ゆきの冒険
ゆきは今日だいぼうけんをした。
五月あさ七じ、たつくんがいれてくれたすいとうをもって、少しとおいなるちゃんのコーヒーやさんまでいくことにした。あおいちゃんはおねつが出て、食べるものがなかったから、なるちゃんのコーヒーやさんでパンをかおうとおもったの。
たつくんは心ぱいして、いっしょにいくっていってくれたけど、ゆきはもう小学一年生だし、一人でいけるっていってことわった。
なるちゃんのコーヒーやさんは少しとおい。だけど少しまえにあおいちゃんといっしょに歩いたからみちはおぼえてる。
「ワンワン!」
朝のおさんぽの犬がゆきに向かってほえた。小さなポメラニアンの犬だった。かいぬしさんにおゆるしをもらって、少しさわらせてもらった。フワフワしてきもちよかった。
クルマが多いとおりに出た。右見て、左見て、右見て、左見て、手をあげてわたった、クルマの中のおじいさんがおだやかに笑っていた。
と中、いつもおかいものするスーパーもとおったけど、まだあいていないし、お金はなるちゃんのコーヒーやさんでつかうってきめてたから、ゆきはもくもくと歩いた。
「プー!!!」
クルマのクラクションをならされた。ゆきはいそいで歩どうに入って、しんこきゅうした。
「お前、逹んとこの有希じゃんか、乗ってくか?」
見たことのあるおにいちゃん、たしか、れんくんといったはずだ。今日は日よう日でこんなあさからどこにいくんだろうとおもった。
「おにいちゃん!どこにいくの?」
「これから那瑠のとこいくんだ。有希はどこ行くんだ?」
「なるちゃんのコーヒーやさん!」
目てきちがいっしょだったから、少しくらいいいよねっていいきかせて、ゆきはおにいちゃんのクルマにのった。とてもいいにおいがして、ゆきは少しねむたくなった。
「いいにおい、なんのにおい?」
じょしゅせきにすわらせてくれたおにいちゃんにきいた。
「ん?これはオレンジとかレモンの匂いを混ぜた柑橘系の匂いだよ」
「かんきつけい?」
「そう、柑橘系」
おにいちゃんはバックミラーを見てゲラゲラわらった。何でわらったんだろう?ゆきからは何も見えなかった。
おにいちゃんのけいたいでんわがなったから、おにいちゃんはクルマをどうろのはしによせてでんわにでた。
「もしもし?分かってるよ、安心して、だいたい察したよ」
それから一こと二ことおはなしをして、でんわはすぐにきってしまった。
おにいちゃんのクルマはおともしずかにはしりだす。
「有希は学校で友達出来たか?」
おにいちゃんはまえを向いたままそうきいてきた、ゆきはえがおになって大きくうなずいた。
「いっぱいお友だちできたよ!」
「そうか、そりゃよかった、学校は楽しい?」
「うん!」
おにいちゃんはそうかそうかっていってわらった。カッコイイなって思った。学校におにいちゃんみたいなカッコイイ男の子いないよって言ったら、またわらわれた。
クルマはじゅんちょうにはしって、あっというまになるちゃんのコーヒーやさんについた。おにいちゃんはクルマからおりるとドアをあけてくれて、ゆきはありがとうっていった。
「どういたしまして」
ゆきはいそいでおみせのドアをあけようとした。でもあかなかった。
「おにいちゃん、あかない」
ゆきは泣きそうになるのをこらえておにいちゃんにむかっていった。
「これはな、こうするんだよ 」
コンココンコンコンコン、リズムよくトビラをたたくおにいちゃん。そうすると中からなるちゃんが出てきた。
「すごい!」
「お?有希じゃん?どうした?」
「まほうみたい!ひみつのあんごう?」
「そうそう、これは知ってる人少ないなら内緒な」
なるちゃんはシーっと人さしゆびを口に当てた。ゆきは大きくうなずいた。
おにいちゃんは、となりで大きくあくびをした。
「ねむいの?」
「ああ、眠い、有希は眠くないのか?」
「少しねむたい」
「そうかそうか」
なるちゃんは、まぁ入れよっていって、中に入れてくれた。コーヒーのにおい、少しにがいにおい。
「蓮はドッピオで、有希はココア・オレな」
なるちゃんはそう言ってモーニングを作ってくれた。エッグマフィンとココア・オレ。おいしかった。
「有希はどうしてここに来たんだ?」
なるちゃんはカウンターごしにきいてきた。わすれるところだった。あおいちゃんがおねつを出したから、パンをかいにきたんだった。
「あのね、あおいちゃんがおねつを出しちゃって、たべるものがなかったから、パンをかいにきたの」
「そうか、それは大変だな。用意するからちょっと待っててな」
「うん!」
なるちゃんはてぎわよくパンをふくろにつめて、ゆきのカバンにしまってくれた。
「で、蓮はどうしてここに来た?」
「泊まりに来た」
「なるほどな、上がってけよ」
「さんきゅ」
ゆきはなるちゃんたちのかおを行ったり来たりさせておはなしをきいた。
おにいちゃんはカウンターの向こうにあるなるちゃんのおうちに入って行って、ゆきにバイバイした。ゆきもバイバイをかえした。
「有希、帰りはどうするんだ?」
なるちゃんは心ぱいそうにこっちを見た。
「歩いてかえられるよ!」
大きなあくびをしながらゆきはこたえる。
「眠いならウチで少し寝て行け」
なるちゃんはおいでと言ってゆきをおうちに入れてくれた。
おにいちゃんは、シャワーをあびているようだった。水の音がする。
なるちゃんのおうちもおにいちゃんのクルマと同じにおいがした。いいにおい。
「なるちゃんとおにいちゃんは付き合ってるの?」
「いいや?付き合ってるわけじゃないよ」
クスクス笑いながらおうちの中をあんないしてくれるなるちゃんのせなかをおいかける。
「けっこんするの?」
「これは内緒だけど、いずれそうするよ」
「そっか!なるちゃんのけっこんしきには、ゆきもよんでね!」
「もちろん」
なるちゃんのおうちはきれいにととのっていて、ものが少なかった。ゆきのおうちとはちがってた。
「ここが寝る部屋だよ。逹には連絡するから、少し寝ておきな」
「うん」
ねむたい目をこすって、ゆきはふかふかのベッドによこになった。少ししたらもういしきはなくなってた。
はっと目をさました。キョロキョロしてとけいをさがすと、もう九じになっていた。
となりを見るとおにいちゃんが、すやすやとねむっている。そのねがおがあまりにもおだやかだったから、ゆきはまたねむくなってしまった。
とびらがゆっくりあいて、ゆきはねたふりをした。なんでか分からないけど、ねたふりをした。
「有希……と蓮か、寝てんのか……」
たつくんのこえだ!
ゆきはわらいをなんとかこらえてすやすやとねたふりをつづける。
「ん……」
おにいちゃんが目をあけて、バッチリゆきと目が合った。ニコッとわらったから、ゆきもニコッとかえした。
「イチャイチャしてんな!」
たつくんがフトンをはがした。
「きゃー!」
ゆきはけらけらわらって、おにいちゃんにだきついた。いい匂い。シャンプーとかんきつけいのにおい。
おにいちゃんはゆきをぎゅっとだきしめてまたねるたいせいに入った。
ちょっとドキドキした。
「コラコラコラ!蓮!ウチの有希に手を出すな!」
「出してねえよ、いい匂いするし柔らかいし最高の抱き枕だ」
ゆきはまたドキドキした、だめだめ、なるちゃんとけっこんするんでしょ!
「たつくんおはよう」
ゆきはそのままのたいせいでおはようをした、たつくんはフトンをおいて、ゆきと目せんを合わせる。
「有希、帰ろう?パン食べるんだろう?」
「なつきたちはもうおきたの?」
なつきたちっていうのは、ゆきの三つ子のおとうとたちのことで、なつき、あきら、はるきっていうの。
「お腹空かせて待ってるよ」
「じゃあ帰ろうかな」
「えー」
れんおにいちゃんがふまんのこえを出した。
「俺もう少しこの柔らかさを感じたいからパン持って帰れよ、送ってくから」
「だめだめ!」
そのあと少しいいあいっこをしているのをながめてたら、しぜんと目がとじた。ねむくなってしまった。
スヤスヤと俺の腕の中で眠る有希を眺めた。
「ほらもう疲れてんだよ、もう少し寝かせてやれ」
「仕方ねえなあ、ちゃんと送ってくれよ」
「もちろん」
俺は逹にひらひらと手を振って眠る体勢に入る。なんて柔らかい肌。ロリコンの趣味はないが有希はとても可愛い。子供特有のいい匂いがするし。
その後俺達は三時間ほど眠って、起きたら那瑠が部屋に入ってくるところだった。
「よう、よく眠れたか」
「眠れた眠れた。有希のおかげでな」
「それはなにより」
「ん……」
ぎゅっと抱き締めてくる愛おしい有希を起こそうと試みる。
「有希、起きろ、昼ご飯だぞ」
「んん……ごはん……?」
「ああ、昼ご飯用意したから三人で食べよう」
那瑠も加勢してくれる。
「たべる……」
有希は俺にしがみついていた手を目に持って行って擦った。まだ眠そうだ。
「たべる……」
ゆきは目をこすってから、二人のかおを見た。
こっちを見ているなるちゃんが、行くよっていって、ゆきたちをおみせにつれてってくれた。なるちゃんはてぎわよくオムライスを作ってくれた。あおいちゃんにはつくれないふわとろオムライスだった。ここでだけたべられるこうきゅうひんだ。
おにいちゃんはむごんでもくもくとたべていたから、ゆきももくもくたべた。おいしかったから、なるちゃんにちゃんとありがとうをいった。なるちゃんはうれしそうだった。
「さて、葵が熱出してるらしいから、解熱剤とか買って帰るか」
「おくすり?」
おにいちゃんはカップいっぱいのコーヒー、ドッピオというらしい、をのんでから、そういう。
「有希の事送ったらまた来るよ」
おにいちゃんはそういってたちあがった。なるちゃんはおさらをかたづけながらへんじをすると、ひらひらと手をふった。ゆきもあわててイスからおりて手をふる。
「またくるね!」
「ああ、今度は皆で来いよ」
「うん!」
ゆきとおにいちゃんはクルマにのりこんだ。クルマはスルスルうごき出した。
「ちょっと寄り道するか」
「よりみち?」
「ああ」
おにいちゃんはまどをぜんかいにしてCDをかけた。オシャレなギターのきょくがながれだす。たのしげなきょくだった。
クルマはどんどんすすんでいって、やまみちに入った。ゆるやかなカーブがつづいてしばらくしたら、すこしひろいひろばにでた。そこでクルマは止まって、ゆきのことをおろしてくれた。
「わー!きれい!」
ゆきがすんでいるまちがみわたせた。
「綺麗だろ」
「うん!」
おにいちゃんはゆきをかたぐるまして、たかいところから見させてくれた。とてもたかい。
「おにいちゃん、しんちょう何せんちあるの?」
「189cmだったかな」
「すごーい、ゆきいま115せんち!」
ゆきはあんざんして、おにいちゃんとのさをけいさんした。
「74せんちもちがう、ゆきもそのくらい大きくなるかな」
「それはどうだろうなあ、逹も葵もあんまり身長高くないからなあ」
たしかたつくんのしんちょうは168せんちで、あおいちゃんは157せんちだったはずだ。
「どうしたら大きくなれるの?」
「沢山食べて沢山遊んで沢山寝て沢山勉強する事かな」
「おにいちゃんはそれで大きくなったの?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、ゆきもそうする!」
おにいちゃんはクスクス笑ってがんばれっていってくれた。
「ほら、あそこが有希の小学校だ、だから有希の家はあそこら辺かな」
「どこどこ!!」
おにいちゃんはゆびをさしておしえてくれる。
「小学校の校庭が見えるだろ?」
「見えるー!すごくちっちゃーい!」
そのあともいつもいくイオンモールのばしょとか、そうごううんどうこうえんとか、いろんなばしょをおしえてくれて、とてもたのしかった。
「よーし、薬屋行って薬買うか!」
「うん!」
ゆきはクルマにつっこまれて、またクルマはスルスルはしった。
「葵はどのくらい熱あるんだ?」
「さんじゅうはちど!」
「それ市販の薬で大丈夫か?」
「しはん?」
「病院行かなくて大丈夫かなって事」
「あおいちゃんはびょういん行きたくないっていってた」
「またアイツは、我儘言ってんなあ、まぁ日曜日だし仕方ないか」
「??」
ゆきはもっとたくさんおにいちゃんとあおいちゃんのかんけいをしりたくなった。
「ねえねえ、あおいちゃんとたつくんとはいつからお友だちだったの?」
「んー?逹とは家が隣だったから、生まれてすぐから一緒だったよ、昔から那瑠と三人でよく遊んでた」
「あおいちゃんは?」
「葵とは高校生ん時から一緒だよ」
「なんでなかよくなったの?」
ゆきはおにいちゃんをしつもんぜめにする。なんだかたのしい。
「那瑠が葵と仲良くなって、それから四人で遊ぶようになったんだよ。逹と葵はテストでいつも悪い点取るから、勉強会とかもよくしたよ」
「べんきょうかい!ゆきもはるきたちとべんきょうかいよくする!」
「へぇ、偉いなぁ」
おにいちゃんはぽんぽんとあたまをなでてくれた。いいにおいがする。
「おにいちゃんいいにおい」
「んー?有希もいい匂いするぜ?」
「そうなの?」
「ああ」
おにいちゃんはクスクスわらった。ゆきもつられてえがおになった。
「おにいちゃんは、どうしてそんなにやさしくわらうの?」
「え?そうかな、分かんないや」
またクスクスわらうおにいちゃん。クルマはいつもいくスーパーのとなりのドラッグストアでとまった。ここからおうちはすぐそこだ。
おみせにはいると、おにいちゃんはしんけんなかおでおくすりをながめた。ゆきはまだむずかしいかん字がよめなかったから、おにいちゃんのマネをしてしんけんなかおをした。
てんいんさんがニコニコしてた。
おにいちゃんはおくすりをえらんで、レジにもっていく。ついでだっていって、おかしとポカリスエットもかってくれた。
クルマにのってすぐ、おうちについた。ゆきははしっておうちのドアをあけると、たつくんがおむかえしてくれた。
「おかえり有希」
「たつくんただいま!」
「お邪魔するぞ」
おにいちゃんはげんかんのドアをかがんではいってくる。
「おう」
「これ、解熱剤とポカリ」
たつくんにかってきたものをわたして、おにいちゃんはげんかんをしめた。ゆきはくつをぬいでキッチンにむかう。はるきがはしってきて、ゆきにだきついた。
「おねえちゃんおかえり!」
「おかえりー!!」
「おかえり」
そのうしろからなつきとあきらのこえがする。
「ただいま!」
ゆきははるきをひっぺがして、お水をくみにいく。あおいちゃんにおくすりをのんでもらうためだ。しんちょうにお水のはいったコップをもって、あおいちゃんのへやにいく。
もうおにいちゃんがあおいちゃんのへやにいた。
「有希、パンとお薬ありがとう」
「うん!」
「熱早く下がるといいな」
「蓮もありがとね」
ケホケホとせきをしながら、あおいちゃんはいう。そして、すこしおはなしをすると、かぜをうつすとわるいからって、ゆきとおにいちゃんはおへやからおいだされた。
おにいちゃんはトントンといっかいにおりて、リビングにむかった。たつくんがはるきたちとあそんでいる。
ゆきはがっこうのしゅくだいをおもいだして、じぶんのへやにむかった。リビングでやろうとおもったけど、はるきたちがじゃまをするのがわかってたから、そのままつくえにむかった。はるきたちはまだようちえんだから、公文いがいのしゅくだいもないし、おんどくもない。でもうらやましいとはもうおもわなかった。おにいちゃんみたいに大きくなるためにたくさんたべて、たくさんあそんで、たくさんねて、たくさんべんきょうしなければいけない。
しゅくだいをしていると、コンコンとドアをノックされた。おべんきょうちゅうのふだをだしていたのに、だれかなあとおもったらおにいちゃんだった。
「よう、そろそろ帰るから挨拶に来たよ」
「えー、もうかえっちゃうの」
ゆきは、しゅくだいをおわらせたらおにいちゃんとあそびたかったのに、といった。
「それじゃあ電話番号教えてやるから、遊びたくなったら電話していいぞ」
「ホント!」
「ああ」
おにいちゃんはサラサラとでんわばんごうをゆきのメモちょうにかいてくれる。
「これは有希と俺の秘密だぞ」
「どうして?」
ゆきはふしぎにおもってくびをかしげた。
「逹がうるさいからな」
ゆきはフフッとわらう。たしかにさっきみたいにうるさくされたら、いやだなあとおもった。
「わかった」
ゆきはうなずく。おにいちゃんはわらってあたまをなでてくれた。大きな手があたたかい。
「それじゃあ、またな」
「うん、またね!」
ゆきはげんかんまでおみおくりをした。これからきっとなるちゃんのところへいくのだろう。すこしだけ、ほんのすこしだけなるちゃんがうらやましかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます