浴びながら、互いに宣戦布告を交し合ったわけですが、(多分)当事者のひとりである俺、豊福空は状況に涙したくなったのです。

 何故かってそりゃあ、今後の地獄が容易に想像できちまうからです。この直後の地獄も怖いけど、これから降りかかる厄介事もスンゲェ怖いです。

 嗚呼、やっぱり御堂先輩と関わるんじゃなかった。ロクなことがないやい。



「豊福。テメェは女運が悪いんじゃねえの? 鈴理も玲も癖のある女だぞ。普通の女に好かれねぇっつーか、普通の女に縁がないよな。それとも、ああいう奴等がテメェの女趣味か?」


 俺の隣でしゃがみ込み、心底同情と感心を含む台詞を投げてくる大雅先輩は面倒な事になったぞっと脅してくる。

 でも自分には関係のないとばかりに、面白がってくる彼は一言。



「どっちに食われるか、見物だな。ま、頑張れ」



 前略、今日も不況に抗おうと汗水垂らして必死に働いている父さん、母さん。


 あなた方の息子、豊福空は大変な学院生活を送りそうです。何故なら“攻め女”がもうひとり増えてしまったのです。

 これから俺は二倍逃走、二倍貞操の危機、二倍彼女の仕置きを覚悟しないといけないようです。


 なんでこんなことになってしまったのでしょうか?

 やっぱり和菓子に釣られて家に上げてしまった俺に原因があるんでしょうか? それとも財閥交流会に行ったことが原因?


 ああもう、どうにでもしてくれってかんじです。



「貞操を守りきれるかなぁ。とてつもなく自信がなくなってきた」



 近未来の地獄を思い描き、俺はついつい目尻に涙を滲ませてしまった。






「旦那様、奥方様、玲お嬢様はやりましたよ。これで御堂財閥も安泰です。ああっ、あの玲お嬢様が男の方に好意……なんと喜ばしい光景でしょう!」


 正門付近の電柱陰では、俺とは別の意味で涙を滲ませていた婦人がいたとかいなかったとか。


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